夢の貌 ― ゆめのかたち ― 2




店での誕生パーティーを催すようになったのは、真島が支配人としてこの店を手伝うようになってからの事で、今回で2度目だった。
昨年、真島にその案を初めて出された時は気恥ずかしさもあり、自身は少し尻込みしていたのだが、結果としては真島の見込み通りとなった。
パーティーは今回も盛況を博し、楽しく和やかな雰囲気の内に、無事に終了した。
店を閉め、片付けで最後まで残っていたボーイ達を送り出すと、もう深夜になっていた。


「あぁ〜!終わった終わったぁ!」

二人きりになると、真島はフロアのソファに身体を投げ出し、蝶ネクタイを毟り取って、ワイシャツのボタンを1つ2つ外した。
『夜の帝王』と異名を取る名うての敏腕支配人も、本日は営業終了だ。
ついさっきまでとは別人のようなだらけた態度で一服し始めた真島を笑って一瞥してから、はお疲れさんと労いの言葉をかけ、真島の肩を揉んだ。


「あ〜そこそこ!くぁぁ〜っ・・・・!」
「あ〜、よう凝ってるわ。ガッチガチやん。」

もっとして欲しそうにちゃんと背中を向けてくる真島の期待に応えて、も本腰を入れてマッサージを始めた。
肩だけではなく、首の付け根や背中、肩甲骨の周りなどもしっかりと指圧し、叩いたり揉み解したりしていると、真島は気持ち良さそうな唸り声を微かに洩らした。
それが嬉しくて、愛おしくて、はクスクスと笑いながら尚もマッサージを続けた。


「お客さん、えらい凝ってはりますねぇ。お仕事何してはりますのん?」
「あん?俺か?クラブの支配人や。」
「へ〜、そら大変なお仕事ですねぇ。ふふふっ。」
「まぁそれなりになぁ。ひひっ。」

他愛もない冗談を言って笑い合った後、真島は紫煙と共に充足の溜息を吐いた。


「今回も大成功やったのう。売上もガツンと上がったやろ。」
「うん、結構いったと思う。詳しい額はちゃんと計算してみやんと分からんけど。」

しかしそれは、明日に回す仕事だった。
本日の営業は終了、今この場にいるのはクラブパニエのママと支配人ではなく、只の恋人同士だった。


「お腹空いたやろ?始めよっか?」
「そやな。」
「よっしゃ!ほなすぐ用意するわ!」

真島の肩を最後に1回バシッと叩いてから、はいそいそと支度を始めた。
これからが本当の誕生祝いだった。
従業員と親しいお得意さん達に囲まれてワイワイ賑やかに祝って貰えるのも勿論嬉しいが、やっぱり真島と二人きりで過ごす時間が一番嬉しい。
早く二人きりになれるのを、パーティーの間中ずっと心待ちにしていたのだ。
この時の為に別注しておいた2人分の特製オードブルに、よく冷やしておいた口当たりの良いシャンパン。はそれらを次々と真島のいる席に運んで行った。
全て出揃ってから真島の隣に腰を下ろすと、真島はシャンパンの栓を抜き、とっておきのクリスタルのペアグラスに注ぎ分けて、その片方をほれ、とに手渡した。


「ほな改めて。誕生日おめでとう。」
「ありがとう。」

静かに触れ合わせたグラスが、細く澄んだ綺麗な音を響かせた。
真島と微笑み合ってグラスを傾けると、シャンパンの芳醇な香りと共に、甘い幸福感がの胸の中いっぱいに広がった。
それをしみじみと味わっていると、先にグラスを置いた真島が、タキシードのポケットから綺麗なピンク色の小箱を取り出した。


「ほれ。誕生日プレゼントや。」
「わぁ、ありがとう!開けてもええ?」
「おう。」

優しい桃色のリボンを解き、箱の蓋を開けると、中から出て来たのは白いベルベットの宝石箱だった。
大きさから察するに、中身は多分、指輪だろう。
は微かに息を呑みながら、宝石箱をそっと開けた。


