翌日の夜、黄金聖闘士達は約束通り、全員総出でパーティーに現れた。
「やあ。」
「サガ・・・・・、皆も・・・・・・・・!」
Venusの中はいつも華やかな雰囲気を放っているが、今夜はパーティーという事で、店の内装も人々の装いも殊更華やかである。
そんな中でも、サガを筆頭に長身の見事な体躯で品の良いタキシードを着こなして現れた彼等は、特に人目を惹いた。
「オーナー就任、おめでとう。」
「有難う、綺麗・・・・・・・!」
そこでまた、豊かな金髪を背中に流したサガが、端整な顔に優しい微笑を浮かべて目の覚めるような鮮やかな深紅の薔薇の花束を差し出すという、典型的な二枚目の決めポーズを取ったものだから、としては照れ臭い事この上ない。
大きな花束に顔を埋めながら、は気恥ずかしそうに笑った。
「サガに薔薇を貰うなんて初めて。ふふっ、何だか擽ったいわね。」
「フッ、少し気障だったかな。」
「この香り・・・・・・、あの香水と同じだわ。もしかしてアフロの薔薇?」
そう尋ねると、アフロディーテがサガを押し退けての前に出て来た。
「正解。だから本当は私が渡す筈だったんだよ。それなのに、さっきそこでサガに強奪されたんだ。花を育てたのも花束を作ったのも私なのに、こういう役は代表者である私がやるべきだとか何とか屁理屈を捏ねて、手柄を丸ごと横取りさ。横暴にも程があるよ全く。」
「あはは、そうなんだ?」
「ご、ゴチャゴチャ煩いぞ、アフロディーテ!そんな細かい事はどうでも良かろう!」
アフロディーテが不満げな口調で暴露すると、サガは少し顔を赤くした。
そんな彼等を見ていると、少し緊張が解けていく気がした。
「有難う、アフロ。お店にも薔薇は一杯飾ってあるけど、やっぱりアフロの薔薇が一番綺麗で良い香りね。」
「・・・・とが言ってくれたから、今日のところは許してあげるよ、サガ。」
「フン。」
その時だった。
の母親が、店の奥からゲストの出迎えに出て来た。
「まあ、皆さん、お揃いで。今夜はようこそお越し下さいました。有難うございます。」
艶やかな紫の着物をきちんと着込んだ彼女は、大御所然とした堂々たる風格を醸し出している。
そんな彼女に、サガは優雅な仕草で一礼をした。
「ご無沙汰しておりました、マダム。」
「フフ、本当に。最近は少しもお顔を見せて下さらないから、皆寂しがっていたんですのよ。さあ、奥へどうぞ。今夜は存分にお楽しみになって下さいな。あら・・・・・・」
彼女は、居並ぶ黄金聖闘士達の奥に小柄な人影を見つけて足を止めた。
「失礼ですが、貴女は・・・・・・・」
「未成年では入れて頂けませんか?」
「いえ・・・・・・・・、あの・・・・・・」
恭しく道を開ける大きな男達の間をゆっくりと歩いて来る一人の少女。
大人びたデザインのパーティードレスが少しも浮いて見えない、不思議な雰囲気を纏う美少女。
その姿が人の目に露になるにつれて、の母親のみならず、周囲の誰もが驚いた顔になった。
「失礼ですが貴女は、城戸沙織様では・・・・?」
「私をご存知ですの?」
「直接お会いした事はなくても、貴女の事を知らない人間は居ないと思いますわ。日本の、いえ、世界の経済界に君臨する城戸財閥の若き総帥・・・・・、有名な方ですもの。まだお若いお嬢様でいらっしゃるのに、先代の城戸光政氏に引けを取らない才覚でもって財団を切り盛りし、その上類稀なる美貌の持ち主とくれば、世間が放っておきませんわ。」
「恐れ入ります。」
沙織が微笑んで軽く頭を下げると、の母親は姿勢を正し、ゆっくりと深く一礼した。
「申し遅れました。私、このVenusの前オーナー、麗子と申します。お会い出来て光栄ですわ。」
「こちらこそ。この度は新オーナーのご就任、おめでとうございます。とても素敵なお店ですね。」
「有難うございます。お嬢様も、新聞や雑誌で拝見するよりずっと可憐でお綺麗でいらっしゃること。」
