静かな公園のような斎場。
はベンチに腰を掛けて、窓の内側からぼんやりと空を眺めていた。
濃い灰色に曇って、涙のような雨をしとどに降らせている空。
梅雨の始まりを知らせる雨だった。
雨が作り出す霞に、母が煙となって混じって消えてゆく。
どうせなら、あの日のような青々と澄み切った空模様が続いてくれれば良かったのに。
母が旅立った翌日から、物悲しげな雨が続いている。
母の葬儀は、雨に見守られる中、滞りなく終わった。
葬儀にはVenusの従業員達も参列したが、火葬には一人だけで立ち会った。
あともう少ししたら骨を拾って、そして・・・・・。
その後の事は、正直、まだ何も考えられなかった。
勿論、やる事は沢山ある。
唯一の遺族として、こなさねばならない事は山のようにある。
だが、その後の事までは。
母の最期の言葉を忘れた訳ではなかったが、自分の今後の身の振り方を改めて考え直す余裕は、まだにはなかった。
その翌日、梓から電話があった。
「ごめんなさいね、忙しいところを急に呼び出して。」
「いいえ。」
は梓に呼び出され、とある繁華街のカフェに出向いて来ていた。
彼女とプライベートで待ち合わせて、しかもこんな昼間に会うのはこれが初めてだった。
「それで・・・・・、私に話というのは?」
注文を済ませてから、は梓に用件を尋ねた。
すると梓は、コーヒーを一口飲んでから言った。
「・・・・お店、辞めさせて貰いたいの。」
「え・・・・・・?ちょ、ちょっと待って下さい、そんな急に・・・・!」
「急じゃないわ。私はずっと考えていたの。貴女がオーナーになると決まってから。」
率直な物言いにもショックだったが、それよりも梓が店を辞めるという事実の方が、にはショックだった。
「・・・・・やっぱり・・・・、私がオーナーではご不満ですか?」
「・・・・・言い難い事ズバッと訊くのね。」
梓は苦笑いをしながら、煙草に火を点けた。
「そうね、不満がなかったと言えば嘘になるわ。実力は明らかに私の方が上なのに、どうして貴女みたいなぽっと出の人間に負けなきゃいけないのかって、悔しく思ったのは本当よ。私の10年間の努力と実績が貴女の数ヶ月分のそれに及ばなかったなんて信じられない、信じたくない。それじゃあ私の10年は何だったんだろうって、虚しくなったのも本当。」
「済みません・・・・・・・」
「別に貴女が謝る必要はないわ。私の方こそ、ズバズバ言っちゃって悪かったわね。」
「いいえ・・・・・・・。」
「お店辞める事、本当は麗子ママに言うつもりだったのよ。だけど披露パーティーが済むまでは言い難くて、パーティーが終わってから言うつもりだった。あの日は正直、その事だけで頭が一杯だったわ。だけど、いざパーティーが終わって言いに行ったら、ママはあんな事に・・・・・・」
言葉を濁して、梓は顔を曇らせた。
まだ悲しみの残っている顔付きだった。
「まだ初七日も済んでいないこの大変な時に、悪いとは思ったんだけど、私にも色々と都合があるから。ほら、子供、食べさせていかないといけないでしょう?」
「そうです・・・・・ね・・・・・・」
しかし、梓が悲しげに顔を曇らせたのは一瞬の事で、すぐに元の凛とした表情に戻り、その口元に穏やかな微笑を湛えた。
子供の事を言われると、何にも縛られていない身としてはとても反論出来なかったが、それでもは考えずにはいられなかった。
彼女にはもう『Venus』に未練はないのだろうか、と。
「早く次の仕事を見つけなきゃいけないから、もうお店には出られないわ。申し訳ないんだけど。」
「あの・・・・・、一つ訊いても良いですか?」
「何?」
「次のお仕事って・・・・・、また別のお店を探すつもりですか?」
「どうして?」