「うわ・・・・・!」

そこに収められていたのは、思った通り、指輪だった。
それも、の想像を遥かに超えるクオリティの物だった。
白銀に輝くプラチナの台座に、幾つもの小さなダイヤモンドで引き立てられるようにしてエレガントにあしらわれているのは、美しい水色に透き通る大粒のアクアマリン、の誕生石である。
驚きと嬉しさとで思わず呆然としていると、真島が満足そうな笑みを見せた。


「どや?特注のオーダーメイドやで?」
「・・・・・すっご・・・・・」

もまた、こみ上げてくる笑いを抑えきれずにクスクスと笑った。
これまで付き合ってきた間にプレゼントは何度か貰っているが、指輪を貰うのはこれが初めてだった。
とて妙齢の女である。これに何か特別な意味は込められているのだろうかと、思わず深読みをしそうにならない訳ではない。
けれども、そんなものがあるかないかなんて事は、さして重要ではなかった。
は、今の暮らしに、今の人生に、満足していた。
仕事も順調で、家族も元気で、心から愛している人に心から愛されていると実感出来ている。これが幸せでなくて何だろうか。
今のこの時がずっとずっと続いてくれれば、こんなに嬉しい事はない。
そう思いながら、はそっと指輪を取り出し、右手の薬指に嵌めた。


「・・・・・綺麗・・・・・」

は自分の右手を見つめてそう呟いてから、その手をクルッと返し、どう?似合う?とにんまり笑って真島に見せた。
すると真島は、普段は眼光の鋭いその隻眼を優しく細めた。


「おう、良う似合てる。さっすが俺の見立てや。」
「モデルの手ェも綺麗からや。見てみ、このゴージャス感。さっすがさんやで。」
「ま、そんなようなもんでも着けて飾っといたら、そのチンチクリンの小っさい手ェもちょっとは年相応に大人の女っぽく見えるんとちゃうか。イヒヒッ。」
「うっさいわ!」

肩で軽く体当たりしてやると、丁度グラスを傾けていた真島は、酒が零れるやろと笑った。


「でもホンマこれ丁度ええ感じやわ。緩すぎず、キツくなく。ようサイズ分かったなぁ。私自分でも分からんのに。」
「ああ、ちょっとな。ゆかりちゃんに協力して貰ったんや。」
「えぇ?」

そう言われても、に覚えはなかった。
自分でも知らない指輪のサイズを訊かれても、答えられる訳がないのだから。
しかしよくよく思い出してみると、そういえば暫く前に、雑談の一環でゆかりとお互いの指輪を交換して嵌めてみた事があった。強いて心当たりといえば、それ位しかなかった。


「もしかして・・・・・。あれ只の雑談じゃなくてリサーチやったん?」
「そういうこっちゃ。」

真島はまた満足そうに笑いながら、オードブルを摘まみ始めた。
いや、『摘まむ』という程度ではない。結構本気で食べている。
パーティーの主役だったやホステスの女の子達は、客の相手をしながらそれなりに飲み食いをしていたが、真島は最初の乾杯の時に形ばかりシャンパンのグラスに口をつけただけで、後はずっと飲まず食わずの状態のまま、裏方の仕事に徹していたのだ。
それは腹も減っている筈だと思うと、申し訳ないやら有り難いやらで、ついついもっと食べさせたくなる。


「どう?美味しい?」
「うん、美味い!」
「ホンマ?良かったぁ!これも食べ食べ、ほらほら!」
「おう。お前も食えや。」
「うん。」

も勧められるまま、真島と一緒に食べ始めた。
近くの評判の良いフレンチレストランの特製オードブルは勿論美味しいのだが、届いてからある程度時間が経ってしまっているので、残念ながら本来の味よりは幾らか落ちてしまっていた。
だが、誕生日のディナーを楽しむ事が出来ないのは、の仕事上、仕方のない事だった。
店を閉める頃には他のレストランももうとっくに閉店してしまっているし、昼間は開店準備で忙しくて、ゆっくり食事に行く時間が無い。腕によりをかけてご馳走を作る時間も勿論。
だから、二人でゆっくりとお祝いの食事を楽しめるのは店が休みの日だけ、今年で言うと3日後の日曜日だった。


