夢の貌 ― ゆめのかたち ― 24




翌週、3月中旬の火曜日、真島は大阪を訪れた。
前入りしたのは仕事を先に済ませる為と、何より、明日の『約束』を万全の状態で迎える為である。
先週、駄目で元々と勇気を振り絞ってかけた誘いに対して、思いがけない形でOKを貰ってからというもの、真島は何をしていてもずっと上の空だった。
と猛に会えるばかりか動物園へ行く事になるなんて、思ってもみなかったのだ。
そんな、まるで絵に描いたような家族団欒の真似事が出来るなんて。
約束を取り付けた瞬間から、真島はずっとその事ばかりを考えて、その日になるのを指折り数えて待っていた。緊張と期待で頭も胸も一杯で、仕事も遊びも上の空、日曜日に嶋野のお供で付き合わされたゴルフも全く身が入らなかった。
そしてようやく水曜日になると、真島の緊張と期待は最高潮にまで達した。
朝飯もそこそこに新大阪のホテルを出てタクシーに乗り込み、目的地の動物園正面ゲート前に到着したのは、待ち合わせの時刻より30分も早い、朝の10時半だった。
当然ながら、と猛はまだ来ていないようだった。
真島はひとまず入園チケットを買い求めておいてから、目に付き易いように、ゲート前の中央付近に立って二人を待つ事にした。
大阪市街のど真ん中にあるこの動物園、近くを通り掛かった事なら何度もあるが、中に入るのはこれが初めてだった。平日だからか来園客は少なく、小さい子供のいる家族連れや若いカップルが、ちらほらと真島の側を通り過ぎて行く程度だった。
いつもなら、そうした通行人にギョッとされるか恐々と目を逸らされるかのどちらかなのだが、今日は誰にも怖がられず、驚かれもしない。
それもその筈、猛に怖がられないように、周囲から浮いて悪目立ちしないように、今日はごく普通の、無難な服装をしてきたのだ。シンプルな黒いパーカーとライトグレーのチノパン、左目を隠すのは白い医療用の眼帯。今日の真島はどこから見ても、堅気のごく普通の男だった。
これなら猛が怖がる事もないだろうし、人から奇異の目で見られる事もない筈だと気を良くしながら、真島は先に行く来園客を何組か見送った。

そうして待ち合わせの時刻がいよいよあと数分後に迫ってきた頃、向こうから小さな男の子の手を引いて女が歩いて来るのが遂に見えた。
カジュアルなジーンズ姿で、大小2つのバッグを持って、子供に何やら話しかけながらニコニコと笑っているその優しい顔を、真島が見誤る訳はなかった。
真島はその二人、と猛を見つめて、軽く手を上げた。
すると、の方もそれに気付いて、同じようにおずおずと手を上げた。
この僅かな距離と時間を待つ事が出来なくて、真島は自分から二人の方へ歩み寄って行った。


「久しぶりやな・・・。」
「久しぶり・・・。」

の微笑みは少し硬かったが、それはきっとお互い様だった。
真島はから逸らした視線を、今度はそっと、その足元に向けた。


「・・・・・・」

その子は、真島がいつも持ち歩いている写真に写っている赤ん坊とは、まるで違う顔をしていた。
子猿ような、真っ赤なフニャフニャの赤ん坊ではなく、肌や髪の艶々とした見るからに元気そうな男の子で、綺麗に澄んだくりくりとした二つの目が、ポカンと真島を見上げていた。
『誰このオッサン?』と驚いているのが丸分かりなのが可笑しいやら可愛いやらで、真島は思わず小さく吹き出した。


「・・・こんにちは。」

愛くるしいその目を見つめて、真島は自分に出せる精一杯の優しい声で猛に話しかけた。
発した言葉自体は我ながらつまらないと思ったが、咄嗟にそれしか思い浮かばなかったのだから仕方がなかった。


「・・・・・・!」

知らないオッサンに突然話しかけられた猛は、目に見えてビクリとして母親の脚にギュッとしがみ付き、そこからまた恐る恐る真島を見上げてきた。


「猛、何て言うの?」

が助け舟を出してくれた。
母親に促されたら少しは何か喋ってくれるかも知れないと思い、真島はもう一度話しかけてみる事にした。


「こんにちは。」
「っ・・・・!」

今度はほんの少しだけ顔を覗き込むようにして話しかけると、猛はまたビクリとして、母親の後ろにサッと隠れた。


「猛、こんにちは、は?」

再び母親に促されても、猛は何も答えなかった。
やはり怖がらせてしまったのだろうか?泣いてしまうだろうか?そう心配していると、猛は母親の後ろからこっそりと覗くようにして、また真島を見上げてきた。
その目が表している感情は、恐怖というよりは興味、好奇心。そんな風に受け取れた。


「・・・・・・」

真島は無言のまま、猛の姿を覗き込むようにサッと素早く動いてみせた。


「っ・・・・!」

すると猛は驚いて、またもピャッと母親の背後に隠れてしまった。
そして今度は反対側から、ソロ〜ッと顔を出してきた。


「ヒャッ・・・・!」

またそっちの方を覗くように動いてやると、また姿を隠し、反対側から顔を出す。
だからまたそっちを覗いてやると、また同じように隠れて、反対側から顔を出す。


「・・・・キャッ・・・、キャキャッ・・・・!」

そんな事を2〜3回繰り返している内に、次第に可愛い笑い声が上がり始めた。


「キャキャキャキャッ・・・・!」
「・・・イッヒヒヒ・・・・・!」

そして気が付くと、二人で笑いながら、を挟んでグルグルと追いかけっこをしていた。


「キャキャキャキャッ!」
「イヒヒヒ、隠れてんのは誰や〜?」
「キャーッ!キャキャキャキャッ!」

猛が一際大きな笑い声を上げると、が苦笑いをしながら、ちょこまかと走り回る猛を捕まえて止めた。


「はーいもうおしまい!もうやめて!お母ちゃんの方が目ェ回るわ!
ほら、早よ行くで!ライオンさん見に行くんやろ?猛はよ来ぇへんかな〜って待ってるで!」
「あ!ライヨンしゃんみにいく!」
「はい!ほな行こ!」

母と子が手を繋ぐ、これまで特に何とも思った事のないその光景が、とても尊く見えた。


「・・・行こか。」
「・・・おう。」

猛の反対側の手を取るのは、些か調子に乗りすぎのような気がして躊躇われた。
だから真島はその代わりに、が肩に掛けている大きなトートバッグに目を向けた。


「それ持つわ。」
「あ、ありがとう。ほなお願い。」

がはにかみながら差し出したそれを受け取ってみると、なかなかの重さがあった。


「何やズッシリしとんなぁ。これ何入ってんねん?」
「お弁当と水筒。他にも色々入ってんねんけど、重たいのはそれ。」
「弁当と水筒?」
「作ってきてん。今日やったら売店も食堂も空いてるけど、まぁ一応・・・な。」

こんな事が出来るとは、本当に思ってもみなかった。
猛と少し会わせて貰えれば上等、何なら会わせる気は無いと突っぱねられる事さえ覚悟していた位だったのだ。
いつかのように、言い訳は要らない、あんたの事情など私には関係無いと拒絶されたって仕方がないと。


