夢の貌 ― ゆめのかたち ― 26




1995年5月吉日。
新緑が青空に眩しく映える季節のこの日、真島吾朗とは大阪で結婚した。
結婚式と披露宴は、の地元にある神社で執り行った。
列席者はの実家の家族だけの、ごくささやかな内輪の祝宴だったが、黒紋付と白無垢に身を包み、三々九度の盃を交わした事は、二人にとっては愛息・猛の誕生と同じ位、大切で特別な人生の節目となった。
婚姻届も、猛の認知届を出した時と同じく、の地元の役所に同日提出し、一家の本籍を大阪に置く事とした。
今後の実際の住まいは東京になるのに敢えて本籍を大阪にしたのは、真島の本籍地を変更して、それにより離婚歴を消す為だった。消すと言っても完全に抹消される訳ではないが、それをすれば戸籍が新しく編製され、過去の婚姻/離婚歴や相手の名前はそこに載らない。まさしく『新しい門出』となるのだ。
その出発点となったのは、真島とが出逢ったあの町だった。
新しい本籍地を二人の出逢いの場所に定めて、そこから新しく始めようと、二人で話し合って決めた事だった。
そしてそれから間もなく、は猛を連れて生まれ育った大阪を離れ、東京に移った。
まだ幼い猛はともかく、生まれてこのかた30年、大阪以外の土地に住んだ事の無いには、少なからず心細さや不安があったのだが、これまで二人が辿ってきた長い長い道のりと、何より猛にようやく両親が揃う事を思えば、それは人生の転機を迎えるに当たってごく当然についてくる、只の感傷だと思えた。
そう、の人生は今また、大きな変化を迎えていた。
つい二月前までは、女手一つで幼子を育てるしがないパート従業員だったが、真島と正式に結婚した事により、は今、東城会直系嶋野組傘下真島組の姐となったのだった。


「紹介する。女房のと、倅の猛や。」

真島の厳めしい声が響いた後、真島組事務所内は水を打ったように静まり返った。
如何にもな風貌の組員達から呆然と凝視される気まずさといったらなかったが、はそれをどうにか堪えて微笑みを浮かべ、ペコリと頭を下げた。


です。息子の猛共々、これからどうぞ宜しくお願いします。」

が挨拶をしても、組員達はまだ呆然としたままだった。


「え・・・・・、えええええ・・・・・!?」
「お、親父、いつの間に嫁さん子供なんて・・・・・!」
「よ、嫁はんの連れ子か・・・・・?」
「いやでも、顔兄貴にそっくりやで・・・!?」
「ああ、ありゃ明らかに兄貴の子だよ・・・!」

ずっと独身だとばかり思っていた組長が、ある日突然女房と子供を組事務所に連れて来たのだから、彼らが驚愕するのも無理はない。
丸聞こえのヒソヒソ話を聞きながら、は彼らが落ち着きを取り戻して何らかの返答をしてくれるのを待った。


「あ・・・・、あのぉ・・・・、つかぬ事をお訊きしますけども・・・・」

すると、暫くしてようやく、その内の一人がおずおずとに話し掛けてきた。


「はい?」
「あの・・・、うちの組長とは、その、いつ、ご結婚、を・・・・?」
「今月です。ホンマについこの間結婚して、この子を連れて大阪から出て来ました。」
「あ、そ、そうですか、それはどうも、この度は、おめでとうございます・・・。で、でもあの、その・・・、お、お、お坊ちゃんも、その・・・、何と言いますか・・・、なぁ!?」
「えぇ!?オレ!?何でオレに振るん!?」
「次はお前が訊けよ!俺にばっか訊かすんじゃねーよ!」
「うう・・・!え、ええと、何ちゅーか、その・・・、そう!あの、お坊ちゃんのお顔がとっても、その、あの、兄貴のお顔によう似てはりますけど、その・・・・なぁ!?」
「ええええ次おれ!?ううう・・・!えーと、その・・・、あぁぁ・・・!あ、ぼ、坊ちゃん、お、お、おいくつでいらっしゃるのかなあ〜って・・」
「このバカ!何だよその嫌味ったらしい訊き方は!」
「ああああすんませんすんません!そんなつもりじゃないんスよーっ!」

どうやら過剰に気を遣われてしまっているようだった。それだけ真島が組長として敬われているという事なのか、それとも恐れられているという事なのか。
その辺はまたおいおい分かってくるとして、まずは今、彼らが知りたがっているらしい事をどのように答えようかと考えていると、この果てしなく遠回りな会話をそれまで黙って聞いていた真島が、の脚にしがみ付いている猛をおもむろに抱き上げた。


「・・・しゃあないのう。猛、教えたれ。猛は幾つや?うん?」

真島は、失っていた時間を少しでも早く取り戻そうとするかのように、猛を猛烈に可愛がっていた。
その深い愛情は猛にもちゃんと伝わっていて、当初二人の間にあった微妙な隔たりは、日に日に消えて無くなってきていた。
特に、一緒に暮らすようになってからのこの何日かが顕著で、猛はもうすっかり真島を自分の父親だと認識し、真島の身体で牙を剥く般若と白蛇に怯える事もなければ、常に着けている左目の眼帯やその下の古傷を不思議がる事もなくなっていた。


「・・・にしゃい。」

猛は真島の腕の中で暫くモジモジした後、はにかみながらそう答えた。


「そう、2歳や。分かったかお前ら?」
『へい!!ありがとうございます!!』

組員達の大声に驚いて猛がビクッ!と身を震わせると、真島はその勿体ぶった表情を顰めた。


「無駄にデカい声出すなドアホ。猛が怖がるやろが。」
「す、すいません!で、でもあの・・・、って事はその、兄貴とはそれなりの年数付き合ってはったって事ですよね・・・・?それやのに、何で今まで一遍も顔出してくれはらへんかったんですか?」
「あれ・・・?あの、もしかして、大阪のクラブにいらっしゃいませんでした・・・・?」
「何だよお前、知ってんのかよ!?」
「い、いや、随分前に嶋野の親父のお供で大阪へ行った時に、兄貴がケツ持ってるって店に一度だけ連れて行かれた事があってよ。俺らは中には入らなかったんだけど、確かあん時の・・・・・?」
「ああ、そうでしたか・・・。その節はどうも。」
「あ、やっぱり・・・!って事は、あの当時からずっと・・・って事ッスか!?」
「え!?どういう事だよ!?」

世間一般の常識から考えれば色々と順番が違う上に、昔の事を知っている者までいるとなれば、少なからず詮索を受けるのも当然だった。
さて、これに対してどう答えようかと再び考え始めた途端、真島が聞えよがしな咳払いをして、その場はまた水を打ったように静まり返った。


「・・・昔は昔、今は今や。俺がお前らに伝えておきたい事はただ一つ、今日からこのがお前らの姐になるっちゅう事や。分かったな?」

有無を言わさぬその迫力は、さすが組長というところだろうか。は横目でチラリと真島の顔を一瞥した。


『へい!!!姐さん、若、よろしくお願いしゃーす!!!』

再び大声が響き渡り、猛がまたビクッ!として、真島の首にしがみ付いた。
真島はその背中を優しく叩いてよしよしとあやしてから猛を下ろし、手土産の風呂敷包みを持ってにチラリと目を向けた。そろそろ行くぞという合図である。それを受けたは、猛の手を取った。