「日曜の夜、どこ食いに行こか?●●ホテルのレストランか□□□□のステーキハウスでも予約するか?
▲▲の懐石とか◇◇◇の中華も美味かったし、あのほれ、大阪城の側のレストランも雰囲気良かったよなぁ。
それとも、ちょっとドライブして神戸の方にでも足伸ばしてみるか?」

そんな事を話す真島の顔は、いきいきとして自信に満ち溢れているようだった。
いや実際、真島は今、飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進中だった。
本職はあくまで極道、関東最大の極道組織・東城会の直系団体嶋野組の若頭であるが、この関西でも幾つかシノギを広げており、その商才をめきめきと発揮している。
初めて出逢った5年前とはまるで別人のようだ。
ふと昔の事を思い出すと、何だか擽ったくなってきて、は真島の顔を見ながら吹き出した。すると真島は、憮然として口を尖らせた。


「何やねん。何がおかしいんや?」
「ふふふっ。ごめんごめん。ちょっと思い出してもうて。」
「あん?何を?」
「あんたと初めて出逢った頃の事。あん時も誕生日のお祝いしたなぁと思って。私のじゃなくてあんたのやったけど。」

がそう言うと、真島は『ああ・・・・』と言葉を濁した。
彼の手元にあるブラックメタルのジッポは、その時がプレゼントした物であるし、決まりの悪そうなその苦笑いも、その時の事をちゃんと覚えているという証だった。


「懐かしいなぁ。あん時はあんた、ボロボロの野良犬みたいやったのになぁ。あの『ゴローちゃん』がえらい立派になって。ふふふっ。」
「うっさい。ゴローちゃん言うな。」

がからかうと、真島は益々決まりの悪そうな顔になった。


「お前こそ、あん頃は色気ゼロの落ちこぼれホステスやったやんけ。それが今じゃいっぱしのオーナーになって。一丁前になったもんやで、あのチンチクリンが。」
「フン、何やねん。自分かてドチンピラやったくせに、偉そうに。」

また肩をドンとぶつけてやった後、はそのまま、真島の肩に頭を預けた。


「・・・・・あれからもう5年も経つんやなぁ。」
「ああ・・・・・。でもまだ5年っちゅう気もするけどな。」

その5年の間にあった事が、色々と思い出された。
楽しい事も沢山あった。
悲しい涙も沢山呑んだ。
色々な事が積み重なってきた上に今の幸せがあるのだと思うと、楽しかった事や嬉しかった事だけでなく、辛かった事や悲しかった事でさえもが、全て『今』を作り上げる為の大切なピースだったのだと思えてならなかった。


「・・・・・まだ5年、か・・・・・。そうよな、まだまだよな。」
「うん?」
「まだまだ、これからも、ず〜っと・・・・、そうやんな?」

暫しの沈黙の後、の頭に真島の頭がコツ、と軽くぶつけられた。


「・・・当たり前田のクラッカーや。」
「・・・ふふっ、古っ。何でそんな古いギャグ知ってんねん。あんたもだいぶ大阪人になってきたな。大阪弁の発音は相変わらずちょいちょい変やけど。」
「へっ、うっさいわい、ほっとけや。俺のは大阪弁やのうて真島弁なんじゃ。」
「何やその真島弁て。あははっ!」

この幸せが、いつまでもいつまでも、ずっと続いてくれますように。
真島と身を寄せ合って笑いながら、は右手の薬指にきらめく真新しい指輪にそう願った。


















風呂から出て来ると、がドレッサーの前で髪に櫛を通していた。
2年前の春に再会を果たし、付き合うようになって間もなく、は長かったウェービーヘアを肩の辺りにまでバッサリ切ってしまったのだが、その髪はいつの間にかまた、その頃と同じ位の長さにまで伸びていた。
その頃の髪型はパトロンだった佐川の好みに合わせていたようだったが、今は自身の意思で長くしているらしい。艶やかな栗色をしたストレートロングの髪は、に良く似合っていた。