「おかーちゃーん!ライヨンしゃんはー!?」
「ああはいはい!行く行く!・・・ほな行こ!」
「おう・・・・・!」

が聞いてくれるかどうかは、話を切り出すその時になってみなければ分からない。たとえ聞くだけは聞いてくれたとしても、結果がどうなるかなんてそれこそ分からない。
だから今は、思いがけず与えられたこの幸せな一時を、目一杯楽しむべきだった。
















天気は良好、園内は空いていて、今日は絶好の行楽日和と言えた。
猛が楽しみにしているらしいライオンのゾーンは、正面ゲートの向かって左手側にあるようで、三人は必然的にそちらへと歩き始めた。


「あっ!猛ほら、カバさんおるわ!」
「おわっ!ホンマやぁ!」

猛は嬉しそうにはしゃいでいた。
しばしば母親の手を離して、あっちへ駆け出し、こっちに寄り道し・・・と元気いっぱいに動き回るその様子は、まるで背中に羽根が、いや、踵に羽根が生えているかのようだった。


「猛!ちょっと待って!あんま先々行ったらあかん!迷子なるで!」

はそんな猛を追いかけ、誘導しつつ進んでいく。
その後について行くと、キリンやシマウマのゾーンが見えてきた。


「猛ー!お写真撮ろ!ここ立って、はいチーズして!」

は斜め掛けにしたショルダーバッグから、使い捨てカメラを取り出した。
猛が立っている所のすぐ後方にキリンがいる。どうせならそれも写り込む方が良いだろうと、真島は手を差し出した。


「カメラ貸してみ、二人で撮ったるわ。猛抱いてそこ立てや。」
「ああ、ありがと。はい猛、おいで、抱っこしたろ!」
「だっこ〜!」

が腕を広げると、猛は嬉しそうな笑顔で母親にピョンと飛びついた。


「よっしゃ、いくでー!はい、チーズ!」

仲睦まじく笑っている母子を、キリンのいる風景に上手く納まるようにして、真島はシャッターを押した。


「ありがと。ほな次、二人で撮る?」
「え・・・?ええんか・・・・・?」

思わず戸惑ってしまった真島を、は可笑しそうに軽く笑い飛ばした。


「あははっ!ええんかって何よ、たかが写真ぐらいで。」
「あ、ああ、はは・・・。ほ、ほな頼もかな・・・。」
「猛抱っこしてそこ立って。」

猛の思い出の1ページに自分も加えて貰えるとは、これもまた思ってもみない事だった。むず痒いような喜びを密かに噛み締めながら、真島は猛に向かって腕を広げた。


「ほれ、来い。」
「・・・・・・ヤッ」

しかし猛は真島の顔を暫しじっと見つめてから、急にプイッとそっぽを向いて、またテテテッ・・・と走り出した。
その様子は拒絶以外の何物でもなく、真島に決して小さくないショックを与えた。


「あの子いっつもああやねん。じっとしてって言うてもウロチョロしてばっかりで、なかなか写真撮らせてくれへんねん。」

それが顔に出てしまったのだろうか、が苦笑いしながらフォローしてくれた。
考えてみれば、今初めて会ったばかりの知らないオッサンに、そう簡単に懐く訳がないのだ。こんな事でに気を遣わせてはいけないと慌てて笑顔を作ろうとした瞬間、すぐ目の前の柱の陰から、猛がピョコッと顔を出した。


「・・・ほ〜ら始まった。」
「え・・・・?」
「1歳半ぐらいまではすんごい人見知りやってんけど、だんだんマシになってきてな。今じゃあの通り。もう遊んでくれる人大好きやねん!さっきの追いかけっこで、あんたの事を遊んでくれる人やと見込んだみたいやで。」

確かにの言う通り、猛は何かを期待しているようなキラキラとした眼差しで真島を見ていた。
試しにまたさっきのように追いかける素振りをしてみせると、猛は『キャーッ!』と甲高い笑い声を上げて、柱の周りをグルグルと駆け回り始めた。


「・・・ほらな?悪いけど、ああなったらしつこいでぇ?」
「・・・そうか、ほな精々ご期待に応えやなあかんなぁ?」

真島はに軽く笑いかけてから、猛の方へと小走りに突撃を仕掛けていった。


「待て待てぇ〜い!捕まえたんど〜!」
「キャーッ!キャキャキャキャッ!」

無邪気な笑い声を上げて、全身で『楽しい』という感情を表している猛を見ていると、この子が自分を何者と認識しているかなんてどうでも良くなってきた。
知らないオッサンでも遊んでくれる人でも、何でも良い。猛が喜んで楽しんでくれるのなら、それで十分だった。
真島は猛と追いつ追われつしながら、の誘導で進んで行った。
少し行くと、早速にもお目当てのゾーンに辿り着いた。立派なたてがみを生やしたライオンが、岩の上に寝そべっているのが見えたのだ。


「おっ!ライオンや!ライオンおったでー!」
「おったぁー!ライヨンしゃんやぁー!」
「二人共ー!こっち向いてー!」

後ろから呼ばれて振り返ってみると、がカメラを構えていたので、真島は素早く猛の肩に手を添えて微笑んだ。


「猛ー!いくでー!こっち向いといてやー!はい、チーズ!」

パチッ。
軽いシャッターの音がして、が嬉しそうに歩み寄ってきた。


「オッケーイ!今度はバッチリ撮れたわ〜!」
「おお、ホンマか!」
「もうホンマ猛じっとしてへんやろ。今後もこんな感じで撮っていくからよろしく!」
「よっしゃ、分かった!」

の言う通り、確かに猛はじっとしていなかった。
動物を見て喜んでいるかと思いきや、好き勝手にウロウロ歩き、唐突に追いかけっこを仕掛けてきたり、かと思うとまた動物を見たがって、見えにくいと母親に抱っこをせがんでみたり、それはそれは目まぐるしい動きを見せてくれた。
その無邪気で可愛い姿を時折カメラに収めつつ、隙あらば一緒に写りつつ、真島とは猛を連れてどんどん園内を進んで行った。
羊のような動物が沢山いる岩山を眺め、大型の猛禽類が羽ばたく迫力に驚き、ネコ科の猛獣のしなやかな姿形や美しい毛並みに目を惹かれながら歩いていくと、トイレが見えてきた。


「あ。なぁ、猛トイレに連れて行きたいから、ちょっと待っててくれる?」
「ほなこの辺で待ってるわ。」
「うん。猛、おトイレ行こか。そろそろおしっこ出るんちゃう?」
「なーい!」
「ない事ない!おトイレ行ったら出るから!」

は猛の手をしっかりと繋ぎ直すと、トイレの方へと歩いて行った。
今の内に一服でもしておこうかという気になって、真島は少し移動して煙草に火を点けた。
真島の立っている位置からは、虎の檻が良く見えた。狭い檻の中でじっと伏せている大きな虎は、まるで冴島そのもののようだった。
あの男からすれば、きっと好き放題にのうのうと生きているように見えるだろう。
いずれ檻の扉を開けてやれる日が来れば、それまでの積年の恨みが牙の如く爪の如く、この身に襲い掛かってくる事だろう。
これまでは、その瞬間をずっと望んでいた。償いを果たすその時に、人生の最期に、心底惚れ込んだあの圧倒的な強さをもう一度だけ感じたい、と。
だが、今の真島の望みは、もうそれではなくなっていた。
あれからもうすぐ丸10年。10年という長い年月を重ねて、その間に色々な事があって、『欲』が募ったのだ。
誰も失いたくない。大切な者達の側で、自分も一緒に生きていきたい。
厚かましい事は百も承知で、それでも今の真島は、そんな『夢』を見ていた。