「ほな俺らはちょっと出掛けてくるから、あと頼んだで。」
「行ってきます。猛も、行ってきます、は?」
「いってちまーす!」
「へい!お気をつけて!」
「行ってらっしゃいやし!」

事務所を出て、少しの間は組長然としたその尊大な顔つきを保っていた真島だったが、やがて雑踏の中に紛れ込んでしまうと、苦虫を噛み潰したような表情になった。


「・・・ったくあいつら、いらん事ゴチャゴチャ詮索しよってからに。」
「まぁでも、あんた今まで自分の私生活の事、何にもあの人らに明かしてへんかったんやろ?おまけに私ら、何もかも順番メチャクチャやし。そら色々訊かれるわ。」

耳が痛いのはお互い様でそう言ってのけると、真島は益々苦い顔になった。
他人が見れば目を合わせるのも恐ろしい不機嫌面だが、実は単なる気恥ずかしさの表れだというのがには分かっていた。


「・・・・・まぁ、そらそうやけども。」
「自分とこの組員相手にそんな気まずがっててどないすんの。今からもっと気まずい思いすんのに。」

それを言うと、真島は不機嫌面を通り越して苦笑いしながら、猛の反対側の手を取った。


「・・・・ホンマや。」
「親分さんはあんたの前の結婚の事も知ってはんねんから、尚更気まずいで?」
「う゛・・・・、それを言うなや・・・・。」
「私かて気まずいっちゅーねん。お互い覚悟せな。」
「分かっとるわい。のう猛?」
「なあなあ、いまからどこいくん〜?」
「ん〜?」

今から向かおうとしているのは、嶋野組の事務所だった。


「・・・ちょっとそこまでな。」
「猛、お母ちゃん今から大事なお話せなあかんから、ちゃんとお利口さんにしといてや。分かった?」
「わかったー!」

真島の渡世の親である嶋野に挨拶をする事は、にとっては真島組の姐としての初仕事だった。
嶋野に会う事自体は初めてではないが、以前会った時とは立場も状況も変わっている。今この時だけに限らず、今後は自分の発言や振舞いが真島の利益に繋がりもすれば、逆に不利益をもたらす事にもなるのだ。それを考えると、身の引き締まる思いだった。
日の光の下でまどろむ神室町の中を三人で歩いて行くと、少しして嶋野組のビルが見えてきた。ビルの前に着くと、はそれまで真島が持ってくれていた重い風呂敷包みを受け取り、猛と共に真島の後について事務所に入って行った。
結婚の事は既に真島から報告済みで、今日のアポイントも事前に取ってある。従って、事はすんなりと進み、事務所に着くや否や、三人はすぐさま嶋野のいる社長室に通された。


「親分さん、ご無沙汰しております。」

社長室に入ると、は率先して深々と頭を下げた。


「おお、はん。久しぶりやのう。相変わらず別嬪や。」
「恐れ入ります。親分さんも変わらずご健勝のようで何よりです。
これ、親分さんのお口に合えばと思いまして。どうぞお召し上がり下さい。」
「おお、わざわざすまんのう。」

嶋野はが差し出した風呂敷包みを受け取ると、包みを解いた。
中身は京都の酒蔵から取り寄せた酒である。それが納まっている桐箱を見て、嶋野はまた『おお』と声を上げた。今度のそれには明らかに感嘆の念が籠っていた。


「こらええ酒やないか。」
「関東ではあんまり出回ってなさそうな物をと思いまして。」
「そらわざわざ。えらい気ィ遣わせたのう。」
「いいえ、とんでもないです。」

嶋野は葉巻の煙を吹かしながら、その唇に笑みを浮かべた。


「話は真島から聞いたわ。まあ目出度い事で何よりや。何やかんやあったが、結局は納まるところに納まったっちゅう感じか、ええ?」

その笑みと言葉に皮肉が混じっているのは、致し方のない事だった。
別れや復縁について言い訳しに来たのではないし、ましてや祝って貰いに来たのでもない。今も変わらず極道の高みを目指す真島と共に在る為に、自分も同じ道に足を踏み入れると決めた以上、果たすべき務めを果たしに来たまでだった。


「勝手ばかりしまして、本当にお恥ずかしい限りです。ですが、これからは傘下の組の姐として、嶋野組の益々のご発展の為に、陰ながら尽くしていきたいと思っております。真島共々、これからもどうぞ宜しくお願い致します。」

は改めて深々と頭を下げた。
すると嶋野は、喉に籠るような低い笑い声を洩らした。


「何を言うとる。1度きりの己の人生、己の勝手に生きるのは当然の事やがな。」

嶋野は笑いながら、ギョロリとしたその双眸を猛に向けた。
嶋野と目が合うと、猛はまたの脚にしがみ付いたが、後ろに隠れるまではしなかった。


「・・・あん時の子か。真島によう似とるやんけ。」
「猛と言います。」
「ほう。猛、幾つや?」

風貌も声音も、何もかもが威圧的な嶋野に対して、猛が怯えて泣き出さないか内心は不安だったのだが、さっきの真島組での顔見せが良いリハーサルになったのか、猛は多少怯みながらもすぐに『にしゃい』と答えた。


「そうかぁ。どれ、こっち来い。」

嶋野に呼ばれた猛は、どうしようとばかりにを見上げてきた。
が行くように促すと、猛はトテトテと歩いて行き、大きなデスクを回って、社長椅子に腰掛けている嶋野の側まで行った。
すると、嶋野はおもむろに財布から万札を1枚取り出して、猛の小さな手に握らせた。


「これで飴ちゃんでも買うて貰えや。」

まだ2歳の猛には、持たされるまま手にしたその紙切れの価値は分からない。訳も分からずキョトンとしている幼い我が子に礼儀作法を躾けるのは、親の務めだった。


「親父、えらいすんません。有り難うございます。」
「ありがとうございます・・・!猛、ありがとうございます、は?」
「あいがとごじゃーましゅ」

猛はキョトンとした顔のまま、両親を真似て礼を言った。たどたどしい口ぶりではあったが、嶋野はそれで良しとしてくれたようで、満足そうに鼻をフンと鳴らし、葉巻を燻らせた。
以前は普通の紙巻き煙草を吸っていた筈だが、この数年の間に変えたのだろうか?普通の煙草より何倍も大きい焦げ茶色のそれは、人並外れた巨体の持ち主である嶋野には如何にも似つかわしく、日本の一大極道組織の大幹部たる貫禄を一層醸し出していた。


「しょれなにー?」

威圧的ながらも物珍しいそれに、猛も幼い好奇心を刺激されたようだった。


「あん?」
「しょれもアメちゃん?」

猛が興味津々な顔で嶋野の咥えている葉巻を指さすと、嶋野は薄く笑いながら、独特の強い香りがする煙をもうもうと吐き出した。


「これは葉巻言うて、外国の煙草や。煙草、お前のオトンも吸うとるやろ?」
「なんのあじー?おいちいー?」
「吸うてみるか?」

嶋野はほんの戯れのように、それを猛の口元にゆっくりと運んでいった。
猛も猛で、訳も分かっていないまま、素直に口を開いて待っている。
は思わず息を呑んだ。幾ら何でも2歳の子に葉巻を吸わせるなどとんでもない。それを認識した瞬間にの身体は反射的に動き、猛に駆け寄っていた。


