星屑に導かれて 44




江里子はまだ、正気に戻ってはいなかった。
むしろじわじわと、確実に、媚薬の魔力に侵されつつあるようだった。


「んぁっ・・・・!はぁっ・・・・!・・・っと・・・・、もっと・・・・!」

組み敷かれた江里子は、黒く潤んだ瞳で承太郎を見つめて、甘い声で快楽をねだった。しかし、蕩けるようなその瞳は、すぐ目の前にいる承太郎を見てはいなかった。


「江里・・・・・・・・」

本当に江里子は助かるのだろうか?
一瞬、そんな不安が承太郎の頭を過ぎった。
まだ前戯だけとはいえ、江里子は既に何度もエクスタシーに達して気絶までしている。
それでもまだ、満たされてきている様子が全く見受けられない。
江里子を蝕む媚薬の毒は、快楽を与えられる端から吸収していっている。
幾ら水を注いでも、砂漠の砂は泥にはならないのと同じように、江里子が満たされる事も、本当はないのではないか?


「何してるんだ承太郎!?早くしてやれよ・・・・!」

心配そうな、じれったそうなポルナレフの叱責で、承太郎は我に返った。


「まさか今更怯んでんじゃねぇだろうな!?冗談じゃねぇぞ!」
「・・・分かってる。そんなんじゃねぇ。心配すんな。」

考えても仕方がない事だと、承太郎はその不安を振り払った。
このいたちごっこに勝つしか江里子を助ける方法がないというのなら、それをやってのけるしかないのだから。
話し込んだのと不安を感じたせいで勢いを失いかけていた自身を再び奮い立たせる為に、承太郎は江里子の唇に吸い付いた。


「んぅっ・・・・・・!」

舌を吸い、唇を甘く噛みながら花弁を弄ると、新たな蜜がすぐに滴り、承太郎の指を濡らした。


「あっ・・・・!んっ・・・・!あぁんっ・・・・・!」

中を何度かかき回してから、承太郎は指を引き抜き、江里子の片膝を持ち上げて、トロトロに蕩けた花弁に舌を這わせた。


「は、ぁぁんっ・・・・・!!」

江里子の蜜は舐めても舐めても止まる事なく溢れ続け、下にまで伝い落ちてシーツに滲み広がっていく。
江里子は腰をくねらせて悦び、その様は、承太郎をあっという間に復活させた。


「あっ、はぁっ・・・・!あぁぁん・・・・・・!」

前戯のピリオドに、承太郎は真っ赤な花芽を強めに吸い上げた。


「あぁぁぁぁっっ・・・・・・!!」

江里子は背筋を反らして身体を硬直させ、やがてベッドに力なく沈んだ。
放心して息を切らせている江里子を見つめながら、承太郎は自分も一糸纏わぬ姿になり、ベッドサイドのテーブルに置いておいたコンドームの箱に手を伸ばした。だが。


「・・・・・・・」

使い方を知らない訳ではなかったが、実際に使うのはこれが初めてだった。
しかも、細部まで至れり尽くせりな日本製品ならばともかく、生憎とこれはメイド・イン・スペイン。一目瞭然な絵図面もなく、印字は全て当然のスペイン語で、どっちが裏でどっちが表なのか判別がつかなかった。


「おい、誰かコレの使い方を教えてくれ。」
「はぁ!?」

思いっきり怪訝そうな顔をしたポルナレフが、すぐさますっ飛んできた。


「何お前、まさか使い方知らねぇの!?どっちの意味で!?」
「どっちって何だ?」
「いや、マジで童貞って事なのか、それともナマでしかヤッた事ねぇって事なのか・・・・」
「・・・・前者プラス、スペイン語が分からねぇって事だ。」

承太郎は、コンドームの個包装をポルナレフの頬にペシッと叩き付けた。
ポルナレフは、頬に叩き付けられてヘロヘロと落ちてきたそれを、唖然としたまま受け取った。


「・・・・マジかよ・・・・・、驚いたぜ・・・・・・。あんだけ女にモテまくりのオメェが、まさか本当にチェリーボーイだったなんてなぁ・・・・・」
「んなこたどうでも良いから、早く読んでくれ。どっちが表でどっちが裏だ?」
「いや、そんな事俺に訊かれても・・・・。スペイン語なんか俺も分かんねぇしよ・・・・・。」
「何だそりゃ。フランスの隣の国だろ。」
「分かんねぇモンは分かんねぇよ!じゃあオメェだって中国語や朝鮮語が分かんのかよ!?」
「むぅ・・・・・・」
「何をやってるんだお前達は!どれっ、貸してみろ!」

この期に及んで下らない事でモタついている承太郎とポルナレフに焦れたアヴドゥルが、間に割って入ってそれを奪い取った。


「ああ・・・・、こっちが表だ。この方向で着けろ。」
「ああ。サンキュ。」

承太郎は再び手元に戻ってきたそれを今度こそ封切り、先端が下腹に着きそうな程に硬く反り返っている自身に被せた。何しろ初めての事なので、違和感は少なからずあるものの、何とか装着する事は出来た。


「きつくて鬱陶しいぜ・・・・」
「仕方がないよ。幾らこんな状況だからといっても、避妊はちゃんとしないと。」

花京院の言う通りだった。
確かに、こんな状況だからといっても、いや、こんな状況だからこそ、絶対に江里子を妊娠させる訳にはいかない。
そう思ったからこそ、ジョースターもこんな信じられない量の避妊具を買い込んで来たのだろう。いつでもお気楽でいい加減なあの爺は、その辺りはもの凄くシビアに考えている筈だと、承太郎は思った。
抜け目がなくて欲張りなあの爺は、江里子の命さえ無事なら良いとは最初から考えていない。そんな事は当然の大前提であって、彼にとっては、江里子のその後の生活・人生に何の支障も来たさないようにする事が肝心なのだ。
ジョセフ・ジョースターにとって、江里子は孫娘のような愛おしい存在だから。


