What a Wonderful Destiny 7




皆が見守る中、沙織はゆっくりと口を開いた。

「この方の口を封じる必要はありません。」
「なっ!何を仰います!!」
「女神!!」

寛大を通り越して甘いとしか言いようのない処分に、デスマスクとカノンは猛然と抗議した。
しかし沙織は涼しい顔で彼らを制した。

「あなた方にはまだ言っていませんでしたが、この方は聖域の関係者になる予定の人なのです。」
関、
係、
者ーーー!!??



三人の驚いた顔を順に見渡して、沙織は話を続けた。

「ええ。先日オファーに参りましたわよね。」
「オファー?もしかしてあの話?」

は、先日沙織がギリシャでの仕事を紹介に来たことを思い出した。

「はい。あの話です。」
「でも沙織ちゃん、あの話は断・・・・」
さんも是非にと仰って下さって、その場で即決いたしました、わよね?」

の発言を遮り、沙織が強引に話を進めた。
一瞬何の事か分からなかっただが、横目で目配せされて沙織の真意に気付き、慌てて話を合わせた。

「・・・・え、ええ、あ、はい。即決いたしました・・・・わね。」

顔を見合わせて『おほほ』と笑う沙織と

「しかし女神、いつの間にそんな話を・・・・」
「ちっ、このワンマン女神が・・・・」
「デスマスク、何か仰いまして?」
「いいえ、別に。」
「とにかく、そういうことですので、あなた達はひとまずあちらで待機していて下さい。私はさんと少しお話がありますので。」
「・・・はっ」
「へいへい。」

二人の様子を訝しみながらも、カノンとデスマスクはしぶしぶ引き下がった。




カノンとデスマスクが席を外した後、と沙織は肺の中の空気を一斉に吐き出した。

「はぁ・・・、何とか誤魔化せたようですわね。」
「ほんと・・・・、ありがと、沙織ちゃん!」
「いいえどういたしまして。お礼を言いたいのはむしろこちらの方ですわ。あのお話、受けて下さるんですもの。」
あ。

命拾いしたことが嬉しくて、うっかり忘れていた。
話の成り行き上とはいえ、ギリシャ行きを承諾したことを。

一度は断ったが、今は事情が変わっている。
どう考えても自分に断る権利はなさそうだ。特に色々極秘事項を聞かされた今では尚更。
今更『行きません』などと言おうものなら、今度こそあの二人に口を封じられてしまうだろう。
そして何より、本来守るべき掟に背いてまで助けてくれた沙織に対して、恩を仇で返してしまうことになる。


― 行くしか、ないか・・・・(涙)



「あ、あのね、でも私、ギリシャ語なんて全然分からないんだけど・・・・」

は、沙織の話を受けるに当たって最も大きな不安要素を口にした。
何しろが喋れる言語といえば、日本語とごく簡単な英語のみであったからである。
こんな状態で旅行ならいざ知らず、仕事など到底不可能なのではないかと思われた。
しかし、沙織の返答は予想を裏切るものであった。

「それなら大丈夫ですわ。」
「え?大丈夫って・・・、そんなわけないでしょ!」
「いいえ。彼らをはじめ現地で一緒に仕事をする人間は皆日本語が堪能です。ですから平気ですよ。」
「そういえばあの人達やたら日本語上手だったわね、ってあの人達と一緒に仕事するの!?」
「ええ。他にもまだいますが、彼らは聖闘士の頂点に立つ、『黄金聖闘士』と呼ばれる者なのです。」
「黄金・・・・、見たまんまね。」
「ふふっ、そうですわね。とにかく、彼ら黄金聖闘士と共に、教皇の補佐に当たって頂きたいのです。」
「それで秘書って訳なのね。でも書類は?日本語で書くわけじゃないんでしょ?」

会話は平気でも、業務上の書面においてはそうはいくまい。
しかしこれまた沙織の回答は予想外のものであった。

「ええ。でもそれも平気ですわ。グラード財団が開発した翻訳ソフトがありますから、それをお使いになれば大丈夫です。細かいチェックは共に執務に当たる者が入れますから、安心して下さい。」
「翻訳ソフト・・・・」
「ええ。当面はそれで結構です。その内段々慣れてきたらソフトを使う必要もなくなるでしょうけど。」
「待って、ちょっと待って。やっぱりそういうわけにはいかないんじゃないの?仕事の他にも日常生活もあるんだし。」
「買い物や細々とした用事も、慣れるまでは彼らに付き添ってもらえば平気ですわ。」
「平気って・・・、あの人達そんなの付き合ってくれるの??」
「彼らはああ見えて結構気さくでいい人達ですのよ。勿論、他の皆も。」
「そう・・・、だといいんだけど。」
「とにかく、ギリシャ語についてはおいおい勉強して頂ければ結構ですわ。」
「そんな簡単でいいの?」
「『習うより慣れろ』、ですわ。私も出来る限りのバックアップはいたしますから、ご安心なさって下さい。」
「習うより慣れろ・・・ね、あはは・・・はあ〜ぁ・・・」


は今後の生活を思い、乾いた笑いを漏らした。




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後書き

出まくりです、便利設定(笑)。
外国語をマスターするには現地に飛び込むのが一番だと、
昔学校の先生に聞いたことを思い出しました。
なのでOJTの方向で行きます(笑)。
それにしても、我ながら強引な展開になってしまった(汗)。