「・・・・冗談や。お母ちゃんの乳吸うとるようなやや子にはまだまだ早いわ。」

しかし実際には、恐れていた事は起きなかった。が猛を庇う前に、嶋野の方がそれを引っ込めたのだ。
ホッとした瞬間に目が合った嶋野は、不敵に笑っていた。平然と葉巻を燻らせ、その大きな手で猛の頭を優しく撫でながら、を見て確かに笑っていた。
だからは、その目をしっかりと見返した。口は固く噤みながらも、負けじとその目を見つめ返した。
すると、嶋野は薄く笑ったまま自分から先に視線を逸らし、灰皿に葉巻を置いて立ち上がった。


「なかなか肝が据わっとるやないか。頼もしい跡継ぎが出来て良かったのう、真島。」
「有り難うございます。」
「まぁ尤も、それまで組が存続しとったらの話やけどな。そのヨチヨチ歩きの坊が組束ねられる程の一丁前の漢になるまで、さぁてどれ位かかるか。気の長い話やのう?フッフッフ。」

嶋野はそう言い置いて、悠々と社長室を出て行った。
それは、いよいよ極道の高みへと昇り始めた子分に対する激励のようにも、また逆に、同じ野望に生きる者としての宣戦布告のようにも受け取れた。


「・・・・これでもう用は済んだわ。親父は今から出掛ける筈やから、親父が出たら俺らも帰ろか。」
「うん・・・・。」

真島はどう受け取ったのだろうか?しかし、今この場では何も訊けなかった。
ややあって嶋野組の事務所を出ると、と真島はまた猛を間に挟んで、神室町の雑踏の中を歩き始めた。


「・・・・大丈夫なん?」
「何がや?」
「親分さんに上から抑え付けられてんの、相変わらずとちゃうの?」

のその質問に、真島は事も無げな笑みで答えた。


「前よりはマシや。俺について嶋野組から出てきた奴が何人もおるし、稼ぎも前みたいに吸われ放題吸われへんようになったしな。」
「でも、無茶言われたりはせぇへんの?バブル弾けた上に今は暴対法もあるし、だんだん厳しなってきてんとちゃうん?」

この数年で、世の中は大きく変わってしまった。
ほんの少し前までは日本中が好景気に沸いていたのに、いつしかそれは泡と消え、冷たい隙間風がそこかしこから吹き込んで、当時の熱気をどんどん奪い去っていっているような状態である。
その上、暴力団を取り締まる法律が近年施行されて、極道にとっては殊更に苦しい状況である筈だった。


「だからこそや。景気悪いのは皆一緒、無い袖は振られへんねん、イヒヒ。」
「じゃあ、嶋野組は弱体化してきたって事?」
「弱体化してきたとまでは言わんにしても、じわじわ減ってはきとるな、組員の数も、シノギも。人には見せんようにしとるけど、親父も内心必死や。」
「そう・・・・。そう言えば『パニエ』の事も、何にも言われへんかったな。何か言われるんちゃうかと思っててんけど。」

嶋野は、がかつて経営していた店の事について言及しなかった。
この不況においてもまずまずの利益を見込める店だから、手に入れようと働きかけてくるかと予想していたのだが、そうならなかったのは意外だった。


「ああ、あの水商売チェーンのシノギの事な。あれももうあかんわ。こっちからせっせと金注ぎ込んどった間はうまい事回っとったみたいやけど、だんだん経営がきつなってきて、拡大していくどころか、閉めなあかん店が出てきてるらしい。」
「ええ・・・・!?」
「この不況のせいか、それとも『責任者』の手腕の問題か、原因としてどっちが大きいんかは知らんけどな。
せやけど、どっちにせよ、嶋野の親父は言い訳聞いてくれるような人やない。
そいつもそれは分かっとおる筈やから、今頃死に物狂いやろ。このまま親父に損失を負わせるだけになってもうたら、只では済まんからな。」

の心の中に、またも自責の念が湧いてきた。
真島の代わりにそのポストに就いた人の事は知らないが、たとえその人に商才が備わっていたとしても、バブル崩壊後のこの不況は如何ともし難い筈である。
あの時はあの話が堪らなく魅力的に思えて、真島が受けてくれる事を切望したが、もしもそうなっていたら、今頃は富も女の幸せも全部手に入れるどころか、この人がまた生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていたかも知れない。それを思うと、改めて自分の浅はかさが恥ずかしくなった。


「・・・・あんたあの時、断って正解やったな。もし私の頼みを聞いて引き受けとったら、今頃堅気の会社の副社長としてええ暮らしをするどころか、その人と同じ状況に陥ってたかも・・」
「アホ。もしもの話で何をしょげとんねん。」

しかし真島は、それを鼻で笑って吹き飛ばしてしまった。


「先々に何が起きるかなんて誰にも分からん。先々の為にいっちゃんええと思う事をやるんが精一杯で、その結果がどうなるかは出たとこ勝負や。
これから先かて一緒や。その時その時、ベストやと思った事をやる。そうやってやっていくだけや、お前と一緒にな。」

真島はそう言って、に優しい微笑みを向けた。
おずおずとそれに応えようとしたその時、繋いでいる手を猛がグイグイと引っ張った。


「なあなあ、デカトコショーブってなにー?」
「で・た・と・こ・しょ・う・ぶ、な。うーん、そやなぁ、何ちゅーか・・・・・、よっしゃ、どっからでもかかって来いやー!っちゅう感じか?」

猛の質問に対する真島の答えは、思わず笑ってしまう位に単純で大雑把だった。


「あははっ!何やのその説明!えらいテキトーやなぁ!」
「何でやねん、的確やろうが!のう猛?かかって来いやー!で伝わるよなぁ?」
「かかってこいやあー!」
「お!そうそう、ええ感じやー!」
「ちょっともうー!わざわざそんな言葉教えんでええから!」

しかし、その単純で大雑把な答えが、には不思議な位に頼もしく聞こえた。
その時その時、それが最善だと思う事をやっていくのが精一杯で、結果がどうなるかは出てみるまで分からない。だからこれから先も、また失敗する事もあれば、後悔する事だってあるかも知れない。
けれども、もしもそうなったとしても、きっとまた乗り越えていける。この人と一緒なら、きっと。そう思えてならなかった。

















こうして真島組の姐となったは、早速にも組の運営に関わっていく事となった。
組長を筆頭に、そこら辺をゴロついては暴力に明け暮れていそうな印象の強い真島組ではあるが、実際には様々なシノギを抱えており、ドスやバットではなく、ペンと電卓で挑まなければならない闘いが日夜繰り広げられていた。
の仕事は、そういった事務所内デスクバトルへの参戦と、その他諸々の雑務だった。
しかしながら、は幼児を育てている母親でもある。組の仕事はあくまでも母親業を最優先にした上で、という前提の下、当面の間は無理のない範囲で手伝っていく事になり、週に1〜2回、日中の3〜4時間程度、猛をベビーシッターに預けて、真島組の事務所に出向くようになったのだった。


