夢の貌 ― ゆめのかたち ― 15




昼間のうだるような暑さの余韻がまだ残る夜の神室町を、真島は独り、酔いどれながらフラフラと彷徨い歩いていた。
目的などは何も無い。強いて言えば、空虚な時間を潰す為だった。
誰かを誘おうという考えも無かった。むしろ、誰にも会いたくない位だった。
一時気が紛れるのは、仕事をしている時と寝くたばっている時、それと、こうしてへべれけに酔っている時だけ。だから真島はこのところ、ほぼ毎夜のように酒に溺れていた。
キャバレー、キャバクラ、ピンサロ、こんな気分の時に男が逃げ込む店ならそこら中にごまんとある。だが、裏の裏まで知り尽くし、美しい夜の蝶達のすっぴんすら見慣れている店側の男にとっては、そういう類の店は浮世の憂さを忘れられる夢の楽園どころか、現実丸出しの職場でしかない。男の夢の園で酔えなくなってしまった憐れな男が思いっきり酔っ払うには、裏も表もないようなしけた店に転がり込むしかなかった。
今夜も狭くて小汚い居酒屋で、しこたま飲んできたところだった。
酔いに任せてもつれる足取りでフラフラと街を歩いていると、誰かと肩がぶつかった。


「痛ってーなコラ!どこ見て歩いてやがんだテメェ!」
「フラフラ歩いてんじゃねーよヤー公が!詫び入れろよ!」
「慰謝料払えや慰謝料!」
「シカトしてんじゃねーぞこの眼帯野郎!もう片っぽの目も潰してやろーか!?」

夜の神室町には、そこら中に喧嘩の火種が散らばっている。たらふく飲み溜めてきた大量のガソリンを消費する為に、それらを適当に拾って遊ぶ。
だが、気が晴れるのはその時一瞬限りの事で、後からまたどっと虚しさが押し寄せてくるのだった。


「も、もう勘弁して下さい・・・・」
「す、すんませんでした・・・・・」
「うげぇぇ・・・・!」
「ひっ、ひえぇぇ・・・・!」

虚しさに押し流されるようにして、真島はまたフラフラと歩き出した。
色とりどりのけばけばしいネオンの光が、ぼやけた視界に滲んでいる。派手に暴れたせいで酔いが回ってしまったのだろうか、急に逆流感を覚えて、咄嗟にビルとビルの間の細い路地に入り込み、その場に吐いた。そうして出るものを出し尽くしてしまうと、路地を出てまたフラフラと歩き始めた。
もう幾夜も飲んで、飲んで、飲み潰れて、流石にこれが限界かも知れなかった。
虚しさに押し流されて歩いている内に、気が付くといつの間にか家路を辿っていた。
もう何もかも忘れて、泥のように眠ってしまいたい。真島は身体を引き摺るようにして歩き、自宅マンションまで帰り着いた。
すると、そこに人影が見えた。へべれけに酔ってはいるが、その華奢な人影にふとデジャヴを感じた。


「・・・・やっと帰って来た。」
「・・・・美麗ちゃん・・・・」

真島の目の前に美麗がいた。
美麗に会うのは2月のあの夜以来だった。あれから以降は会うどころか連絡も無く、自分は完全に彼女に嫌われた、もう友情は終わったのだと思っていた。
それが今、どういう訳か目の前にいる。厳しい表情で自分をじっと見ている美麗に、真島はヘラヘラと笑うしかなかった。


「へっ・・・、久しぶりやのう。何や、こないな夜中にどないしてん。女の子がこんな遅うに一人でこないなとこおったらあかんでぇ。」
「今日久しぶりに、さんから手紙が来た。」

一瞬、顔が引き攣ったのが、自分でも分かった。


「赤ちゃん、無事に生まれたんだってね。」
「・・・・ああ・・・・」

からの手紙は、何日か前に真島の元にも届いていた。
手紙の内容は、出産時に駆けつけた事への礼と、退院や諸々の手続きが無事滞りなく終わったという報告で、猛の写真が1枚同封されていた。あの時病院で撮った記念写真ではなく、退院後に家で撮ったのであろう物が。


「男の子なんだってね。名前、猛君っていうんでしょ。」
「・・・・ああ・・・・」

温かい自分の家族。それもまた、どうしても諦めきれない夢だった。
だから、頼まれた訳でもないのに赤ん坊の名前を考えた。憧れを抑えきれなくて、つい考えずにはいられなかった。賭けに負けてもなお、願わくばという一抹の希望を捨てきれなかった。
その願いも空しく、の気持ちを変える事は遂に叶わず、そんな手前勝手は通る訳がないと流石に諦めかけたが、それでも往生際悪くの優しさにつけ込むようにして、結局、その名前を押し付けたのだ。
何処までも我儘を貫いた己の身勝手さに、今更ながらほとほと呆れ果てていた。


「会いに行ったの?」
「・・・・ああ・・・・」

会いに行ったのは、猛が生まれたあの時だけだった。
手紙の末尾には、会いたい時には遠慮なくいつでも会ってあげて下さいと書かれていたが、それを真に受けてノコノコと何度も会いに行く事など、どうして出来るだろうか。
の夢を叶えてやれもしないのに、よりを戻したいなどと、どの口が言えようか。
猛が生まれた七夕の夜の、あの不思議で優しい夢のような一時は、その後時間が経つにつれて、真島をじわじわと責め苛むようになっていた。
連日酒浸りになっているのは、あの時感じた幸せの代償かのように押し寄せてくる何倍もの苦しみから逃れたいが為だった。
から送られてきた写真に写っているのは、ぐっすりと眠っている猛だけで、そこにの姿は無い。
それが現実なのだ。あの幸せだった夜をどれだけ夢に見ても、目覚めた時に突き付けられるのは、『別離』という悲しい現実だった。