「・・・分かってる。」

承太郎は、改めて江里子に向き直った。
江里子の両膝をしっかりと開き、猛り狂った自身の先端を花芯に押し当てると、それだけで背筋を擽るような快感があった。


「っ・・・・・・・・」

花弁を押し開いて、先端がめり込んでいく。
こんな小さな、あるかどうかも分からないような孔に本当に入るのかと一瞬心配になったが、意外にもそれは承太郎を受け止めて柔らかく拡がり、先端の半分程を呑み込んだ。


「あぁぅっ・・・・・・!」

しかし江里子は、痛そうに眉根を寄せて顔を顰めていた。


「い・・・・たぃ・・・・・っ・・・・・・」

小さな声だったが、江里子は確かに『痛い』と言った。
その言葉に、承太郎はハッとした。
江里子に理性が、正常な感覚が、戻ってきている気がして。


「江里・・・・・・!」
「ぁっ・・・ぅぅ・・・・・・、痛・・・い・・・・・・!」
「江里っ、しっかりしろ!目を開けて俺を見ろ!」

承太郎はその体勢のまま、頬をペチペチと叩いて呼び掛けた。
すると江里子は、ゆっくりと目を開けた。


「江里・・・・・・!」
「承・・・太郎・・・・さん・・・・・?」

まだぼんやりとはしているものの、江里子の瞳は今、確かに承太郎を見つめていた。


「俺が分かるか、江里・・・・!?」
「・・・・承・・・太郎、さん・・・・、痛・・・い・・・・・」

遂に正気が戻ってきたのだろうか。
辛そうに顔を顰めて痛いと訴えかけてくる江里子を見て、承太郎は内心で歓喜した。


「お前、気が付いたんだな・・・・・!」

江里子が正気に戻った。
その事しか考えていなかった承太郎は、無意識的に腰を引き、繋がりかけていた身体を離そうとした。
しかし江里子はそれを許さず、承太郎の腕を掴んで、自分から腰を押し付けて、抜けかけた楔を自ら進んで受け入れた。


「うぅっ・・・・・・・!」

そのせいでまた苦痛に顔を顰め、苦悶の呻き声を洩らしながらも、それでも決して離れるまいとしがみついてくる。
そんな江里子に、承太郎は動揺せずにはいられなかった。


「なっ・・・・・!?」
「痛・・・ぃ・・・・・・・!」
「馬鹿お前ッ・・・・、だったら無理すんな・・・・・!」
「あぁっ・・・・!だめぇっ・・・・!」

再度腰を引こうとした承太郎を、江里子は啜り泣きながら阻んだ。


「っ・・・・!何でだよ、痛ぇんだろ!?」
「だめぇっ・・・・・あぅっ・・・・・!」
「くぅっ・・・・・・・!」

江里子は両脚を承太郎の腰に巻き付け、更に腰を強く押し付けてきた。
承太郎の先端が完全に埋まると、後は勢いだけで一気に半分位まで入り込んだ。
熱くて柔らかい江里子の中で自身を絞り上げられる快感に、承太郎は思わず呻き声を洩らした。


「っ・・・・・!ばっ・・・・、カヤロッ・・・・、お前っ・・・、言ってる事とやってる事が違うじゃねぇか・・・・!」
「うぅっ・・・・!いた・・・・っ・・・・・」

江里子は浅い呼吸を繰り返しながら、涙に潤んだ瞳で承太郎を見上げた。


「ぃ・・・や・・・・、やめ・・ないで・・・・・」
「っ・・・・・・!」

甘い疼きが、承太郎の背筋を一気に駆け抜けた。


「おねが・・・・っ・・・・、承・・たろ・・・ぁぁっ・・・・・!」

破瓜の痛みに涙を浮かべながらも、必死にしがみ付いて懇願する江里子の姿は、痛ましくもあり、同時に堪らなくエロティックでもあった。


「・・・・・・く・・・・・・が・・・・・・・」
「・・・何だ・・・・・・?今、何て言っ・・」
「お腹の・・・・・奥・・・・・・」

江里子は殆ど聞こえない位の小さな声で途切れ途切れに呟きながら、ゆるゆると自分の下腹に手を当てた。


「・・・・・ジンジン・・・・するの・・・・っ・・・・・!」

一時は正気に戻ったのではないかと安堵しかけたが、どうやらまだ安心するには早いようだった。
媚薬の毒は、やはりまだ江里子の身体を蝕み続けている。
破瓜の痛みが少しだけ呼び覚ました意識が、それとせめぎ合いながら、必死で助けを求めてきているのだ。
子宮の辺りに手を当てて辛そうに啜り泣く江里子を見て、承太郎はそれを悟った。


「・・・・・分かった。負けるんじゃねぇぞ、江里・・・・・・」

承太郎は江里子の手の上に自分の手を重ねて、束の間握り締めた。
そして、江里子の腰をしっかり掴むと、一息の下に江里子を深く貫いた。


「あぁぁぁぁっっ・・・・!!」

突き破るようにして奥まで貫いた瞬間、江里子は甲高い声を震わせて、一瞬で絶頂へ駆け昇った。


「ぅ、くっ・・・・・・・!」

内壁がきつく締まって痙攣し、その刺激で思わず爆ぜてしまいそうになる。
しかし承太郎は奥歯を食い縛り、それを堪えた。


「は・・・っ・・・・、ぁっ・・・・ぁ・・・・・」

江里子は息も絶え絶えに、また放心してしまっていた。
熱く火照っているその頬を、承太郎はそっと撫でた。


「江里・・・・・、俺の声が聞こえるか・・・・・?」
「ん・・・・・・・、じょ・・・たろ・・・・さ・・・・・」
「もう少しだけ辛抱してろよ。絶対に、助けてやるからな・・・・・」
「んっ・・・・・・・」