― 赦してくれや、なぁ、兄弟・・・・・

軽く手を振ってこちらに戻って来ると猛に笑って手を振り返しながら、真島は今もまだなお遠く離れたままの冴島にそう願った。















園内にはまだまだ沢山の動物がいた。精悍なイヌ科の猛獣、まるでぬいぐるみみたいなレッサーパンダ、歩く姿も泳ぐ姿も愛嬌のあるペンギン、次々と見ていくと、もうお昼時になっていた。
丁度今いる鳥類のゾーンの上にベンチがあった筈だから、そこでそろそろお弁当を食べようかと考えたは、猛と一緒に小屋の中の鶴を見ている真島に声を掛けようとした。しかしそれより少し早く、真島の方が先に口を開いた。


「お前、最近勝っちゃんと連絡取ってるか?」
「え・・・?」

突然の質問で少しだけ驚いたが、別に嘘を吐いたり隠す必要は無かった。


「ううん、もう全然。猛が生まれてすぐの頃に会いに来てくれて、それが最後やわ。」
「そうか・・・・・」
「それと、あれ確か丁度2年前やったっけ?あんたと勝っちゃん、店に来たよな?
その時の話は、ゆかりちゃんからチラッとだけ聞いたわ。勝っちゃん、大怪我して俳優引退したんやてな。ほんで、こっちで芸能事務所を作ろうとしてるんやって?」

が質問を返すと、真島もすんなりと頷いた。


「ああ。もう出来たわ、あの年の秋にな。大阪芸能っちゅうプロダクションや。」
「そう。」
「俺もあん時店で会うたっきり、勝っちゃんとは暫く連絡も取ってへんかったんや。お互い仕事が色々立て込んどって忙しかったし、勝っちゃんは自分のリハビリと病気の親っさんの世話もあったから、余計にな。
それがこないだの年末、ようやっと一段落ついたっちゅうて、うちの事務所に来てくれてな。それで随分久しぶりに会うて、色々聞いたんや。」
「勝っちゃん、今どないしてやんの?怪我の具合は?」
「怪我はもうすっかり大丈夫そうやったわ。アクション俳優の現役復帰は無理やけど、後遺症も無いし、日常生活には差し障りないみたいやで。」
「そう・・・。そら不幸中の幸いやったなぁ。」
「あいつ、親っさんの跡を継いで極道になっとったわ。」
「ええっ・・・!?」

父親が極道でも、勝矢本人は喧嘩が嫌いで大人しい性分をしているのに、何故極道になどなったのだろうか?それに、その父親の事も嫌っていた筈なのに。
それを思うと、とてもすぐには信じられなかった。


「事務所の資金繰りの為やと。金だけ寄越せっちゅう訳にはいかんから、親っさんの遺した勝矢組と逢坂興業っちゅう会社を継いだって言うとった。」
「お父さん、亡くなりはったんや・・・・。」
「去年の2月やて。ほんで組も会社も、今は代行が頭を務めてるけど、5年後には勝っちゃんが正式に跡目を継ぐ予定らしい。」
「そう・・・・。」

真島は切なげな微笑みを、小屋の中の鶴に向けた。


「勝っちゃんの背中の紋々なぁ、こいつやったわ。」
「え?こいつって・・・、鶴?」
「せや。見事な出来栄えやった。」
「そう・・・・・」
「兄弟盃、交わしてくれって頼まれたんやけどな、断ったわ。それだけはどうしても出来へんかった。」

どうしてかと訊くまでもなく、断った理由は察しがついた。
悲願だった自分の組を立ち上げて、この人は今、何を思っているのだろうか?
今もまだ、この人の『夢』は変わらないままなのだろうか?
自分達と別れて、美麗とも別れて、たった独りで着々と裏切りの代償となるものを築き上げていっているのだろうか?
思い切って自分から話を切り出してみようかと思った瞬間、猛がの服の裾を引っ張った。


「おかーちゃーん、のどかわいたー。ジューシュのみたいー。」
「えぇ?」
「ジューシュのみたいぃー!」

残念だが、こうなるととても話をするどころではなくなる。は溜息を吐き、猛を窘める事にした。


「もうすぐお弁当食べるから、ジュースは今やめとこ。」
「イーヤーやー!」
「あれ?ワガママ言うてる悪い子は誰かなぁ?お弁当食べたら、お母ちゃん後でアイス買ったげようと思ってたのにな〜。」

ツンとそっぽを向いて『餌』をぶら下げてみると、思った通り、猛はすんなりと食い付いてきた。


「アイシュ?」
「そう、猛の好きなソフトクリーム。でもお弁当食べへん子には買ってあげられへんな〜。」
「あかーん!」
「お、えらいこっちゃ!ほんならまずはお弁当食わんとなぁ!」

状況を察して、真島もさり気なく口添えをしてくれた。
すると猛はパッと顔を輝かせて、その場でピョンピョンと飛び跳ねた。


「タケルおべんとたべるー!はよたべよー!」
「よっしゃ!ほな食べよ食べよ!・・・その階段上がったとこ、ベンチあんねん。そこで食べよか。」
「おう。」

階段を上がってみると、ベンチが幾つか点々と設置されていて、幸いな事に今は他に誰もいなかった。
達はその中でも一番良さそうな場所を陣取ってレジャーシートを敷き、ベンチをテーブル代わりにして、お弁当を広げた。


「うおーっ!美味そやのう!」
「おわぁ〜!おいししょ〜!」

真島と猛は、顔を輝かせて歓声を上げた。そんな二人の反応が、には堪らなく嬉しかった。
そう、こんな時間をずっと夢見ていたのだ。
それが思いがけず叶った事に今更ながら気が付いて、つい胸が熱くなったが、は何とかそれを堪えて真島にお絞りを差し出した。


「遠慮せんと食べて食べて!あ、お握りな、俵が梅で三角が鮭やねん。ほんで小さいやつは猛のやから。」
「おう、おおきに!」
「猛もおてて拭こ。ほら。」

お絞りで手を拭き、箸やお茶を用意すると、お弁当タイムが始まった。


「うん、美味い!お母ちゃんのお弁当美味いなぁ!」
「うん!おいちいー!」
「そう?そら良かったわ。ふふふっ。」

大した物は入っていない。お握り、卵焼き、唐揚げ、タコさんウインナーにミートボール、彩り程度の野菜と、猛の好物ばかりを詰めた、完全なお子様弁当である。しかし真島は、それを美味しそうに食べていた。
猛に食べさせつつ、自分も食べつつ、その様子を盗み見ていると、過ぎてしまった日々への感傷で心が疼いた。
自分が作った物を、この人はいつもこうして美味い美味いと食べてくれて、自分はそれに対していつも密かな喜びを感じていた。そして、こんな日々がいつまでも続く事を望み、きっとそうなると何処か当然のように思ってもいたのだ。
切なさも一緒に噛み締めながらお弁当を食べていると、お腹が膨れて早速にも飽きてきたらしい猛が、食べている真島をまじまじと見つめて、不思議そうな顔で指をさした。


