カーテンから漏れる明るい日差しが眩しい。
「んん〜〜・・・・・」
ごろごろと何度も寝返りを打った後、はゆっくりと瞼を開けた。
あまり深い睡眠とは言えなかったが、それでもまあまあ身体の疲れは取れていた。
枕元の時計は午前7時30分を指している。
しかし、これが寝坊になるのか早いのか分からない。
よくよく考えてみれば何時に起きろという指示がなかったなぁ、などと思いながら、はとりあえずサガの部屋を出た。
リビングからはまだ何の音も聞こえてこない。
どうやらまだ皆眠っているらしい。
まだ早かったかと思うものの、昨夜サガが朝から何かしら行動すると言っていたのを思い出し、とりあえず中の様子を伺おうと、はリビングに足を踏み入れていった。
しかし、ここはやはり慣れない場所。
まだ頭の中に部屋の造りはインプットされていなかった。
あまつさえ寝起きの状態では注意力も散漫になるというもの。
早い話が、躓いたのだ。
「きゃっっ・・・!」
「ぐっ・・・!」
そして躓いたついでに、毛布でぐるぐる巻きになっている物体の上に思いっきり倒れてしまったのだ。
物体はその衝撃に目を覚ましたらしく、もぞもぞと毛布から顔を出した。
「何かね・・・・・」
毛布の中身は、えらく不機嫌そうなシャカであった。
寝起きで少し声が掠れている。
どうやらはちょうど彼の真上に倒れ込んでいたらしい。
「ごっっ、ごめんなさい・・・!」
「良いから早く退きたまえ・・・」
まだ半分寝ぼけているシャカと、完全に覚醒して朝っぱらからパニックになる。
早く退かなければならないのは重々承知だが、何せ不安定な体勢故、なかなか立ち上がる事が出来ない。
それでもようやく何とか身体を起こす事が出来たと思ったのだが。
「やっ!」
今度はシャカが包まっていた毛布に足を滑らせて、再び彼の上に落下してしまった。
しかも状況は更に悪い。
「ぶっ・・・!」
彼の顔の上に覆い被さってしまったのだ。
咄嗟に腕で身体を支えて彼の顔に全体重を掛けることは踏みとどまったものの、重力に逆らう事の出来なかった女性の象徴が彼の顔面にクリーンヒットした。
「っひぃぃぃ・・・!」
「・・・・・・」
の胸に顔を埋めたまま、うんともすんとも言わないおシャカ様。
益々パニックになる。
「あ゛〜うるせぇ・・・、何騒いでやがんだ・・・・」
ゴソゴソとうるさい物音にようやく目覚めたデスマスクが、半開きの目をの方に向けてきた。
「ん?・・・お前ら何やってんだ?」
「いやあのっ、これはっ!」
「んん!?おいおいおい、朝っぱらからお盛んだな!!」
「ちっが・・・!これは事故で・・・!」
とシャカの状態を認識したデスマスクは、さも楽しそうにニタニタと笑いながらはやしたてる。
は赤面しながら脱兎の如く退き、即座にシャカに向かって両手を合わせて謝り倒した。
「ごっ、ごめんなさいごめんなさい!!」
「シャカ、オイシイお目覚めで良かったじゃねえか。ガハハハ!」
「・・・・・・永眠してみるかね・・・?」
「む゛〜〜、やかましい・・・」
「なんだぁ・・・?もう朝か・・・」
騒ぎで更に数人が目を覚まし、リビングは再び昨夜の騒がしさを取り戻し始める。
寝起きの悪いシャカがデスマスクを六道送りにしかけた時、サガが早くも着替えを済ませてリビングに現れた。
「お前達、朝っぱらから何を騒いでいる。」
は騒ぎの渦中から抜け出すと、サガに挨拶をした。
「おっ、おはようございます!」
「ああ、おはよう。よく眠れたかね?」
「はい。」
「それは良かった。すぐ朝食の支度をしよう。ほら、貴様らもいつまでゴロゴロ寝ている!!さっさと起きんか!!」
サガはまだ眠っている者・寝転がっている者に容赦なく蹴りを入れると、スタスタとキッチンへ行ってしまった。
しばらくして、バターの溶ける香ばしい匂いが漂ってくる。
それに食欲を刺激された一同は、ようやく起き出して活動を始めた。
「朝食の前にモーニングティーを頂こうか。」