誓いのキスを江里子の唇に落として、承太郎は律動を始めた。


「あっ・・・・!あぁっ!やぁぁっ・・・・・!」

江里子は、喘ぎ声とも泣き声ともつかない声を上げてよがった。
まだ痛いのだろう。
どんな痛みかは想像出来ないが、しかし、どんな痛みであれ、今は辛抱させるという選択肢しかなかった。


「あぁっ!あぁぁっ・・・・!いた・・・っ・・・・!んああぁっっ・・・・!」

顔を真っ赤にして涙を滲ませながら喘いでいる江里子に覆い被さり、しっかりと組み敷いて、承太郎は猛然と腰を振るった。


「あぁっ・・・!あぁっ・・・・、いやぁぁっぅぐっ・・・・・!」

痛がって泣く声を深いキスで遮ると、江里子が背中に腕を回し、強く抱きしめてきた。
ベッドが軋み、自身が江里子の胎内を激しく突く音が聞こえる。
口の中に入ってくる江里子のくぐもった声が、堪らなく甘い。
江里子の身を案じる気持ち、それとは別に、男としての本能が急速に膨らんでくるのを、承太郎は抑える事が出来なかった。


「んぅっ・・・・!ぅっ・・・・・!うぅぅっ・・・・・!っあぁっ・・・・!!」

唇を離し、今度は胸の先端に吸い付いた。
一瞬で固くしこった其処を舌先で擽りながら、江里子の中をかき回すように腰を動かすと、江里子の声が甘さを増した。


「あん・・・・・!あぁんっ・・・・・・!あ・・・・・・!」

胸を愛撫しながら中をかき回すと、痛そうに顰められていた江里子の表情に変化が出てきた。さっきまでの前戯の時のように・・・、そう、感じてきているのだ。
片方の先端を吸い、もう片方の乳房を揉みしだきながら、承太郎は尚も腰を動かし続けた。


「はっ・・・・!あぁぁん・・・・・!」

江里子は堪らなく甘い声で啜り泣きながら、承太郎の頭を自分の胸に押し付けるようにして強くかき抱いた。
いつの間にか、腰ももどかしそうに揺れている。
痛みがどんどん快感にすり替わっていっているようだった。


「あぁぁん・・・・・、承・・太郎・・・・さん・・・・・」

夢の中にたゆたうような、甘い声で囁きかけられて、承太郎は江里子の口元に耳を寄せた。


「・・・・・・・・・」

それは恐らく、他の誰にも聞こえていなかった。
それ位の小さな小さな声で、江里子は確かに言った。

好き、と。



「っ・・・・・・・・・!」

熱くなった血が、承太郎の身体の中を一瞬で駆け廻った。


「あっ・・・、あぁぁぁっ!!んあぁぁっ!!」

承太郎は再び、いや、より一層激しく、江里子を突き上げ始めた。


― こ、こいつッ・・・・!よりによって今言うか・・・・・!?


嬉しいやら照れ臭いやら悔しいやらで、とても冷静ではいられなかった。
言葉を返してやりたいのは山々だが、しかし承太郎としては、仲間達が聞いている横でそんな事は口が裂けても言えなかった。
人前でセックスしておきながら、『好きだ』の一言が言えない自分が我ながら謎ではあったが、とにかく言えなかった。


「あっ!あっ!ああっ・・・・!」

口に出来ない想いを、承太郎は身体でぶつけた。


「あぁっはぁっ・・・・!あぅぅっ・・・・!あぁぁぁっ!」


― こんのアマぁ・・・・、それは俺の台詞なんだよ!俺が言う前に先に言ってんじゃねぇぜ!


「あぁぁんっ・・・・・!!あぁっ・・・・、ぃ・・・やぁぁっ・・・・・!」


― お前、ちゃんと分かってんだろうな!?俺の気持ちをよ・・・・・・!


「あぁぁぁぁっ・・・・!!やっあぁ・・・!やっ・・・、駄、目ぇぇ・・・・!!」

心のままに、最奥を何度も何度も激しく突き上げている内に、江里子の中が一層きつく締まってきた。


― くっそ・・・・!また何だってコイツの中はこんなに気持ち良すぎるんだ・・・・!?ヤバいぜ、もうもたねぇ・・・っ・・・・!


「あっ、あぁっ・・・・!あぁぁっ・・・・!!」
「・・・・江里っ・・・・・!」
「あっんんぅっ・・・・・!!」

承太郎は一際奥まで自身を突き込むと、噛みつくような勢いで江里子に深く口付けた。そして。


「うぅぅぅぅっっ・・・・・・!!」

江里子と共に激しいエクスタシーの波に攫われていくその刹那に、江里子の嬌声に紛れさせて、声にならない言葉を伝え移した。


好きだ、と。



















「はぁっ・・・・・・!はぁっ・・・・・・!はぁっ・・・・・・・」

承太郎は、その人並み外れて大きな身体を江里子に預けて暫くグッタリとしていたが、やがて呼吸が整ってくると、モゾモゾと身を起こし、江里子を解放した。


「くっ・・・・・・・」

彼が鬱陶しそうに抜き取ったコンドームの中には、凄い量の白濁液が溜まっていた。
花京院は、生々しいその光景に思わずショックを受けると同時に、小さく吹き出した。


「何だ?何が可笑しい?」

笑った理由を尋ねてきたアヴドゥルに、花京院は答えた。


「いえ・・、改めて、僕らとんでもない事をしているなと思って。それも素面で。」
「はは、違いない。・・・だが、次はお前の番だぞ、花京院。」

緊張しないと言えば嘘だった。
だが、同じ条件の承太郎はやってのけた。それも一番手で。
決して勝ち負けの話ではないのだが、しかしそれでも。


「・・・・・はい。」

負けていられない。
花京院は静かな微笑みを湛えて、ソファから立ち上がった。
ベルトを外し、脱いだズボンを手早く畳んでソファの背もたれに引っ掛けてから江里子の元へ行こうとすると、空いている方のベッドに腰掛けてポルナレフと一緒に煙草を吸っている承太郎が、声を掛けてきた。