「おめめどーちたん?」
「うん?この目ェか?」

真島の左目は、今日は医療用の白い眼帯で覆われていた。
真島がそれを指すと、猛はウンと頷いた。


「あー・・・、まぁちょっとな。ケガしてしもたんや。」
「コケたん?」
「うん?うん、そうそう、コケてん。」
「ちぃでたぁ?」
「血ぃ?あー、まぁちょっとだけな。」
「いたいたい?」
「いんや、もう全然痛ないで。」
「いたいたいしたら、おくしゅりぬらなあかんでぇ。」

それは、日頃が猛に対して言うような事だった。
自分でも分かる位に口調が一緒で、思わず苦笑いしそうになったが、それは猛を見る真島の優しい眼差しに気付いた瞬間に引っ込んだ。


「・・・そやな、ほなまた塗っとくわ。坊は優しいええ子やなぁ。」

猛に向けられたその優しい微笑みに、まるで人の子に対するように遠慮がちなその呼び方に、の心の中の罪悪感が疼いた。
やはりあの時、この人の望む通りにするべきだったのだろうか?
そうすれば、猛は父親と一緒に暮らす事が出来た。
自分達二人の関係がどうなっていたかは分からないが、別れてからもずっと父親の責任を果たし続けてきたこの人は、少なくとも猛にとって良い父親になっていた筈だった。
自分の判断が間違っていたのだろうか?
自分の誤った判断が、皆の人生を狂わせてしまったのだろうか?
もう何度となく悩んできた事がまた胸の中いっぱいに立ち込めて、折角の夢の一時に暗い影を落とした。


「おかーちゃん、アイシュはぁ?」

それを散らしてくれたのは猛だった。


「アイシュたべよ〜。」
「ええ?もう?ちょっと早くない?」
「アイシュー!」
「もうちょっと後にしようやぁ。今お腹いっぱいごちそうさまって言うたとこやん。」
「タケルもうたべれるー!」

天真爛漫な2歳児の言動には、イライラさせられたり振り回される事も多々あるが、同じ位、いやそれ以上に、心和まされたり救われる事もある。
今更悔やんでもどうしようもない事で、折角の時間を台無しにするのはそれこそ間違っていると気が付いて、は努めて明るく笑った。


「もうちょっとだけ動物さん見てからにしようや、な?まだいっぱい動物さん達おんねんで?みーんな猛の事待ってんのに。猛来てくれへんのかなぁってションボリしてるで?」
「ションボリ?」
「そう。先に会いに行ってあげやんと、もう猛来てくれへんねんわと思ってションボリして、皆おうち帰ってまうわ。」
「あかーん!」
「そやろ?ほなアイスは後にしよな。」
「うん!」

納得させられたまでは良かったが、こうなると、次の行動は決まりきっていた。


「はよいこー!どーぶちゅしゃんたちまってるでぇー!」
「ちょっと待って!まだお母ちゃんお弁当食べてるやん!」

案の定、1分1秒を争うように急かし始めた猛を見て、真島が吹き出した。


「ひひっ、血は争えんのう。」
「え?どういう事?」
「いや・・・、お前も昔、昼飯食うた後すぐにたこ焼き買うたりしとったなぁと思ってな。」
「あ・・・・・」

真島の言っているのが、二人が出逢ったばかりの頃の事だと分かると、懐かしさと共にあの頃の甘酸っぱい感情が蘇ってきた。


「ああ、ふふふっ・・・。何言うてんの、あれはわざと意識してやっとったんや。ガリッガリに痩せてヘロヘロになっとった誰かさんの為にな。」
「その割には、必ず自分も一緒に食うとったような気ィするけどなぁ?」
「そらちょっと位はな。」
「ええー?『ちょっと』やったかぁ?」

久しぶりに思い出した懐かしい記憶が擽ったくて、つい真島と軽口を叩き合っていると、焦れた猛がの肩を揺さぶってきた。


「おかーちゃん、はよたべー!どーぶちゅしゃんたちみにいくでー!」
「あー分かった分かった!ちょっと待ってぇや!」
「坊、もうちょっと待っとってや、な!?弁当全部食うてまわな!」

すっかり次へ行く気満々になっている猛がここで大人しく待っていられるのは、精々あと数分というところだろうか。
どちらからともなく苦笑いを交わしてから、と真島は残り少しの弁当を片付けてしまう事に集中し始めた。

















お弁当を食べ終わり、また階段を下りて少し歩くと、園の中心部に出た。
まるで童話のワンシーンのようにメルヘンチックな時計台が設置されているそこは、記念撮影のスポットとして絶好の場所だった。
まずは猛一人、次にと猛、それから真島と猛で写真を撮ったところで、猛がの持っているカメラに興味を示した。


「タケルもカメラやりたいー。」
「えぇ?何撮んの?」
「おかーちゃんとおめめのおっちゃん。」

猛のその無邪気な要求に、はすぐさま応える事が出来なかった。
真島と二人で写真に納まる事にも、猛の真島に対する呼び方にも、どう言えば良いのか分からなくて。
ふと見ると、真島も同じような心境なのか、困惑したような顔をしてを見ていた。
しかし、親のこんな勝手な都合など、まだ幼い猛に理解出来る訳がないし、理解させようとするのも酷だった。猛は只々大人と同じ事がしてみたいというだけの、無邪気な好奇心から言ったに過ぎないのだから。


「・・・ほんじゃあ、この小さい窓覗いて、お母ちゃん達が真ん中におるように見えたら、『はいチーズ』って言うて、この丸いボタンをパチッと押して。分かった?」
「うん!」

カメラを持たせてやると、猛は小さい手で一丁前にそれを構えた。
一応ちゃんと様になってはいるが、まるで今にもシャッターを押してしまいそうに見えて、と真島は慌てて時計台前のベンチに並んで座り、笑顔を作った。


「はい、いいよー!ちゃんと窓の真ん中にお母ちゃん達おる〜?」
「おるー!」
「ほな『はいチーズ!』して!」
「チージュ!」

猛はシャッターを押した。が、1度では上手くいかなかったらしく、2〜3度グイグイと押して、ようやくパチッと音が聞こえた。


「はーいありがと〜!上手にできたな〜!」
「おおきになぁ!」
「えへへ〜!」

やり遂げて嬉しそうにしている猛を、真島と二人で誉めそやしながらカメラを回収していると、丁度近くを通り掛かった係員がニコニコと笑いながら近付いて来た。


「良かったらシャッター押しましょうか?」
「え?あ、あぁ、ありがとうございます・・・・・!」

善意のサービスに対して、グズグズ迷ったり断るような失礼な真似も出来ず、は係員にカメラを預けた。
猛を間に挟み、三人並んでベンチに座ると、係員はカメラを構えた。


「はい、じゃあいきますよー!はい、チーズ!
もう1枚、タテでいきますねー!はい、チーズ!・・・はーい、OKでーす!」
「どうもありがとうございました!」

にカメラを返した係員は、優しく細めた目で猛を見た。


「ボクお父さんそっくりやね〜!よう似てるわ〜!」

係員にとってはきっとリップサービスですらない、ちょっと思った程度の一言だったのだろう。実際、こちらの返答など全く求める様子も無く、猛に『バイバ〜イ!』と手を振って行ってしまったのだから。
けれども、チラリと盗み見た真島は、戸惑いの表情を浮かべて猛を見つめていた。
この数時間一緒に過ごしてみて、真島が猛に対して一線を引き、何かと遠慮しているのは気付いていたし、彼の心境にもそうする理由にも察しがつく。
しかし真島のその態度は、の罪悪感を掻き立てるばかりだった。
大人達の事情は子供には何の関係も無いし、そもそもこの人は、当たり前のように猛を一緒に育てていこうとしてくれていたのだから。