「自分で淹れてこい。」
「さてと、シャワーでも浴びてくるか。」
「あ゛〜〜、眠い・・・・」
ズルズルと起き出してきた黄金聖闘士達は思い思いにゴソゴソと動き始め、とりあえず手持ち無沙汰なは、サガを手伝いをすることにした。
「あの、何かお手伝いしましょうか。」
「済まないな。ではここに置いてあるものを運んで行って貰えるか。」
「はい。」
次々と出来上がる料理の皿を持って、はリビングとキッチンを往復し始めた。
更に数人が手伝いに入り、程なくして朝食の準備が整った。
「さて、本日の予定だが。」
コーヒーを飲みながら、サガは全員に向かって話し掛けた。
「昨夜も言った通り、執務担当の者以外はミスの荷物搬入の手伝いをするように。良いな。」
「了解。」
「アイアイサー。」
「アフロディーテ、物は相談だが、執務を代わってくれないか?俺は搬入の方がいい。」
「断る。」
「今日の執務担当の者は?」
サガの質問に、本日執務に当たっている者が返事を返した。
「ふむ、アルデバランにミロにカミュか。それに私と、カノン、確か貴様もだったな。」
「覚えていたか。」
「当然だ。お前達はこの後教皇の間へ直行だ。」
「分かった。」
「ムウ、デスマスク、アイオリア、シャカ、シュラ、アフロディーテ。お前達はミスの手伝いを頼む。」
「承知した。」
「荷物は何時頃着くのですか?」
「10時過ぎになる予定だ。彼女の家に直接運ぶように指示をしているから、そちらで受け取ってくれ。」
「分かりました。」
「ムウ様、オイラは?」
「そうですね、お前も引越しの手伝いをしなさい。」
「はい。」
朝食を摂りながら事務的な会話を淡々と交わす黄金聖闘士達。
それを聞いていたは、恐縮そうに口を挟んだ。
「済みません、そんなに人手を割かせて。貴鬼君まで・・・」
「気にせずとも良い。引越しは何かと大変だからな。ましてや女性一人ではどうにも出来ないだろう。」
「済みません、お手数をお掛けします。」
全員に向かって頭を下げる。
「どういたしまして。」
「遠慮は無用だ。」
「頭数は出来るだけ多い方がいいからな。」
「そうですね、枯れ木も山も賑いと言いますからね。」
「誰が枯れ木だコラ。」
「貴様ら、口論している暇はないぞ。とっとと食べてさっさと支度をしろ!」
サガの一喝によって朝食は淡々とスピーディーに進められ、各々身支度を始めることとなった。
「おい、お前着替えは持ってるのか?」
洗面を終えたが身支度をしに再びサガの部屋へ戻ろうとしたところ、カノンが声を掛けてきた。
昨日のはスーツを着ていた為、引越しの作業に不便ではないかと気を回したらしい。
「うん、少しだけだけど着替えは持ってきてるの。だから平気。でも靴が。」
「靴?」
着いた早々荷物を漁らなくてもいいように、は必要最低限の着替えを鞄に詰めて持ってきていた。
だから着替えは問題ないのだが、靴は盲点だった。
よもやこうなるとは思っていなかったので、は履いてきた靴以外は全て送ってしまっていたのだ。
ちなみに履いてきた靴とは、ヒールのあるローファーである。
華奢なパンプスよりは随分マシだが、それでも引越し作業にはあまり向かない。
「うん。こんなことならスニーカーも持ってきておけば良かったな。」
「どうしようもないな。靴だけはサイズが合わないとどうにもならん。作業の前に買いに行くか?」
「う〜ん、どうしよう・・・・。時間もないしな・・・。ローファーだから大丈夫よ。多分。」
「そうか。まあすっ転んで怪我をしないように気をつけろよ。ククク。」
「うぅ・・・、分かってるわよ。」
からかってくるカノンをかわして部屋に入り、は身支度を始めた。
そして数十分後。
「では各々任務に取り掛かるように。執務担当の者、行くぞ。」
「では引越組も参りましょうか。」
双児宮を出た一行は、執務組と引越組に分かれて、それぞれ巨蟹宮方面・金牛宮方面へと進んで行った。