絆 36




驚いて目を見開いているに、サガは言った。


「私達の小宇宙を母上に与えてみよう。うまくいくかどうか、その保証はない。だが、うまくいけば、別れの言葉ぐらいは交わせるだろう。」

たとえうまくいったところで、その先に待ち受けているのは喜びではなく永久の別れ。
その事に違いはない。
如何に常人離れした能力があろうとも、聖闘士はあくまでも人間であって、神ではないのだから。
だが同じ悲しい別れなら、それと気付かぬ内にではなく、大事な者の顔をその目に焼き付けて旅立てるように。
大事な者の最期の言葉を聞き届けられるように。
サガは祈りを込めて、の母の手を握り、高めた小宇宙を彼女の身に送り込み始めた。



「・・・・・・・・駄目か。」

しかし、彼女の目は開かなかった。


「ならば俺がやる。代われ、サガ。」

落胆するサガの肩を励ますように叩き、今度はカノンが試みた。
だが、それも結果は同じだった。
その後、誰がやろうとも、彼女を深い眠りの淵から救う事は出来なかった。


「・・・・・・・・・・・済まない。下手に期待を持たせるような事を言って。」
「サガ・・・・・・、謝らないで。手を尽くしてくれて有難う。」

は、そう言って微笑んだ。
もう出来る事は何もない。せめて励ます事しか。
黄金聖闘士達は、思い思いにの手を握ったり肩を抱いたりして、一人また一人と病室を去って行った。



















沙織が仕事を片付けて病院へ駆けつけて来たのは、夜になってからだった。


さん・・・・・!」
「沙織ちゃん・・・・・・」

黄金聖闘士達を伴い、面会時間の終了間際に病室に駆け込んで来た沙織は、息を切らせながら言った。


「遅くなって申し訳ありませんでした。もっと早く、すぐにでも駆けつけたかったのですが・・・・」
「ううん、いいのよ。有難う。こうして来てくれただけでも十分・・・」
「話は聞きました。私にお任せ下さい。」
「え?」

沙織は真剣な顔で頷くと、の母に近付き、その手を両手で包み込んだ。


「生命の流れをむやみに変える事は、如何に神とて許されない行為ですが・・・・・」

沙織が目を閉じた。


「ほんの一時、力を与える事なら・・・・・・・」

と黄金聖闘士達が固唾を飲んで見守る中、沙織は深く息を吐き、祈るように頭を垂れた。
すると、暫くして。


「・・・・・・・・・・・・・ちゃん・・・・・・?」
「ママ・・・・・・・!?」

の母は、ゆっくりと目を開いた。



「ママ、ママ!しっかりして下さい!」

夢中で駆け寄ったに、彼女は薄らと微笑みかけた。


「長い・・・・・・、長い夢を・・・・・、見ていたわ・・・・・・」
「どんな・・・・・夢ですか・・・・・・?」
「暑い・・・・・・・、夏の日・・・・・・・。デパートで・・・・・お買い物して、お子様ランチとソフトクリーム、食べて・・・・・」
「え・・・・・・・?」

知っているような話だった。
まるで自分も同じ夢を見ていたかのように、その光景を思い浮かべる事が出来る。
ぬけるような青い空と、ぎらぎらと照りつける眩しい太陽。
涼しいデパートの中にあった、夢のようなオモチャの国。
夢中ではしゃぎ回っている、水玉模様のワンピースを着た女の子。
母の見ていた夢は、あの日の光景だったのではないだろうか。


「・・・・・・悪かったわ・・・・・・・」
「何・・・・が・・・・・・?」
「私は・・・・・最期まで・・・・・・、自分勝手だったわね・・・・・・」

微笑む母親の顔を、はじっと見つめた。


「Venusは私の全て・・・・・、貴女に遺してあげられる私の全て・・・・・・。だけど、貴女にも・・・・・貴女の意思があって・・・・・、自分の人生を決める権利があるのよね・・・・・」
「ママ・・・・・・・」
「無理に・・・・・店を継がせようとして・・・・・・、悪かったわ・・・・・・・」

