「あれ?何か来てる・・・・。ああーー!!」
買い物から帰って来たは、郵便受けを探って大声を上げた。
郵便受けから出てきたのは、1通の葉書。
差出人は、日本にいる友人からであった。
は買い物袋をテーブルの上に投げ出し、椅子に腰掛けて早速葉書に目を通した。
『 TO
久しぶり。元気にしてる?
がギリシャに行ってもう大分経つね。
そっちの暮らしは慣れた?
私も仕事の休みがまとまって取れたら、一度そっちへ遊びに行ってみようかな。
前から行ってみたかったんだ、ギリシャって。
こっちは皆相変わらずだよ。
でもがいなくて寂しいよ。
もしも辛くなったら、無理しないでいつでも帰っておいでよね。』
の脳裏に、日本の友人の顔が次々と浮かんで来る。
そして聖域に来てからロクに彼女達と連絡を取っていなかったことを、今更ながら思い出した。
は引き出しから絵葉書とペンを取り出し、早速返事を書き始めた。
日本を発った頃から今までの事を思い起こしながら。
「明日からどうしよう!?」
あれは21歳になったばかりのことだった。
短大を卒業して就職した会社が不況の影響を受けて倒産し、は途方に暮れていた。
すぐに就職活動を始めても良かったのだが、少しぐらい疲れた体を休めてもいいだろうと思い、1週間ぐらいの間、ひたすら眠ったりしばらく会えなかった友人と会ったりしていた。
そしてふと思い立ち、しばらく足を運んでいなかった星の子学園を訪れてみたのだ。
今思えば、あれが運命の分岐点だったのだろう。
「ああー!姉ちゃん!!」
「姉ちゃんだーー!!」
「みんな元気にしてた?」
「美穂姉ちゃーーん、姉ちゃんが来たよーー!!」
園庭に入って来たを、数人の子供達が取り囲み歓迎する。
子供達の相手をしていると、すぐに美穂が走り出て来た。
「お姉ちゃん!!久しぶり!!」
「美穂ちゃん!元気にしてた?」
「うん、元気よ!お姉ちゃんも元気そうね?」
「私はいつだって元気よー。あ、これお土産。皆で食べて。」
「ありがとうー!ほらみんな、お姉ちゃんにお礼言って。」
「ありがとう、お姉ちゃん!!」
「ありがとう!!」
「わーーい!!」
美穂に促され、子供達が口々に礼を言う。
「さあ、入って入って。ちょうど今星矢ちゃんも来てるのよ。」
「えーー!?星矢君が!」
滅多に会えない弟に会えるような嬉しさで、は美穂の後をうきうきとついていった。
「あれーー!?姉ちゃんじゃないか!?」
「星矢君!久しぶりねー!元気にしてた?」
「おう、俺は元気だぜ!姉ちゃんも元気そうだな!」
「元気よー!時間が出来たから皆の顔見たくなってね。まさか星矢君に会えるとは思わなかったわ。」
「俺もだよ!」
久しぶりに会った星矢はまた逞しくなっていて、はその成長ぶりに目を細めた。
「紫龍君達は?皆元気?」
「ああ、あいつらも元気だぜ!」
「それと沙織ちゃん。あの子も元気?」
「アテ・・、お嬢さんか。元気だぜ!色々忙しいみたいだけどな。」
「そういえば大財閥のお嬢様だったっけね。大変なんでしょうね。あんなに若いのに。」
「まぁな。」
沙織だけではない、星矢達も普通の若者とは違う人生を歩んでいる。
詳しい事は知らないが、そのことだけははっきりと分かっていた。
は、星矢や美穂と同じ星の子学園で育った。
実の親兄弟はいなくとも、小さい頃から見てきた星矢達は弟妹のようなものだった。
だから星矢が姉の星華と離れ離れにされてどこかへ送られた時、悲しくて悲しくて何日も泣き暮らした。
小さい子供達の不安や悲しみを煽らないよう、美穂をはじめ他の子供達の前では決して泣かなかったが、一人になると涙が溢れて止まらなかったのを覚えている。
それから6年経ち、TVで中継していた『銀河戦争』に星矢の姿を見つけた時は心底驚いた。
6年間何の連絡もなく、消息も分からず、もう二度と会えないと思っていたからだ。
矢も盾もたまらず星の子学園に駆け込み、美穂に連絡を取ってもらってようやく会えた時、嬉しくて天にも昇る気持ちだった。
いつも姉の星華や自分の後をついて回っていた小さな坊やが信じられないくらい逞しく育っていて、は人目も憚らず嬉し泣きに崩れた。
その時に紫龍達も紹介され、この6年間のことをざっくりと聞かされた。
何やら大変な事態になっていたらしく、詳しいことは何も聞かされなかったが、無茶はしないように念を押してその場はそれで別れたのだった。
沙織を紹介されたのは、それからまたしばらく経ってのことであった。
星矢と同い年というこの少女は、何やら普通の少女達とは違う雰囲気を放っていた。
は、沙織の大人顔負けの物腰とただならぬ気品にたじろいだが、よくよく喋ってみると、
年相応の少女らしい一面を持った、少々内気な女の子であることが分かった。
その時の星矢達の話を聞いていると、何やら彼らがとんでもない運命を背負っているらしいことは分かったが、彼らはそれ以上詳しく語ろうとしなかった。
今考えると、あれは一般人である自分を巻き込まない為の気遣いだったのであろう。
そしてその後、再び彼らとは会えなくなった。
その辺りを境にして、何日も異常な雨が続いたり奇妙な日食が起こったが、そんな事態が起こる度に、は星矢達の無事を祈らずにはいられなかった。
「姉ちゃん、聞いてる?」
「え?あ、ごめんごめん。何?」
「ははっ、相変わらずだなぁ姉ちゃんは。だからさ、何でこんな昼間っからこんなとこに居るんだよ、会社は?」
「ああ、会社ね・・・。実は倒産しちゃったの・・・・。」
「マジ!?」
「マジ。」
「で、次の仕事は見つかったのかよ?」
「それがまだ・・・・。そろそろ探そうと思ってるんだけどね。」
「そっか〜・・・・。色々大変そうだな、姉ちゃんも。」
「まあね。」
その後、の持参したシュークリームを食べ尽くした子供達にせがまれてサッカーをすることになり、話はそこで終わったのだった。
少なくともその時は。