「だったらその・・・・・、別の店に行って一からやり直す位なら、このまま辞めずにVenusに居て下さった方が、店にとっても梓さんにとっても良いかと思ったんですけど・・・・・」
訊き返されて、はしどろもどろに答えた。
彼女の決めた事に口を挟める立場でないのは分かっていたが、それでも何とか引き止めたかったのだ。
母が亡くなった今、梓ほど『Venus』を大切に思っている者は、多分居ないのだから。
しかし梓は、小さく笑って首を振っただけだった。
「貴女の言う事は分かるし、その通りだとも思うけど、私にそのつもりはないわ。」
「何か当てがあるんですか?何処か別のお店から声を掛けられてるとか、ご自分でお店を持つつもりとか・・・・・」
「ないわ。」
「じゃあ、どうして・・・・」
「良い機会だから、水商売はもう辞めようかと思ってるの。私もいつまでも若いわけじゃないし、子供もそろそろ多感な年頃になってくるし。」
は、思わず梓を凝視した。
10年間ずっと自分なりの信念を持ってこの仕事に携わってきた筈の彼女が、まさかまるで違う人生を選ぼうとしていたとは、思ってもみなかったのだ。
「・・・・・・そうですか・・・・・・」
自分の存在が、そこまで彼女の自尊心を打ち砕いてしまったのだろうか。
そんな風に考えて申し訳なく思うのは、おこがましいのかも知れない。
難しい年頃に差し掛かり始めた息子の為にという理由は、それはそれで十分に理解出来るものであって、それが彼女の本心であったとしても何ら不思議はないのだから。
敗北感や挫折感などよりも母親としての気持ちの方が強かった、本当にただそれだけの事なのかも知れない。
「それに、私にとって、Venusの代わりになるようなお店はないもの。東京にはクラブなんて幾らでもあるけど、『Venus』のようなお店はきっとないと思う。だからいっそこの辺で、思い切って新しく出直してみようかと思って。」
「そう・・・・ですか・・・・・・」
「大学も中退してるし、手に職も普通の会社勤めの経験もない30過ぎのシングルマザーだから、きっと思うようにはいかないでしょうけどね。何とか頑張ってみるつもりよ。私だってこれでも、母親のはしくれだから。」
そう言って微笑む梓は、店に居る時の彼女とはまるで別人だった。
華やかで魅惑的な銀座の女ではなく、何処にでも居る、ごく普通の母親の顔をしていた。
残念だがもうこれ以上、引き止める事は出来そうになかった。
「・・・・・・頑張って下さい。」
「有難う。貴女も頑張って。」
は微笑んで、梓に握手を求めた。
すると彼女は、その手を微笑んで握り返してくれた。
温かい手だった。
厳しいが、一本筋の通った、良い人だった。
梓がこういう女性だったからこそ、母もきっと信頼し、最期まで案じていたのだろう。
「梓さん・・・・・済みませんでした・・・・・」
「何が?」
「お店の事も・・・・、麗子ママの事も・・・・・。」
は、最後にその事を梓に伝えたくなった。
どうしても知っておいて貰いたかった。
節子という女性は娘だけを思って死んでいったが、Venusを築き上げた『麗子』という女性は、決して我が娘の事だけを考えていた訳ではないのだ、と。
最期まで自分の店を、そしてそこに集う人々を心から大切に思い、深く愛していたのだ、と。
「ママがどうして私に店を譲ったのか、最期に話してくれたんです。ママは、Venusを自分の生きてきた証として、娘の私に継がせたかった。だけどそれだけじゃない、Venusを大事に思ってくれるお客さんやスタッフ達の為にも・・・・、ママを信じてこれまで尽くしてきた梓さん達を路頭に迷わせない為にも、『Venus』を私に継がせて変わらずに存続させたかったそうです。」
「・・・・・・・・」
