「ご馳走様でした。」
「お粗末様でした。」
礼儀正しく食後の挨拶をするに返事を返して、ムウは食後の茶を出した。
「どうですか?片付けの方は進んでいますか?」
「うん。洋服はあとちょっとね。あとはドレッサーの中身とトイレと、その他細々ってとこ。」
「キッチンの方はあらかた片付いたから、何か手伝おう。」
「本棚ももう少しです。あとはビデオやCD類ですね。」
「カーテンやラグは終わった。あとはその他諸々の片付けだな。蟹の作業はほぼ丸々残っているが。」
「分かってるよ。シェードと物干し竿だろ?」
皆で食後の茶を啜りながら、午後の予定についてミーティングする。
「夕方までには終わりそうですね。」
「ああ。」
「みんな本当にありがとう。お陰で随分助かったわ。」
「フッ、これぐらいお安い御用さ。」
「さあ、早いとこ終わらせてしまおう。」
「そうだな、そろそろ行くか。」
エネルギー補給を終えた一行は、再びの家へと舞い戻った。
午後からの作業は、皆黙々と取り掛かったお陰でスムーズに進んだ。
一人でやるとなるととんでもなく大変な作業だが、さすがにこれだけの人手があると仕事が早い。
作業は着々と進んでいった。
「あとはこれを飾って、と・・・」
は昨夜アフロディーテから貰った薔薇を花瓶に生けて、一番日当たりの良い窓辺に置いた。
もっとも、今はもう夕日が差し込んでいるのだが。
「ふぅ、終わった・・・・!」
「おう、終わったか?」
「うん、これで終了!」
は、様子を見に来たデスマスクに屈託のない笑顔を向けた。
「ありがとう。お陰ですっかり片付いちゃった。」
「・・・へっ、別に礼を言われる程じゃねえよ。」
まっすぐ自分に向けられるの感謝の言葉を、デスマスクは少しはにかんだように受け取った。
そしてまるで照れ隠しのように悪戯っぽい笑みを浮かべてをからかう。
「寂しかったらいつでも言えよ。泊りに来てやるからよ。」
「・・・・・気持ちは有り難いけど、なんか微妙ね・・・。」
「なんでだよ?」
「だってなんか顔がいやらしい。」
「上等じゃねえか。ならお望みどおり襲ってやるぜ、オラオラーー!!」
「いやっ・・・、ちょっと・・・、や・め・て・よっっ!!」
は、ふざけて抱きついてくるデスマスクの額を力一杯押しやった。
「つれねえなぁ。」
「何馬鹿な事言ってんのよ。ほら、もう向こうに戻りましょ。」
「へいへい。・・・・こりゃ長期戦、だな。」
「何が?」
「別に。ほら、行くぞ。」
話を聞き逃してきょとんと首を傾げるの肩を軽く抱いて、デスマスクはリビングへと戻った。
リビングでは皆が紅茶を片手に休憩していた。
「、済まんが勝手に紅茶を貰っているぞ。」
「どうぞどうぞ。って、カップ足りなくなかった!?」
「ああ、少し足りないが、まあ回し飲みでも問題はない。」
アイオリアは大らかな笑顔を浮かべるが、の顔には『しまった』とはっきり書かれてある。
それもそのはず、カップは3〜4個しか持ってきていなかったのだ。
ここにいる人数の半分ほどしかない。
一人暮らしだからこれで十分だと思っていたは、読みが浅かったと激しく後悔した。
「ごめんねー、こんな事ならもっと沢山持ってくれば良かった。」
「気に病む必要などないさ。さあ、君も冷めないうちに飲みたまえ。」
アフロディーテが湯気を立てているマグカップをに差し出した。
その時、早速新居のチャイムが鳴った。
はカップをデスマスクに渡して先に飲むように言うと、玄関へ向かった。
「はーい。どうぞ、開いてます。」
「邪魔をするぞ。」
現れたのはサガを除いた執務組のメンバー全員であった。
「もう執務は終り?」
「ああ。そっちはどうだ?片付いたか?」
「うん。みんなのお陰でバッチリ!」
「そうか。それは何よりだ。」
「立ち話もなんだから、上がって。」
「そうだな、ではお言葉に甘えて。」
アルデバラン・ミロ・カミュ・カノンの4人は、上がろうとしてふと足を止めた。
先を歩くの足元が目に付いたからだ。
「靴は脱ぐのか?」
「そのようだな。」
4人はにならって靴を脱ぐと、そのまま後ろについてリビングへと入った。
「ようお前ら。もう終りか?」
「ああ。こっちも綺麗に片付いたじゃないか。」
「当然だ。彼女には一刻も早く落ち着いた空間で過ごしてもらいたかったからな。」
人数が増え少し窮屈になったリビングにひしめきあって、一同はそれぞれの疲れを癒し始めた。
しかし、が一人焦りの表情を浮かべている。
「どうした?」
「皆の分のお茶を淹れたいんだけど、カップがなくて・・・」
「そんなことか。気にするな。何でもいいし、何ならなくても構わないぞ。」
「そう?じゃあちょっと何か代わりを探してみるね。」
全く気にしていない風に大らかに笑うミロに申し訳なさそうに微笑むと、はキッチンへと向かった。
「ええと、何かないかな・・・・。うう〜ん、仕方ない、これでいくか・・・!」
「お待たせー。」
「済まな・・・・??」
差し出された温かいものを受け取ろうとしたカノンは、見慣れない物体に怪訝な顔をした。
「なんだ、これは・・・?」
「ごめんね、お茶碗しかなくて・・・・」
そう、彼らの紅茶はなみなみと瀬戸物の茶碗に注がれていた。
中身が日本茶なら、日本の食後でよく見かける光景だが、紅茶はにとっても初の試みであった。
しかもこれも数が足らず、回し飲みを余儀なくされる状態である。
「カップの数が足りなかったの。」
「ふむ、ならば買い物に行かねばならんな。」
ミロが申し訳なさそうに俯くに提案した。
そしてカノンがそれに便乗する。
「そうだな。食器以外にも何かと必要だろう。」
「それはそうだけど・・・・でも執務は?」
「その事だが、サガから伝言だ。お前の就業は来週の月曜からに決まったとのことだ。だから今週一杯はゆっくり疲れを癒しつつ、身の回りを整えるといい。」
「来週・・・・。はい、分かりました。」
「だから明日にでも買出しに行くといい。」
「しかし彼女一人では無理でしょう。まだ右も左も分からないのに。」
そこにムウが口を挟んだ。
「その点は問題ない。俺が同行する。他に明日時間の空いている者はいるか?」
「俺は空いているぞ。」
ミロが即答する。
しかし他の者はそれぞれに用があるらしく、残念そうに首を振った。
「2人いれば十分だろう。、明日俺とミロがついて行くから、買い物に行くぞ。」
「ありがとう。よろしくお願いします。」
「任せとけって。」
こうして翌日の予定は即決した。