話がまとまったところで、一同は早速双児宮へとやって来ていた。
と言っても全員ではなく、執務があるというサガ・デスマスク・アフロディーテは教皇の間に残り、シャカとムウもそれぞれ瞑想や修復作業がある為、一旦自宮へと戻っていた。
なので、アルデバラン・カノン・アイオリア・ミロ・シュラ・カミュ、そしてが先発部隊として一足先に到着した訳である。
「まあ入れ。」
宮の主・カノンの勧めでリビングに通された。
そしてまず、以外の全員が一斉に『ちょっと失礼』とばかりに聖衣を脱ぎ出す。
その光景に思わず目を背けたに気付いたミロが、笑いながら話し掛けてくる。
「そんな目を逸らさなくてもいいぞ。ちゃんと服は着ているから。」
「あ、いや何となく・・・」
「俺の兄貴は全裸で纏いやがるがな。」
「え!?」
カノンの言葉に驚くに、アルデバランが安心させるようにフォローを入れた。
「はははっ、まあ気にするな。あの男は特別だ。とりあえず俺達は全員服を着ているから安心しろ。」
「そうですか・・・。あの、でもその聖衣、って言うんですよね?それってずっと着ているものなんじゃないんですか?」
「いや、これを着るのは主に任務の時や改まった場だけだ。それ以外は滅多に装着しない。」
「へぇ、そうなんですか。」
「大体こんな暑苦しいの、四六時中着てられないさ。」
「同感だ。俺のは首が詰まっているから余計暑苦しい。」
の質問にカミュが淡々と答えた。
それに付け加えるようにミロとシュラが本音を口走る。
そして軽装になった男達は、皆思い思いの場所に腰を下ろした。
「おいカノン、コーヒーくれ。」
「俺も。」
「あ、俺も。冷たいやつ。」
「ふざけるな。俺はウェイターじゃない。」
カノンは、当然の如く飲み物を注文してくる野郎共を一睨みする。
「あの、私が淹れてきましょうか?」
そこで何となく手持ち無沙汰だったが名乗りを上げた。
「そうか?悪いな。」
「おいカノン、客に茶を淹れさせるとは何事だ。」
「うるさい。ちゃんと俺もついて行く。」
「だったらお前が淹れてくれば済む話だろう。」
「黙れ。、キッチンはこっちだ。」
「あ、はい。」
シュラとアイオリアの非難を丸っきりシカトし、カノンはを促してキッチンへ行ってしまった。
「砂糖はそこの棚だ。」
「これですか?」
「ああ、それだ。済まんな、来た早々手伝わせて。」
「いえ。」
は人数分のコーヒーを淹れていた。
カノンはてきぱきと動くの姿を楽しげに見ながら話し掛ける。
「日本で会った時よりえらく畏まってるじゃないか。吃驚したぞ。」
「う・・・、あの時は状況が状況だったから・・・。」
日本での出来事を思い出し、はバツが悪そうに口籠った。
カノンはますます楽しげに話を続ける。
「ククク、あの時は大変だったな。泣いたり喚いたり。」
「誰のせいだと思ってるんですか。」
「まあそうむくれるな。俺とお前の仲じゃないか。他人行儀はなしだ。」
「どんな仲ですか・・・。あ、そうだ。あの、聞きたいことがあるんですけど。」
「何だ?」
「さっきサガさんに言ってたこと。私と話す必要があるってどういう事ですか?」
「ああ、別に大したことじゃない。自分の部下になる人間とはしっかりコミュニケーションをとっておいた方がいいだろう?」
「それだけですか?」
カノンは至極もっともな理由を述べた。
しかしは今一つ納得していないようである。
「ああ、どうしてだ?」
「何となく、サガさんの目が笑ってなかったような気がして・・・」
― 割と鋭いな。
「あいつは保守的なところがあるんだ。別にお前を邪険に思っているわけじゃないから安心しろ。」
「そうですか。」
「そろそろ戻ろう。あいつらがガタガタうるさいからな。」
― 本当かしら。でも今色々考えても仕方ないしな・・・。
はカノンの答えを取り敢えず納得したように受け取った。
本当は引っ掛かるものがあるのだが深読みかもしれないし、当人以外に聞いてみたところで仕方がないから、はそれ以上その話を口にしないことにしたのだ。
そしてカノンに従い、トレーを持ってキッチンを出る。
「お待たせしました。」