「あ、これ計算間違うてる。」
「え?どれ?」
「ほらこれ。全然数字ちゃうやろ?」
「うわホンマや。チッ・・・、ったくホンマにうちの奴らはどいつもこいつも。
カチコミ要員ばーっかり増えていって、満足に書類仕事出来る奴が一向に増えへんってどういうこっちゃ!?」
「じゃあ求人でも出す?『事務員募集 高卒以上 事務職の実務経験2年以上か簿記3級以上お持ちの方』って?」

真島はのその発言に一瞬ポカンとしてから、さも楽しげに笑い出した。


「わははは!そんなもん来るわけないやろ!うちにおんのは辛うじて中学出たかどうかみたいな奴ばーっかりやで?」
「私高卒ですぅ〜」
「お?何やネーちゃん、高学歴自慢か?」

ついついこんなふざけ合いをしてしまうのは、今、事務所に誰もおらず、二人きりだからだった。
こんな程度の軽口の応酬は、二人にとっては単なる日常会話なのだが、組員達の目には少なからず新婚夫婦のイチャつき合いに見えるようで、事務所内に誰かがいる時には控えるようにしていた。でないと、冷やかした組員が照れた組長に半殺しにされてしまうのだ。


「ほんでもやっぱり、もうちょっと来るようにしよか?うるさいけど猛連れて来るか、シッターさん頼む日数や時間を増やすかしたら、もっと来れると思うねんけど。」
「いや、ええねんええねん。どうせ来年の春には幼稚園に入れるんやろ?仕事の時間増やすんはそれからで十分や。
アホばーっかりやけど、組の仕事する奴は他にもおる。せやけど、猛の母親はお前だけや。仕事手伝わせといて何やけど、小さい内は出来るだけ側におったってくれ。」

猛が幼い内は母親業を優先するというのは、自身よりもむしろ真島の方が強く望んでいる事だった。
真島の生い立ちを考えると、彼がそう望むのは十分に理解出来るし、猛だって実際まだまだ母親の手と温もりが必要な年頃だ。だからとしても、それに対して不満は無かった。


「・・・よっしゃ、ほなとっとと仕事片付けて早よ帰るわ!猛待ってるし!」
「おう、そうせぇそうせぇ。」

真島ともう一度笑い合ってから、はまた手元の書類に視線を落とし、仕事を再開させようとした。
しかし、まだ真島に見られているような気がして、ふと横を向いた。


「・・・何?」
「ああ、いや・・・、別に何っちゅう訳でもないんやけどな。」
「何よ?」
「何ちゅうかその・・・・・、夢がもう1個、叶ったような気がしてな。」
「夢?」

がキョトンとすると、真島は照れ臭そうにはにかんだ。


「ほれ、お前が昔言うとったん、覚えとらんか?二人で何か店でもしようやって。」
「・・・・・ああ・・・・・!」

それは、初めてこの人と肌を合わせて心を重ねた時に描いた、甘い愛の夢だった。


「そう言えばそんな事言うたっけなぁ、ふふふっ・・・。でも店ならやったやんか。もう私らの手を離れてもうたけど。」
「やったっちゃあやったけど、あの店は佐川はんがお前の為に作って、お前が自分の力で育て上げたもんやろ。俺はただ時々行って手伝うとっただけや。
そやけど、この組は俺が自分の力で立ち上げて、これからお前と切り盛りしていくもんや。正真正銘、今度こそ、俺らの城やと胸張って言える。・・・って、今フッと思ってな。」

なるほど、言われてみればその通りだった。
まだ何も知らなかったあの頃、そんな夢を見て、それを叶える為に稚拙ながらも色々と計画していたのだ。不安や心配もあったが、それよりも、幸せな未来への期待と希望の方が遥かに大きかった。
それから9年。様々な出来事に遭遇しながら長い年月を歩いてきて、辿り着いた処をふと見回してみたら、ここは確かにあの日描いた『夢』そのものだった。


「・・・ああ・・・・・、そう言われてみればそうかも。ふふっ・・・・・」

シックな雰囲気のインテリアでまとめられた社長室。
窓から見えるのは、東洋一の大歓楽街・神室町の街並み。
『形』としてはむしろ、あの頃思い描いていたのとは全く違うものになっている。
大切に描いた夢を、涙を呑んで諦め、自分の心を殺して自ら『籠』に入ったあの頃の自分が今の状況を知ったら、どう思うだろうか?
様変わりしすぎだと、遠回りをしすぎだと、不満に思うだろうか?
それとも・・・・・


「そやろ・・・・・?」

ソファに並んで腰掛けている真島の優しく細められた目に、甘い予感を覚える自分が恥ずかしかった。
新婚には違いないが、もうとっくに子供もいる三十路の夫婦が・・・と、一応自戒してはみるものの、別に本気で抗う気は無い。ただ、9年経ってもまだこの人に対して胸をときめかせている自分が気恥ずかしいだけだった。
その内に、真島に肩を優しく抱き寄せられて、はそっと瞳を閉じた。
そして、今まさに二人の唇が触れ合い・・・


「オルアァァー!」
「チャッチャと歩かんかいゴルアァァー!」

・・そうになったところで突然、ガラの悪い怒声が社長室のドアをすり抜ける程のボリュームで聞こえてきて、は咄嗟に真島を突き飛ばした。


「なっ、何やの・・・・!?」
「誰か連れて来よったみたいやな。多分シマ荒らしか、イキって喧嘩売ってきよったそこら辺のドチンピラってとこやろ、知らんけど。ったくあのドアホ共、ええとこで邪魔しくさりよってからに間の悪い・・・!」

呆然としている間にも、『オルアー』『コルアー』の合唱はどんどん近付いてくる。
あの日描いた二人の夢の城は、どんなだっただろうか?
こんな風に、オラオラコラコラやかましいお店だっただろうか?


「・・・フッ・・・、フッフッフッフ・・・・・」
「な、何笑ろてんねん?」
「ちゃうねん、何か・・・、私が昔思とったんとあまりにも違いすぎるから、何かもう笑けてきて・・・、フフフフッ・・・・・!」

ソファに倒れ込んで笑いの発作にのたうち回っているを見て、真島もバツが悪そうに笑った。


「な、何やねん、そない笑わんでもええやんけ・・・。」
「だってあの人ら、語尾が全部『オラ』と『コラ』やねんもん・・・!じっと聞いとったら、何かツボに入ってもうて・・・!
何をあんなオラオラコラコラ言うてんの・・・?ブフーッ!クククククッ・・・!」
「っ・・・!ちょ、ちょっと静かにさせてくるわ・・・。」

真島はそそくさと立ち上がり、社長室を出て行った。
一人になってもまだ少しの間は笑いが治まらなかったが、だんだん落ち着いてくると、代わりにしみじみとした幸福感が湧いてきた。
確かに、形はまるで違う。
それでも、今手にしている幸せは、あの頃夢見ていたのと同じだった。
考えてみれば、『形』なんてものは、有って無いようなものなのかも知れない。
これが最良だと思っても、何かの拍子に簡単に変わってしまう。
如何様にでも、何度でも、変化してしまう。
割れもすれば壊れもする。
けれども、割れた破片や壊れた残骸が、また思わぬ形を成す事もある。
どんなに変貌しようとも、本質が変わらなければ、それはきっと同じものなのだ。
組員達のオラオラコラコラに、連れて来られた誰かの怯えた悲鳴と、真島が悪ノリして脅かす声が加わったガラの悪い大合唱にまた笑いながら、は中断していた仕事を再開させたのだった。
