「髪、またよう伸びたのう。」
「あ〜、そやなぁ。もう結構長なってきたなぁ。」
「切らんのか?」
「切って欲しい?」

はすかさずそう訊き返してきた。きっと答えは分かっているだろうに。
真島は笑って缶ビールを飲みながら、別に、と答えた。


「あんたこそ、また髪伸ばさんの?」
「伸ばして欲しいんか?」

同じように訊き返してやると、も笑って、別に、と答えた。
真島もも、互いに押し付け合う事はしていなかった。好みも、考えも、願望も。
の服装や髪型に真島がああしろこうしろと注文をつける事はなかったし、東京と大阪を忙しなく行き来する生活を続けている真島にがとやかく言う事もなかった。
誕生石の指輪なんて意味深な物を贈っておきながら、何も言わない事にさえも。
髪の手入れを終えたが、一旦は外していたそれをまた大切そうに右手の薬指に嵌めるのを、真島は少しもどかしく思いながら見ていた。
それを左手の薬指に嵌めてやる事が出来たら、どんなに良かっただろうか。
けれども、今はまだその時ではなかった。
もうあと少しで念願の自分の組を持てる筈なのに、その『あと少し』の距離が思うように縮まらない。悔しいが、正直なところ目処も立っていない。
そんな不安定な状況で、家族と従業員を抱えて日々一生懸命店を切り回しているにプロポーズする訳にはいかなかった。

組の旗揚げには、何はなくともまず親の許しが要る。
親の方から認めて貰えるのが一番スムーズで良い形なのだが、大金を積み上げてやっと何とか許しを得る者もあれば、親や組を守る為の身代わりとなって何年も服役し、その見返りとして出所後にようやく、という者もいる。
その最善の形が残念ながら望めない以上、真島としてはとにかく嶋野の目の前に金を積んでいくより他になかった。
一方、で、相変わらず家族の大黒柱として仕事にまい進する日々を送っている。
昔よりは随分楽になっているようだが、下の弟妹はアルバイトをしているとはいえまだ高校生、上の弟は関西屈指の温泉観光地の旅館で板前見習いとして住み込みで働いており、母親はパート勤めが精一杯という状況で、家は依然としての稼ぎが頼りだった。

無論、何としてでもに不自由をさせるつもりは無いし、その自信もある。
だがその家族の事までは、湯水の如く金が要る今、保証をしてやる事は出来なかった。
にはそんな事を真島に求めるつもりは更々無いようだが、もしも仮に求められたとしても、今の真島にはまだ、かつての佐川のようにの全てを丸抱えしてやれるだけの力は無かった。認めるのは甚だ悔しいが。
それに最悪、もしも万が一、条件として『勤め』に行く事を命じられたとしたら、それこその人生は滅茶苦茶になってしまう。
花の女盛りを5年も10年もただ縛り付けられて独りで放っておかれるだけなんて、女にとってはあまりにも残酷であるし、実際、勤めに出ている間に女房や恋人が他の男に気を移して捨てられた、なんて奴もゴロゴロいる。
そんな最悪のパターンは断固として回避するにしても、しかし全てが嶋野の胸三寸に懸かっていて、今のところそれが真島の望む方向に動いてくれそうな気配は皆無だという事は、不動の事実だった。

そんな状況でプロポーズや、まして『いつか自分の組が持てたら』なんて時期未定の漠然とした口約束などしたところで、を喜ばせるどころか、ただを自分の都合に巻き込んで、いたずらに振り回すだけになってしまう。
それを思うと、敢えて『いつまで経っても煮え切らない男』で居続けるしかなかった。
それでもはいつも、何の不満も不安も無さそうに、真島に笑いかけてくる。
一口ちょうだい、と真島の飲みかけのビールをねだるその微笑みが愛しくて、真島も笑ってビールを手渡した。
はそれを本当に一口だけ飲むと、また真島に返し、ベッドを整え始めた。
二つ並べられた枕を見ていると、これから始まる甘い甘い一時への期待で、心と身体が早々と疼き始める。
真島はビールの残りをさっさと飲み干して空き缶を捨ててしまうと、照明のスイッチに手をかけた。