「・・・・何や、ほんで何が言いたいねん?こないな時間に、わざわざおめでとう言いに来てくれたんか?」

今頃になって噛み締めているその悲しみを美麗に悟られたくなくて、苦しみに喘いでいるこの情けないザマを見られたくなくて、真島は斜に構えて笑って見せた。


「それやったら相手が違うで。俺やのうてに言うたってくれや。」

があれだけ涙ながらに懇願した事を聞き入れていれば、こんな悲しみを味わう事はなかった。やはり自分が間違っていたのだろうか?確かにの言う通り、全ては何の保証も無い事なのに。
そんな堂々巡りの葛藤が、あれからずっと真島の頭の中に渦巻いていた。どれだけ強い酒に酔おうとも、それが消えた試しは無かった。


「違うわ。あたしそんな事しに来たんじゃない。」
「ほな何やねん?」
「確かめに来たの。吾朗さんがあの時言ってた事。」
「あん?」
「夢・・・、実現出来たの?」

美麗のその厳しい眼差しは、本来ならから向けられるべきものだった。
手が届くかどうか分からないものを追いかけて、確実に手にしていたものを失うなんて、とんだ大馬鹿野郎だ。あれから何度、そうして己を蔑んだだろうか。


「・・・・これが実現出来たように見えるか?」

真島は自嘲しながらそう答えた。


「何や、こないだの仕返しか?いけずやのう。って、そらお互い様か。
まあ見ての通りや。人には偉そうな事言うといて、自分はこのザマ・・・、へへっ、アホみたいやろ?
結局、元の木阿弥や。俺は結局相変わらずの、惨めったらしい下っ端のまんまや。美麗ちゃんの言う通り、只の社会のダニや。そらこんな奴がオトンやなんて子供も嫌やわな、ヒヒヒッ。」
「・・・・さんがそう言ったの?」

グラグラと揺れている頭の中に、の顔が朧げに浮かんできそうになった。
逢いたい、けれども逢えない、愛しいその顔を思い出したくなくて、無理矢理意識の底へ押し込もうとした時、また吐き気が込み上げてきた。
こんな若い娘の眼前にこれ以上みっともない醜態を晒す訳にはいかないという年上男の意地だけでそれを堪え、真島は急いで自宅に帰り、すぐさまトイレに駆け込んだ。
それから暫くしてようやく落ち着くと、酔いが幾らか醒めていた。
吐き気を堪えるのに必死で、美麗をあのままほったらかしてきてしまった事にようやく思い至り、そういえば美麗はどうしただろうかと考えながらトイレを出ると、すぐ側に美麗が立っていて、水の入ったグラスを無言のまま真島に差し出してきた。
相変わらずの厳しい表情だが、そこに幾らか同情が混ざっているように見えるのは、多分気のせいではない。今頃大人としての体裁を取り繕ってももう遅いが、それでも恥ずかし紛れにそうせずにはいられず、真島は平気なふりをして一旦そのグラスを断り、洗面所で口をゆすいで顔や手を洗ってから、改めて受け取った。


「・・・・・おおきに。すまんかったな、面倒かけて。」

水を飲むと、更にもう少しだけ酔いが醒めてきた。
そう、酔っていたのだ。
全てをそのせいにして、流してしまうつもりだった。
だらしないところを見せた事も、情けない泣き言を垂れた事も。


「もう大分遅いし、早よ帰らな。タクシーで送るわ。さ、行こか。」

真島は素知らぬ顔をして、さり気なく美麗を促した。
だが美麗は、その場を動こうとはしなかった。


「・・・・帰らない・・・・・」
「え・・・・・?」
「あたし帰らない。帰れないよ。」

美麗は真島の顔をまっすぐに見つめた。


「こんなになってる吾朗さんをほっといて帰れる訳ないじゃない。痛々しくて、見てらんない・・・・。」
「・・・・美麗ちゃん・・・・」

その強い眼差しに呆然としていると、美麗はゆっくりとしなだれかかるようにして真島の胸に頬を寄せ、背中に腕を回して真島を抱きしめた。


「・・・・抱いて・・・・」

甘い囁きに、思わず呼吸が止まった。
まだまだ子供だとばかり思っていた美麗が漂わせている女の色香にも、それをはっきりと感じ取ってしまっている自分にも、戸惑わずにはいられなかった。
だが、同じ年頃の青臭い小僧ならいざ知らず、こちらは十も年上。それこそ年上男の意地がある。


「ははっ・・・、な・・、何を言うとんねや。ガキンチョがそんな生意気な冗談言うもんや・・」
「あたし子供じゃないよ。」
「え・・・・・?」
「吾朗さんが思ってる程、あたし子供じゃない。」

何より、の事がまだ忘れられないのに。


「あたし、もう知ってるよ、男の人・・・・・」

年上の余裕を失くして、美麗の誘惑に溺れてはいけない。
の事が忘れられないのに、まだろくに分別もつかないような若い女の子の身体を利用して、寂しさを紛らわせようとしてはいけない。
美麗の寂しさを埋めてやるふりをして、己の心に空いた穴を埋めようとしてはいけない。