「ちょっと正気が戻ってきた気もするが、まだまだ足りねぇようだ。半分朦朧としながら、腹の奥が痺れると訴えてきた。」
「分かった。」

出来るだけ距離は取っていたが、二人の営みを見ていたから、状況は大体分かっていた。
江里子が、破瓜の痛みに苦しみながらも自ら承太郎を受け入れ、自分の身に起きている異変を必死に訴えていたのも、自分を抱いている男が、承太郎だとちゃんと認識していたのも。
避妊具を手に取りながら、花京院はしどけなく横たわっている江里子の姿を見下ろした。


「・・・・・ん・・っ・・・・・・」

江里子は今、夢現の状態だった。
時折ピクンと身体が震えるのは、激しい快楽の余韻のせいだろう。
花京院は江里子の肩を軽く揺すった。


「江里子さん、江里子さん。」
「・・・・んん・・・・・・」
「僕が分かりますか、江里子さん?」

江里子を起こそうと考えたのは、正義感ゆえの事だった。
江里子がもしも、承太郎とのセックスで満足出来たのなら、それ以上この乱交を続ける意味はなくなる。江里子の状態を確かめずして問答無用に抱くのは、己の身勝手な欲望以外の何物でもない。そう考えての事だった。


「江里子さん・・・・・・・」
「・・・・・・か・・・・・きょう・・・・いん・・・・さん・・・・・」

ぼんやりと目を開けた江里子は、トロンとした表情で花京院を見上げてきた。
花京院は少しだけ身を屈め、江里子に顔を近付けた。


「僕が分かりますか?」
「・・・・ん・・・・・・」

江里子は微かに頷いた。
確かにさっきまでよりは意識が正常に働いてきているようだと、花京院は少しだけ安心した。


「気分はどうですか?」
「・・・・・・気持ち・・・・・ぃ・・・・・・」

江里子は睫毛を震わせ、キスを求めるように、おずおずと顎を上げた。


「・・・・・もっと・・・・して・・・・・・」
「江里子さん・・・・・・・」
「早く・・・・・、お願・・・・・・」

震えている小さな唇に、花京院は優しくキスをした。
そしてそのまま、ベッドの上に静かに上がった。


「ん・・・・、んんっ・・・・・」

一旦唇を離し、マシュマロのような江里子の乳房を優しく揉みしだきながら下着を脱ぎ去り、そう言えば承太郎が避妊具の表裏が分からないと言っていた事を思い出して、花京院は肩越しに承太郎を振り返った。


「承太郎。これ、どっちが表でどっちが裏だった?」
「ああ、貸してみろ。」

承太郎は腕を伸ばし、花京院の差し出した個装を正しい向きに直して返してきた。


「サンキュー。」

花京院はそれを受け取って封を切り、硬くいきり立っている自身に被せた。
何気ない風を装いながらも、内心ではかなり緊張していた。何しろ初めてなのだ。
しかし、同じく初めてで堂々とそれをやってのけた承太郎の事を思うと、この期に及んでつい妙な対抗意識が芽生えた。
幸い、装着は難しくはなかった。
多少の窮屈感はあるが、我慢出来ないという程でもなかった。
途中で抜け落ちて避妊に失敗する事がないように、迅速かつ入念にチェックを済ませると、花京院は改めて江里子に向き直った。


「ぁ・・・・ん・・・・・」

脚を大きく開かせると、白いシーツに処女の証が付いていた。
さっきの今ではまだ痛むだろうか、それを思うと少し心配ではあったが、それを理由に中断する訳にはいかなかった。


「江里子さん、いきますよ・・・・・?」

江里子を組み敷き、声を掛けてから、花京院はいきり立った自身を江里子の花芯に押し当てた。


「あっ・・・・、あぁぁっ・・・・・!」

幾ばくかの抵抗感はあるものの、先端が全て潜り込んでしまうと、そこから以降の挿入はスムーズに出来た。
江里子の中は熱く、狭く、柔らかく、花京院に纏わり付いてじんわりと締め付けてきた。初めてのその感覚、その快感に、花京院は深い溜息を吐いた。


「・・・・ああ・・・・・、江里子さん・・・・・・」
「んぁぁ・・・・・・・・!」

多分、まだ幾らかは痛むのだろう。江里子は辛そうに顔を顰めた。
そしてその顔で、涙に潤んだ瞳で、花京院を見上げてきた。


「・・・・花・・・・・京、院・・・・・さん・・・・・・」
「っ・・・・・・・!」

江里子は分かっている。今、誰に抱かれているのか。
江里子はちゃんと、分かってくれている。
そう思った瞬間、花京院は目が眩みそうな程の満足感と興奮を覚えた。
江里子はまだ誰のものにもなっていないという事はちゃんと理解しているが、それでも今は、身体を繋げている今この時だけは、自分のものになっているような気がして。


「・・・・・江里子さん・・・・・・」

多分、承太郎も同じ事を思った筈だった。
そして、アヴドゥルも、ポルナレフも、同じように感じる事だろう。
この倒錯した夜を共にしながら、皆それぞれ、ほんの一時、江里子を我がものにした幸福感に浸るのだ。
愚かではあるが、どうしてそれを止められようか。


「江里子さん・・・・っ・・・・・!」
「あぁぁっ・・・・・・!!」

花京院は心のままに、江里子の中を深く貫いた。
そして、その衝撃で浮き上がった江里子の腰を掴み、激しく打ち付け始めた。


「あっ!あぁっ!あぁぁっ・・・・・!」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・!」

花京院は息が続く限り、江里子の奥深くを何度も何度も激しく突き上げた。そして息が切れてくると、崩れ落ちるようにして江里子に身を預けた。


「うぅぅっ・・・・・・!」

胸を押し潰されて苦しそうに呻く江里子には悪いが、吸い付くような柔らかい肌の感触が気持ち良すぎて、離れる事が出来ない。
花京院は江里子の肌のそこかしこに口付けながら、江里子の中を尚も突き続けた。