「これまで麗子ママを支えてきたのは、私じゃなくて梓さんです。その事は絶対、麗子ママも分かっていた筈です。ママにとっても梓さんは、きっと単なる従業員じゃなかったと思います。・・・・・なのに私、梓さんのお言葉にすっかり甘えてお店を任せきりにして、自分だけ臨終に立ち会ってしまって・・・・・」
「・・・・何かと思えば、そんな事。」
が言葉を切ると、梓は小さく笑った。
「自分で看取るつもりがあったら、貴女にあんな事言わなかったわ。店を放り出して、貴女を押し退けてでも、ママの横に張り付いていたわよ。でもママはきっと、息を引き取るところを私達店の者には見られたくなかったでしょうから。本当に、時々意固地に感じる位、気丈な人だったもの。」
「梓さん・・・・・・」
梓は暫し、思い出を懐かしむような優しい微笑を遠くに投げかけていたが、不意にを見つめて言った。
「母親ってね、理不尽な生き物なのよ。」
「え?」
「自分の子が可愛いの。自分の子は特別なの。だから時として、他人や、我が子にまで、理不尽になる事がある。そんな生き物なのよ。」
「・・・・・・・・」
「ママが貴女を後継者に選んだのも当然だわ。だって貴女は、ママの実の娘だったんですものね。」
同じ母親として、梓は母・節子の気持ちが分かっていたという事なのだろうか。
梓のこの言葉が、に気付かせた。
「お店、これ以上手伝ってあげられなくてごめんなさい。成功を祈ってるわ。」
「・・・・・待って下さい!」
梓が伝票を持って立ち上がった瞬間、は彼女を呼び止めた。
「・・・・・まだ何か?」
「本当に、私が気に入らないから辞めるんですか!?新しく出直したいから辞めるんですか!?本当に・・・・・、それだけなんですか?」
「・・・・・・・」
「梓さんが名実共にVenusのトップだという事は、お客さんもスタッフも皆が分かっている事です。私なんか足元にも及ばない。このまま梓さんが居たら私がやり難くなるから・・・・・、だからご自分から辞めようと思ったんじゃないですか?」
ぽっと出の女に地位を奪われ、自分の大切な居場所を支配されたというやるせない敗北感や屈辱感も、我が子の為にという母親としての気持ちも、決して嘘ではないのだろう。
ただ梓の中には、それらとは別の思いもあるような気がしてならなかった。
「・・・・ふふっ。知らなかったわ、貴女って想像力豊かなのね。でも買い被りすぎよ。私はそんなに謙虚な人間じゃないわ。第一、何で私が貴女の為に仕事を辞めなきゃいけないの?こっちは女手一つで子供を育てているのよ。道楽でやっている訳じゃないのに、赤の他人の為にどうしてそこまで・・・」
「私の為じゃありません。私がオーナーになる事を望んだ、ママの為に。」
「・・・・・・・・」
梓は馬鹿げていると言いたげに笑って否定したが、は本気でそう思っていた。
梓の中には、母から受けた恩と、単なる従業員ではなく一人の人間として彼女を慕う気持ちがある筈なのだ。
肉親のそれに決して引けを取らない、強い思慕の念が。
笑みを消して黙り込んだ梓に、は真剣な眼差しで問いかけた。
「そうする事がママへの恩返しだと思って・・・・・、そうじゃないんですか?」
「・・・・・・貴女の好きなように解釈すると良いわ。じゃあね。」
梓は、否定も肯定もせずに行ってしまった。
しかしは、きっと自分の直感は正しかったのだと確信していた。
数日後、母の初七日を終えてから、は城戸邸へと向かった。
沙織とのオフの日が偶然にも重なったのが、今日だったのだ。
「はい、もしもし?」
電話が鳴ったのは、手土産のケーキを買い込んで外に出た直後だった。
「・・・・・・・本城さん?」
『やあ。・・・・この度は本当にお気の毒だったね。』
掛けてきたのは『Aphrodite』のオーナー・本城だった。
『こんな時なのに、急に悪いかなとは思ったんだけどね。逆にこんな時だからこそ、早い方が良いかと思って連絡したんだ。今日、これから会えないだろうか?』
