Bark at the Sun 4




物凄い速さで歩くシュラの後ろを必死でついて歩きながら、アルデバランは何とかシュラの怒りを抑えようと奮闘中であった。


「おいシュラ!!ちょっと待てと言っているだろう!!」
「うるさい!!この一刻を争うという時に、のんびり立ち止まっていられるか!」
「良いからちょっと落ち着け!!周りをよく見てみろ!!」
「何だ!?」

アルデバランに言われてようやく周りに注意を向けたシュラは、道行く人々の蒼白な顔面を見て首を傾げた。


「何だあいつらは?誰も彼も怯えた顔をして。」
「お前が原因だ。」
「俺は別に何もしていないぞ。・・・・ん?今俺、目を背けられたか?」
明らかにな。お前の怒った顔は、そこにあるだけで人を恐怖のどん底に叩き落すのだ。もっと自分の事を自覚しろ。」
「む・・・・・・・」

顔立ちは生まれつきのもの故、自覚したところでどうしようもないのだが、だからと言って見知らぬ他人にいちいち怯えられるのも甚だ不本意だ。
シュラはひとまずその場で立ち止まり、ふうと深呼吸した。


「ようやく落ち着いたか。」
「・・・・仕方がないだろう。それにしても、そんなに俺の顔は怖かったか?」
そりゃもうな。まあ、それは良いとしてだ。お前、連中を見つけたらどうするのだ?本当に殺す気か?」
「無論だ。」
全然落ち着いていないではないか!!仮にも仲間だろう!?」
「仕方がないだろう!!万が一にも第二の犯罪を犯すとも限らんのだぞ!?しかもこの俺の故郷でだ!!これ以上罪を重ねさせる前に、潔く散らしてやるのが友情というものだ!!
何でそう殺伐としているのだお前らは全員どいつもこいつも!!

道端で小競り合う強面の男二人を、通行人達は地雷でも避けるかのように迂回してそそくさと立ち去っていくが、二人はそんな事に気付きもせず大声で怒鳴り合った。


「お前は俺じゃないからそんな呑気な事が言えるのだ!!これがお前の故郷・ブラジルでの事だったら、お前も俺と同じ気持ちになる筈だ!!」
「それは!!・・・・・そうかも知れん!!
ほらみろ!!
ええい、それはもしもの話だろうが!!実際問題、ここはスペインで、が人質に取られているのだぞ!?はどうするのだ!?」
「それは・・・・!」
「そらみろ。少し頭を冷やせ。の安全を、まず第一に考えるのだ。」

アルデバランの意見は悔しい程に正論すぎて、シュラは握った拳を解かざるをえなかった。


「・・・・・・・そんな事は分かっている。何はなくともの無事は保証せねば。」
「そうだ。良いか、もし連中を見つけても、いきなりエクスカリバーは無しだぞ。が居る。それに、人の目も多い。滅多な事はするな。あと、その鬼みたいな顔はやめろ。
「分かっている!とにかく、まずは連中とを見つける事が先決だ、急ぐぞ、アルデバラン!」

二人は出来るだけ通行人を怯えさせないように、例の劇場へと向かった。









壇上だけが明るいスポットライトに照らされたほの暗いフロアで、は今、本場のフラメンコに見入っていた。
哀愁漂うギターの調べに、激しくリズミカルなダンサーの靴音が何とも言えぬ高揚感をもたらしてくれる。

「すっごい迫力・・・・・・」
「来て良かっただろ?」
「うん。・・・・・・あ」

隣でカクテルなどを飲んでいるミロにそう訊かれて、はつい上機嫌で返事をしてしまった。

「それは良いけど、いつまでこんな呑気な事してるつもり!?」

舞台の邪魔をしないように、は声を潜めて、ついでに眉も顰めて一同にそう問いかけた。
そう、犯行グループは勿論全員揃って呑気にフラメンコの鑑賞中なのである。
ついでに言うと、アフロディーテはその美貌故にギャラリーの女性客の目を惹き付け、あっという間に囲まれてしまっている。
シャカに至っては更に呑気なもので、壁際のドリンクバーへ追加の飲物などを取りに行っている最中だ。