1995年7月。
身辺がようやく落ち着き、家族3人での新しい暮らしにも慣れてきた頃、真島は思い切って半月程度のオフを作った。
目的は、まだ行けていなかったハネムーン兼猛の3歳の誕生祝い兼初めての家族旅行である。
いつぞや仕事で行ったカリブ海に、今度こそリゾートを楽しみに行こうかとも思ったのだが、大阪弁と東京弁しか話せない夫婦が、まだ時々宇宙語を話す3歳児を連れて海外旅行というのも少々無謀過ぎる気がして、今回の行先は沖縄となった。
沖縄の海もそれはそれは美しく、良い処だった。眩しい太陽の下ではエメラルドグリーンに透き通って煌めき、夕陽が沈む頃には水面が鮮やかなオレンジ色に輝いて、ヤシの木のシルエットを切なくロマンチックに浮かび上がらせる。
そんな素敵な景色を一望出来るビーチのリゾートホテルに滞在して、真島は暫し神室町の喧騒を忘れ、と猛と共に思いきり遊んだ。
その絶景のビーチでの海水浴は言うに及ばず、そんな美しい海を目の前にしてわざわざ造られている、これまた素敵なリゾートムード満点のコバルトブルーのプールでも遊び倒し、地元の郷土料理や泡盛を次々と堪能しては、心も胃袋も満たされてぐっすりと眠る、そんな楽しい時間を何日も過ごした。
非日常の中に在ると、次第に曜日や日付の感覚が無くなってきて、このままこの時間が永遠に続きそうな気がしてくるのだが、しかし当然終わりはある。
帰京がいよいよ2日後に迫った今日は、の強い要望でお土産買い物デーとなり、真島一家はホテルから少し足を延ばして、沖縄最大の歓楽街・琉球街を訪れたのだった。


「おーい、まだかいなぁ?」
「んー」

この生返事を、一体何度聞いただろうか。
こちらには目もくれず、両手に持った菓子の箱を見比べているの真剣な横顔を窺って、真島は気付かれないように溜息を吐いた。


「おかーちゃーん、もうおしまいしよー?」
「んー?うーん、もうちょっと・・・・・」
「んもー!」

3歳児も呆れる位なのだから俺がウンザリするのも無理はない、などと思いつつも、あまり急かすとの機嫌が悪くなるし、折角の旅行でしょうもない喧嘩はしたくない。
ここは全員が機嫌良くいられる為に建設的に考えようと、真島は母親の長い買い物を何とか阻止しようとしている猛に呼び掛けた。


「猛、アイスでも食いに行こか?」
「いくーっ!」

猛は嬉しそうにパッと顔を輝かせ、真島に飛びついてきた。


「ちょっとそこのアイス屋におるわ。」
「んー分かったー」

と、まるで気の無い返事をし、土産物から目も離さないのに、『猛ちっちゃいの1個やで!お腹痛なるから!』と急に鋭く釘を刺してくる辺り、流石は母親というところか。
感心半分呆れ半分で『はいはい』と返事をすると、真島は猛の手を引き、すぐ近くのアイス屋へと移動した。


「猛どれにする?」
「あおいのー!」
「何やまた青かいな。お父ちゃんは今日は・・・、よっしゃ、イチゴにしよ!」

このアイスも、滞在中に何度食べただろうか。
流石に飽きてきてはいるのだが、そろそろ食べ納めかと思うとそれはそれで少し寂しいので、やっぱり今日も食べる事にする。
可能性としてはあまり高くないが、が買い物を終えて出て来た時の事を考えると外にいた方が良いかと思い、金を払ってアイスを受け取ると、真島は猛を連れてまた店の外に出た。


「ほれ、そこ座って食え。」
「うん!」

真島は道端に設置されているベンチに猛と並んで座り、アイスを食べ始めた。
日差しが強くて暑いが、気持ちの良い暑さだった。
ずっと掛けっぱなしのサングラスが鬱陶しくなってきて少しだけずらしてみると、夢中でアイスを頬張っている猛の頬が、こんがりと日焼けしている事に気が付いた。
沖縄に到着したばかりの頃にはつきたての丸餅みたいだったのが、今ではトーストした丸パンみたいになっている。それをただ見ているだけで、自分でも不思議になる位、微笑ましくて嬉しく思えた。


「美味いか?」
「うん!おいちー!」
「そうか。焼きたてのパンみたいなええ色のほっぺたしよってからに、ひひっ。」
「にひひ〜。おとーちゃんもおはなまっかやでぇ。イチゴみたいやなぁ〜。」
「うぐっ・・・!お、お父ちゃんは鼻高いから鼻がいっちゃん焼けんねん・・・!」

猛と他愛もない事を喋りながらアイスを食べていると、アイス屋の隣の民謡居酒屋から男が一人出てきた。
シャッターは上がっていたが、まだ真昼間でドアにも『準備中』の札が掛かっているから、男は観光客ではなく、多分店の者だった。
四十そこそこ位のその男の顔を何の気なしにチラリと見ると、サングラス越しの視線に気付いた男も真島の方を見た。


「・・・・」

ここに来たのは初めてだが、この男の顔に見覚えがあった。
誰だっただろうか?何処で会っただろうか?
真島は訝しげな男の顔を見つめながら記憶を辿り、ハッと息を呑んだ。


「アンタ・・・、山城さんやないか・・・・!?笹井組の若頭補佐やった・・・・」

真島が呼び掛けると、男は驚いたように目を見開き、顔を強張らせた。
その反応は、真島の記憶が確かであるという何よりの証だった。


「俺や、真島や!冴島の兄弟の!」
「っ・・・!お前・・・・、あの真島か・・・・!?嶋野組の・・・・!」
「せや!」
「何しに来た!?今更何の用で・・」

初め警戒心を剥き出しにしていた山城は、口の周りをアイスまみれにしながらキョトンとしている猛を少しの間呆然と見つめた後、幾らか気を緩めたようにフッと薄く笑った。


「・・・・って、訊くまでもねぇか。久しぶりだな。あの喧嘩っ早いガキが、もうオヤジか。」
「アンタ、ここで何してるんや?今までどないしてたんや?」

真島はアイスを置いて立ち上がり、山城に詰め寄って行った。


「見ての通り、小さな酒場をやってる。お前達みてぇな観光客相手に、地道にチマチマ稼ぐ毎日さ。もう10年になるか。」
「10年・・・・、ほなあの事件のすぐ後か。」

それを言うと、山城は浮かべていた薄笑いを消して黙り込んだ。


「あの事件のすぐ後、笹井の叔父貴は責任取って組解散させて引退し、笹井組の人らも皆どっか行ってもうたって聞いた。
一体何があった?何で解散なんかしたんや?ほんで叔父貴はどこ行きはったんや?」