「これからですか?・・・・・済みませんが、それは・・・・・・。これからちょっと人と会う約束がありますので。」
『それなら、終わってからで良いよ。別に夜になっても構わないし。』
「でも・・・・」
『今日は仕事の話抜きで、麗子ママのお悔やみが言いたいだけなんだ。ほんの少しで構わないから、会ってくれないか?』
は暫く考えてから、『分かりました』と告げた。
思ってもみないタイミングだったが、いずれ彼とはもう一度改めて話をする必要があると自身も考えていたからだった。
「遅くても夕方には向かえるようにしますので、何処か場所を決めて頂けませんか?ええ・・・・、はい・・・・・、はい・・・・・、分かりました。では、後でまた連絡します。失礼します。」
待ち合わせ先を聞いて電話を切ってから、はまた歩き始めた。
城戸邸に着いたのは、それからすぐの事だった。
「この間はどうも有難う。本当に・・・・・、沙織ちゃん達が居てくれて心強かったわ。」
「そんな・・・・・。こちらこそ、お通夜にも告別式にも顔を出さなくて、失礼致しました。」
「それはこっちの都合だったんだもの、沙織ちゃんが謝る事じゃないわ!こっちこそ、散々お世話になったのに失礼な事をしてごめんなさい。」
沙織と二人でお互いに頭を下げあってから、この光景が何となく滑稽に思えて、は小さく苦笑を洩らした。
すると沙織も、釣られて微かな笑い声を上げた。
「さっきね、初七日の法要を済ませて来たの。」
「そうですか・・・・・。これから暫くは大変でしょうね。」
「そうね。色々やらなきゃいけない事もあるし、引越しもしなきゃいけないし。」
「まあ、お引越しも?」
「うん。あのマンションは私には贅沢すぎるから、出来るだけ早く引き払って手頃な部屋に移ろうと思って。ふふっ・・・・・、ぶっちゃけ、月々の家賃がとんでもない額なのよね。」
「まあ。」
沙織はまた少し笑ってから、真剣な表情に戻って『店はどうするのか』と尋ねた。
母が亡くなってから、マネージャーとも相談して店は臨時休業という形で閉めていたが、
閉店すると決めた訳でもない以上、そうそう長く休んでもいられない。
明日から営業を再開する事になっていると答えると、沙織は言い難そうに切り出した。
「・・・・・私がこんな事を言うのは差し出がましいのですが、お店の事、もう一度考え直すおつもりはありませんか?」
「・・・・・・・」
「失礼とは思ったのですが、お母様の最期のお言葉、私も聞かせて頂きました。お母様もああ仰っておられた事ですし、もう義務感に縛られる必要はないと思うのですが。」
沙織の言葉に、は小さく頷いた。
「・・・・・・実は私も、ちょっと考え直しているところなの。母が最初に望んだ通り、このまま頑張ってお店を続けていくべきだとも思うんだけど、本当にそれが一番良い事なのかな、って・・・・・・。あの店は、あの店をやっていく意味は、一体何なのかな、って。私は何を第一に考えたら良いのかな、って。」
「・・・・・・・・・」
「以前は、全部母の為だったの。母が望むから店で働く、母が望むから店を継ぐ・・・・・、全部母の希望を叶える為だった。母は死ぬ間際、私の自由にしろと言ったけど、私に残されたのは、Venusの店舗だけじゃないの。あの店は空っぽじゃない。そこで働くスタッフ達と、通って来るお客さん達が居る・・・・・。母はその人達と共に『Venus』を築き上げてきたのよ。その人達を愛していたの。だから、どうするのが一番良いのか、今考えているところ。」
「・・・・・・そうですか。」
沙織はの話を真剣な表情で最後まで聞き終えてから、話を切り出した。
「もし、さんさえその気になられたら、お店はうちの財団で買い取らせて頂きますわ。」
「え?」