「電気消すで。」
「あ、ちょっと待って。・・・・・はい。」

が枕元のランプを点けた。
その光が灯ってから部屋の電気を消すと、ぼんやりと柔らかい光が、ベッドに横たわっているを優しく照らし出した。
微笑みかけてくるその瞳が何かを期待しているように見えるのは、きっと同じ気持ちでいるからだ。
ベッドは二人で寝るには手狭だったが、その狭さが心地良くもあった。
ぴったりと身体を寄せ合って眠ると、温かい安心感に包まれる事が出来る。
狭い狭いと文句を言い合う事さえ楽しくて、堪え切れない笑い声がどちらからともなくクスクスと洩れる。
ふざけて押し合いをしていた手は、次第に互いを抱きしめる形になっていき、やがて引き合うようにして、ごく自然と唇が重なった。


「ん・・・・・」

啄むようなキスを何度も繰り返しながら、真島はのパジャマのボタンを外していった。
露になった胸元にもキスを落とすと、はまた微かに笑いながら擽ったそうに身を捩った。
パジャマを脱がせ、Tシャツの裾から手を入れての胸をやんわりと揉みしだいている内に、真島の身体の芯が熱を帯びてきた。
さっき店では堪えるしかなかったが、もう我慢する必要はない。
真島は自分との衣服を全て取り払ってしまうと、改めてを組み敷き、乳房に口付けて先端を優しく舐め上げた。


「あっん・・・・!」

の甘い声が、真島の腰を快く痺れさせた。
もうすっかり慣れているとはいえ、恋しい女に逢えない夜を幾夜も忍ぶのは、26歳の健康な男にはなかなか酷な事である。
どうしたって湧き起こってくる悶々とした欲求を、大抵は喧嘩で発散させているのだが、それだけでは如何ともし難い寂しさが心の底に少しずつ少しずつ積もり積もっていき、こうしてと肌を合わせた途端にそれが一気に噴き出すのだ。


「あぁっ・・・・・!」

真島はの胸の頂を舌先で転がしながら、の下腹部に手を這わせた。
するとは、真島を迎え入れるようにおずおずと片膝を立てた。
瞳を閉じて微かな吐息を零しながら、じわじわと快感に酔い始めていくが愛しくて、もっと酔わせたくて、真島はの秘所に触れた。


「あ、ん・・・・・・」

もう既に潤い始めている其処を指で優しく擦っていると、更に蜜が溢れてきて、よりはっきりとした音を立てるようになってきた。
真島はそれまでよりももう少し強めに舌を動かしながら、次第に綻び始めた花芯にほんの少しだけ指を挿入した。


「あぁ、ん・・・・・!」

擽るように小刻みな動かし方で浅い部分だけをかき回していると、は悩ましく身をくねらせた。
花芯が吸い付くように収縮して、真島の指をもっと奥まで誘おうとしている。
熱い蜜がしとどに溢れて指に絡む音との甘い声とが重なって、真島を益々熱く滾らせた。


「んんっ・・・・・!」

深いキスで唇を塞ぎながら、誘われるままに指を深く沈ませていくと、温かい内壁が柔らかく絡み付いてそれを絶妙に締めつけた。
真島は一層激しくの舌を吸いながら、の奥深くを解すようにかき回した。


「んっ・・・・!んんぅぅ・・・・・・・!」

程なくして、は声をか細く震わせながら、真島にしがみ付いた。中が少し痙攣していて、軽く達したのが分かった。
真島はゆっくり指を引き抜くと、の両膝を大きく押し広げて、艶めかしく濡れそぼった花弁を露出させた。
花芯からトロトロと垂れてくる蜜を舐め取り、柔らかい茂みの陰から小さく突き出ている花芽を舌先でつつくと、放心していたがまた甘い声を上げてビクンと身を震わせた。