何も謝って欲しくて『目を覚ましてくれ』と願っていた訳ではない。
したいのはそんな話ではないのだ。
はただ無言で、何度も首を振った。


「私・・・・・、自分の母親に言われたのと同じような事を・・・・・貴女に言ってきたのね・・・・・・。自分の願望と価値観を押しつけて・・・・・・。ふふ、勝手よね・・・・・・、自分はそうされるのが嫌で堪らなくて・・・・・・、一人ぼっちの母親を捨てて・・・・・・田舎を飛び出したくせにね・・・・・・」
「謝らないで・・・・・、私、そんなの全然気にしてませんから・・・・・・!」
「貴女は・・・・・・・、いつも頑張ってくれてたけど・・・・・、楽しそうでも嬉しそうでもなかったのは・・・・気付いてたわ・・・・・・。ただ・・・・必死に頑張って・・・・・、私の期待に応えようとしていただけ・・・・・。でも・・・・・私も必死だった・・・・・・。ただ貴女にVenusを遺そうと・・・・・・、それだけに必死になっていた・・・・・・。貴女の気持ちじゃなくて・・・・・・、また自分の気持ちを・・・・最優先に考えてしまっていた・・・・・・・。昔と同じように・・・・、また・・・・独りよがり・・・・」
「でもそれ、私を思ってくれての事なんですよね・・・・?分かってます、分かってますから、私・・・・!」
「・・・・・・今なら・・・・・・、母の気持ちが少し分かる気がするわ・・・・・・。ふふ・・・・、もう遅いけど・・・・・・・」

彼女はそう呟いて、寂しげに微笑んだ。


「私も・・・・・、貴女みたいに・・・・・・、母に優しい言葉を掛けてあげられたら・・・・良かったのにね・・・・・・」
「ママ・・・・・・!」
「私の遺書・・・・・・、もう読んだ・・・・・・?」
「あ・・・・・・、はい・・・・・・・・」

母の遺書なら、もう何度も繰り返し読んでいた。
読んでは後悔していた。
そこに書かれてあった事を彼女の口から直接聞けていたなら、そしてとことんまで話し合う事が出来ていたら、どんなに良かっただろうか。
いや、そうするべきだったのだ。
こんな風に突然別れる事になるのなら、大喧嘩になろうが険悪になろうが、とことんお互いの気持ちを曝け出して話し合えば良かった、と。


「そう・・・・・・・。じゃあ、一つだけ・・・・・変更・・・・・・」
「・・・・・何ですか・・・・・・・・?」
「今更・・・・だけど・・・・・・、貴女は貴女の好きなように・・・・・、生きなさい・・・・・・」
「え・・・・・・!?」

は驚き、戸惑った。
母はが店を継ぐ事を切望し、遺書にまでその想いを認めていたというのに。
そして今、は、その希望通りVenusのオーナーになったというのに、一体どうしたというのだろうか。


「でも、私はもうお店を継いで・・・・・」
「継いで欲しかったわ・・・・・・。貴女や私の為だけじゃなくて・・・・・、Venusを大事に思ってくれる・・・・お客様やスタッフ達の為にも・・・・・、『Venus』はずっと・・・・変わらずにあり続けて欲しかった・・・・・・。私を信じて・・・・・、これまで尽くしてくれた・・・・梓ちゃん達を・・・・・、路頭に迷わせるような事は・・・・・したくなかったから・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「だけど・・・・・・、貴女の人生を犠牲にしてまで・・・・・・、無理をする必要は・・・・・ないわ・・・・・・・。貴女はただ・・・・・、受け取ってくれれば・・・・・、もうそれで良いの・・・・・・・」
「ど・・・・、どういう意味ですか・・・・・!?」

が問いかけると、彼女は静かに言った。


「売れば・・・・・・、借金や諸々の経費を差し引いても・・・・・、それなりの額が・・・・・手元に残る筈だわ・・・・・・・。それで・・・・・・、好きな所で・・・・・思う通りの人生を・・・・・歩みなさい・・・・・」
「そんな・・・・・・!だって、ママのVenusへの思い入れはあんなにも・・・・・!」
「もう良いのよ・・・・・・。」