「・・・よう言われんねん。」
「え・・・・?」
「お母ちゃんらにもゆかりちゃんらにも、猛はあんたに瓜二つやてよう言われるし、自分でも思うわ。悔しいけど、猛は紛れもなくあんた似や。お腹痛めてどえらい目に遭いながら産んだのは私やのにな。」

真島は正真正銘、猛の父親だ。
何があろうがその事実は変わらないし、変に遠慮する必要も無い。
素直には言い難いそれをそれとなく伝えたくて、わざとらしく苦い顔をして軽口を叩くと、真島はぎこちないはにかみ笑いを浮かべた。


「・・・そら・・・、えらいすまんなぁ・・・。ひひっ・・・。」
「ホンマやで、割に合わへんわぁ。ふふっ・・・・・。」

お互いにギクシャクと笑い合っていると、二人の足元で猛がまたカメラを寄越せと騒ぎ始めた。


「もっかいやる〜!」
「え〜!?もうええてぇ!同じ場所でばっかり撮ってもしゃーないやん!」
「よっしゃ、ほなまた違う場所で撮ろうや、な!?行こ行こ!」

丁度園の左半分を回り終えたところで、次に目指すは右半分だった。
猛をここに連れて来たのは今日が初めてではないが、これまではいつも左右どちらかを回ったところで力尽きて眠ってしまい、撤収していたので、ぐるりと1周回れた事は今まで無かった。
猛の機嫌は今のところ悪くはないが、今日こそは全部回れるだろうか?ひとまずは大人しくカメラを諦めてくれた猛を連れて、と真島はまた歩き始めた。
まずは動物園の代表格とも言えるゾウを見に行き、そこを抜けると、次はクマとホッキョクグマの並ぶエリアに向かった。


「おわぁ〜っ!おかーちゃん、シローちゃんやぁ!シローちゃんおったぁ!」

氷原を模したゾーンの中を歩き回っている白い熊を見て、猛は嬉しそうな歓声を上げた。


「ああ〜!ホンマやなぁ〜!シローちゃんやわ!」
「うん?シローちゃん?」

ホッキョクグマの名前や生態などが書かれている展示パネルを見ながら、真島が怪訝そうに首を捻った。確かに、ここにいるホッキョクグマの名前はシローではない。その名前は、の家にいる白熊のものだった。


「この熊の事とちゃうねん。うちにある白いクマのぬいぐるみの事。」
「ああ、何や、ぬいぐるみな・・・」

納得したように笑いかけた真島は、次の瞬間、ハッとした顔をに向けた。
どうやら忘れてはいないようだった。


「・・・そうや。猛がお腹におる時にあんたがくれた、あのぬいぐるみや。」
「・・・まだ・・・、持っとったんか・・・・・。」
「猛のお気に入りやから。」

あのぬいぐるみは猛のものだが、名前を付けたのはで、それも割と最近の事だった。
2歳を回って一段と知恵がつき、話せるようになってきた猛が、生まれた時からずっと側にいる白いテディベアの名前をある日突然知りたがったのが、名前を付けたきっかけだった。
特に何も考えず、思い付くまま安直に、白い熊だからシロ、と口にしかけて、ふと昔の事を思い出したのだ。甘い恋の思い出を。
多分、只の偶然だろう。でももしかしたら、真島も覚えていたのだろうか?
もはや答えを確かめようもないその些細な謎もまた、の罪悪感を募らせる要素となっていた。


「・・・・・そうか・・・・・」

あの時の私の決断は間違っていたのかなんて、今更訊く訳にはいかなかった。
そんな事を口にしたら、真島も、猛も、その『間違い』にいたずらに振り回されただけになってしまう。
だから、この胸の内は決して見せずに、真島の言動から彼の真意を汲み取るしか、自分の気持ちに整理をつける術は無かった。


「・・・お!あそこ売店あるわ!坊、アイス食おか!」
「たべるー!」

しかし、真島はやはり何も話してくれないまま、ただ楽しそうに猛に笑いかけるばかりだった。


「・・・行こや。」
「・・・うん。」

そして、ただ穏やかに、に微笑みかけるばかりだった。

















売店でソフトクリームを食べた後は、アシカのプールを見に行った。
1回100円で餌やりが出来たので猛にやらせてやると、大層楽しかったらしく、大喜びの大はしゃぎだった。
そこまでは良かったのだが。


「もっかいやるー!」
「だからもうご飯売り切れって言うてるやん!アシカさんお腹いっぱい!また今度!」

『お替り』を要求するも、餌が売り切れてしまった為にそれが通らず、猛が駄々をこね始めたのである。
よほど楽しかったのか、母親に何度同じ事を説明されても猛は納得せず、の方も次第に険しい顔になってきて、イライラし始めているのがはっきりと見て取れた。
一緒に暮らして育てている訳でもないのに、出しゃばった真似をしてはいけない事は分かっているが、真島としては何とかこの場を丸く収めたいところだった。
何かないかと辺りを見回してみると、うまい具合に良いものがすぐ近くにあった。
そびえ立つ巨大なキリンのテント、ゴトゴトと揺れている色々な乗り物、線路をのんびりと走っているカラフルな汽車。そう、丁度猛ぐらいの幼児向けの遊具エリアである。これなら猛の機嫌も一発で直るに違いなかった。


「おっ!見てみ坊!あんなとこに汽車走っとんで!あれ乗りに行こか!?」

おどけて明るく大きな声を出してみると、半べそで駄々をこねていた猛は、真島の指さす方を見て一瞬ポカンとなり、すぐさま顔を輝かせた。


「のるーっ!のるーっ!」
「よっしゃ!ほな行こ!」

ピョンピョン飛び跳ねる猛に手を差し出すと、猛はその小さな手で真島の指を2本ばかりギュッと握った。


「ちょっとあれ乗ってくるわ!」
「あ・・・、じゃあ荷物持ってるわ・・・!」
「おお、頼むわ!」

軽くなったトートバッグをに預けてから、真島は猛を遊具エリアへと連れて行った。
汽車に乗るには一応券売機でチケットを買わないといけなかったが、果たしてその必要があるのかと思う位ガラガラに空いており、すぐさますんなりと乗る事が出来た。


「おわぁ〜!」
「どや坊?おもろいか?」
「うん!」

幼児用の乗り物なので、人より背の高い真島には大層窮屈だったが、その窮屈ささえも喜びだった。真島の膝の間にすっぽりと挟まるようにして座っている猛は、真島を警戒する事も拒絶する事もなく、無邪気に楽しんでいた。
その様子が愛しくて、もっと見ていたくて、真島は猛にせがまれるまま何度も汽車に乗った。乗り場の所から手を振ってカメラを向けてくるに、猛と二人で笑って手を振り返すのを、何度も何度も繰り返した。