「あぁっ・・・・・!んっ・・・・!んんっ・・・・・!」

瑞々しい小さな果実のように張り詰めたそれを、真島は舌先で優しく転がし始めた。
一度達したの身体は一層敏感になっていて、身悶えるように腰がしきりと揺れている。
それをしっかりと抱え込んで尚も舌を動かしていると、がぎこちなく強張っている手を真島の手に重ねてきた。


「あっ、あんっ!やぁっ・・・・・!も・・・・・、来て・・・・・」

啜り泣くように震えている小さな囁き声が、真島を甘く誘惑した。
を前戯で蕩けさせるのも快感なのだが、如何にその為とはいえ、己を抑えつけておくにも限度があった。
真島はベッドの棚に手を伸ばし、そこに置いてあった小さな缶の箱を取った。
元は菓子が入っていた綺麗なデザインのその缶は、今はコンドームを便利な所にさり気なく置いておく為の容れ物として活躍していた。
真島はそこから取り出した物を滾り立った自身に手早く装着すると、悩ましく蕩けた表情で待っているを改めて組み敷いた。


「いくで・・・・・・?」
「ん・・・・・・」

の中心に己の先端を押し当てて何度か軽く擦ってから、真島はゆっくりとの中に入っていった。


「はっ・・・・あぁぁっ・・・・・・!」

もう何度、こうしてきただろうか。
数え切れない程身体を重ねてきて、の身体の感触は、真島の身体にすっかり染み込んでいた。
けれども、決して飽きているのではない。
己が身体に馴染みきったの感触や温もりは、いつも真島に強い快感と深い安らぎとを与えてくれた。


「あっ・・・・!あぁっ・・・・・・・!」

切なげに顰められたの顔を見つめながら、真島は腰を動かし始めた。
のその扇情的な『女』の表情に煽られて、早速にも理性が飛びそうになるが、それを何とか堪えてまずはゆっくり、狭い内部を馴らすように突く。


「あっ・・・・!あ、ぅ・・・、んんっ・・・・・!」

完全にの上に覆い被さり、まだ湯上がりの香りを漂わせているほっそりとした首筋に顔を埋め、優しく口付けながら突いていると、真島の腰にの脚が巻き付いた。
ギュッと力の篭ったその脚は、の身体が更なる快感をいじらしくねだっている証である。
真島はわざと浅く軽い律動を何度か繰り返してから、おもむろにの背中に手を回して抱き起こし、膝の上に抱え上げた。


「あぁぁっ!!」

己の先端が柔らかい壁に突き当たる感触がした瞬間、が鋭く甘い悲鳴を上げた。


「あ、んっ、やっ・・・・、そんな、奥・・・・」
「ここ、好きやろ・・・・?ほれ、自分のええように動いてみろや・・・・・」
「やっ・・・、ん・・・・」

は甘い声を詰まらせながら、真島に抱きつき、恥じらうようにぎこちなく腰を動かし始めた。


「んっ・・・・、ぅ・・・・ん・・・・・」

の緩やかな律動が、真島の楔をやんわりと扱く。
その緩慢な動きは、真島にとっては多少物足りないのだが、自ら作り出す快感に恥じらいながらも酔いしれるが官能的で、真島は暫しそのままに身を任せる事にした。


「あっ・・・・、ん・・・・・・!んんっ・・・・・」

真島の胸板にの乳房が密着して固くしこった先端が擦れ、耳元を熱い吐息と甘い声が絶え間なく擽る。
ゆるゆると自身を扱かれるちょっと物足りない刺激も、積み重なっていく内にだんだんと焦らされるような快感に変わっていく。