の母親に微笑で答えてから、沙織はの方を向いた。
「さん。」
「沙織ちゃん・・・・・、来てくれたのね。」
「オーナー就任、おめでとうございます。」
「有難う。」
随分親しげな微笑みを交わす二人を見て驚いたの母親は、沙織に尋ねた。
「あら、うちのとお知り合いですの?」
「ええ。以前からお付き合いがありまして。」
「まあ、そうでしたの・・・・・!存じませんでしたわ。知っていればもっと早くにご招待致しましたのに、大変失礼致しました。」
「いえ。さんは逆に私を気遣って下さったのです。何分まだ未成年ですから。」
沙織の言う事はこれ以上ない程の正論で、の母親はすぐに納得したように頷いた。
「そうでしたわね。とても聡明でいらっしゃるから、私ったらついそれを忘れて・・・・。失礼致しました。」
「いえ。」
「今夜はゆっくりと楽しんでいらして下さいね。どうぞ奥の席でお寛ぎ下さい、ご案内致しますわ。お飲み物もすぐにお持ちしますわね。」
「有難うございます。」
の母親は、他の客をそっちのけで沙織の案内役を買って出る気のようだった。
理由は恐らくただ一つ、沙織が今日集まるゲストの中の誰よりも大物だからだろう。
本当はウロウロと立ち歩くのも辛いだろうに。
「マダム、沙織嬢にはアルコールを極力出し控えて頂きたいのですが・・・・」
「心得ておりますわ。ソフトドリンクも色々ご用意しておりますから、ご心配なく。」
「それは有難い。宜しくお願いします。」
「さあ、皆様もどうぞ。」
シュラの要望に笑顔で応えてから、彼女は沙織や黄金聖闘士達の先頭に立って店の奥へと歩いていった。
随分ゆっくりとした歩調だが、背筋を伸ばし、凛とした表情を作っている為、一見した限りでは弱っているように見えない。
この分だと、彼女に死が迫っている事に気付く者は、多分誰も居ないだろう。
「。」
溜息を一つ吐いてから、再び客の出迎えに当たろうとしたの肩を、誰かがポンと叩いた。
振り返って見てみると、ムウとアルデバランだった。
全員店の奥へ移動したとばかり思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
は『ああ』と呟いて、嬉しそうに微笑んだ。
「今日は来てくれて有難う!」
「どういたしまして。そのキモノ、とても素敵ですね。良く似合っていますよ。」
「そう?有難う。でも、私にはちょっと派手じゃないかなと思ったんだけど・・・・。」
ははにかみながら、意味もなく帯締めを弄った。
今夜着ている着物は、母親から譲り受けたものだ。
何でもこの店を開いた時に誂えたもので、彼女の持っている着物の中で一番の高級品らしい。
手入れも勿論良く行き届いているのだが、年齢と着物の色柄が釣り合わないからという理由で彼女自身はもう着なくなって久しいらしく、に譲られたのである。
「いやいや、そんな事はない!それ位豪華な方が主役に相応しいというものだ。」
「そうかなぁ?何かまだ恥ずかしいんだけど・・・・・」
眩しい程の白絹に艶やかな菖蒲の花が描かれたこの着物は、否が応にも存在を主張し、人々の注目を集める。
確かにうっとりする程美しい着物だが、自分には華やかすぎる気がして、としては正直、多少なりとも気後れしていた。
だがアルデバランは、自信に満ちた口調で、力一杯・目一杯に褒めてくれた。
「日本ではこういう時、『マゴにもイショウ』と言うんだろう?良く似合ってるぞ!」
「・・・・うん。ふふ、有難う。」
褒め言葉のチョイスは、どうも間違えたようだが。
「アルデバラン、それ褒め言葉になっていませんから・・・・・!」
「何っ!?いや済まん、!俺は純粋に褒めたつもりで・・・・!」
アルデバランは、ムウに肘で小突かれて慌ててフォローを始めた。
それを見たは、堪えきれなくなった笑いを零した。