「もっかいのりたいーっ!」

さすがに何回目かで名残を惜しみつつ切り上げると、猛はまたも駄々をこね始めた。


「もうあかん!何回乗ってんの!今日はもうおしまい!」
「いーやーやー!」
「さっきからワガママばっかり言うてるなぁ!そんなんやったらもう連れて来ぇへんで!」
「いーやーやーっ!ビエエエエーッ!」

とうとう母親にガツンと叱られた猛は、盛大に泣き出してしまった。
しかし、真島にはどうする事も出来なかった。銭金の問題ならば、気にするなの一言で簡単に解決がつくのだが、が怒っているのは躾の為なのが明白なので、下手な口出しは勿論、これ以上物やおやつで釣って安易に機嫌を取ろうとするのも憚られた。
他には何かないだろうかと内心焦りながら園内マップを見てみると、まだ見に行っていないゾーンがちらほらと残っていた。その中でも比較的幼児の興味を惹きそうなのは、コアラだろうか?それに、そこへ行く道中には猿のゾーンもある。これだと思った真島は、ギャンギャン泣き喚いている猛の気を惹く為に、またおどけた声を張り上げた。


「うおっ!しもたー!おさるとコアラ見に行くの忘れとったわー!えらいこっちゃ!」

その演技が幸いにも通じて、猛は泣きべそ顔をキョトンとさせて真島を見た。


「おさるとコアラ見に行こや、な?ほれ!」

自分でもそれと意識しない内に、真島は猛に向かって腕を広げていた。
すると猛は、まだヒックヒックとしゃくり上げながらも、真島に向かって両腕を上げた。


「よーっしゃ来い・・・!」

抱き上げた猛は、ズシリと重かった。
生まれた日に感じた重みとは比べものにならない程、重かった。
首にギュッとしがみついてくる猛をしっかり抱きしめると、あの夜の事を思い出して、もしも叶うならあの夜に戻りたいと思った。
あの夜に戻って、一時の幸せに浸って現実逃避していた己に、二人の側を決して離れるなと言ってやりたかった。


「・・・行こか。」
「うん・・・。」

後悔に疼く心をひた隠して、真島はを促し、ゆっくりと歩き始めた。


「・・・ほたえ過ぎやねん。」
「うん?」
「猛。よっぽど楽しかったんやろうなぁ。ほたえ過ぎて、ほんで疲れてグズグズ言うてるのもあるねん。」

苦笑いで猛を一瞥するの眼差しは、限りなく優しかった。


「実はな、今までにも2〜3回ここ来てんねんけど、いっつも半周回ったところで力尽きてリタイアしててん。今日はいけそうやな〜と思っててんけど、もう一歩ってとこやな、ふふっ。」

確かにの言う通りだった。今さっきまで大はしゃぎして大泣きしていた猛が、いつの間にかすっかり大人しくなっていた。
真島の肩にグシグシと何度か顔を擦り付けたきり、うんともすんとも言わずじっとしている。疲れているのが明らかな様子だった。
やがて、一番近くにあったチンパンジーのゾーンに辿り着いてみると。


「猛ー、ほら見て、チンパンジーおるでぇ・・・って、寝てるわ・・・。」
「あん?・・・ホンマや・・・。」

猛はいつの間にか眠っていた。呼び掛けにも応えず、腕や頬をツンツンとつつかれても、全く起きる気配が無かった。


「・・・どうする?サルとコアラ、見たい・・・?」
「いや、別に・・・。お前は?」
「いや、私も別に・・・。」

テンション低く呟き合うと、どちらからともなく笑いが洩れた。


「ほな、ちょっと休憩しよか。」
「おう、そやな。」

チンパンジーのゾーンを抜けると、近くにベンチがあった。


「そこ座ろか。先行ってて、何か飲み物買うてくるわ。何が良い?」
「ああ、ほなコーヒーでも。」
「分かった。」

真島は猛を抱いて一足先にベンチへ向かい、がすぐ側の自動販売機で飲み物を買って戻って来るのを待った。
程なくして2本の缶コーヒーを手に戻って来たは、荷物を下ろして真島の方に腕を伸ばした。


「ありがとう、抱っこ代わるわ。」
「いや、大丈夫や。」
「でも重たいやろ?そのままやったら一服も出来ひんし。」
「ええねん。このままでおらせてくれ。」

の気遣いは有り難かったが、まだもう暫く、このままでいたかった。
我が子の温もりと重みを、出来るだけ長く感じていたかった。


「・・・じゃあ・・・、お願い・・・・・。」

ぎこちなくはにかんだは、ふと何かに気付いたような顔をしてバッグの中からタオルを取り出し、それで真島の肩を拭いた。


「あん?」
「猛のヨダレ・・・!ごめん、めっちゃ垂れてる・・・!」

そう言われても、何も気にならなかった。


「ええ。構へん。」

真島は猛を横抱きに抱え直し、ベンチに座った。
真島の腕の中で、猛はぐっすりと眠っていた。
ちょっと口を開いて、すっかり安心しきったように寝こけているあどけないその顔を見ていると、胸がじんわりと温まるような、とても穏やかで優しい気持ちになれた。


「・・・コーヒー、ここ置いとくな。」

真島の右側に、が開けた缶コーヒーをそっと置いてくれた。


「おう、おおきに。」

さっきまでワーワーと賑やかにしていたのが嘘のように、静かな空気が流れていた。
話を切り出すには絶好の、いや、今が唯一のタイミングなのだろう。
だが、いざとなると言葉が胸につかえた。
今日一日が夢のように楽しく、幸せだっただけに、下手をすれば次を望めるどころか、今日の事さえ台無しにしてしまうかも知れない。
それを思うとどんどん考え込んでしまって、うまく言葉が出てこなかった。


















缶コーヒーを一口飲んだきり、真島は何も言わないままだった。
ようやく話が出来る状況になったのに、このままお互いだんまりで時間を潰すのは、無駄以外の何物でもなかった。


「組の方はどう?立ち上げて1年ちょっとってとこやろ?少しは落ち着いた?」

は意を決して自分から話しかけた。
とは言え、会話の糸口を作るのが精一杯で、いきなり核心を突くような事はとても訊けなかったが。


「ああ、まぁボチボチな。とりあえず今んところはこれといった問題も無く、何とかやってるわ。」
「そう、そら良かった。」
「お前は?新しい仕事、どないや?」
「まぁボチボチかな。毎日バタバタしてるけど、何とかやってるわ。」
「そうか。」

真島はもう一口コーヒーを飲むと、遠慮がちに口を開いた。


「・・・店、ゆかりちゃんに譲ったて言うとったやろ。後悔はしてへんのか?」

『クラブ パニエ』を手放したのは、自分と猛の先々の為と、何より、深く傷付いた心で、真島との思い出が沢山詰まったあの店を続けていく自信が持てなかった為だった。
自分と家族にとって大事な大事な食い扶持、命綱も同然である事は百も承知の上で、それでも自分個人の感情の方が勝ってしまったのだ。
ただ、それをするからには、あの店を構えた時と同じく、いやそれ以上に、失敗も後悔も決して許されなかった。
自分と家族ばかりか、店の従業員達まで巻き込む大事になるのだから、よくよく考えて慎重に慎重に事を進めなければならなかったし、実際にそうした。だから、店の事に関しては何の心残りも無かった。