「あんっ・・・!あぁ・・・・っ・・・・、あぁっ・・・・!」
「江里子さん・・・・・・・」
「あっあぁん・・・・・・!!」

耳元に囁きかけると、江里子の中がキュゥゥン・・・・と締まった。
思わず込み上げそうになった射精感をグッと堪えて、花京院は江里子の髪を撫でた。


「江里子さん・・・・・、僕が分かりますか・・・・・・?」
「はぁっ・・・・・、ぁぁっ・・・・・!」

耳を擽る吐息に震えながらも、江里子は確かに小さく頷いた。


「花・・・・・京・・・・・さ・・・・・が・・・・・、た・・しの・・・中・・・に・・・・・・」
「・・・そうです・・・・!」

よく耳をそばだてないと聞こえないようなか細い声だが、江里子は確かに喋った。
承太郎の言った通り、正気が戻ってきているのだ。
花京院は喜び、紅潮している江里子の頬を撫でた。


「良かった江里子さん、分かるんですね・・・・・!?」
「・・・・・な・・・・か・・・・・・」
「ん・・・・・・・・?」
「おなか・・・・・・・・・・、熱い・・・・・・・・・・」

江里子は、自分の頬を撫でている花京院の手を掴んだ。
まるで縋り着くように、今にも泣き出しそうな顔で。


「おなか・・・・・、奥・・・・っ・・・・、あ・・・ついぃっ・・・・・!」

不意に江里子の中が波打ち、きつく締まった。


「くっ・・・・・・・・・!」
「あ、ぁ、ぁぁっっ・・・・・・!」

江里子の中が、花京院を包み込んだまま痙攣している。
ただ頬を撫でていただけなのに、それで達してしまっているのだ。
思わずそれに釣られて自分も爆ぜてしまいそうになるのを、花京院は必死の思いで堪えて踏み止まった。


「ぅ・・・く・・・・っ・・・・・!」
「・・・・か・・・・きょう・・・・ぃん・・・・・、さ・・・・・」

息を詰まらせながら、うわ言のように名前を呼ぶ江里子を、花京院はしっかりと抱きしめた。


「・・・・・大丈夫・・・・・、必ず、助けますからね・・・・・・」

もう少しだ。
もう少しで江里子を助けられる、きっと、必ず。
花京院はそう強く信じて、熱く滾る自身を深々と江里子の中に突き込んだ。


「あぁぁぁぁっ・・・・!!」

江里子の甲高い嬌声と花京院自身の荒い息遣いに、淫らな結合音が混じって聞こえる。
もう何も考えられなかった。
人が自分をどう思っているか、どんな顔で見ているか、物心ついた時からこれまでずっと、どんな時でも心の片隅で常に気にしていた事から、花京院は今初めて解放されていた。


「あんっ!あぁっ!あぁぁっ・・・・・!」
「はぁッ・・・・!はッ・・・・・!」

もう江里子の事しか考えられなかった。
人を愛するとこんな風になるのかと、驚く余地さえなかった。
ただ、江里子が愛しくて、何としても江里子を助けたくて、花京院は猛然と腰を打ちつけた。
深く、深く。
媚薬の毒に疼いている江里子の子宮を突き上げるイメージで。


「あっ・・・・!あぁっ・・・・!んぁぁっ・・・・!」

花京院の先端が最奥にコツコツと当たる度に、江里子は声を甲高く震わせて身悶えた。
その甘い声と艶めかしく乱れる姿が肉体の快感に相まって、身も心も際限なしに昂っていく。それに酔いしれながら、花京院は江里子を強く抱きしめた。


「ハァッ・・・・、江里子さん・・・・っ・・・・・!」
「あ、ぁ、ぁッ・・・・!!」
「愛してる・・・・・・!」

そして、喘ぐ江里子の耳元に唇を寄せて、破裂しそうな程に昂ってしまったその想いを囁きかけた。頭で考えての事ではなく、熱に浮かされてうわ言を口走るように、口が自然と言葉を紡いでいた。


「・・・・・・た・・・・・しも・・・・・・」
「・・・・・・え・・・・・・?」

驚いたのは、その直後だった。


「ぁ・・・・たし・・・・・・も・・・・・・・・・」

乱れる呼吸の合間に、江里子が返事をしたのだ。


「ぁぃ・・・・・して・・・・・る・・・・・・」

小さな、掻き消えてしまいそうな声で、でも確かに、『愛している』と。


「え・・・・・・・・・!?」

花京院は驚いて、即座に江里子の顔を覗き込んだ。
その瞬間、江里子と目が合った。
黒く潤んだその瞳が、自分を見つめたまま一筋の涙を静かに零すのを、花京院は呆然と見つめた。


「江里、子、さ・・・・・・・」

快楽に蕩けてはいるが、その瞳の奥にはちゃんと芯が、江里子の心があるように見えた。
江里子と心が繋がったと感じた。
その瞬間。


「ぁ・・・・っ・・・・、く、ぅッ・・・・・・!」
「んんっ、あ、ぁぁッ・・・・・・!」

抗い難い感覚が花京院の背筋を走り抜け、限界にまで昂っていた情熱を江里子の中に激しく迸らせていた。



















やがて絶頂の余韻が引くと、花京院はベッドから下りた。
そして、果てた自身の始末をし、また下着を身に着けてから、ポルナレフとアヴドゥルの方に目を向けた。


「次はどっちが?」
「アヴドゥル、お前だ。」

ポルナレフは即答すると、また新たな煙草に火を点けて燻らせ始めた。
つくづく勝手な男だ。
自分がこうと思ったらそれを貫き通し、何でもこうやって自己完結してしまう。
アヴドゥルは内心でぼやいたが、それを口に出して抗議する事はしなかった。
勝手なやり方ではあるが、彼なりに筋を通しているのだ。
ズボンの前が突き破らんばかりになっている癖に、余裕めかした顔で煙草を吹かしているポルナレフに一瞬苦笑して、アヴドゥルはソファから立ち上がった。