「あ・・・、んん・・・・・、んっ・・・・・・」
「何や、もうあかんのか?」
「んぅ・・・・・、だって・・・・・」
「しゃあないのう。ほなちょっと手伝ったろか?」

それに触発されて腰が酷く疼くようになってきたのを隠して余裕を装いながら、真島は少しだけと身体を離し、の腰を掴んで、下から強く突き上げた。


「あぁぁっ!!」

その瞬間、が甲高い声を上げてビクンと身体を震わせた。
同時に中が強く締まって、真島も思わず呻き声を洩らした。
その強い快感をどうにかやり過ごすと、真島はそのままを激しく突き上げ始めた。


「あっ、あぁっ・・・・!やっ・・・・・!そんな、ぁっ・・・・・!」

は首を振りながら、泣き声のような嬌声を上げた。
刺激が強すぎるのか、腰が逃げるように引けていくが、逃がす気はない。
真島はの腰をしっかりと掴んで固定し、奥深くを何度も何度も力強く突いた。


「あぁんっ・・・・!も・・・・、これ・・・・、あか、んんっ・・・・・・!」
「何でや、良うないか・・・・?」
「だって・・・・、声・・・・・、も・・・・、無理・・・・、んんんぅぅっ・・・・・!」

はまた身体を震わせながら、固く握り締めた右手を自分の口に押し付けた。
頭の片隅に少しだけ残っている理性が、どんどん大きくなっていく声をどうにか抑えようとしているようだった。
だが、そんな風にされると益々鳴かせたくなる。
真新しい指輪がきらめくその手を取って口元から退かせると、真島はもう一度を組み敷いた。


「あっ・・・・・!あぁぅんんっ・・・・!」

真島はを強く抱きしめて、その唇を深いキスで塞いだ。
これでの気にしている事は解決がついた。後は心おきなく、二人して快楽の高みにまで駆け上がるだけだ。


「んっ、んんんっ・・・・・!」

腰を打ち付ける音と舌を絡ませ合う音に、の籠った嬌声が混ざり合う。
吸い付くような肌の感触と包み込んでくれる温もりに、眩暈のするような幸福感を覚える。


「んんっ・・・・・!ぅぅぅんんっっ・・・・・!!」
「う、ぅっ・・・・・・!」

やがて一際大きな波が来て、二人を攫って呑み込んだ。
真島はをしっかりと抱きしめながら、その激しい流れに身を任せ、流され果てた。
快楽の激流の後にやってくるのは、穏やかで心地の良い充足感だ。
それにフワフワと漂っていると、その内に呼吸が整ってきて、そこから少し遅れてがゆるゆると目を開けた。
まだぼんやりと放心しているその瞳から、多分生理的なものであろう小さな涙の雫が一粒、静かに零れて頬を伝った。
真島はそれに唇をそっと押し当てて吸い取ると、ひとまずと肌を離した。
それから後始末をして、一服する為にベッドを抜け出した。
床に胡坐をかいて煙草に火を点けていると、ようやく落ち着いたらしく、もモゾモゾと動き始めた。
パジャマの上を素肌に直接羽織って、まだ少し余韻を引き摺るように気だるげな動作でベッドから下りてきたは、真島の隣に座り込んで、ローテーブルの上に置いてあった自分の煙草に手を伸ばした。薄荷の香りのする細身の煙草。女が好む銘柄だ。
独特の匂いのする煙を燻らせながら、は真島に寄り掛かり、甘えるように頭を預けた。


「今回は?どれ位おれんの?」
「ん〜、そやなぁ、ようおれても4〜5日ってとこか。火曜の夜には東京戻っとかなあかんねん。」
「そっか。」
「その代わり言うたら何やけど、もう他の用事は済んどるから、後はずっと一緒におれるわ。日曜もゆっくり出来るし。」

そこまで言って、真島はふと、その肝心の日曜日の予定がまだ何も決まっていなかった事を思い出した。


「あ、そうや。ほんでお前、結局日曜どこ食いに行きたいねん?」
「あ、そうそう、それやねんけどな。さっき候補挙げてくれたとこでもええねんけど、私が東京行ってもええかなと思って。」
「あ?いつ?」
「月末の月・火とかどう?まだ店の皆には言うてないねんけど、その辺り連休にしよかなと思ってんねん。
元々その週の日曜に貸し切りの予約が入っててんけど、さっきのパーティーの時にもう1件、祝日にも予約が入ってんやん。そやからその代休って事で。」
「ほ〜ん、月末の月・火なぁ・・・・・」
「あんまり私の方からそっち行く事ないし、偶にはどうかなと思ってんけど。都合悪い?」