「ようやく承認が下りましたの。もし売って頂けるのでしたら、決してさんの損になる取り引きにはしませんわ。お母様の仰っていた通り、諸々を清算してもちゃんとお手元に残るようにしますから、ご安心下さい。」
沙織の微笑みに嘘はなかった。
いや、彼女に限って嘘などあろう筈がない。
しかしは、沙織の申し出に二つ返事で飛びつく事が出来なかった。
「有難う、沙織ちゃん。もしそうなったら、勿論沙織ちゃんを疑ったりなんかしないわ。全面的に信頼する。だけど、まだ私も結論が出せていないの。だから・・・・」
「構いません。もし、その気になられたら・・・で結構ですわ。その時には、お声を掛けて下さい。」
沙織の立場にしてみれば、折角の好意をすぐさま受け取らずに何を迷っているのかと苛立ってもおかしくはないだろう。
しかし、沙織はそんな素振りは微塵も見せず、優しく微笑んで頷いただけだった。
「有難う・・・・・。」
が頭を下げると、沙織は小さく首を振ってから、場の空気を変えようとするかのように少し声を弾ませた。
「・・・・・それはそうと、この後何もなければ、ご一緒に夕食でも如何ですか?私も今日は時間がありますので、久しぶりにさんとゆっくりお話がしたいのですが。」
「あ・・・・・・、ごめんね、沙織ちゃん。私もそうしたいんだけど、この後ちょっと約束が入っちゃって・・・・・」
が申し訳なさそうに断ると、沙織はまた微笑を浮かべて首を振った。
「そうですか、では仕方ありませんね。」
「本当にごめんなさい。」
「いいえ。お気になさらないで。」
沙織にはやはり話しておくべきだろうか。
本城に、『Venus』に対する真意を問いに行くのだ、と。
話すかどうか考えていると、先に沙織が口を開いた。
「・・・・・詮索するようで心苦しいのですけど、その約束のお相手というのはどなたですの?もしや・・・・・」
「・・・・・うん。『Aphrodite』のオーナーの本城さん。」
「やはり・・・・・そうでしたか。」
「お悔やみが言いたいって言われちゃ、無下にも断れないしね。・・・・それに、私もあの人に話があるから。」
「お店の事で・・・・・?」
「うん。向こうは、今日は仕事の話は抜きだって言ってたけど、私はその話をしに行くつもり。取り敢えず、どうして『Venus』が欲しいのか訊いてみたいの。訊いてどうなるかは分からないけど、もしかしたら何か見えてくるかも知れないし、そうしたら私がこれからどうすれば良いかも分かるかも知れないと思って・・・・・。」
やめておけと止められるだろうかと、は沙織の顔色を伺った。
もしやめておけと言われたら・・・・・・・、いや、言われても、は行く気だった。
確かに、訊いたところでそれが本音だとは限らないし、結局は何も分からないままで終わる事も考えられるだろう。
しかしそれでも、は本城に率直に問い質してみたかった。
自分の口から問い、自分の耳で答えを聞きたかった。
『Venus』の今後にとって一番良い結論を出す為に、そして自分のこれからの為にも。
「・・・・・そうですか。頑張って下さいね。」
「・・・・・うん、有難う。」
そんな気持ちを分かってくれたのか、沙織は引き止めてはこなかった。
「お約束は、これからすぐですの?」
「うーん、すぐって事もないんだけど・・・・。夕方には会うつもり。」
「でしたら、夕食の代わりにお茶でもご一緒しません?お土産のケーキ、一緒に頂きましょう。甘い物は、一人で食べるより二人で食べた方が美味しいでしょう?」
「・・・・ふふ、そうね。じゃあもう少しだけ、居させて貰おうかな?」
「是非。」
やがて甘いケーキとまろやかな香りの紅茶が運ばれて来て、長閑で温かな女二人のお茶の時間が始まった。
その間の話題は他愛のない世間話ばかりで、Venusや本城の話が蒸し返される事はなかった。