「あははっ、分かってるってば!アルデバランが口下手なのは前から知ってますよーだ!」
「う゛・・・・・・・」
「ふふふっ、お返し!」
笑っていると、また一人、ゲストが到着するのが見えた。
はハッと我に返り、慌てて笑い崩れた表情を正した。
「ごめんね、今はゆっくり話が出来そうにないから、また後で。パーティーはもうすぐ始まるから、皆と向こうで飲んでて。」
「そうですね、そうさせて頂きましょうか。では後程。」
「また後でな、!」
二人が行ってしまってから、はゲストの出迎えに飛んで行った。
「皆様、本日はお忙しい中お集まり下さいまして、まことに有難うございます。」
それから程なくして、パーティーが始まった。
「この度、私、麗子に代わりまして、Venusに新しいオーナーが就任する運びとなりました。新オーナー共々、このVenusを今後ともお引き立て下さいますよう、どうぞ宜しくお願い申し上げます。」
母のスピーチを、皆が静聴している。
皆、パーティーが始まる前から既に飲み始めてそれぞれに歓談していたのに、その賑やかさがまるで嘘のようだ。
次はいよいよ自分の番。
今の母と同じように、全員の視線を浴びせられるのももう間もなくだ。
は微かに震える手付きで母からマイクを受け取ると、小さく咳払いをして喉の調子を整えた。
「この度、Venusのオーナーに就任させて頂く事になりました、と申します。未熟な若輩者ではございますが、皆様が愛して下さったVenusを守っていけるよう尽力する所存ですので、皆様どうぞこれまでと変わらぬご愛顧の程、宜しくお願い致します。」
我ながら明らかに緊張していると分かる声だったが、スピーチの出来はまずまずだと言えよう。
何日もかけて必死で暗記した甲斐があり、何とか支えずに挨拶する事が出来た。
ここまでくれば、もう終わったも同然。後は最後の乾杯だけだ。
「それでは、皆様の益々のご清栄とVenusの更なる発展を祈って・・・・、乾杯!」
『乾杯!』
がグラスを掲げると、ゲストやスタッフ達の声が力強く響いた。
乾杯の後、店内は再び、いや、パーティーが始まる前よりももっと賑やかに活気付いた。
ゲストの誰もが大いに食べ、飲み、会話を楽しんでいる。
そんな彼らをもてなすスタッフ達も、今夜は大忙しだ。
黒服のウェイター達は、飲み物や食べ物の載ったトレーを持って忙しなくホールを行き交い、ホステスの女性陣はゲストに寄り添って華やかに笑い、彼等の間をひらひらと舞うように渡り歩く。
無論、本日の主役であるも例外ではなく、ゲストに声を掛けられては笑顔で頭を下げ、シャンパングラスを触れ合わせ、お喋りに付き合うという事を繰り返している。
かつての栄光の日々を取り戻したかのように華やぐ、今夜のVenus。
それをの母親は、満ち足りた表情で眺めていた。
隅の方の目立たない席に腰を掛け、一人でひっそりと。
そんな彼女の姿を目に留めた童虎は、沙織の側を離れて彼女に近付いた。
「お疲れのようだが、大丈夫ですかな?」
「え?・・・ええ。」
彼女は突然声を掛けられて少し驚いた様子ながらも、にこやかに頷き、童虎に隣の椅子を勧めた。
だがその表情は、童虎の目にはやはり元気そうには見えなかった。
「・・・・不思議な方ですのね、貴方がたは。」
「そうですかな?」
「ふふ、それはもう。特に貴方は、とてもお若いのに他のどなたよりも落ち着いていらして。私もこの世界に長く居ますけど、貴方がたのようなお客様は初めてですわ。」
「ホホ。」
「少し詮索しても宜しいかしら?お嬢様をエスコートして来られたようですけど、貴方がたはグラード財団かその系列企業にお勤めの方ですの?それとも、お嬢様直属の秘書か何かで?」
童虎は、落ち着いた微笑を絶やす事なく答えた。
「うむ・・・・・・、どちらも正解と言えば正解であるし、違うと言えば違うかも知れませんな。」