そう、彼女にとって、『Venus』は只の財産ではない。
彼女の生きてきた証そのものなのに。
それを何故急に『手放しても良い』などと言い出したのだろうか。


「どうしたんですか・・・・・・、急にそんな事・・・・・・」
「ふふ、どうしちゃったのかしらね・・・・・。自分でも・・・・良く分からないけど・・・・・・、披露パーティーで・・・・、貴女の晴れ姿を見て・・・・・、案外それだけで・・・・満足しちゃったのかもね・・・・・」
「そんな・・・・・、満足って・・・・・」
「どんな形でも・・・・良いの・・・・・・・。ただ・・・・受け取ってくれれば・・・・・。貴女が望む形にして・・・・・、貴女が幸せを感じられる形にして・・・・・・、受け取って欲しい・・・・・・・」

彼女はそう言って、微笑みを崩さぬまま、スッと目を閉じた。


「ごめんなさいね・・・・・、勝手に・・・・捨てたくせに・・・・・、今更また・・・・勝手に・・・・現れて・・・・・。貴女の人生・・・・掻き乱して・・・・・・、混乱させて・・・・・・・。私、結局・・・・最期まで・・・・、母親に・・・・・・・、なれなかった・・・・・・・」
「ママ!?ママ!!」

は母の手を取り、強く握り締めた。
握り締めたその手を、激しく揺さぶった。
もう間もなくこんな時が訪れる事を覚悟はしていたけれど、もう暫く時間が欲しかった。
もう少しで良いから、時間が欲しかった。


「ごめんね・・・・・・、・・・・・・・」

母は再び僅かに瞼を開き、微笑んでまっすぐにを見た。
その顔をしっかりと見つめて目に焼き付けておきたいのに、視界が不透明にぼやけて来て邪魔をする。


「お・・・・・・、お母・・さん・・・・」

は何度も目を瞬かせながら、消え入るような声で呟いた。
店の話など、今のにはどうでも良かった。
したいのはそんな話ではなかった。
ただこうして『お母さん』と呼びかけて、心の中にある想いを片っ端から伝えたかったのだ。
恨みに思ってはいないと。
私は一人ぼっちなんかじゃなかったから気に病まないでと。
幸せだったから安心してと。
また会えて嬉しかったと。


「あぁ・・・・、今日は・・・・・夏みたいな空ね・・・・・・。あの時みたいに・・・・・、真っ青で・・・・き・・・れい・・・・・・」

しかし、の呼びかけは届いたのか届かなかったのか、彼女はそれには何も答えなかった。
の想いを何一つ聞かない内に、ただ薄らと微笑んで眩しそうに細めた目を窓の外に向け、こう呟いただけだった。



「あ・・・・・、ぁ・・・・・・・」

そしてそれきり、彼女は一言も発しなくなった。
ほんの僅かに開いていた瞼は、言葉の代わりのような涙を一筋流し終えると、重く、重く、閉ざされた。


「誰か、すぐに先生を!」
「はっ!」

沙織や黄金聖闘士達の逼迫した声が聞こえたかと思うと、たちまちの内に医師や看護士が駆けつけて来て、呆然としているを押し退けて何やらバタバタと動き始めたが、彼等が何をしても、母はもう目を開ける事はなかった。
しかし、彼等を押し返して母に縋りつく事は、には出来なかった。
身体が金縛りにあったようになって、動かなかったのだ。
はただ目の前の光景を、呆然と見ている事しか出来なかった。
何かを考える事すら出来なかった。
母の臨終を告げる医師の声が耳に届くまで、何も。













「嫌よ・・・・・、そんなの・・・・・・、嫌・・・・・・」

ようやく身体を動かせたのは、医師や看護士が処置を終えて退室してからだった。
はまるで眠っているような母の顔に目を向けると、突然に振り返って床に伏した。


「お願い、沙織ちゃん!もう一度だけ、母と話をさせて!生き返らせてくれなんて言わないから!あとたったの一言で良いから!お願い、お願いします・・・・!」
さん、何をなさるんですか!?」