「・・・・美麗・・・・ちゃん・・・・」

そう分かっているのに、美麗を突き放す事が出来なかった。
突き放す事が出来ないまま、やがて真島の唇に美麗の唇がそっと重ねられた。


― ・・・・・・・・

最後に交わしたキスは、いつだっただろうか?
最後にの温もりを感じたのは、いつだっただろうか?
もう、思い出せなかった。
















酷い頭痛に起こされて目覚めてみると、もう昼も近い時間になっていた。
昨夜の事は何も覚えていなかった・・・、となっていればまだもう少し気分はマシだったのかも知れないが、生憎と記憶はあった。多少朧げではあるものの、大体は。
だが、ベッドの中に美麗はいなかった。服もバッグも消えていた。
その代わりのように、テーブルの上に自分では買った覚えの無いタウリナーが1本置いてあって、それを重しにしてメモが1枚残されていた。
『飲みすぎ注意!!』とだけデカデカと書かれているそのメモを見て、一瞬フッと笑いが洩れたが、次の瞬間にはまた気分が重く沈んでいった。


「・・・・何をやっとんねん、俺は・・・・」

そんなつもりではなかった。出来る事なら、何も無かった事にしたい。
そんな事をまず真っ先に考えた己を最低だと思いつつも、出来ればそうなってくれないものかと願わずにはいられなかった。
気に病んでしまうのは、の事ばかりではない。完全に素面に立ち返った今、勝矢の顔までが脳裏にチラついて、只でさえズタボロになってどん底にまで沈んでいた心を、更に別の角度から突き刺してくるようだった。
勝矢と美麗は恋愛関係にはなかった筈だが、昨夜の美麗の台詞がどうしても気になった。只の殺し文句だったかも知れないが、美麗が勝矢の部屋に度々泊まっていたのは事実だ。そんな夜に、二人の間に何かがあったとて、何らおかしくはない。
現に他ならぬ己自身が、昨夜そうなってしまったのだから。


「・・・・最低やんけ、ホンマに・・・・」

勝矢が渡米してから、美麗がずっと寂しい思いをしていたのは確かだった。もしも二人が深い仲ではなかったとしても、それは間違いない筈だった。
だから、美麗が思わず勝矢の代わりを求めてしまったとしても、何の不思議もない。要するに、寂しくてふと誰かに寄りかかりたくなっただけの事なのだ、お互いに。
向こうも今頃バツの悪い思いをしていて、しれっと無かった事にしようと考えてくれていれば良いのに。そんな事を考えている自分を最低だとは思いつつも、それが真島の本音だった。
だが、そんな真島の目論見は、その日の夜に早々と潰えた。


「お帰り!」

帰宅すると、美麗がまたマンションの前で真島を待っていたのだ。
真島は己の本心をひた隠しにしながら、形ばかり美麗に笑いかけた。


「おう。何や、また来とったんかいな。」
「うん。それより二日酔い大丈夫?」
「お、おう、まぁな。」

昨夜の事は、思い出すのも居た堪れなかった。


「せやけど、ホンマに危ないで。俺何時に帰って来るか分からんのに、こないな所で一人で待っとったらあかんてホンマに。」

その話になるのを何とか避けたくて、真島は大真面目を装いながらどうにか美麗をかわそうとした。


「じゃあ合鍵ちょうだいよ。」
「え!?」

だがそれは、ものの見事に裏目に出てしまった。


「え!?って何よ?あたし来ちゃ駄目なの?」
「い、いやぁ、駄目・・・って事は・・・・。あ、で、でもほれ、一緒に住んでる友達がおるやろ?い、幾ら払うもんは払ろとる言うても、相手の家に住まわせて貰ろとるんやから、やっぱり通すべき筋は通さなあかんっちゅうかやな・・・・。」
「通すべき筋?」
「うん、まぁ、何ちゅうか、そうそう好き勝手に外泊ばっかりしとったらあかんのんとちゃうんかなぁ、みたいな・・・・」

婉曲に帰るように諭したつもりだったが、美麗は事も無げに鼻で笑っただけだった。


「筋が通ってないのは向こうの方よ。全部折半にしてフェアにやっていこう、お互い邪魔しないように、お互い快適に暮らせるようにしようって取り決めだったのに、全部先に破ったの向こうなんだから。
人の迷惑お構いなしに彼氏引っ張り込んで好き勝手にイチャついて、あたしの事は完全に邪魔者扱い。その挙句に、喧嘩別れしたのをあたしのせいにして八つ当たりまでしてさ。
そのくせあたしが払うお金はしっかり当て込んでるから、出て行けとは絶対言わないのよ?散々入り浸ってた彼氏からは1円も取らなかったくせに、あたしに対しては容赦なく足元見て、本当に性格悪いんだから。
だからあたしも好き勝手したって良いの。外泊しようが朝帰りしようがあたしの勝手よ。向こうだって新しい男を引っ張り込むのにその方が都合良いんだから。」

美麗はまたつらつらと同居人への文句を連ねると、コロリと笑顔になって真島の腕に絡みついてきた。


「だから、ね?良いでしょ?合鍵貰っても。」

1本きりの合鍵は、まだ捨てられていなければ、が持っている。
だが、それを確かめたり、ましてや返してくれと頼む気になどとてもなれないし、その必要も無い。たかが合鍵如き、必要ならばその辺ですぐさま安価で作れるのだから。