「正気はだんだん戻ってきているようです。承太郎の事も、僕の事も、それぞれちゃんと認識していました。」

江里子の元に向かおうとするアヴドゥルに、花京院が現状を報告してきた。


「そうか。」
「だが、まだ薬の効果は切れていない。お腹の奥が熱いと訴えていました。
承太郎にも同じような事を訴えていたようですから、相当その・・・」
「ああ、想像はつく。君の言いたい事は分かるよ。」

先回りしてそう答えると、花京院は安堵したように頷いた。


「助かります。」
「なぁに、それはこちらの台詞だ。君達がエリーのメッセージを拾ってくれたお陰で、彼女の今の状態が良く分かった。」

それが出来るのは、同じ日本人である花京院と承太郎だけだ。
明瞭な意識を持って話してくれる言葉ならともかく、今の江里子の言葉をどれだけ理解してやれるか、全く自信は無かった。
だが、必ず助ける。
その揺るがない決意を胸に抱き、アヴドゥルは江里子の側に立った。
江里子はまた気を失ったかのように、ぐったりと目を閉じていた。
白いシーツの上に散らばる艶やかな黒髪が美しくて、思わず一房手に取ると、それは絹糸のようにしなやかにアヴドゥルの指を滑り落ち、音もなくまたシーツの上に散らばった。


「・・・エリー・・・・・・」

アヴドゥルは江里子に呼び掛けながら、じっとりと汗ばんでいるその肩に触れた。
そっと揺すっていると、何度目かで江里子はゆっくりと目を開いた。


「エリー。大丈夫か?」
「・・・・・・と・・・・・・」
「ん・・・・・?」

その小さすぎる声を聞き取ろうと、アヴドゥルは江里子の唇に耳を寄せた。


「・・・・・もっと・・・・して・・・・・」

甘い囁きが、アヴドゥルの耳を擽った。


「ああ、分かってるよ・・・・」

アヴドゥルは江里子の唇に軽いキスをし、ベッドに上がった。



「はぁ・・・・あぁ・・・・・」

4人もの男を一身に受け止め続け、何度となく達している江里子はもう、息も絶え絶えだった。
誰も乱暴に扱ってなどおらず、皆それぞれ真剣に江里子を愛しているだけなのだが、疲れきっている江里子の姿は何だか気の毒で、居た堪れなかった。
出来ればこのまま寝かせておいてやりたい。ふとそんな事を考えたが、しかしアヴドゥルは、一瞬頭をもたげた情を敢えて振り払った。
まだ終わっていないのだ。
江里子の身体を蝕む媚薬の毒を浄化させない内は、人としての情よりも男の欲望を掻き立てねばならない。己の中のそれを燃え上がらせるべく、アヴドゥルは江里子の脚を大きく開いた。


「・・・・ぅん・・・・・」

トロトロに蕩けきった花芯が、小さく口を開いて尚も蜜を垂らし続けていた。
それを舌先で掬い取ると、ぐったりしていた江里子がまた甘い声を上げて震えた。


「は、ぁぁんっ・・・・・・!」

腰が揺れ出し、また新たな蜜がすぐに溢れてくる。
アヴドゥルは江里子の花弁を割り開き、後から後から溢れてくる蜜を啜りながら、固く膨れた花芽を指先で苛んだ。


「やっ・・・あぁっ・・・・!」

力が篭って閉じてくる脚を腕で遮りつつ、執拗に攻め立てた。
舌を入れて中から直接蜜を吸い出し、花芽を擦り、徹底的に攻め上げた。


「あぁっ・・・・!あぁぁんっ・・・・!ぃやぁっ・・・・・!」

江里子は啜り泣きながら、しきりと首を振っていた。
強すぎる刺激を受け止めきれないかのように。
江里子がまた気をやるまでこのまま続けるかどうか暫し考えてから、アヴドゥルは江里子を解放した。


「はぅっ・・・・ん・・・・・!」

またぐったりとした江里子を見下ろしながら、アヴドゥルは下着を脱ぎ捨て、コンドームの箱に手を伸ばした。


「あっ!んっ・・・・!んっ・・・・!」

コンドームを装着しながらじわじわと押し潰すように花芽を揉むと、江里子は小刻みに身体を震わせながら甘い声を上げた。


「あぁ・・・ん・・・・・!あん・・・・・!」

利き手ではない方の指で不器用に触る位の方が今の江里子には丁度良いのだろうか、声が甘ったるく、蕩けるような表情をしている。腰も、さっきより一層もどかしげに揺れている。
硬く怒張している自身の根元までコンドームをしっかりと被せてから、アヴドゥルは江里子を組み敷き、腰を少し持ち上げた。


「ぁ・・・・・・・・・」

そして、押し当てた先端が滑る程に濡れている江里子の花芯を、深く貫いた。


「ふあぁぁぁぁっ・・・・!!」
「ぅっ・・・・・・・・!」

その瞬間、熱い内壁が蠢き、アヴドゥルを果てさせようときつく締まった。
随分久しぶりのこの快感に思わず負けそうになったが、幾ら何でもこんなに早々と終了する訳にはいかない。どうにかこうにか堪え抜いてから、アヴドゥルはゆっくりと息を吐いた。


