それはやけに月の輝く夜のことだった。
友人達と食事をした帰り、は少し酔いを醒まそうと遠回りをしていた。
よく来る場所でも、普段と1本違う道を歩くだけで新鮮さが蘇ってくる。
ほろ酔い気分も手伝って、は鼻歌まじりで機嫌よく帰途についていた。
「ふんふ〜ん・・・・、あら、何?ケンカ・・・?」
曲がり角に差し掛かったところでは足を止めた。
男が二人、剣呑な空気を纏って対峙していたからだ。
普通ならそのまま来た道を引き返すところだが、はその場から動けなかった。
なぜなら一方の男の格好が余りにも変わっていたからだ。
金色に光る鎧を纏って歩く男など、見たことがない。
あまりの物珍しさに、の目は二人に釘付けになった。
男達は何語か分からない言葉で喋っている。
どうやら鎧の男の方が優勢のようだ。
鎧の男が詰め寄れば、もう片方の男が後退る。
追い詰められた男は、脂汗を流しながら懐から拳銃を出し、鎧の男に向けた。
「ひっ!!」
は思わず息を呑む。
― 撃たれる!!!
は次に起こるであろう事態を予測して、固く目を瞑った。
しかし聞こえてくるはずの銃声はいつまで経っても聞こえない。
は恐る恐る目を開いてみた。
鎧の男は、平然と笑いを浮かべて男の腕を捻り上げている。
発砲しようとした男は苦痛に顔を歪めて、手にしていた拳銃を取り落とす。
― 何なの、この人達・・・・
驚きと恐怖で竦み上がるの目に、更に信じられない光景が飛び込んで来た。
鎧の男が右手の人差し指を掲げ、何事かを呟いたかと思うと、そのまま二人の姿が消えたのだ。
「何・・・・、何が起こったの・・・・・」
気味悪く澱んだ空気が、名残惜しげに小さく渦巻いて消える。
そして辺りは、まるで最初から誰も居なかったかのように静まり返った。
ただ鈍く光る拳銃が、先程までの光景が夢ではないことを物語っていた。
「に、逃げなきゃ・・・、警察に・・・・、電話・・・・・!」
頭は危険を告げている。
しかし体が言うことをきかない。
震える足はその場に凍りついたまま一歩も踏み出せず、はその場に縫い付けられたように動けなかった。
「見られちまったか。」
「ひっっ!!」
突如背後から声が聞こえ、の恐怖は最高潮に達した。
振り返ると、先程消えた鎧の男がすぐ後ろに立っていた。
は後退って逃げようとしたが、電信柱にぶつかってそのまま寄りかかってしまう。
「み、見てません・・・・、何も・・・・!」
もはや動くことも出来ず、は必死で言い逃れようとした。
しかし恐怖に凍りついた顔では説得力がない。
「見え透いた嘘をつくなよ。顔に書いてあるぜ。見てました、ってな。」
「そんな・・・・・」
「俺としたことが失敗だぜ、見られちまうとはな。」
男はじりじりと距離を詰めてくる。
の背中を、冷たい汗が滝のように流れる。
「あんたにゃ何の恨みもねぇが・・・・、消えてもらうしかねえか。」
「わ、私、誰にも言わないから・・・・・、だから助けて・・・・!!」
「悪ぃな、それは出来ねぇ。」
「お願い・・・!命だけは・・・・!!」
「悪く思うなよ。」
男が更に近付いてきた。
すぐ目の前まで迫って来られて、否が応でも目が合ってしまう。
月光に煌く銀の髪、血のようなダークレッドの瞳、そして金色の光を放つ鎧。
そのどれもがの恐怖を煽り立てる。
男はゆっくりと右手の人差し指を掲げた。
― もう駄目、殺される・・・・!!!
はとうとう観念した。
そして男に震える肩を掴まれた瞬間、死の恐怖に耐え切れず、意識を手放した・・・・・。