沙織は伏して頼み込むを慌てて抱え起こそうとしたが、沙織の力では無理だった。
は張り付くようにしっかりと床に身を伏せていて、沙織がどんなに揺さぶろうが少しも動かなかったのだ。
沙織は仕方なく抱え起こす事を諦めて、と同じように床に膝をつき、小刻みに震えているの背中をそっと抱き締めた。


「頭を上げて下さい・・・・・。申し訳ないのですが、もうこれ以上は・・・・・」

沙織は、自身も声を震わせてそう呟くと、一人で病室を出て行った。
女神である彼女が無理だと言うのだから、もうどうにもならないのだろう。
しかし、頭ではそうと分かっていても、はまだ諦められなかった。
どうしても、もう一度だけ母と話がしたかった。


「そうだ・・・・・、デス・・・・!」

は不意に立ち上がり、今度はデスマスクに縋りついた。


「デスなら、デスの技なら、私を死んだ人の世界に連れて行けるでしょう!?母を呼び戻すのが無理なら、私を向こうに連れて行って!」

母の魂をこの世に呼び戻すのが無理なら、自分から出向けば良いのだ。
良い案だと、いや、もうそれしか手段はないと、は確信していた。
しかしデスマスクは、救世主でも見るような狂信的な眼差しで必死に頼み込むから目を背けて、
素っ気無く訊き返しただけだった。


「・・・・行ってどうするんだよ?」
「あと一言だけ、どうしても言いたい事があるの!」
「無理だ、諦めろ。」
「そんな事言わないで、お願い!この通りだから・・・・・!」
「馬鹿お前っ・・・、何してんだ!!」

は、沙織にしたのと同じように、デスマスクの足元に平伏して頼み込んだ。
怒鳴りつけられても、彼の足元に縋り付き続けた。
沙織にした時もそうだったが、他にこの気持ちを伝えられる術が思いつかなかったのだ。


「立て、馬鹿野郎!しっかりしろ!」

しかし、やはり駄目だった。
どれだけ必死になってもデスマスクは首を縦には振らず、代わりにの腕を引っ張って強引に立たせただけだった。


「いいか、良く聞け!?積尺気に居る無数の亡者の中から、誰か特定の一人だけを捜すなんて不可能に等しい事なんだ!仮に運良く見つけられたところで、どんなに大声で叫ぼうが肩を叩こうが何の反応も示さねぇ!積尺気に入ってきた死者は、ただ黙々と死の国へ向かって歩いて行くだけなんだ!だから行くだけ無駄なんだよ!俺に土下座なんかしたってどうにもならねぇ!俺にも女神にも、誰にも・・・・、もうどうにも出来ねぇんだよ!」

デスマスクはの両肩を強く掴み、苦しげに顔を歪めて言った。


「そんな・・・・・・・」

デスマスクの真剣な瞳を呆然と見つめながら、はか細い声を震わせた。
望みが絶たれるという気持ちを、今初めて味わった気がしていた。


「私・・・・、結局何も・・・・言えなかったのに・・・・・。お母さん、ごめんね・・・・、有難う、って・・・・・、たったその一言さえ・・・・、ちゃんと伝えられなかったのに・・・・・」
「・・・・・・見送る者に、後悔はつきものだ。」

すると、シャカが静かに通る声で呟いた。


「祈りたまえ。経文など知らずとも良い。ただ君の心の中で、君の言葉で、祈りたまえ。遺された者はいつも、誰しもが、そうする事しか出来ぬのだから。」
「・・・・・・・」
「暫く一人にしてやる。存分に祈ってやりたまえ。」