今現在、の来訪を断らなければならないような予定は何も無かった。
そして、今から以降も恐らく無い。何か持ち上がっても、余程大事な用でない限り、断ってしまえば済む事だからだ。
仕事の都合上、の方から東京へ来る事はあまり出来ない。その偶の貴重な機会を潰さないといけないような用事など、そうそう無かった。


「いや、大丈夫や。ほな来るか?」
「うん!」
「何食いたい?」
「う〜ん、別に何でもええけどなぁ、でもそう言うたらあんた、女の『何でもええ』程信用出来んもんはない!っちゅうて怒るしなぁ・・・・」

は煙草の煙を細く吐き出しながら暫く考え込んだ後、晴やかな笑顔を真島に向けた。


「じゃあ、めっちゃお洒落なレストランがええわ。フレンチは今日食べたから、イタリアンとか?」
「よっしゃ、分かった。ほなどっかええ店探しとくわ。」

愛しいその笑顔に、真島も微笑みで応えた。
するとは、楽しみにしてるわ、と嬉しそうに言ってから、ふと悪戯めいた含み笑いを浮かべた。


「あんたんち行くのも暫くぶりやなぁ。Hなビデオとか隠してんちゃう?行ったら家探ししたろっと。ふふふっ!」
「アホかそんなモン隠しとらんわい。」
「ホンマにぃ?」
「ホンマや。誰がんなモン隠すかい。堂々とそこら辺置いとるわ。」

胸を張ってそう言い切ってやると、は一瞬キョトンとしてから、おかしそうに軽やかな声を上げて笑い出した。


「あははははっ!正直ぃ〜!」
「そうや、俺は正直なんや。知っとるやろが。」

別に今の状況に不満がある訳ではない。お互い納得ずくで、もう2年も続けてきている生活だ。
ただ、逢えない夜に募らせてきた寂しさが、こうして逢えた夜にはとめどもなく溢れてしまう、それだけの話だった。
短くなった煙草を揉み消して、真島はの肩を優しく抱いた。


「俺がどんだけ日々健気に我慢しとると思ってんねん・・・・・」
「そんなん・・・・・、あんただけとちゃうし・・・・・」

と微笑み合いながら、真島はの指に挟まっている煙草を取り上げ、灰皿に押し付けた。
また引き合うように唇が重なって、笑い合う声も静かに途切れた。
夜明けはまだ、遠かった。




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後書き

→※前回の続きです。

・・・・という訳なので、夢小説書きの視点から、その謎を解明していこうじゃないか!と奮い立ちました。
あくまでもオリキャラヒロインありきの夢小説的解釈ですが、お楽しみ頂ければ、そして、私と同じようにあの謎の数々に頭を悩ませておいでの方に少しでもスッキリして頂ければ幸いです。
自分が可能な限りスッキリする事を重視して書いていますので(笑)、これまた前作以上に色々とこじつけまくり&捏造しまくりです。
只々自分を納得させる為に、あれこれと理由を重ねまくったら、物凄い遠回りな筋書きが出来ました(笑)。

まず第一のキーポイントは、第1話でチラッと触れた、真島組旗揚げの難航。
キーマンは嶋野の親父です。
真島の兄さんが自分の組を持つ事を、嶋野の親父は許していない、その設定(※捏造ですよ勿論)が根底となります。
それを土台にして、今後くどい位のこじつけ&捏造ストーリーが展開していく予定です(笑)。

そしてやっぱり支配人!
隙あらば支配人!!
支配人もチョイチョイぶっ込んでいきたいと思います!!!

そんな感じで始まりました今作『夢の貌 ― ゆめのかたち ―』、どうぞ気長にお付き合い下さいませ!