「後悔なんかしてへん。ゆかりちゃんは長いことようやってくれてたし、信用もしてるし。
でも、最初は迷っててん。完全な代替わりとなると、権利の売買とかその後の資金繰りとか、お金の問題もついて回るから。
だから、もしゆかりちゃんが乗り気やなかったら、親しく付き合いしてた同業者の内の誰かにお願いしようかとも思っててんけど、ゆかりちゃんに相談したら、それやったら是非自分が譲り受けたいて言うてくれて。
ほんで、1年かけて店の売上から譲渡金を分割払いで貰って、完全に譲り渡した。
実家への仕送りも、それで何とか目処がついたわ。康二と秋恵ももうあと1年で卒業やし、私にも猛がおるから、もうこれ以上は世話になられへんて皆にも言われたし、私も出来へんて言うた。」

今更聞かせる話ではないだろうかと迷いつつも話したのは、真島に対する義理だった。
支配人として店の経営に長らく尽力してくれていた事や、身内の者に対しても折に触れて気に掛けてくれていた事を考えると、やはり報告はしておこうかという気になったのだ。


「そうか・・・。お袋さんら、皆元気か?」
「うん。お母ちゃんもパートしてまずまず元気にやってるし、陽一もあの板前の仕事ずっと続けてるし、康二と秋恵はこの春に大学4年と美容学校の2年で、いよいよ就職活動するし。皆元気で、それぞれ頑張ってる。」
「そうか、なら良かった。そやけど、やっぱりお前の支えが大きかった筈やで。俺が言う事ちゃうやろうけど、長いことよう頑張ったな。」

優しい声でそんな事を言われると、つい胸が詰まりそうになったが、はそれをどうにか堪えて微笑み、ありがと、と言葉少なに応えた。
それっきり、会話はまた途絶えてしまった。
あとひとつ、一番大事な話が残っているのに、それを分かっている筈なのに、なかなか切り出そうとしない真島の態度がもどかしくて堪らなかった。
今まで隠してきただけでも不義理なのに、この期に及んでこの人はどうして何も言わないのかとじれったくなって、はハッと気付いた。言わないのではなく、言えないのではないか?と。
今日一日通して見えていた、この人の遠慮がちな態度からすると、このまま言わずに済ませる気ではなく、言うつもりはあるが気後れして言うに言えない状態に陥っているのかも知れなかった。
何から何までこちらがきっかけを作ってやらないといけないのは癪に障るが、かと言ってこのまま意地を張り続けていては、何も聞けず終いになってしまうかも知れない。それが一番最悪のパターンで、それだけは絶対に避けたいところだった。


「・・・・美麗ちゃんは?元気?」

ここは意地を張っている場合ではない。
は自分にそう言い聞かせると、精一杯の演技で平静を装って話を切り出した。


「・・・・実は、離婚したんや。」

やがて、少しの沈黙の後、真島はすんなりとそう答えた。
どうやら思った通り、自分からはどうしても切り出せなかっただけのようだった。


「・・・いつ?」
「確か、一昨年の7月・・・、いや、ギリギリ6月やったか。」
「一昨年の6月・・・・」
「せや、たった半年程度しかもたんかった。」

真島の言うその時期や期間は、美麗の手紙に書いてあったそれらと一致していた。
だが本当に知りたいのは、結婚や離婚に至った真相と真島の真意だった。
真相は、美麗が手紙に書いて寄越した事と、真島の言う事が一致するかどうかで判断するしかない。そして真島の真意は、彼が何をどう語るか、それで判断するしかない。翳りを帯びた真島の横顔を、はじっと見つめた。


「・・・・何で別れたん?」
「話せば長くなるんやが、引き金になったんは、アイツが俺に黙って勝手に子供を堕ろした事やった。」

そこに浮かぶものを決して見逃すまい、たとえそれが嘘や偽りだったとしても、決して見逃すまい、と。


「アイツが妊娠してると判った時、俺は今度こそと期待してしもた。今度こそ自分の子供を持てる、今度こそ自分の家族が出来る、ってな。
そやから俺は、怒り狂ってアイツの身勝手さを責めた。殴りもしたわ。何の罪もない我が子を殺してまで、自分がスターになる事しか考えてへんかったアイツが許せんかった。
そやけど、よう考えてみたら、勝手なんは俺も一緒やったと気が付いたんや。」

真島はその物悲しげな右目で、少し遠くを見ているようだった。


「アイツは元々スターになる事だけを考えとったし、俺はそんなアイツの夢を支えてやる為に結婚した。
そやのに俺はいつの間にか、俺との暮らしなんぞそっちのけで、ホンマに自分の夢の事しか考えとらんアイツに不満を持つようになっとったし、子供が出来たと判ると、当たり前のようにその子が生まれてくるもんやと信じて、これからちゃんとアイツと向き合って、ホンマの夫婦、ホンマの家族になっていこうなんて思とった。」

真島の語るその話は、の両親の過去に似ていた。
最初から最後まで自分の夢だけを追い求めていた実父と、そんな亭主に献身的に尽くしたものの、現実の苦労と報われない辛さに次第に負けていった母親の、若かりし頃の話に。


「なれる訳がないのにな。それは全部俺の独りよがりで、アイツが考えとったんは終始、自分がスターになって、実の親や里親や周りの奴らを皆見返してやる事だけやったのに。
知らず知らず考えが変わっていってたのは俺の方で、アイツは結婚した時から、いや、多分ガキの頃から、何一つ変わっとらんかったのに。」

真島は物悲しげな眼差しを遠くに向けたまま、自嘲のような笑みを薄く浮かべた。
その切ない横顔を見ていると、これから自分がしようとしている事が酷く意地悪に思えて気が咎めたが、それをしない事には自分が前に進めない。は心を鬼にして、平静を装い続けた。


「・・・・夢を支えてあげる為に結婚したってどういう事?あんた前に電話で、結婚したのには事情があったって言いかけとったけど、それって具体的に何やったん?」
「オーディションに受かって、あるアイドル事務所に所属してデビュー出来るとなったんやが、アイツは未成年やったから、その所属契約に親の同意が必要やったんや。それも、書類にサインするだけやのうて、契約の場にも同席せなあかんかった。
そやけど、アイツの里親はそれを詐欺やと決めてかかって、取り付く島も無かった。
そうかと言うて、事務所にはオーディションの時点でもう家族構成を知られとったから、俺が身内のふりして行く事も出来んかった。
そやから、正式に結婚して今後の責任は全部俺が負うと約束して、結婚の支度金っちゅう名目で金も払ろて、里親に何とか契約の同意を頼み込んだんや。」
「・・・・そう、そういう事やったんやな。でもそれなら、何で子供が出来たん?
あの子が必死になってアイドルを目指してたんは私かて知ってるし、実際に一時期はえらい売れて、TVとかバンバン出てたやんか。
あの子は子供なんか欲しがってなかったんとちゃうの?そやのに何で作ったん?」