シャカを筆頭に黄金聖闘士達が一人また一人と去っていっても、は暫くその場に立ち尽くしていた。
シャカの言葉が重く圧し掛かって、何度も頭の中で繰り返された。

見送る者に後悔はつきもの。
それは、沙織や黄金聖闘士達でさえ、例外ではなかったのだろうか。
己の無力さを悔やみ、過ぎた時を惜しみ、伝えられなかった想いを持て余して胸が張り裂けそうになる事があったのだろうか。



「お母・・・・さん・・・・・・」

は、フラフラと母の側に歩み寄った。
母の死に顔は穏やかで、まるで眠っているようだった。
短い生涯ではあっても、彼女は幸せだったのだろうか。
彼女は彼女なりの幸せを得られていただろうか。
今はもう確かめる術はないけれど、そうであって欲しかった。


「私は・・・・、幸せだったからね・・・・・・。生んでくれて・・・・ありがとね・・・・・」

は床に跪いて、母の手を取った。
こうして祈れば、伝わるだろうか。
沢山の子供達と兄弟姉妹のように育った、孤児院時代の賑やかな暮らしの事が。
友達が居て、学校に通って、仕事をして、人並みに恋もしてきた事が。
そして、遠い異国の地で過ごしてきた、楽しく充実した時間の事が。

良い事も悪い事も含めて、それらは全て、この命がなければ体験出来なかった。
知り得ない事だった。
彼女が、この世に送り出してくれていなければ。


「っく・・・・・、う・・・・・・!」

は母の手を握り締めて、祈り続けた。
祈りながら、泣き続けた。


















涙が止まってから、は病院を出た。
すると、向こうに沙織や黄金聖闘士達が立っているのが見えた。
あれから時間も経っているし、きっと帰っているだろうから礼の電話を入れようと思っていたのだが、皆、待っていてくれたようだ。


「・・・・・・さっきはごめんなさい。取り乱して、我侭言っちゃって。」

は彼等に歩み寄り、詫びた。
すると彼等は、安堵したように微笑んだ。


「気にするな。」
「どうだ、少しは落ち着いたか?」
「うん。もう大丈夫、有難う。」

気遣ってくれるシュラやカノンに、ははにかんで答えた。
泣くだけ泣いて少し落ち着いた今、自分の言動を思い返してみると、恥ずかしかった。
随分と取り乱し、無茶な我侭を言ったものだ。
後悔の念だけに囚われて完全に混乱していた自分を諭してくれた彼等に、は心底感謝していた。
いや、さっきの事だけではない。
この何日か側に居てくれていた事自体、どれだけ有り難かったか。
はもう一度、彼等全員を見つめて『有難う』と呟いた。


「・・・・ごめんね、私、もう行かなきゃ。店の人達にも連絡入れなきゃいけないし、お葬式の手配とか他にも色々しなきゃいけない事があるから。」

冷静さを取り戻したなら、次はやるべき事をやらねばならない。
肉親が自分一人しか居ない以上、ただずっと嘆き悲しんでいる訳にはいかなかった。


「何かお手伝いしますわ。」
「有難う、沙織ちゃん。でも大丈夫。お葬式も出来るだけ内輪で質素にやれって、母の遺言にあったから。」
「そうですか・・・・・、では仕方がありませんね。」
「ごめんなさい、折角気遣ってくれたのに。お葬式が終わったら、また改めてお屋敷の方にお礼に行くわ。」
「余り気を落とすなよ、。」
「有難う、ミロ。」
「色々と大変だろうが、頑張るんだぞ。」
「うん。有難う、サガ。」

は、沙織や黄金聖闘士達に『じゃあ』と微笑んで小さく手を振ってから、背を向けた。
そして、そのまま少し歩いたところで、おもむろにもう一度振り返って言った。



「皆・・・・、本当に有難う。皆が居てくれて・・・・、本当に良かった。」

彼等が居なければ、母の最期の言葉は聞けなかった。
彼等の優しさと、起こしてくれた奇跡を一生忘れない、は心の中でそう思った。




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後書き

シリアス度MAXな回でした。
と同時に、最大の山を越えました。これでいよいよ完結!
・・・・・・・なんですが。
もう暫く続きます、すみません(汗)。