ようやく組に戻る事を許され、蒼天堀を離れて神室町に帰ってみると、笹井組は無くなっていた。
あの事件の責任を取る形で解散となり、組長の笹井英樹も引退して、何処かへと行方を眩ませた。嶋野をはじめ誰に訊いても、返ってきた答えはそれだけだった。


「知らねぇよ。」
「誤魔化さんと教えてくれや!」
「知らねぇんだよ本当に。」

山城は突き放すように、素っ気無くそう言い捨てた。


「親父は何も教えちゃあくれなかった。あの事件の直後、突然俺達組員を全員事務所に集めて、今日限り組は解散だって、そう言っただけだった。」
「ほんでアンタらはそれをすんなり受け入れたっちゅうんか・・・・?」

あの襲撃計画は、大義名分こそ東城会のシマの拡大だったが、当事者にとっては、他ならぬ笹井と笹井組の為のものだった。
笹井組の名の下にその大義名分を果たして、大恩ある笹井を極道の高みに押し上げたいという仁義だけで、冴島は命さえ捨てても構わないと覚悟したのだ。
仁義に篤い侠客だった笹井に、冴島の気持ちが分からなかった筈はないのに、何故尻尾を巻いて逃げたのか?冴島のその気持ちが、やった事が、人生も命も何もかもが全部無駄になってしまうのに、何故?


「・・・・あの日、笹井の親父は俺達にそう言って、組の金を全員に分配した。
それ持って神室町を離れて、足洗ってどっかでやり直せって。これからは堅気として真っ当な暮らしをしろってな。
若頭の本山の兄貴をはじめ、誰が何を訊いても一切答えちゃくれなかった。親の命令だ、黙って従えって、その一点張りでよ。」

如何にもあの人らしい話だった。
ただ、何故そうしたのか、その理由がどうしても分からなかった。
肝心の的だった上野吉春は、組員が身を挺して庇った為に命拾いをしていたが、それでも18人もの組員を一度に失ったのだ。
そのまま畳み掛けていれば、上野誠和会はきっと壊滅していた筈なのに。
そしてシマを勝ち取り、笹井組は直系に昇格出来ていた筈なのに。


「何でや?なんぼカシラを仕留め損なったとはいえ、あれだけの痛手を負わせたんや、あともう一歩で上野を潰せたんとちゃうんか・・・・!?
そやのに何で解散なんや、何でアンタらは動かんかったんや・・・・!?」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。あの時、何でお前はやらなかった?」

己の言い放った言葉が己自身に深々と突き刺さる痛みに、真島は息を詰めた。


「俺達だって、ハナからすんなり受け入れた訳じゃねぇよ。幾ら親父を問い詰めても埒が明かねぇから、本山の兄貴の指揮で、俺達なりに事の次第を確かめようとしたさ。
まず真っ先にお前を捜したよ。冴島のたった一人の兄弟分で、いつもつるんでたお前をな。けど、お前は神室町から姿を消してた。お前の居場所を知ってる奴も、誰もいなかった。それが本当だったのか嘘だったのかは分からねぇがな。
それでも必死になって調べ回って、ようやくちょっとした噂を耳にしたよ。あの事件、本当は冴島とお前が二人でやる筈だった・・・、ってな。」
「・・・・・!」

灰色の倉庫の景色が、降りしきる雨の音が、失くした左目の痛みが、不意に蘇った。


「それが蓋を開けてみりゃあ、やったのは冴島一人だった。
俺らが何で動かなかったかだと?ある日突然あの事件が起きて、何も知らないまま、聞かされないまま、突然ほっぽり出された俺らに一体何が出来たってんだ?
俺にどうこう言う前に、まずはお前が答えたらどうなんだよ?
あの時、何でお前はやらなかった?
冴島裏切って一人だけ土壇場で逃げて、その後一体何処に雲隠れしてやがった?」

そう言われて当然だった。


「・・・・俺は・・・・」

誰彼構わず言い訳なんてみっともない真似はしたくないのだが、知りたい事を教えて貰う為には、どうやらまずこの男の誤解を解かなければならないようだった。


「・・・・俺は、あの時・・・・」

しかし、サングラスに手を掛けようとしたその時、山城はまた薄い笑いを洩らした。


「・・・なんてな、冗談だよ。別に答えなくて良いさ。」
「・・・・何でや・・・・?」
「決まってるだろ、興味無ぇからだよ。」
「東城会は上野と和解して五分の盃を交わした。そんな形でケリがついた事、アンタ知ってんのか?知っててそう言うとるんか?」

真島がそう問うと、山城は遠い目をして、噂程度にはな・・・と呟いた。


「・・・・極道なんてよ、所詮は社会のはみ出し者だ。極道としての筋だ仁義だって幾ら格好つけたところで、明日のオマンマの保証も無ぇ。
そんなもんの為によ、人生棒に振るなんて馬鹿馬鹿しいじゃねぇか。ましてや一つしかねぇ命落とすなんてよ。」

その馬鹿馬鹿しい事をやった奴の事を、アンタらは何も考えてはくれなかったのか?
そう詰って山城の胸倉を掴み上げてやる資格も筋合いも無い事は、分かっていた。


「俺はそん時、オンナが孕んでた。今の女房と一番上の娘だ。不安がるオンナに泣いて縋り付かれてよ、手元にはちょっと纏まった金がある。・・・となったら、そんな事どうでも良くなっちまった。だから足洗って、生まれ故郷のこの沖縄に帰って来たんだよ。」

山城はふと、猛に目を向けて呼び掛けた。


「ボク、名前は何てんだ?」
「タケルー。」
「タケル君か。幾つ?」
「しゃんしゃい。」
「お、3歳か!おじさんとこの一番下の子と同じだな。アイス美味いか?」
「うん!」
「そうか、良かったなぁ!」

猛に優しく笑いかける山城の眼差しは、何処にでもいるごく普通の男のそれだった。


「お前にそっくりだな。何番目だ?」
「いや、こいつ一人や。」
「そうか。どうだ、自分の子ってのは可愛いもんだろ?女房の腹ん中にいる内は全然ピンとこなかったけど、いざ生まれてみたら可愛いの何のってよ。気が付いたら、俺もあれよあれよという間に3人の子供のオヤジだ。」

山城は同じ眼差しで真島にもぎこちなく笑いかけた後、自分の店を振り返った。


「俺は今の暮らしが気に入ってる。この小せぇ店を維持して、家族5人食ってくだけで精一杯だけどよ、今の人生に満足してる。
だから、お前が土壇場で人生棒に振るのが嫌になったんだとしたって、それを責める気は無ぇ。むしろ当然だと思うよ、今となっちゃあな。
あの頃の事はもう何とも思ってねぇ。上野も東城会も、俺にとってはもう全部どうでも良い事なんだ。何がどうなっていようが知らねぇ。今更妙な事に巻き込まれるのはご免だぜ。」

大切な者達を守りたいと思うのは、誰しもが同じだ。状況や人の心も、時の流れと共に変化していく。今の平穏な暮らしを守ろうとするこの男の気持ちは、真島にも我が事のように理解出来た。


「アンタに迷惑は絶対掛けへん。あの事はもうとっくにケリがついてて、蒸し返すような真似なんか出来へん。アンタの言う通り、今更や。
ただ、せめて笹井の叔父貴と靖子ちゃんの行方だけでも知りたいねん。」