テーブルにトレーを置いて、は一人一人にコーヒーを差し出した。
皆はそれを礼と共に受け取る。
最後に残った一つを自分の前において、ようやくも腰を落ち着けることとなった。
そうなれば後はお決まりのパターン。
「なあなあ、って何歳?」
「ミロ、女性に年齢を訊くのは失礼だぞ。」
そう、質問地獄である。
一応カミュが窘めたものの、何だかんだで皆興味があるらしく、誰も聞いていない。
また当のカミュも『一応決まり事だから言っておいた』程度らしく、実は自分も密かにの返答を待っている。
一方、訊かれた方のはそういった質問は別段気にならないらしく、普通に答えた。
「21歳です。」
「えー!?じゃあ俺と同い年!?」
「私とも同じだな。年下かと思っていた。」
「俺も一緒だ。」
「俺もだ。」
「えーー!!??」
さりげなく同調したアルデバランに、が目一杯驚く。
皆年上に見えていたから実は密かに驚いていたのだが、このアルデバランだけはうんとこさ年上だと思っていたので、驚きもひとしおなのである。
「同い年って、21歳なんですか!?」
「そうだ。何だ、嘘だと思っているのか?こんな事に嘘などつかんぞ。」
「いえ、そんな事思ってませんけど・・・、ちょっと吃驚したから。」
「ははは、また言われたな、アルデバラン。」
「ううむ、俺はそんなに老けて見えるか?」
「ああ。俺より上に見えるからな。」
カノンはそう言ってアルデバランを茶化した。
口をへの字に曲げるアルデバランを尻目に、シュラが自分の年齢を明かす。
「俺は24だ。同い年といえばデスマスクがそうだな。」
「そうなんですか。」
「ちなみにそこにいるカノンは29だ。ダントツで年を食ってる。」
「やかましい。俺だけじゃない、サガも同い年だ。双子だからな。それにダントツは老師だろうが。」
「老師?老師って天秤座の?」
「ああ、彼は262歳だ。」
「に、262歳!?」
天文学的な数値に、一瞬からかわれているのかと疑う。
しかし彼らの顔は至って真面目である。
しかもご丁寧に訳の分からない追加情報まで付け足してくれた。
「ああ。肉体年齢は19歳?だったかな?」
「ああ、そうだな。」
「?」
さっぱり話の飲み込めないに、皆が代わる代わる彼のからくりを説明してくれた。
「そんな事出来るんですか!?」
「出来るらしいな。」
「女神のやる事に人間の常識は通じないらしいな。」
「沙織ちゃんもそんな事出来るんでしょうか?」
「さあ、それはどうか分からんな。多分出来るんじゃないか?」
「・・・・」
は一瞬沙織がとてつもなく遠い存在に思えた。
まだまだ自分の知らない常識外の事実があるのでは、と呆然とするに、ミロは矢継ぎ早に次の質問を浴びせかける。
「老師の事は置いといてさ、って恋人はいるのか?」
「え!?いや、今はいないです。」
「よしっ。」
真顔で拳を握り締めるミロ。
「え?」
「いや何でもない。それよりそんな他人行儀にならなくてもいいんだぜ。」
「そうだ。遠慮などすることはないぞ。」
今一つ態度の固いに、ミロとアルデバランが態度を崩すよう勧める。
「でもそういう訳には・・・。今日会ったばっかりですし。」
「君の言うことは良く分かるが、そんなに気を遣う相手じゃないから安心してくれ。」
「日本ではどうだか知らんが、ここではそんな堅苦しくしなくていい。」
「執務においては私達はサガの補佐という同じ立場なのだし、別に気にすることはない。」
アイオリア・シュラ・カミュが二人に同調する。
そしてとどめと言わんがばかりにカノンが含み笑いと共に畳み掛けた。
「こいつらの言う通りだ。そう固くなるな。水くさいぞ。俺達の仲だろう?」
「まっ、またそんな言い方!」
「カノン!?どういう事だ!!??」
「俺はお前達より先にと日本で会っているからな。あの時は色々あったな、。」
「いっ、色々とは何だ!?」
「アイオリア、何を想像している!?」
「変な想像しないで下さい!何もありません!」
「へっ、変な想像などしていないぞ!!」
「カノン!笑ってないで何とか答えろ!!」
真っ昼間から凄まじいテンションで盛り上がる一同。
そして夜はまだまだ遠い。