「・・・・さんの事なら、あたし気にしないわよ?」

心に引っ掛かっている事を的確に突かれて、真島は密かに息を呑んだ。


「結局、別れたんでしょ?さんの手紙にそう書いてあったわ。だったらもう関係ない、そうでしょ?」
「・・・・それは・・・・・」
さんにとっては結局、吾朗さんよりも自分の親兄弟とお店の方が大事だったって事でしょ。じゃあもう関係ないわ。
あたしが吾朗さんの彼女になったって、何も問題ないじゃない。あたし達、何も悪い事なんてしてないわ。だって、吾朗さんとさんはもうとっくに別れてるんだから。」

美麗の物言いは率直で、容赦が無かった。


「それとも、まださんの事愛してるの?あたしは只の遊び相手?昨夜一晩慰めて欲しかっただけ?」

その通り。昨夜はつい魔が差しただけだ。
そう思って、どうにか無かった事になりはしないかと逃げ腰になっていた己が、心底情けなく、腹立たしくなってきた。
の懇願を聞き入れず、出産直前だったの口から別れを言わせただけでも非情なのに、その上、傷心に寄り添ってくれた美麗を一晩限りの戯れの相手として突き放そうとするなんて、お前はそんなクズみたいな男だったのかと、己の中の良心が激しく真島を責めた。
はただ、女として母親として、当然の事を願っただけなのに。
美麗はただ、この愚かな男と寂しさを分かち合いたいと思っているだけなのに。


「・・・・そんな訳あるか。」

真島は見上げてくる美麗の眼差しを、逃げずに受け止めた。
いつも通りの勝気な、けれども何処か不安げな眼差しだった。


「そっちこそ、ホンマに俺でええんか?俺は勝っちゃんの代わりにはなられへんぞ。
俺は勝っちゃんのように、眩しいスポットライトを浴びれるような男やない。薄暗くて汚い裏の世界でしか生きて行けへん極道者やで。」
「そんなの関係ないよ。勝っちゃんは勝っちゃん、吾朗さんは吾朗さんだもん。代わりになって欲しいなんて思ってない。」

些かの迷いも無くそう答える美麗に、真島は薄く笑いかけた。


「・・・合鍵、明日にでも作っとくわ。そやから次来る時はポケベルぐらい鳴らせ。」
「分かった。」

嬉しそうに微笑み返す美麗に対し、真島は心の中で詫びた。



















部屋の合鍵を渡せば、他に居場所の無い美麗が入り浸りになるのは必然だった。
日に日に美麗の荷物が増えていき、野郎の一人住まいだった筈の部屋は、あっという間にその様子を変えていった。
玄関には華奢なサンダルやヒールのあるパンプスが、棚には色々な化粧品が並び、箪笥の引き出しが1つ2つ程、女物の服や下着で占拠された。
の物は、あまりここへ来る機会が無かった故に元々ほぼ何も無く、その痕跡はもうとっくに跡形もなく消えてしまっていた。
の事は努めて考えないようにし、連絡も月に1度、猛の養育費を送金する時に短い電話をかけるだけにしていた。
も多分同じような心境なのか、電話での話も猛の成長や店の近況ばかりで、自分から掛けてくる事も無かった。
生活自体には特に何の変化も無く、ただぽっかりと抜け落ちてしまった部分に美麗が入り込んだ、そんな毎日を送っている内に夏が終わり、秋の気配が次第に濃くなってきていた。


「風呂空いたで。次入って来いや。」
「うん。」

9月も終わりのある夜だった。
この頃にはもう、美麗は友達の部屋を完全に出ていて真島と同棲状態にあり、アルバイトも辞めていた。いや正確には、練習やオーディションに専念して欲しくて、付き合い出した早々に真島が辞めさせたのである。それと同時に、歌やダンスのレッスンが受けられるスクールに通わせるようになって、もう二月程になるところだった。
そうしたのは、当然美麗の為だった。割に合わないバイトで僅かばかりの金を稼ぐよりも、プロの指導を受けてもっと練習に身を入れ、オーディションの間口を広げたり受かる為のノウハウを得る方が、美麗にとっては絶対に有益なのだから。
しかし、美麗の為ばかりかというとそうではなく、真島自身が美麗の練習相手になるのを避ける為でもあった。
仕事が忙しいとか、ちゃんとしたプロの指導の方が美麗にとって絶対に良いというのは只の言い訳で、自分がその気になれないというのが本当の理由だった。出会ったばかりの頃のように、美麗とダンスバトルに興じて純粋に楽しむという事が、今はもう出来なくなっていたのだ。
いや、ダンスだけではない。食事をするのも、何気ない会話も、美麗との全てがもう、男女の仲になってからは感覚が変わってしまっていた。
決して楽しくない訳ではない。嫌な訳でもない。
ただふとした瞬間に、妙な違和感を覚えるのだ。
喩えて言えば、写真の一部分を切り抜いたように、二人でいる筈の空間から自分だけが切り離されて微妙にずれている、そんな感覚だった。
けれども多分それは、その内に時間が解決してくれるものなのだろうと真島は考えていた。今はまだ関係の変化に馴染みきっていないだけで、やがて気にならなくなっていく筈だと。
事実、今ではもう躊躇いも罪悪感も無く美麗を抱けるようになっているし、初めは色々と気兼ねしていた同棲生活にも慣れてきて、お互いに遠慮も無くなっていた。
美麗は無造作に服を脱ぎながら風呂場へ歩いて行き、真島は真島でそんな美麗を特に気にも留めず、ほぼ全裸の状態で冷蔵庫を開けて缶ビールを取り、部屋に戻って行った。
取り敢えず下着だけを履いて、後は良く冷えたビールで涼みながら適当にTVでも見て寛ぐつもりにしていたのだが、座ろうとした瞬間に電話が鳴った。
その呼び出し音に、真島はハッと息を呑んだ。そんな癖が、いつの間にか身に染み付いてしまっていた。
もしかすると、だろうか?
電話が鳴る度にそう考え、もしそうだったら美麗に知られるのはまずいと思いながらも、それでも心の何処かで毎回期待してしまっていた。