「・・・・・エリー・・・・・」

愛しくて、触れずにはいられなくて、アヴドゥルは、耐えるように顔を顰めている江里子の柔らかい頬を撫でた。


「大丈夫だからな・・・・・」

大丈夫。
江里子は必ず助かる。助けてみせる。
そう強く念じながら、アヴドゥルは律動を始めた。


「あっ・・・・・!あぁっっ・・・・・!」

疲労の色が濃くなってきた江里子を気遣って、激しく揺さぶる事はやめておいた。
代わりに、ゆっくりと力強く、子宮をしっかり押し上げるような動きにすると、江里子はアヴドゥルの腕の中で甘く喘ぎ始めた。


「あぁ・・・・っ・・・・・、あぁぁ、ん・・・・・・!」

朦朧とした意識の中で江里子が承太郎や花京院に訴えたという症状は、恐らく媚薬の効果で子宮が酷く疼いている状態だと考えられた。
その感覚がどういうものかは、男の身では想像もつかないが、意識して奥深くを突き上げる度に江里子は甘く蕩けるような声を上げているから、その状態は今もまだ続いているのだろう。
アヴドゥルは、押し出されそうになる程きつく締まる内壁を貫くようにして、江里子の奥深くを集中的に刺激し続けた。


「ああぁっ・・・・・・!!」

身体をしっかりと抱き込んで押さえ、腰を一層強く、深く、押し付けると、江里子は一筋の涙を零して身を震わせた。
また達したのだ。
ヒクヒクと痙攣する柔襞に誘われて、アヴドゥルもまた、眩暈がしそうな程の強い快感を覚えた。


「っ・・・・!エリー・・・・・」

それをどうにかやり過ごしてから、アヴドゥルは江里子の頬を伝う涙を吸い取った。


「うぅ・・・・・・・!」

呼び掛ける声に反応するかのようにして、江里子が抱きしめ返してきた。
いや、抱きしめ返すというよりは、必死にしがみ付いてくるようだった。
それが、助けてくれという江里子のメッセージのように思えて、アヴドゥルは江里子の耳元に唇を寄せ、大丈夫だと囁きかけた。


「エリー・・・、大丈夫・・・、大丈夫だよ・・・・・」
「あぅっ・・・・、・・・ドゥ・・・さ・・・・」

荒い呼吸の合間に、江里子が何か言ったような気がした。


「エリー・・・・・・?」

顔を覗き込んでみると、固く目を瞑っていた江里子が、ゆるゆると目を開けた。


「・・・ア・・・・ドゥル・・・・さ・・・・・」

黒く潤んだ瞳が、アヴドゥルをちゃんと見つめていた。
朦朧としながらでも、意識はあるのだ。
花京院の言っていた通り、次第に正気が戻ってきているのだ。
アヴドゥルは、汗で額に張り付いた江里子の前髪をかき上げてやり、優しく微笑みかけた。


「エリー、私が分かるか?気分はどうだ・・・・・?」
「はっ・・・・ぁ・・・・」
「私の事が分かるなら、何か言ってくれ。うん・・・・・・?」

耳を江里子の口元に近付けたが、聞こえるのは苦しそうな浅い呼吸音だけだった。
英語を理解出来る程にはまだ理性が戻っていないのだろうか?
それとも、承太郎や花京院の時とはまた容態が変わってきているのだろうか?
思わず不安になったその時。


「・・・き・・・・・・」
「え・・・・・・・?」
「・・・・・す・・・・・き・・・・・・」

江里子が微かに発した言葉は、アヴドゥルにも理解出来る、ごく簡単な日本語だった。


「・・・・・エリー・・・・・・・?」

驚いて顔を上げると、江里子は、ごく僅かにだが、微笑んだ。
アヴドゥルを見つめて、確かに微笑んだのだ。


「エリー・・・・・・・」
「っ・・・・!あぁっ・・・・!」

尤も、それはほんの束の間の事で、次の瞬間には、江里子はまた切なげに顔を顰め、身を震わせていた。


「あぅ・・・ぅ・・・・・・!」
「うぅっ・・・・・・・!」

媚薬の力がまた勢いを盛り返してきたようだった。
人の愛を嘲笑うかのような、絶妙なタイミングで。
愛など、人の真心など、快楽や欲望の前では無力なのだと言わんばかりに。


「く・・・・っ・・・・・!」

否、江里子の想いが、彼女を想うこの心が、こんな下劣な薬に負ける訳がない。
アヴドゥルは己を奮い立たせると、江里子を抱きしめたまま仰向けに転がった。


「あぁぁぁっっ・・・・・・!!」

アヴドゥルの上に乗る格好になった江里子は、自重で益々深くなった挿入感に甲高い悲鳴を上げた。
だが、まだだ。
アヴドゥルは江里子の華奢な腰を掴むと、自分の上に強く押し付けた。


「ぅあぁぁぁっ・・・・・!!」

江里子が胸を突き出すようにして、ビクン、ビクン、と激しく痙攣する。
己の先端に子宮口が擦れるコリコリとした感触が、はっきりと分かる。


「ここだな、エリー・・・・?」
「あっ・・・・!ふ・・・っ・・・、あぁぁぁっ・・・・!!」

アヴドゥルは江里子の腰を掴み、前後に激しく揺らし始めた。


「あん・・・!あん・・・・!あぁんっ・・・・・!!」

子宮口を擦る度に、江里子は甘ったるく蕩けるような声で啼く。
快感が強すぎるのか、口の端から涎が細く垂れてきている。
内壁はきつく締まり、止まらない小刻みな痙攣が、アヴドゥルを果てさせようと攻め立ててくる。