残酷なのを百も承知でわざとそう訊くと、真島の横顔に漂う憂いが一際濃くなった。


「・・・・作ろうと思って・・・・出来たんとちゃう・・・・」
「それどういう意味?私との時と一緒やったって事?」
「ちゃう・・・・。こんなんお前に言うて、信じて貰えるかどうかは分からんけど・・・・、アイツ、何人も相手に枕しとったんや。そやから、そもそも誰の子やったんかも分からんかった。本人さえもな・・・・。」

真島の古傷を抉ったのは自分なのに、その痛みにじっと耐えている彼の顔を見ている事が、辛くて堪らなかった。


「・・・・ごめん。私、あんたの事騙してた。」
「騙す・・・・?そら、どういう事や・・・?」
「私、ホンマはとっくに全部知ってた。」

唖然としている真島に、は本当の事を白状し始めた。


「一昨年の秋に美麗ちゃんから手紙が来てん。それに全部書いてあったわ。
あんたらが付き合い出したきっかけも、結婚と離婚の事も、枕営業してた事や、子供の父親が誰か分からんかった事も。
それに、離婚した後の事も色々書いてあったわ。
事務所に全部バレて、相当叩かれて干された挙句、クビになって芸能界からも引退させられて、その上更に、闇医者で無理な手術をした後遺症で、子供が出来へん身体にもなったって。」

の話を聞き終えると、真島は気が抜けたように小さく笑った。


「・・・・ほな、俺が一番最後やったって訳か。」
「え・・・?」
「引退の事とか、闇医者や身体の事とか、俺が知ったんはつい最近なんや。去年の年末、勝っちゃんに会うた時に聞かされて、初めて知った。」
「手紙の最後に、これから一人で東京を離れて遠くへ行くって書いてあったけど、あの子今どこにおんの?」
「知らん。」
「離婚してから全然会うてへんの?連絡は?」
「一遍も会うてへんし、向こうから連絡も無い。勝っちゃんとは繋がりあるみたいやけど、俺には関係無い。俺はもうこの先二度とアイツには関わらへん。」

真島は落ち着いた表情で、淡々とそう言い切った。


「アイツの夢に対する執念は、それはそれは凄まじいもんやった。今になって考えてみたら、アイツならきっと、どんな手を使こてでもデビューのチャンスを掴んだやろうと思う。
それやのに俺は、アイツの事を何も分かっとらんくせして、アイツを支えて夢を叶えさせてやれるのは俺しかおらんと思い込んどった。昔、佐川はんがお前を家族ごと救い上げたように、俺も同じ事が出来ると思い上がっとった。」

思わず息を呑むと、真島と目が合った。


「お前が佐川はんの事を恨みながらもずっと感謝しとったように、俺もアイツに想て貰えるもんやと、アイツにとって救世主みたいな特別な存在になれるもんやと、心のどっかで期待しとったんやろうな。
それでお前や猛と別れた寂しさを埋めて、自分の心を満たそうとしとった。
それをアイツに対する愛情やと、自分に思い込ませとったんや。」

それが、この人の真意なのだろうか?
昔と何も変わらない優しいその眼差しを、昔のように心から信じて良いのだろうか?信じるべきなのだろうか?


「・・・そやけど結果はこのザマや。俺のやった事はぜーんぶ無駄やった。何もかも全部空回りして、無駄に終わったわ。
罰が当たったんやろうな。猛に何一つ父親らしい事をしてやってないのに、今度こそ・・・、なんて手前勝手な事を考えたから。」

先に視線を逸らしたのは、真島の方だった。
真島はその優しい眼差しを、今度は猛の寝顔に向けて微笑んだ。


「・・・・そうやろか・・・・」

真島のその寂しげな微笑みが、の胸を痛い程に締めつけた。
もう、認めない訳にはいかなかった。
ずっと気持ちの整理がつかなかったのは、自分自身、ずっと後悔していたからだと。
幾ら後悔したところで、もう取り返しがつかないから、どうする事も出来なかっただけだと。


「そない言うけど、あんた今まで一度だって猛の養育費を滞らせた事なかったわ。それは『父親らしい事』とちゃうの?あんたにとっては単なる『例のアレ』かも知らんけど。」
「例のアレ?」
「男のプライド。」

後悔に泣く心をひた隠してにんまりと笑いかけると、真島は苦笑いを零した。


「・・・でも、たとえそうやとしても、それは猛にとっては紛れもなく父親からの気持ちや。父親が自分の事を忘れずに、無かった事にせずに、ずっと気に掛けてくれてる、そう思える根拠になる。
それに、デビューのチャンスを掴んだ時の美麗ちゃんにとっても、頼れる人はあんただけやったんや。もしそのチャンスを逃してたら、その後またチャンスを掴めたかどうか、そんな事誰にも分からん。
確かなんは、その時あんたが自分の幸せも顧みずに献身的にあの子を支えたお陰で、あの子はアイドルになれて、たとえほんの一瞬でも夢を叶えられたって事や。そやろ?」

あの時、別れなければ良かった。
そんな事を、どうして今更言えるだろうか?
今更そんな事を口にすれば、猛との時間を失い、美麗との事で深く傷付いたこの人を、更に傷付ける事になる。全て無駄だったと自嘲するこの人に、とどめを刺す事になる。
そして、取り返しのつかない後悔に咽ぶ自分にとっても、浮かぶ瀬がなくなる。
だから、今のに言える事は、慰めの言葉だけだった。
たとえ本人がどう思おうが、真島は紛れもなく猛の父親であるし、美麗にとっても間違いなく特別な存在だった。その客観的な事実を伝えて、彼がせめてこれ以上自分を責めないように、苦しまないように、願う事しか出来なかった。


「無駄なんかじゃない。十分意味はあったんや。何もかも全部否定してもうたら、まるっきしアホみたいやんか、あんたも私も。」
「・・・・・・・・・・」

真島に微笑みかけたその瞬間、間もなくの閉園を告げる園内アナウンスが流れた。




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後書き

龍5エピソード妄想に並び、この辺りもずっと書きたいと思っていたシーンです。
この回から次回に渡っての内容が、今作を考え始めた頃からずっと妄想していて形にするのを長らく楽しみにしていた部分なので、書くのは凄い楽しかったんですが、楽しみすぎて収拾つけるのが大変で、難航しました(笑)。
これでも何とかまとめたんです、すんごい長くなりましたけど(汗)。

話は変わりますが、私は遊園地か動物園かと言うと、断然動物園派です。
文中の動物園には、もう何度も行っています。
近年はあっちこっちお直しが始まって、ちょっと綺麗になってきていますが、私はむしろ小汚いのが好きでして。
いや、そう言うと語弊がありますね(笑)。古い園なので、昔から変わっていないものが沢山あるんですが、それを見てノスタルジーに浸るのが好きなんです。
動物の飼育環境については、安全で快適な方向に改善されていって欲しいとは思いますが、差し支えないようなものは、出来ればそのまま置いといて欲しいなぁと思う次第であります。

そうそう、昔は園の周辺道路にブルーシート・ハウスが軒を連ねていて、何かもうワケの分からんガラクタとか売ってる怪しい露店やら、とんでもない爆音を轟かせているカラオケ屋とかもありましたっけ。
中も動物園やけど、外もある意味・・・、みたいな感じでしたねぇ(笑)。