「・・・はい」

風呂場からシャワーの音が聞こえてくるのを幸いと思いながら、真島は電話に出た。


『あ、もしもし?真島さんですか?』

受話器から聞こえて来たのは、ではなく男の声だった。


『夜遅くにすみません。俺です、勝矢です。ご無沙汰してます。』
「勝っちゃん!!」

一瞬はいつも通りに落胆しそうになったのだが、相手が勝矢ならば話は別だった。


「久しぶりやないかー!!えぇ!?やっと電話くれたかぁ!おっそいやんけー!何も連絡寄越さんから、ずっと心配しとったんやぞー!」

喜びの裏返しの文句を言うと、勝矢は電話の向こうですまなそうに笑った。


『すみません、色々忙しかったもんで。』
「ああ、まぁそらそやわな。ほんで?どないやねん?元気にやっとんのか?撮影は順調かいな?」
『ええ、元気です。あの映画の撮影は無事に終わって、今はまた別の作品にちょこちょこと端役やスタントで出させて貰ったり、片っ端からオーディションを受けたりしてる状態です。』
「そうかぁ!頑張っとんなぁ!」
『でね、実は今、一時帰国で日本に帰って来てるんですよ。』
「んあぁっ!?」

2段構えのサプライズに驚きすぎて、思わず変な声が出た。


「な、何やて!?いつ!?」
『夕方に成田に着いて、さっきホテルに帰って来ました。それで急なんですけど、もし都合がつきそうなら近い内に飯でもどうですか?明日でも明後日でも。』
「明日かぁ〜・・・・!すまんけど、明日はちょっとどうしても都合がつかんのや。明後日の夜やったらどないや?」
『明後日なら、昼だったら大丈夫です。でも夜からはまた仕事が入ってるので・・・・』
「おう、昼でもいけるで!ほな昼飯にしよか!」
『はい!あ、ところで真島さん、最近美麗ちゃんとは連絡取れてますか?』

喜んだのも束の間、勝矢のその質問に、真島は言葉を詰まらせた。


『さっき美麗ちゃんとこにも電話したんですけど、あのルームメイトの子が、美麗ちゃんはもう出て行ったって言うから吃驚して・・・。
今の連絡先を訊いても、そんなの知らないってつっけんどんに電話切られちゃって・・・・。真島さんは知ってますか?』
「うん?あ、あぁ・・・・」

どうする?
判断は一瞬の内に下さなければならなかった。


「おう、まぁな。」
『あ、本当ですか、良かったー!』
「ほな、今回は俺から伝えとくわ。どうせ明後日の昼に会うんやから、それで構へんやろ?」

今、この電話では言わない。それが真島の下した判断だった。


『ええ!じゃあすみませんけどお願いします。明後日なんですけど、午前中にTVの収録と雑誌の取材が1本入ってて、その後夕方6時頃まで空く予定になってるんです。お昼2時頃なら、お待たせせずにすぐ会えると思うんで。』
「分かった。ほな2時にしよか。場所は?どこにしよか?・・・うん・・・、うん・・・・」

明後日の約束を取り交わすと、真島は電話を切った。
との事は関係ない、何も問題は無いと美麗は言い切ったが、果たして勝矢に対しても同じ事が言えるのだろうか?
そして何より、勝矢はどう思うだろうか?
最悪、勝矢との友情まで失くす事になるかも知れない。
そこまでの覚悟を、俺は本当に持っていたのだろうか?
そう己の胸に問うてはみるものの、まるで頭が考える事を拒否しているかのように、答えが出なかった。
風呂場から聞こえてくるシャワーの音がやけに耳に障って、真島はTVを点けて音量を上げた。
















翌々日の午後2時、真島は美麗と共に、勝矢と待ち合わせしている都内のとあるビルへ出向いた。


「真島さん!美麗ちゃん!」
「おー、勝っちゃん!久しぶりやのう!」
「お帰りー!勝っちゃーん!」

何はともあれ、まずは三人で手を取り合って再会を喜んだ。
勝矢が気力・体力共に充実していて絶好調である事は、その顔色や表情、身体つきを見れば一目瞭然だった。


「勝っちゃん、また大分鍛え込んだやろ〜!筋肉のつき方が前と全然ちゃうわ!」
「分かります?あっちのアクショントレーニング、本当に厳しいんですよ。」
「二の腕の筋肉とかまた一段と凄くなったよね〜!っていうか、もうすぐ10月なのにタンクトップって!あははっ、相変わらず薄着だね〜勝っちゃん!寒くないの?あたしなんか寒くて秋物のコート着てきちゃったのに!」
「ああいや、これはビルの中が暑かったから上着脱いだだけだよ。俺もホントたった今、取材終わって外に出てきたとこだから。」