「ふふ、益々不思議。秘密主義でいらっしゃるのね。」
の母は、そんな童虎を探るような上目遣いで一瞬見つめてから、ふと視線を逸らした。
「・・・・うちの新オーナーも、少し前までグラード財団のギリシャ支部で働いていたそうなんですのよ。まさか城戸のお嬢様と直接交流があったとは知りませんでしたけど。貴方がたもお嬢様にごく近い所で働いていらっしゃるようですし、もしかして以前から彼女を知っていらしたのかしら?」
その視線の先に居るのは、ゲストと談笑する。
彼女は、の姿だけをまっすぐに見据えていた。
「ご心配なさらないで。あの巨大な城戸財閥の内部を詮索する気は毛頭ございませんの。ただ・・・・・」
「・・・・ただ?」
「もしそうなら、これからもあの娘の力になってやって欲しいと、そう思っただけですわ。」
を見つめる彼女の横顔を眺めながら、童虎は迷っていた。
もし彼女が、でなく童虎を見て、媚びるような笑みを浮かべて同じ台詞を口にしていたら、何も迷う事はなかっただろう。
しかし。
「・・・・・・・嬢とは、ギリシャで一緒に仕事をしていた事がありましてな。随分世話になりました。」
迷った末に、童虎は口を開いた。
「そうでしたの・・・・・。それでうちに何度も通って来て下さったのね。ふふ、やっと訳が分かりましたわ。」
「言葉も地理も分からない異国の地でも、彼女はコツコツと頑張って、懸命に働いておりましたぞ。いつも明るく、楽しそうに。」
「・・・・・・そうですか。」
「彼女は、決して特別な能力を持っておる訳ではないし、特別何かに秀でておる訳でもない、何処にでも居そうなごく普通の娘だが・・・・・・、我々は、そんな彼女に随分救われました。」
童虎の話を、彼女は笑顔のままで聞いていた。
だが、その笑顔が少しずつ変わっていくのを、童虎は見逃さなかった。
「彼女は、ありのままに人を受け止める優しさと温もりを持つ、良い娘ですな。」
「・・・・・・・そうですか・・・・・・・・」
笑顔で相槌を打ってはいても、彼女の心は最早ここにはなかった。
童虎が口を噤んでも、彼女はじっとの方を見たまま、微動だにする事はなかった。
一方、ずっとゲストの対応に追われていたは、一段落ついたところでようやく人の輪を抜け出す事が出来、一人安堵の表情で佇んでいた。
「ガチガチにあがっていただろ。よく噛まずに挨拶できたな。」
冷たい水を勢い良く飲み干していると、後ろから良く知った声が飛んで来た。
カノンだった。
カノンが、デスマスク・アイオリア・シャカと共に、声を掛けに来てくれたようである。
「何とかね・・・!もう心臓バックバクよ〜!」
「ははは、お疲れさんだったな!」
黄金聖闘士達や沙織もゲストには違いないのだが、彼等の前では緊張したり気取らずに居られる。
やはり彼等は特別なのだ。
アイオリアの朗らかな笑顔を見て、はホッとして表情を和らげた。
「オーウ!あそこに居るのは麗しのアジアンビューティー、梓ちゃんじゃねぇの!今日はまた一段と色っぺぇじゃねぇか。っか〜、やっぱとは色気が一味違うなあ。」
「さもあらん、向こうは押しも押されぬ大ベテランだ。
の付け焼刃の色気では到底太刀打ち出来まい。」
デスマスクの軽口もシャカの皮肉も至っていつも通りで、緊張のし通しでガチガチに強張っていた身体が解れていく気がする。
「付け焼刃で悪かったわね。・・・・・・って、あれ?」
は冗談めかして顔を顰めて見せてから、ふとデスマスクの視線の先に居る梓に目を向けた。
「おう、どうしたよ?」
「ううん、別に・・・・・・・」
デスマスクは気付いていないようだったが、には梓が少しぼんやりしているように見えた。
何か考え事でもしているのだろうか、それとも単なる接待疲れか。
はそれ以上深く考える事なく視線を戻し、再び黄金聖闘士達との会話に戻ろうとした。
その時。
「こんばんわ、ママ。」
「本城さん・・・・・」