「折角こんな所まで来て、そんなカッカすんなよ。しっかし、スペインは相変わらず良い女が多いな〜。」
「ちょっとデス!どこ見てんのよ!?」
「ラテンの女は情熱的だと言うが・・・・・・、試してみるか、デスマスク?」
「お、お前も相当イケるクチだな、カノン?どれが好みよ?」
「あの、肩の開いた服を着ている女など、良いと思わんか?」
「良いんじゃねぇか。俺はあっちの髪の長い女なんか良いと思うんだが。」
「クククッ、お前も好きだな。」

前言撤回だ。
シャカよりもっと呑気な奴らが居た。
緩んだ顔でギャラリーの女性達を品定めしているカノンとデスマスクに向かって、は目を吊り上げてみせた。


何言ってるの!?信じられない、最低!」
「何を怒っている?やきもちか?」
馬鹿じゃないの!?そうじゃないでしょ!!二人共、今の状況を分かってんの!?」
「まあまあそうカッカすんなよ。」
「もうっ!勝手にしなさいよ!私知らないから!」

腹を立てたは、ぷいと二人に背を向けた。

「おい、何処へ行くんだ?」
「トイレ!」

何度真面目に話をしようとしても、誰もまともに取り合ってはくれない。
それはパリを出た時から相変わらずだった。
こんなに心配し、不安になっているというのに、人を馬鹿にするにも程があるというものだ。

はカンカンに怒りながら、スタスタと歩き始めた。




しかし、それにつけても人が多い。
流石に雑誌で特集されるだけの事はある。

「ちょっとごめんなさ〜い・・・・・、通して下さ〜い・・・・・・」

舞台を見ながらゆっくりと酒を飲む人、壁際で睦み合うカップルなど、山のような人だかりを掻き分けて、は四苦八苦しながらフロアの出口を目指していた。

丁度良く舞台が見える場所など、横歩きをしなければ通り抜けられない。
は、なるべく人にぶつからないように注意を払ってそこを通り抜けた。
だが、やれやれと一息ついたそんな時程、アクシデントは起こり易い。
難所を通り抜けた瞬間に誰かに勢い良くぶつかり、はよろけて転びかけた。

「あっ」
「失礼。」
「いえ、こちらこそ・・・・・って・・・・・」
「ん?」
「あ・・・・・・」
「あっ!」


ああーーーッッ!!


ぶつかった相手の男性と指を指し合い声をハモらせ合いながら、は目を見開いて叫んだ。
そう、その男性とは。


「シュラ!!!!」
!!!やはりここに居たのか!?・・・・・あ・・・・・、失礼・・・・」
「ご、ごめんなさい・・・・・」

周囲の客達にギロリと睨まれ、シュラとは慌てて声を顰めた。


「良かった、無事なようだな、心配したぞ!連中は何処だ!?」
「こ、ここに居るわ!シュラは!?一人なの!?」
「いや、アルデバランが一緒に来ている。とにかくお前だけでも来い!」
「あっ!」

シュラはの手を掴むと、出口に向かってズンズンと歩き始めた。

こんな時にこんな事を感心して良いものかどうか分からないが、流石にシュラだ。
その長身と当たり負けしない頑丈な身体で作ってくれた道は、自分一人で開いた道よりも格段に通り易い。
そんな事を思いながら歩いている自分も、もしかしたら相当呑気かも知れない、などとは思った。








フロアを抜け、裏口から劇場の外へと抜けてから、は深々と深呼吸した。


「はーーっ、良かったーー!!一時はどうなる事かと思ったのよ!」
「今テレパシーでアルデバランを呼んだ。すぐここに来る。奴が来たら、お前は奴と共に聖域に帰れ。良いな?」
「でも・・・・、シュラは?」
「お前の安全も確保した事だ。俺は残って奴等の始末をつける。

シュラの言わんとするところを悟ったは、目を見開いてシュラを押し留めた。

だっ、駄目よ駄目駄目!!暴力沙汰は駄目!!」
「しかし!!」
「そんな事してもし誰かに見られたら、それこそもっと大事になるでしょ!?」
「しかし・・・・!」

そんな押し問答をしていると、裏口からアルデバランが顔を出した。

「おお、!!無事だったか!!」
「あ〜〜っ、アルデバランーー!」

はアルデバランに駆け寄って、その剛腕をブンブンと振り回した。

「良かった良かった、も〜〜っ!!二人共来てくれて良かった〜!!誰もね、誰も気付いてくれないんじゃないかって、不安で不安で仕方無かったのよ〜〜!!」
「もう大丈夫だ、!さあ、これで残るは連中だけだ!さっさと首根っこ捕まえて、皆で聖域に帰ろう!」