久しぶりの会話を楽しんでいると、知らない男が一人、ビルから出て来た。


「おーい勝っちゃーん!お待たせー!あれでOK出たよー!おー美麗ちゃーん!久しぶりー!もう来てたのかー!」
「麻尾さーん!お久しぶりでーす!はい、たった今!」
「どう?最近は?」
「全然ですよー!相変わらずオーディション落ちまくってます。」
「そっかー・・・・。アクション俳優になる気あるならねぇ、うち来ない?って言ってあげられるんだけどなぁ。」
「それは無理です。あたしアイドル以外になる気無いんで。」
「これだもんな〜!ははははっ!」
「ふふふっ!ごめんなさーい!」

美麗はその男を『マオ』と呼び、親しげに談笑している。
この男の事を知らないのは、どうやら真島一人だけのようだった。
てっきり三人で会うとばかり思っていたのだが、まさかこの男も同席するのだろうか?
もしそうであれば大層都合が悪いと内心思っていると、勝矢がその男を真島の側に来させた。


「真島さん、紹介します。俺の所属事務所の社員さんで、俺のマネージャーをしてくれてる麻尾さんです。美麗ちゃんとも面識があって、二人揃ってずっと世話になってきてるんです。
麻尾さん、この人は俺達の友達の真島さん。去年の春に知り合って、それから美麗ちゃん共々色々世話になって、仲良くして貰ってるんだ。」

勝矢の紹介を受けると、麻尾はにこやかな笑顔になってペコリと頭を下げた。


「ああ、これはどうも初めまして!東京アクターズプロモーションの麻尾と申します!うちの勝矢がお世話になってます!」
「真島です。こちらこそ。」

麻尾に差し出された名刺に対して、真島は嶋野組の名刺ではなく、個人のシノギで使っている中継会社の名刺を返した。
初めて目が合った時に、麻尾がほんの一瞬、顔を強張らせたのが分かったのだ。
服装は地味にしてきているとはいえ、左目を覆う黒革の眼帯は隠しようもない。一目で極道者だと認識され、かつ怖がられてしまうのは、致し方のない事だった。


「で、麻尾さん、OKですって?」
「あ、そうそう!だからこれで予定通り、ひとまず終了ね!俺は事務所に帰るから、後は友達同士、水入らずで楽しみな!積もる話も色々あるだろ?」
「ありがとうございます!」
「じゃあまた後でな!美麗ちゃんも、またね!」
「はーい!また!」
「では。」
「どうも。」

一時はまさかこの男も?と思って案じていたが、麻尾はすぐさま帰って行った。
しかし、ホッとしたのも束の間、麻尾はふと立ち止まり、振り返って小走りに戻って来た。


「うっかり忘れてた!フィルムが1枚だけ余っちゃってるんだけど、良かったら皆さんで撮りません?」
「えー!良いんですかー!」

麻尾の提案に、美麗は顔を輝かせて喜んだ。


「勿論!あ、これは完全にオフショットでどこにも出さないんで、ご心配なく。」

その申し出が純粋な善意である事も、麻尾が自分に対して気を遣ってくれている事も明らかで、真島としても断る理由が無かった。
麻尾に促されるまま、真島達は近くの川をバックに並んだ。
真島が中心に入り、両サイドの美麗と勝矢それぞれの肩に腕を回すと、麻尾はカメラを構えた。


「じゃあいきますよー!はい、チーズ!」

シャッターの切れる音が小さく鳴った。


「よし!これで今から現像出しに行けるぞー!あ、皆の分も焼き増ししとくからね!」
「ありがとうございまーす!じゃああたし、今度事務所まで取りに行きます!勝っちゃんも麻尾さんも色々忙しいでしょ?」
「ホント?助かる〜!じゃあ来週ぐらいに来てくれる?そん時なら確実に渡せると思うから!」
「はーい!」

写真を撮り終わると、麻尾は今度こそ帰って行った。
それを見送ると、真島達は近くの中国料理店へ移動した。よく見掛けるような中華屋ではなく、個室のある高級店である。
芸能人である勝矢を人目から守る為でもあったが、込み入った話をするのに、落ち着いた静かな空間が欲しい為でもあった。
美麗とは事前に話し合っており、『報告』は食事の後にしようと決めていた。
従って、まずは勝矢の土産話を肴に食事を楽しみ、話を切り出したのは、デザートも終わって食後のお茶が運ばれてきた後だった。


「・・・・・勝っちゃん。実はな、ちょっと折入って話があるんや。」
「え・・・、何ですか?」

案の定、勝矢は戸惑いを露わにした。
もう宴もたけなわという時に、急に改まってこんな風に口を開けば、誰だってそうなるだろう。
真島は一瞬美麗と視線を交わしてから、再び勝矢の方を見た。


「実はな、俺と美麗ちゃん、今付き合うてるんや。」
「・・・・え・・・・・?」

勝矢が凍りついたようになる様を見るのは居た堪れないが、しない訳にはいかない話だった。


「2ヶ月前から付き合い出した。ほんで、今は俺の部屋で一緒に住んでる。」

勝矢の反応は、やはり危惧していた通りだった。
呆然としたまま何も話さない、いや、話せなくなっている勝矢を見て、真島は勝矢との友情もこれまでかと諦めた。


「騙すような事をして悪かったけど、こないだの電話で言わんかったんは、電話でペッと話すような事やないと思ったからなんや。すまん。」

真島が頭を下げて謝ると、勝矢はようやく不明瞭な声を洩らした。


「あの・・・・、さん、とは・・・・?さん、妊娠してたでしょう・・・?結局、本当に結婚しなかったんですか・・・・?」
「ああ。とは別れた。子供が生まれる直前にな。」