黄金聖闘士達の横をすり抜けて、Aphroditeのオーナー・本城が近付いて来た。
「本日はおめでとうございます。」
「有難うございます。」
本城に差し出された花束を受け取り、は恐縮そうに頭を下げた。
「どうです?一国一城の主になった気分は。」
「そんな・・・・・・・」
「まだ実感が湧きません、か?」
「ええ、まぁ・・・・・・」
が口籠ると、本城は目尻に皺を寄せて笑った。
「・・・・やっぱり可愛らしい方だ。喩えて言えば、海の泡から生まれたばかりの無垢な女神、といったところかな。」
「・・・・・・・・」
「この商売の事、私が色々と教えて差し上げますよ。パーティーが終わったら、何処か場所を変えて二人きりで少し飲みませんか?」
「え、あの・・・・・・・・」
「オーナー就任のお祝いも兼ねていると思って。なに、ほんの一杯お付き合い頂くだけで結構ですから。」
きっと本題は別にある、は即座にそう直感した。
そして、その本題が何なのかも、すぐに見当がついた。
「・・・・・・・・分かりました。」
にこやかな笑顔の割に少しも笑っていない彼の目を見て、は頷いた。
「・・・・・・うへ、海の泡から生まれた無垢な女神だとよ」
本城が去って行ってから、デスマスクは口をへの字に曲げた。
「よくもあんなに気障ったらしい台詞を吐けるものだな・・・・・」
「元ホストだそうだ。大袈裟なリップサービスは、商売柄慣れてるんだろう。」
「そうなんだ〜・・・・・。なるほど、それでね・・・・・・」
アイオリアは呆れ顔になり、カノンは眉一つ動かさずに呟く。
も全く同感だと、彼等と一緒になって頷いていた。
「精々『卵から孵ったばかりのヒヨコ』程度を、よくもあれだけ良いように言えたものだ。、気にする事はないぞ。見え透いた世辞は却って皮肉に聞こえるものだが、君には君なりの魅力というか、好ましい所がある。決して卑屈になる事はないぞ。」
「それ慰めてんの?貶してんの?」
シャカの憐れむような生優しい微笑みには、素直に頷けなかったが。
ともかく、生憎と大袈裟な褒め言葉を真に受けて喜ぶ程、は幼くも馬鹿でもないつもりだった。
「・・・・・・しかし、本当に付き合うつもりなのか?」
「うん。でも心配しないで。向こうの用件は大体察しがついてるから。」
は、心配そうなアイオリアに微笑んで見せた。
本城の目的も、自分が返すべき答えももう分かっているのだから、何も不安に思う事はなかった。
パーティーは特に問題もなく、盛況の内に無事終わりを迎えた。
ゲスト達が続々と帰っていく中、沙織と黄金聖闘士達は比較的最後まで残ってくれていたが、
やがて残った客もまばらになった頃、『そろそろ帰る』と席を立ち、も見送りの為、彼等と一緒に外に出た。
「今日は有難う。おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
「おやすみ、。」
は、城戸邸から来た迎えの車数台に分かれて乗り込む黄金聖闘士達を見送ってから、最後に沙織の車に近付いた。
「今日は有難う、沙織ちゃん。気をつけて帰ってね。」
「こちらこそ、どうも有難うございました。楽しいパーティーでしたわ。」
沙織は開けた窓越しに微笑んで見せてから、ふと真顔になって言った。
「・・・・・ところで、さっきカノン達から聞いたのですが、この後Aphroditeのオーナーと二人でお会いになるとか・・・・・。」
「うん。多分、店の売却の事だと思う。」
「・・・・・くれぐれもご用心なさって下さいね。」
「分かってる、有難う。でも大丈夫よ。」
は明るく笑って、沙織を送り出した。
これで残るゲストはあとほんの僅か、しかし彼等もじきに帰るだろう。
彼等を全員見送ったら、本城との待ち合わせ場所にすぐさま向かわねばならない。
「・・・・・・よし。」
は気を引き締め直して、店の中に戻っていった。