まだ聴いてないCDも、読んでない本もある。
来週の金曜はマリ達に合コンに誘われてた。
就職の面接にだって行かなきゃいけない。
それなのに。
こんなワケの分からない事に巻き込まれて殺されるなんて・・・・。
「ちっ、泣くんじゃねぇよ。殺さねぇって言ってんだろが。」
「・・・・っ、ひっく、・・・『とりあえず』、なんでしょ?それって、ぐすっ、後で、こ、殺すってこと、でしょ?」
腕の中でさめざめと泣くに、デスマスクは柄にもなく哀れみと責任を感じていた。
自分とて何も好き好んで口を封じようとしている訳じゃない。
ただ運が悪かったんだ。自分も、この女も。
「あーーくそっ!カノンは何してやがんだ!さっさと来やがれあの愚弟!!」
「誰が愚弟だと?」
「!!」
― 何、何なの!?仲間!!??
銀髪の男と同じような金色の鎧を纏った長い金髪の男が、いつの間にか背後に立っていた。
新たな不審人物の登場にビクつく。
デスマスクは怯えるを片腕に抱きかかえたまま、絶妙な(?)タイミングでやって来たカノンに掴みかかった。
「テメェ遅ぇぞ!!何してやがったんだ!!」
「自分の失敗を人に尻拭いさせようとしといて、その態度は何だ、蟹。」
「うるせぇ!!テメェんとこの兄貴が勝手に決めたんだろが!!」
の頭上でギャーギャーと言い合うカノンとデスマスク。
ガタイのデカい男二人に挟まれてたは、脱出しようと必死でもがく。
「ちょっ!ちょっと!!どいて下さい!!!」
胸の辺りで暴れる何かに気付いて一歩退いたカノンは、ようやくの顔を見た。
「ん?この女か?」
「ああ、早いとこ何とかしてくれや。」
「ああ・・・・」
カノンはとっとと仕事を片付けてしまうべく、に向き直った。
― もしかして、私この人に殺されるの!?
「いやーーーっ!!!!」
は悲鳴を上げて一目散に逃げ出した。
― 嫌だ、嫌だ、死にたくない!!
その一念だけで出口を目指して必死で走る。
しかしパニックに陥っているのと視界が暗いせいで、どこを走っているのか自分でも分からない。
ドン!!
何かにぶつかった反動で後ろによろめく。
「逃げても無駄だぞ。」
「ひっ!!」
がぶつかったものは、いつの間にか前に立っていたカノンであった。
そしてよろめいたをデスマスクが支える。
もはや逃げ場などどこにもない。
「せめて痛くしないで・・・・。お願いだから・・・!!」
諦めたは、涙ながらに最期の希望を告げた。
そして来るべき衝撃に備えて、固く目を瞑る。
「だから人の話を聞けっての。」
「安心しろ、殺しはしない。」
「・・・・え?」
前後から予想外の言葉を聞かされ、は閉じた瞳を再び開いた。
「・・・助けて、くれるの?」
「命だけは、な。」
「これからお前の記憶を少々いじらせてもらう。」
「・・・・はい?」
― 記憶をいじる、ですって?
常識外な事をさらりと言われ、は驚きの声を上げるのも忘れてただ目の前のカノンの顔を見つめた。
「お前は見てはならないものを見た。このままお前に覚えていられるのは非常に困る。」
「そういうこった。本来ならすぐさま死んでもらうとこだったが、俺達だって鬼じゃねぇ。」
「そこで、お前の記憶から我々の事を消させてもらう。」
「そんなこと・・・・、出来るの・・・?」
「ああ・・・・・。」
ポーカーフェイスで返事をするカノンに、デスマスクがテレパシーで話しかけた。
『おい、本当に大丈夫なのかよ?』
『分からん・・・・しかし仕方あるまい。下手に危険を告げてむやみに怖がらせてもしようがないだろう。』
『それはそうだけどよ・・・。こんな何の心得もない女に幻朧魔皇拳なんかかけて、無事でいられる保証なんざねえだろが。』
『ああ。この女の精神力によっては全ての記憶を失くすことになるだろうな。』
『だったらやっぱり一思いに息の根止めてやった方がいいんじゃねえか?』
『個人的には同感だがな。仕方ないだろ、あのバカがそうしろと言うんだからな。』
『ちっ、何今更ワケ分かんねえ仏心出してんだよ、サガの奴は。』
『仮に記憶が全て消えても死にはすまい。新たな人生を生きる為の命だけは保証出来る、だとよ。』
『なるほど、そういう持論か・・・・』
突如黙り込んだ男達に不信感を抱き、が恐る恐る声を掛けた。
「あの、あの・・・・・」
「んあ?何だよ?」
「何で急に黙るの?」
「・・・・何でもねえよ。」
「ああ。ただの精神統一だ。気にするな。」
「何それ・・・・」
訝しげな様子のを、デスマスクが支え直した。
カノンは咳払いを一つして、に一歩近付く。
「お喋りはここまでだ。いくぞ。」
「あばよ、姉ちゃん。」
「ちょっと!ちょっと待って!!本当に大丈夫なの!!??」
「幻朧魔皇・・・・」
往生際悪く暴れるをものともせず、技を仕掛けようとしたその時。
『お待ちなさい!!!』
脳内に響く何者かの声に、カノンは手を止めた。