結果だけを端的に告げれば、自分でも軽蔑してしまいそうな位、最低な話だった。
が妊娠した事を打ち明けた時に、プロポーズを断られたという話はしていたが、それとこれとは別だ。と別れた早々に別の女と、それもよりによって美麗と付き合い出したと聞けば、幾ら気性の穏やかな勝矢でも、きっと許せないだろう。


「勘違いしないでね。」

今この場で殴られてもおかしくはない、そう覚悟をしていると、美麗が口を開いた。
俺が話すからお前は何も言わなくて良いと事前に言ってあったのだが、この空気に耐えかねてしまったようだった。


「二人が別れたのはさんのせいよ。吾朗さんが自分の組を持って出世したいと思っているのを、さんが受け入れられなかっただけ。
さんは吾朗さんよりも、自分のお店や実家の家族が大事だったのよ。だから別れたの。本当よ。あたしさんに電話して直接確かめたんだから。
あたし達が付き合い出したのは、二人が別れてからよ。あたしは二人が別れていた事をずっと知らなかった。知ったのは2ヶ月前。さんから赤ちゃんが生まれたって手紙が来て、そこに吾朗さんと別れた事も書いてあったの。
だからあたし、吾朗さんが心配になって会いに行ったのよ。とてもじゃないけど放っておけなかった。何もおかしくも悪くもないでしょ?勝っちゃんなら分かってくれるよね?」

捲し立てるように喋る美麗の強気な横顔を、真島は黙って見ている事しか出来なかった。
美麗はそう主張出来ても、自分はそれが出来る立場ではないのだから。
後は勝矢がどう答えるか、それ次第だった。


「・・・勿論。悪いなんて思ってないよ。」

ややあって、勝矢はいつも通りの優しげな微笑みを見せた。


「っていうか、恋愛って傍がとやかく言うような事じゃないし。ただ吃驚しただけだよ。
でも、そっかぁ。それで納得。道理で何か変だと思ったんだ。こないだの電話では、美麗ちゃんの都合を聞いてもいないのに会う日取りを決めちゃってたし、今日は今日で、二人揃ってあんまり食が進んでなかったし。料理すげぇ美味かったのに。」

明るく笑う勝矢を見て、美麗は明らかに安堵の表情になった。
安心したのは真島も同じだったが、まだ心底からは安心しきれなくて、美麗程には喜べなかった。


「良かった〜!勝っちゃんならきっと分かってくれると思ってたんだ!ね!」
「あ、ああ・・・・。」

嬉しそうな笑顔を向けてくる美麗に形ばかりの微笑みで応えると、美麗はバッグを探ってハンカチと化粧ポーチを取り出した。


「あ〜あ!何かドっと汗かいちゃった!あたしお化粧直してくるね!」

美麗はそう断って、そそくさと出て行った。
静かな個室の中で勝矢と二人きりになると、一度は緩んだ緊張がまた強くなってきた。


「・・・・こんなん訊くのは、あかんねやろうけどな・・・・」

訊かずにおくべきかと直前まで迷ったが、やはりどうしても気になって、訊かずにはいられなかった。


「・・・・何ですか?」
「勝っちゃん、美麗ちゃんとはホンマに只の友達やったんか?ホンマに、それ以上の気持ちは無かったんか?」

暫しの沈黙の後、勝矢は小さく笑った。


「もしかして嫉妬ですか?意外だなぁ。そういう所あったんですね。」
「そうやない。もし勝っちゃんがあの娘の事好きやったんなら、謝らなあかんと思ってな。」

そう。気になっているのは、美麗の心身に勝矢の痕跡が残っているかどうかよりも、勝矢の気持ちを傷付けていないかどうかだった。
折角育んできた勝矢との友情が、壊れてしまわないかどうかだった。


「・・・・・勿論、美麗ちゃんの事は好きですよ。そうじゃなきゃ友達になんかならないでしょう?」
「い、いや、そういう意味やのうて・・」
「確かに彼女、俺のアパートによく泊まりに来てましたけど、本当にただ単に寝場所を貸してただけです。どうにかなった事なんて一度も無い。
そうじゃなきゃ、幾ら喧嘩嫌いの俺でも、真島さんをぶん殴る位の事はしてますよ。」

淡々と発せられたその言葉は、冗談のようにも、そうでないようにも聞こえた。
どちらに受け取っても間違っているような気がして、どう反応すれば良いのか分からなかった。
すると、勝矢は不意にその表情を柔らかく崩して笑った。


「安心して下さい。俺達は彼女の言う通り、『盟友』です。それ以外の何物でもない。
大体、美麗ちゃんの様子見てたら分かるでしょ?至っていつも通りじゃないですか。もし俺とどうこうなってたら、もっとギクシャクしてるし、何ならそもそも今日ここに来てませんって。彼女、感情が結構態度や顔に出るでしょ?」
「それは、まぁ・・・・」

おずおずと苦笑を浮かべてみせると、勝矢は益々明るく笑った。


「変な気は遣わないで下さいよ!俺は二人が幸せならそれで良いんですから!」
「勝っちゃん・・・・・」

気を遣ってくれているのは勝矢の方だった。
これ以上、変に遠慮したり気に病んだりするような素振りを見せるのは、それこそ勝矢に失礼だ。美麗の事でどうこう言うのはもうこれっきりにしようと決めたその時。