昔の筋を引き摺って、他人を巻き込む気は無い。ただ、少しでも何か手掛かりが欲しいだけだった。
あの襲撃事件から10年。心当たりは全て当たり、可能な限り調べてみたが、冴島が己の命よりも大切に思っていた彼らの行方は未だ掴めていない。
だが、見つからないものは仕方がないと忘れてしまう事など、どうして出来ようか。
監獄の中にいる冴島が案じ望んでいるのは、今もきっと、彼らの無事と幸せに違いないのに。


「靖子ちゃん?」
「冴島の妹や。アンタとこの事務所にも顔出しとった筈やで。」
「あー・・・・・、そういやそんな子がいたっけか。偶に来てたなぁ、確かに。」
「何や、遠い親戚を頼って何処かに引っ越して行ったとは聞いたんやが、その先がまるで分からんのや。山城さん、アンタ何か知らんか?」
「そういやあの日、あの子も事務所に呼ばれてたっけなぁ・・・・。」
「ホンマか・・・!?」

10年経ってようやく会えた、当時の関係者。
真島としては、この男に一縷の望みを託さずにはいられなかった。


「ああ。親父がどっか行くあて無ぇのかって訊いたら、関西の方に死んだ母方の親戚筋があるにはあるって答えてよ。
親父はそこへ送ってってやるって言ったんだけど、あの子は、一人で行けるし学校の事とか色々都合もあるからってそれを断って、親父に渡された金だけ受け取って行った。確かそうだった筈だけどな。」
「それからは!?その親戚筋って、関西のどこやねん!?」
「だから知らねぇよ。いきなり組を解散されて、あの時の俺達は皆、足元の床が突然抜けちまったような状態だったんだ。皆テメェの事で精一杯で、とても人の事まで気にしてなんかいられなかった。当然だろ?」

しかしそれは、敢え無く消えてしまった。
つい落胆していると、山城は真島を一瞥して、小さく溜息を吐いた。


「・・・・その二人を今更捜して、どうする気か知らねぇけどよ。済んだ事をいつまでも覚えてたって、あんまり良いこた無ぇぜ。今の幸せの為にはよ、昔の事は全部綺麗さっぱり忘れちまった方が良いんだ。」
「・・・・アンタはそうやって、堅気になったんか・・・・?」
「ああそうだよ。組解散した時に、俺ぁ極道から足洗った。あの人とはもう親でも子でもねぇ。今更知ったこっちゃねぇよ。」

他人の心の中は分からない。けれども、すっかり割り切ったように淡々とそう答える山城に、これ以上何か言ったり、ましてやサングラスを外して、古傷で塞がれた左目を見せる意味などは無さそうだった。
一応礼だけ言って立ち去ろうと考えたその時、買い物を終えたらしいが土産物屋から出てきて真島達に気付き、『ごめんごめん、お待たせ―!』と手を振りながら駆け寄って来た。
そして、何となく只ならぬ雰囲気を感じ取ったのか、山城に対してにこやかに会釈をしながらも、様子を窺うような眼差しを一瞬真島に投げ掛けた。
すると、山城は愛想の良い笑顔になって、どうも、と頭を下げ返した。


「可愛い坊ちゃんですねぇ。うちの末っ子と同じ年頃だなぁと思って。」
「ああ、そうでしたか。」
「ご旅行、楽しんでって下さいね。良かったらうちの店にも是非。そこの居酒屋なんですけど、うちは小さいお子さん連れのお客さんも大歓迎ですし、沖縄民謡のライブも毎晩やってますんで。」
「うわぁ、楽しそうですね〜!ありがとうございます!」
「じゃ・・・。」

完全に見ず知らずの他人を装ってそそくさと帰って行く山城の後ろ姿を、真島はただ黙って見送る事しか出来なかった。

















その夜、真島はすんなり寝付けなかった。一度はと猛と共に布団に入ったものの、眠れもしなければそこでじっとしている事も苦痛で、やむなく一人寝室を抜け出し、窓辺のソファに座って煙草を吸いながら、真っ暗な海を眺めていた。
一体何分程そうしていただろうか?暫くして、寝室の襖がそっと開閉される微かな音と気配がした。


「どしたん?なかなか戻って来ぇへんから、お腹でも下してるんかと思ったら。」
「・・・ちゃうわい。お前こそ寝てたんちゃうんか?猛は?」
「ぐっすり。」

は向かいの空いているソファではなく、ちょっと詰めて、とわざわざ強引に割り込むようにして、真島の横に腰を下ろした。


「ほんなら何してんの?寝もせんと一人でボーッとして。」
「ちょっと目ェ冴えただけや。」
「そう?なーんか今日は機嫌悪くない?ずっとテンション低めやん。あの沖縄民謡のライブやってるっていう居酒屋にも全然興味示さへんかったし。買い物そんな長かった?」

冗談めかしてはいるが、が気にかけてくれているのは見て取れた。
折角の旅行中に余計な不安や心配を与えたくなくて、真島は軽く笑ってみせた。


「別に。まあ買い物はクッソ長かったけれども。」
「だってしゃーないやんか、あっちこっちにお土産渡さなあかんねんから。」
「へっ、んなもん最低限だけテキトーでええのに。せやけどホンマに何もないて。強いて言うたら、ちょっとおセンチになっとっただけや。」

それを聞くと、は一瞬キョトンとしてから、『おセンチて』と小声で突っ込んで笑った。
屈託のないその笑顔に、今も昔も惚れている。今度こそ何があろうともう絶対に離さないし、ももう先々を悲観する事は無いだろう。
だから、昼間にあった事を正直に話したって別に構わないのだが、何か手掛かりでも得られたのならともかくも、結局は何も分からず終いなのだから、やっぱり話せなかった。


「何をおセンチになる事があるんよ?もうすぐ旅行終わんのが寂しいとか?」
「まあ、それもあるけど・・・・。何やろな、自分でもあんま上手い事説明出来へんわ。」
「ふふふっ、何やまるでマリッジブルーみたいやなぁ。」
「マリッジブルー?何やそれ?」
「結婚が決まって、幸せな筈やのに、なーんか漠然とした不安とか寂しさがある・・・みたいな状態の事。遅れてきたソレとちゃう?」
「・・・・・ああ・・・・・」

真島は煙草を消すと、ニコニコと笑っているを見つめた。


「そうかも知らんな、偶に怖なる事があるから。」
「怖い?」
「ああ。幸せすぎて、怖なる・・・・・」

首を傾けてそっと唇を重ねると、それに応えるように、誘うように、の唇が綻ぶのが感じ取れた。
真島はそこに舌を差し込み、より深く口付けた。


「んっ・・・・・・」

深い口付けで小さな火が点くと、肌に触れずにいられなくなる。
浴衣の襟の合わせ目から手を滑り込ませて、柔らかい乳房をやんわりと揉みしだき、先端を優しく摘まんで捏ねていると、が微かに声を洩らし始めた。
ゆるゆるとソファの背もたれに身を預けたに覆い被さるようにして、真島は更にの肌を弄った。浴衣の合わせ目を寛げて、胸元に口付け、固くなった頂に吸い付いては舌先で転がしている内に、身体がどんどん熱くなってきて、こうなるともう歯止めが利かなかった。