アルデバランの声が、人通りのない裏路地に響いたその時だった。



「誰をどうするって?」

三人が出て来た裏口から、デスマスクが顔を出した。
続いてミロ、カノン、アフロディーテ、シャカも。


「・・・・・出たな、悪党共。
「仮にもダチに向かって何つー言い草だ、シュラ。」
「黙れデスマスク。俺は凶悪犯罪者などを友に持った覚えはない。」

シュラはただでさえ強面の顔に、それこそ凶悪犯罪者のような険しい表情を浮かべてデスマスク達と対峙した。


は返して貰ったぞ。これでお前達の状況は不利になった。さあ、どうする?この期に及んで逃げる気なら、容赦はせんぞ。」
「悪い事は言わん。抵抗せず、大人しく俺達と共に聖域に戻れ。」

シュラとアルデバランは、厳しい表情で一同を見据えて説得に掛かった。
シュラの本気で怒った顔を見せられては、流石の彼らとてふざけた態度は取れないようだ。
デスマスク達の顔が、一瞬負けない位に引き締まった。


「ちょ、だ、駄目よ皆・・・・・、こんな所で戦争しないで・・・・!!」

アルデバランの腕に庇われるようにして立っていたは、顔色を変えてその場に居た全員を宥め始めた。

だが。


「・・・・・・よお、お前ら。それでを助けたつもりか?」
「何だと?」
「流石にムウ程にゃいかねえが・・・・・・、俺だってこれ位出来るんだぜ?」

デスマスクは意味深に笑うと、不意に人差し指をに向けた。


「えっ、なっ、何!?」
「チャン、チャララッチャ、チャッチャッチャーン・・・・・」
「きゃ、ちょ、ちょっと!!」

デスマスクの不気味な歌声と共に、のブラウスのボタンが一つ、また一つとひとりでに外れ始めた。

ちょっと!何するのよ!?
「チャン、チャララッチャ、チャッチャッチャーン・・・・・」
「ちょっと!その歌やめてよ!っていうか、変な事しないで!!
「チャン、チャララッチャ、チャッチャッチャーン・・・・・」
イヤーーッ!!

は、たちまち殆ど全部外れてしまったブラウスを、慌てて掻き合わようとした。
だが、どうした事か。手が言う事を聞いてくれないではないか。
しかもデスマスクの悪戯は、そこで留まる事はなかった。


「チャン、チャララッチャ、チャッチャッチャーン・・・・・」
ギャーーッ!!ちょっとーーー!!!

デスマスクの魔の手、いやさ魔のサイコキネシスは、とうとうのズボンにまで及んだのである。
ジィーっと音を立てて下りていくファスナーの隙間から、淡いピンクのショーツがちらりと見えて、それまで余りの事に呆然と硬直していたアルデバランとシュラは、瞬く間にうろたえ始めた。

お、おいデスマスク!?お前っ・・・・
悪ふざけもいい加減にしろ!!
「フフフン。アンタ達も好きねえ〜。」
皆見ないでーーーーッッ!!!

のズボンが今にもストンと落ちそうになったところに、の絹を裂くような悲鳴。
シュラとアルデバランの、特にのすぐ隣に立っていたアルデバランの緊張の糸が、このの悲鳴によってたった今断ち切られた。

みっ、見てない!!俺は何も見てないぞ!!」
ばっ、馬鹿!アルデバラン!が・・・・!!」
「ハッ!?し、しまった!」
「あらよっと。」
いやーーーっ!!!

アルデバランが思わずたじろいで一歩退いた隙を狙って、デスマスクはサイコキネシスでを手繰り寄せた。


「お帰り、。」
「うう・・・・・・・、ただいま・・・・・・

アフロディーテに温かく迎えられたは、半泣き状態のまま、力なく乱された服を整え始めた。




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後書き

デスマスク、カ○ちゃん化です。
何が書きたいんだ、私は(笑)。