「・・・・でも、一つだけ聞かせて下さい。」
「何や?」
「美麗ちゃんの事、本当に好きなんですか?」

勝矢は突然、真剣な目をしてそう訊いた。
その視線に思わず息を呑んでしまったのは、心の奥底を見透かされたような気がしたからだった。


「・・・・・ああ。」

だから真島は、己の心をしっかりと固めてそう答えた。
その奥底は、もう自分でも見ないようにしている処だから。




back   pre   next



後書き

さて!
ここからいよいよ、兄さんと朴社長とのエピソードがっつり妄想編に突入していきます!
まず、二人の関係の始まりがこうなりましたのは、真島吾朗美化委員会(←勝手に発足)としての使命感からでございます。
当委員会としましては、兄さんが只フツーに若い女の子に浮気して乗り換えたとか、そんなクソみたいな話を書く訳には断じてきませんので(笑)。
ここからはちょっと一旦夢ヒロインは置いておいて、龍5の公式設定、兄さん・朴社長・勝矢の事をじっくり妄想しながら書いていきます。
後書きも、その妄想を小説本文の補足的にグダグダ書き散らかしていく予定です。

第1話の後書きでも書きましたが、私は正直、龍5のストーリーには納得がいきません。
もっと言いますと、3と4もあまりピンと来なかったし、6に至っては、各所のレビューを見てまさかのストーリーにガッカリして(でもリアルではあるので、ある意味納得は出来た 笑)、未プレイのままです。動画も見ていません。
でも、納得のいかなさで言うと、5がダントツ一番なのです。
メインストーリーも何だか結局よく分からん感じでしたが、真島吾朗美化委員会としては、やっぱり兄さんの設定が・・・・。
龍1・2の破天荒な嶋野の狂犬でもない、龍0の不遇に耐え忍ぶ夜の帝王でもない、本当に何だか全てが『真島吾朗』じゃない気がして、何というかこう、やるせない気持ちになるのです。


まず、兄さん・朴社長・勝矢の関係。
まあ、それ自体は分かりますよ。
夢を追う若者と少女と、そんな二人を支える年上の大人の男。
そして少女が好きになるのは、いつも隣にいる同じ立場の彼ではなく、頼り甲斐と自分には計り知れない陰のある、年上の男の方だと世間の相場も決まっています。
でもあんな生々しい破局を迎えてしまったら(笑)、その後の友情を続けるのはなんぼ何でもちょっと無理じゃないですかね〜!?

事実、別れてから20年、兄さんと朴社長は一度も会っていなかった。
勝矢もそれをよくよく承知していた筈なのに、何で20年後に近江連合の跡目争いの黒幕を炙り出す為なんかに朴社長を巻き込む?
元妻だろうが何だろうが、兄さんがそんな極道のゴタゴタの為に無関係の女性を利用するとは考えられないのですが。
たとえ朴社長がそれを望んだとしても、「関係ないモンが首突っ込むな!」と怒って拒絶すると思うし、兄さんより長い事ずっと側に居続けてきた勝矢だって、危ないから絶対止めると思うんですけど・・・・。

あの手紙や真島死亡説自体がそもそもよく分からないので、考えても意味が無いのかも知れませんが、あのシナリオから考えると、三人の関係が『??』になるんですよね。
本当にそんなに言う程、固い絆で結ばれた関係なの?と。
何かもっとこう、どうにかならなかったのでしょうか?
例えば、本当に純粋な友達だったり、命を懸けるに値するだけの大きな恩や義理がある関係だったりとか。

更に言えば、朴社長が女である必要も無かったと思うんです。
彼女が同じく本職極道の男だったら、兄さんや勝矢が協力を求めたとしても筋が通るし、桐生ちゃんにしてもアサガオから出て行きやすい、というか、出て行く事にまだ納得がいく。
同じ極道の男に「俺達みたいな極道の男が、他人のガキを掻き集めてまともな大人に育て上げるなんて事、本当に出来ると思ってんのかアンタ?」とか何とか言われた方が、いきなりピンポンして来た見ず知らずの女に夢夢と独りよがりな事を言われてボロクソにこき下ろされるまま、おじさんおじさんと信頼してくれている子供達を置いてスゴスゴ出て行くよりも、まだ考えられる。
遥との母娘ごっこは、別に重要ポイントという訳でもなさそうでしたし。(遥、結構簡単に朴社長の夢をポイ捨てしましたし・・・)

なのに、朴社長をなまじ女にして、しかも妙にナマグサイ設定なんか背負わせてしまったから、兄さんは気の毒&何か納得のいかない男になってしまったし、彼女も只々人の反感を買うだけの、ヒロインにも悪役にもなれない可哀想なキャラになってしまったと思うんですよ・・・・。


ほんであの3人の写真も。
第3話の後書きでも既に突っ込みましたが、まず季節が分からん。(笑)
ほんで背景もやっぱり分からなかったので、蒼天堀みたいなあんなロケーションが東京にあるのかどうかは知りませんが、東京という設定で夢を書きました。
ちなみに、文中の勝矢の所属事務所とかマネージャー名は、私の妄想の産物です。
マネージャーは後の魔王incの社長なので、安直に『マオさん』としました(笑)。