What a Wonderful Destiny 2




それは全くもって予期せぬ出来事だった。



「はーいどなた・・・、沙織ちゃん!?」
「こんにちは、さん。」
「どうしたの!?何で家が分かったの?」
「星矢に聞きました。少しお話があるんですが、今よろしいかしら?」
「どうぞどうぞ!上がって。」

星矢と会ってから1週間程したある日のこと。
ぼちぼちと就職活動を始めていたの家に、城戸沙織が訪ねてきたのである。

「突然お邪魔してごめんなさい。」
「いいのよ、どうせごろごろしてたとこだし。で、話って?」
「ええ。」

が出した紅茶を一口飲んで、沙織は話を切り出した。

さん、お仕事はもう見つかりまして?」
星矢の奴め、失業のことまで喋ったな・・・・。ううん、まだ探し始めたとこだから。」
「そうですか。では丁度良かったわ。」
「ん?どういうこと?」
さん、あなたを我がグラード財団にスカウトしたいのです。」

・・・・・・・。

えーーーーー!!!!????

沙織が見守る中、たっぷり数十秒ほども固まっていたが、大声を張り上げた。

「ちょ、ちょっと待って。スカウトって・・・・」
さんに、我がグラード財団で働いてもらいたいのです。」
「あの、その・・・・・」
「順を追って説明しますわね。」

うろたえるに微笑みかけ、沙織は詳細の説明を始めた。



「まず職種は、どう説明すればいいのかしら・・・・。強いて言えば『秘書』というところでしょうか。ある人物の補佐をして頂きたいのです。」
「はぁ。」
「業務内容は主に各種資料の作成やデータ入力、メールの応対です。その他細々とした雑務も多少お願いするかと思いますが。」
「はぁ。」
「もちろん、お給料もそれに見合う額をお支払いいたしますし、福利厚生も完備しております。」
「はぁ・・・・」
「家も提供いたします。」
「はぁ・・・、い、家!?家ってどういうこと!!??」

沙織の言葉に、は目を見開いて驚いた。
沙織はそんなの様子を大して気にする風でもなく、何でもないことのように言ってのけた。

「勤務地はギリシャになりますので、ここからじゃ通えませんでしょ?」
ギリシャーーー!!!???



驚きのあまり、叫んだきり呆然とするをよそに、沙織は淡々と話を続けた。

「ええ、とても良い所ですわ。きっとお気に召して頂けましてよ。」
「いや・・・いやいやいや!!ちょっと待って!!」
「何か?」
「無理よ!だって私日本から出たことないのよ!?仕事だってまだまだキャリアも浅いし、そんな状態で旅行ならまだしも海外勤務なんて絶対無理!!」

『無理無理!!』と激しく首を横に振る

「どうしても駄目・・・ですか?」
「うん!」
「是非さんにお願いしたかったのですが・・・・。」

寂しそうに俯く沙織を見て、段々それまでの興奮が冷めてきた。
咳払いを一つすると、落ち着いて理由を説明する。

「沙織ちゃんの気持ちはすごく嬉しいわ。私には勿体無い良いお話だとも思う。でもね、自信がないの。」
「自信?」
「ええ。ギリシャ語どころか英語すら満足に出来ないし、仕事だってまだ一年しか経験ないし、その話を受けようと思えるような自信が何一つ持てないの。」
「言葉や仕事のことは、こちらで万全のバックアップ体制を整えますわ、それなら・・・」
「それだけじゃないの。」

沙織の言葉を遮って、は更に話を続ける。

「自信がないのもあるけど、もっと言うと、自分の環境が変わるのが怖いの。」
「・・・・・・」
「私はね、本当に平凡に生きてきたの。そりゃ育ちはちょっと特殊かも知れないけど、どこにでもいるような普通の人間なの。」
さん・・・・」
「だから急に全てが変わることが怖いの。孤児院のみんなや友達とも遠く離れて、言葉も通じない国で生きていくのが怖いの。」
「そうですか・・・・」
「ごめんなさい、せっかくのお話なのに。」
「いいえ。さんの仰ることはご尤もですわ。私の思慮が足りませんでした、こちらこそごめんなさい。」
「そんな、沙織ちゃんが謝ることじゃないわ!」

申し訳なさそうに俯く沙織に、心底申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
しばし沈黙が続いた後、沙織は顔を上げて寂しげに笑った。

「残念ですが仕方ありませんね。早く良いお仕事が見つかることを祈っております。」
「ありがとう。本当にごめんね?」
「いいえ、お気になさらないで下さい。じゃあ私、そろそろ。」
「うん。またいつでも遊びに来て!」
「ええ、また是非!」

沙織の車を見送って、は溜息をついた。
沙織の寂しそうな顔が、ちくちくと胸に刺さる。
だが、自分には到底無理な話だ。

― ごめんね、沙織ちゃん・・・・





しかしある日、事件は起こった。




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後書き

ヒロイン、沙織にスカウトされるの巻でした。
薄々感付いていましたが、私の主観に基づいて書いているからか、ヒロインが全くもって只の凡人ですね(笑)。
おまけにビビリときたもんだ(爆)。
でも全く予想外に海外移住の話を持ちかけられたらビビリますよね、ね(焦)!?

04/04/14 文中の表現1箇所修正 内容には差し支えありません。