What a Wonderful Destiny 25




『君はごく普通の女性で・・・・、私達は聖闘士だ。』


サガの言葉を頭の中で何度も繰り返しながら、はぼんやりと下へ向かっていた。

、今帰りか。」
「びっ、びっくりした・・・・!」
「そんなに驚かなくても良いだろう。美味い果実酒があるんだが、寄って行かないか?」

シュラは苦笑しながらを誘った。
どうやらここは磨羯宮の中だったようだ。
気持ちは有り難いのだが、あまり気分が乗らない。
はすまなそうに断りを入れた。

「ごめんね、折角だけど今日は遠慮しておく。ちょっと疲れちゃったし。」
「その疲れの原因、何となく予測がついていると言ったら?」
「シュラ・・・・」

自分の胸中を見透かしているようなシュラの誘いを、はそれ以上拒む事が出来なかった。




「単刀直入に聞いてやろうか。サガの事だろう。」

渡されたグラスに口を付けかけていたは、ふと一瞬手を止めてグラスをテーブルに置いた。

「やはりな。」
「・・・・・・」
「俺には話せんか?」
「・・・・ううん。そんな事ないよ。」

は再びグラスを取り上げると、今度こそ中身を味わって小さく溜息をついた。

「本当、おいしい。」
「だろう?それはさておきとして、どうなんだ?」
「別に何も・・・・。サガさんの事っていうか、何ていうか・・・」
「ウマが合わんか?」
「そんなのじゃない・・・・、と思う。サガさんは良い人だと思うわ。優しいし、それに・・・・」

の声が再び途切れる。

「だが何かが不満だ。違うか?」
「不満・・・・」

その言葉を口にした途端、は堪えていた何かが弾けたように感じた。

「実はね、さっきサガさんと話をしたの。」
「何のだ?」
「執務の事。」

は一呼吸置くと、堰を切ったように次々と話し始めた。

「どうして私は仕事をさせて貰えないのか、って聞いたの。」
「サガは何と?」
「そんな事ないって。私の考えすぎだって。」
「・・・・そうか。」
「でも納得出来ないの。仕事なんかロクに何もなくて、明らかに暇潰しみたいな事の方が多いんだもの。」
「そうだな。俺の目から見てもそう思う。」
「何が何だか分からない内に来ちゃったけど、でもそれなりに決心してここに来たのに・・・」
「だろうな。」
「なのにこんな状態じゃ私・・・。私、何しにここに来たんだろう・・・」

二人の間をしばし沈黙が流れる。
その沈黙を打ち破り、は言い難そうにシュラに問いかけた。

「シュラの正直な意見を聞かせて欲しいの。私はここに居ない方がいいと思う?」
「何故だ?サガがそう言ったか?」
「ううん。サガさんはいつもすごく気遣ってくれて、親切にしてくれるわ。」
「ではどうしてそんな事を聞く?」
「何か・・・・、違和感を感じるの。」
「違和感、か。」

実はシュラ自身も、以前からそう感じていた。
サガはに対して常に紳士的に振舞っているが、何処か作り物じみた感じを受けていた。
ただ、それが気のせいなのか事実なのか、図りかねていたのだ。
何故ならサガが一般の女性にどう接するのかなど、シュラは全く知らなかったからだ。

共に命を賭けて闘った仲間とはいえ、何もかも知っている訳ではない。
むしろ自分達はきっと、意外な程に互いの事を知らないだろう。


「俺はサガではないから、奴の考えは分からん。だが俺は、お前を歓迎しているつもりだ。」
「・・・・ありがとう。」

薄く笑いかけたシュラに、もぎこちなく微笑みを返した。

「ごめんね、変な事言って。」
「気にするな。残念ながら執務に関しては、俺達も口出し出来ん部分がある。だがなるべく力になるから、そうしょげるな。」
「・・・うん、ありがとう。」

ははにかんで礼を言うと、早々に磨羯宮を出た。
シュラの励ましは有り難かったが、それでもまだの心は依然として晴れぬままであった。




翌日も、表面上は普段と何も変わらない一日であった。
は努めて普段通りに振る舞った。
だがやはり色々と思い煩うのは止めようがなく、一日中どことなく上の空であったせいか、は帰宅後に忘れ物をした事に気付いた。

忘れたのは化粧ポーチだったので、今日中に取りに行かねば明日が困る。
は仕方なしに、再び十二宮の階段を上り始めた。



一方その頃、執務室では。

「あーあ、ダリぃ・・・。早く帰りてぇ。」

ムウ・デスマスク・シュラ・カミュは依然として執務を行っていた。
各々の任務の事後報告処理に追われていたのだ。
そしてその4人以上に忙しそうなサガも、無言で書類にペンを走らせている。

しんと静まり返った室内に、デスマスクのぼやきだけが流れている。


「なんだって日本語で報告書なんざ書かなきゃなんねえんだよ。」
「愚問だな。これをご覧になる女神の為に決まっているだろう。」
「聞く・話すならともかく、文字にするのは苦手なんだよな・・・。」
「貴方だけじゃありませんよ。私も苦手です。」
「私もだ。日本語はやはり難しい。」
だーーー!!休憩だ、休憩!!」

デスマスクはとうとうイライラが頂点に達して、ペンを天高く放り投げた。
そして煙草に火を点けて、深々と紫煙を吸い込む。
他の者達もその仕草に釣られ、ペンを持つ手を止めた。

「全く行儀の悪い。まあ気持ちは分かりますがね。飲み物でも淹れてきましょう。」
「ああ、少し休憩しよう。」

ムウは執務室を出て行き、他の三人は首や肩をぐるぐると回し始めた。
鍛え抜かれた肉体を持っていても、こういう類の作業は使う筋肉が違う。
いくら黄金聖闘士と言えども、やはり疲れるのだ。


「サガよぉ、何でを帰したんだよ。あいつが居りゃとっとと片付くのによ。」
「全く同感だな。そもそもはこういった執務の為にここに居るのだろう。」

デスマスクとカミュは何気なくサガに話しかけたが、サガはペンを持つ手を止めず、返答もしなかった。
いつになく仏頂面のサガに二人は肩を竦めて諦めたようだったが、シュラはそうしなかった。


「俺も聞きたいな。何故にやらせない?いつも適材適所を心掛けているお前にしては珍しいな。」

皮肉を含んだシュラの物言いに、ようやくサガが顔を上げた。

「何が言いたい?」
「言葉の通りだ。日本人が居るのに、何故わざわざ日本語の読み書きが苦手な俺達にやらせる?」
「貴様らの任務の報告だろう。貴様らがやって当然だ。」
「ならばの役割は何だ?何の為に彼女が居る?」

他愛ない不平とは違う厳しい雰囲気を放つシュラに、場の空気が次第に険しくなって来る。
そこへムウがカップを手に戻ってきたが、彼も状況を素早く察知して一同の様子を無言で見守った。


「ミスはまだ聖域に来て間もない。執務の事も良く知らんだろう。」
「間もないったって、もう一ヶ月は経つぜ。」
「執務の事にしても、指導すれば良いだけであろう。」
「俺は以前から疑問に感じていた。何故に執務をやらせない?」

自分を見据える者達の瞳をじっと睨み返して、サガは重い口を開いた。




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後書き

今回はシュラがいい所を全てかっさらった感じですな(笑)。
好きなキャラの割に、なんかイマイチ活躍の場を与えていなかったなぁと思いましてですね。
話の筋書き自体は、どんどんギャグ度が下がってますな。
何を思ってこんなストーリーにしているのか、自分でも良く分かりません(笑)。