「ぁ、ん・・・、待って・・・、電気、消して・・・・・」

それでももう、二人きりだった頃のように、心の赴くまま夢中で求め合う訳にはいかない。夢にまで見た『家族』の暮らしの、唯一の難点がそれだった。幸せであるが故の、贅沢な悩みだ。
真島は行為を一度中断し、壁の照明スイッチを切りに行った。天井やベッドサイドのランプの灯りが消えて、室内は真っ暗になった。これで万が一猛が起き出してきたとしても大丈夫だろう。
真島はの元に戻り、仕切り直しのキスを交わしながら浴衣の裾を捲り、ショーツを引き下ろしての秘部に触れた。


「んんっ・・・・!」

舌を吸いながら秘裂を緩やかに擦っている内に、指先が熱く濡れてきた。
真島は床の上に座り込み、の両脚を大きく開いてテーブルの上に乗せた。そして、すぐ目の前で艶めかしく開いた其処に、ゆっくりと舌を這わせた。


「あぁっ・・・・・!」

甘い声を必死で抑えようとするのいじらしい反応に、真島も益々昂っていった。
どんどん溢れてくる蜜を舐め取り、小さく突き出した花芽を舌で転がし、ヒクヒクと脈打つ花芯に優しく指を挿入して、締め付けてくる熱い柔襞の中をかき回していると、淫らな音との切なげな声が絶え間なく聞こえるようになってきて、やがては身を震わせて達した。
真島はの中から指を引き抜き、下着を脱ぎ落として、しどけない姿でまだぐったりと絶頂の余韻に浸っているの横に座った。


「来いや・・・・・」
「・・・ん・・・・」

そっと抱き寄せると、は真島の膝に跨る姿勢で、おずおずと真島に抱き付き、ゆっくりと腰を下ろしていった。


「ん・・・・ぁぁっ・・・・!」

硬くそそり立った真島の先端が、すっかり蕩けているの花芯に口付け、そのままそこを押し広げて、熱い柔襞の中を貫いていく。やがて己の全てがの中に納まると、真島はを抱きしめて、その身体を揺さぶり始めた。


「んっ・・・・、んっ・・・・・、ぁ・・・・・!」

の奥深くをグリグリと刺激しながら、髪を掻き分けて華奢な項や耳元に甘く口付けていると、真島の首をかき抱いているしなやかな腕にも、真島を包み込んでいる柔らかい内壁にも、ギュッと力が籠った。


「ぁ・・・ん・・・・・、ぁぁっ・・・・・!」

堪えきれない甘い声を小さく洩らすを緩やかに揺らしながら、真島は自分が今手にしている幸せをひしひしと感じていた。
心から愛している女と夫婦になり、可愛くて元気な子供にも恵まれた。
人に誇れる稼業ではないが、自分の組を持ち、愛する二人と何不自由なく暮らして、楽しい思い出を作るだけの金もある。
何もかも、10年前には夢のまた夢の憧れに過ぎなかったものばかりだ。
俺には結局縁が無かったのだと、諦めたものばかりだ。


「いけるか・・・?脚とかどっか、変なとこ痛ないか・・・?」
「ん・・・、大丈夫・・・・・、ふふっ・・・・・」

は微かに笑うと、おもむろに真島の首筋に顔を埋めた。


「・・・ホンマやなぁ・・・。あんたの言う事、分かるわ・・・・・」
「ん・・・・・?」
「私も・・・・・、幸せすぎて怖い・・・・・」

の恥ずかしそうな囁き声が、真島の耳元を甘く切なく擽った。


「・・・・・まだまだや・・・・・」
「え・・・・・?」
「こんなもんちゃう・・・。まだまだもっと、ええ思いさせたる・・・。もっともっと、幸せにする・・・・・」
「吾朗・・・・・、ぁ、んんっ・・・・・!」

10年前のあの日の事は、もう悔やまないと決めた。
あの日に戻りたいと望む事は、深い縁で結ばれようやく得られた、かけがえのない幸せを否定する事になるのだから。
償いの為に生きようとは、もう考えない。
命を含めた己の全てをくれてやる事が冴島への償いだとは、もう思わない。
と猛と共に歩んでいく未来も、冴島と肩を並べて歩いていた過去も、どちらも諦めない。
一度きりの人生、とことん欲を張って生きてやると決めたのだ。
己のその想いのままに、真島はの身体を熱く、強く、抱きしめた。
長い長い年月の果てにようやく手に入れた幸せを、今度こそ決して離さないように。




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後書き

新年明けましておめでとうございます。
マスコットの頭の輪っかとストラップ程度の後日談・・・、のつもりが、随分時間が掛かってしまい、申し訳ないです<(_ _)>
色々ドタバタしていた上に、話もついつい膨らんでしまって、まとめるのに苦労しまして・・・・・。


さてさて、その後日談ですが、ご覧の通りの内容となりました。
ストーリーに無理や矛盾が色々と発生している『龍が如く』シリーズですが(笑)、上野誠和会襲撃事件のくだりも大概ですよね。真島の兄さんによる笹井の叔父貴の救出時期然り、あの事件の真相(ゴム弾)然り。
でもまぁ、どんなに無理なストーリーでも(笑)、大変重要な大前提的設定になっている。
そうである以上、真島吾朗美化委員会としましては、兄さんがその後ずっと笹井の叔父貴や靖子ちゃんの事を気にも留めていなかった、とは考えたくない。
靖子ちゃんなんか、ものの見事に25年間消息不明でしたけど(笑)、兄さんが薄情にも知らん顔していたからだとは思いたくない。
後付け設定なんだからガン無視でも仕方ないヨというのは分かっちゃいますが、二人の事を心の片隅にでも良いから気に掛けていて欲しい。

・・・という思いで、このような妄想を繰り広げてみました。

しかし、何で笹井組の人が何にも知らなかったのか、謎ですねぇ〜。
サブストに出ていた本山の兄貴、何であんななーーんも知らんのか。
下っ端のドチンピラならともかく、曲がりなりにも組の若頭なんですから、襲撃計画があるという事ぐらいは最低限知っていそうなものなのに。(※文中の若頭補佐は捏造キャラです、念の為)
たとえ親父から本当に何も知らされていなかったとしても、仮にも若頭が、何の行動もせずに只々状況に流されて腐って落ちぶれていくなんて、あまりにも不甲斐ないと思うんです。まあ実際、小物感漂うキャラでしたけれども(笑)。

でも、本来は決してヘナチョコな組じゃない。
やれる限りの事はやったけど、この件に関しては相手が悪すぎ、闇が深すぎで、手も足も出なかった・・・、って感じかな?と。
笹井組長にしても、何かどうしてもケツを割らなきゃいけない理由があった筈だと思うんです。(←そしてそれを長々妄想しそうになる 笑)
でないと、冴島さんが報われないじゃないですか、ねえ!?


・・・とまぁ、ここまでが1995年前半の物語でございます。
次回は後半・・・、そう、1995年秋からのお話となります。
そして多分、次回がいよいよ最終回となります。(※長引く恐れ、無きにしもあらず)
どうぞお楽しみに!!