「あっ・・・・!あぁっ・・・・!やっ・・・・あぁぁッ・・・・・!!」

何度目か分からない絶頂の後、江里子はとうとうアヴドゥルの胸の上に崩れ落ちた。


「ハァッ、ハァッ・・・・!エリー・・・・!」

まだだ。
まだ終わらない。
アヴドゥルは江里子をしっかりと抱きしめ、下から激しく突き上げ始めた。


「あぁっ・・・・!あんっ・・・・・!んあぁぁぅっ・・・・・!」

江里子の口の端に垂れている唾液を舐め取り、唇を深く塞いで、小さな舌を絡め取って吸い上げると、言葉に出来ない高揚感に身体が痺れた。


「うぅぅ・・・・っ・・・・!んぐぅっ・・・・・!」
「ふぅッ・・・・、うぅッ・・・・・!」

一分の隙間もない程に深く繋がり、汗さえも交わらせて、江里子と二人で高みへと上り詰めていく。


「ハァッ・・・・!ハァッ・・・・!エリー・・・・・!」

どうにかなりそうな程の愛しさと幸福感で浮かされて、今の状況も、後先の事も、何もかも霞んで消えてゆく。


「・・・・・・・!」

アヴドゥルは、涙を滲ませて喘ぐ江里子を力強く突き上げながら、その耳元に思わず呟いていた。
母国エジプトの、愛の言葉を。


「んっ・・・あぁぁぁぁっ・・・・・!!」
「うぅっ・・・・・・・!!」

言葉は分からずとも、想いは伝わったのだろうか。
その言葉を聞いた直後、江里子は甘い声を震わせて果て、アヴドゥルもまた、共にその波に攫われていったのだった。




















激しい絶頂の余韻が引いた後、ベッドを下りたアヴドゥルは、まっすぐポルナレフに歩み寄ってきた。


「意識は少しずつ戻ってきている。私の事もちゃんと認識していた。
だがやはり、薬の効果はまだ切れていないようだ。」
「・・・そうか」
「私には今の彼女の状態を聞き出す事は出来なかったが、多分、まだ同じ状態だろうと思う。つまり・・」
「分かってる。任せとけ。」

ポルナレフが請け合うと、アヴドゥルは少し苦笑いをした。


「お前が言うと実に説得力があるな。頼んだぞ、ポルナレフ。」

その言葉に自信満々の笑みで応えて、ポルナレフはソファから立ち上がった。
軽口のその裏にあるアヴドゥルの複雑な本心に、気付かない訳はない。
いや、アヴドゥルだけではなく、花京院も承太郎も、同じような気持ちでそれぞれ江里子を次の男の手に委ねてきた筈だ。
そしてそれは、ここでずっと待っていたポルナレフ自身と同じ気持ちの筈だった。
だがポルナレフは今、自分でも驚く位、己の心をコントロールする事が出来ていた。
自分で言い出した、自分の感情は横に置いておいて江里子の事だけを考えるという事が、今ようやく出来てきたような気がしていた。
アヴドゥルも、花京院も、承太郎も、きっと皆同じだろう。ポルナレフはそう確信していた。
これまでの事も、これからの事も、今は何も関係ない。
今は今、この時だけなのだ。


「エリー・・・・・・」

ベッドの上でぐったりと目を閉じていた江里子は、ポルナレフが軽く揺さぶると、ゆるゆると目を開けた。


「大丈夫か?」
「・・・・・・・」

何か言いたげに、江里子の唇がゆっくりと動いた。
その言葉を聞き取ろうと耳を寄せたが、声は出てこなかった。


「エリー・・・・・・」

江里子は、次第次第に弱っていっているのがはっきりと見て取れる状態だった。
4人もの男に入れ替わり立ち替わり抱かれ続けていれば疲れも溜まってきて当然だが、本当にそれだけだろうか、不安を感じずにはいられなかった。


「っ・・・・・・」

いや、大丈夫。間に合う。必ず助かる。
不安を振り払い、ポルナレフは全てを脱ぎ捨てて江里子に覆い被さった。


「ぁ・・・・ん・・・・・」

肌を弄ると、江里子は消え入るような声ではあるが、また喘ぎ始めた。そうしている内に、ポルナレフ自身もすぐさまはち切れんばかりの勢いを取り戻した。
硬くそそり立った自身に素早くコンドームを着けて、ポルナレフは江里子をうつ伏せの体勢にした。
柔らかい曲線を描く腰を掴んで高く持ち上げると、蕩けきって小さく口を開いたままの花芯も、キュッと窄んだアヌスも、赤裸々に曝け出された。
扇情的なその光景に思わず息を呑みながら、ポルナレフは熱く滾った自身の先端を花芯に宛がった。


「エリー、いくぜ・・・・・・」
「はっ・・・・・・・・!」

先端が潜り込んでいくと、江里子の腰がギクリと強張った。


「あ、あぁっ・・・・・・!」

後背位は最奥までしっかり届きやすい体位であるが故に、刺激もまた強い。
だからだろうか、江里子は無意識的に腰を引いて逃げようとする。
しかしポルナレフはそれをさせないよう、江里子の腰をしっかりと掴んだまま離さず、絡み付いてくる柔襞を押し分けるようにして、ゆっくりと挿入していった。


「あはぁっ・・・・・・・!」
「うぅっ・・・・・・・」

江里子の中は、熱くて、狭くて、柔らかかった。
そこに包み込まれてこってりと絞り上げられる快感に、ポルナレフは小さく呻いた。
そのままゆっくり押し進んでいくと、程なくして自身が最奥の壁にコツンと突き当たったのが分かった。


「ぁっ・・・・・・、はぁっ・・・・・・!」

ポルナレフを根元まで受け入れた江里子は、全身にびっしょりと汗をかき、時折身体を震わせながら、浅くて早い呼吸を繰り返していた。


「エリー、大丈夫だからな・・・・・。リラックスだぜ、リラックス・・・・・・」

ポルナレフは強張っている江里子の腰を優しく擦ってから、ゆっくりとした律動を始めた。


「はっ・・・・、あぁっっ・・・・・」

濃厚な蜜の海を、浅く、深く、優しく突く。
この中の何処かにある敏感なスポットを求めて、少しずつ角度を変えてはかき回す。
全ては、江里子を満たす為に。


「あぅっ・・・・・、うぅっ・・・・・!」

江里子はされるがままに、甘く切ない声で啼いていた。
その従順でエロティックな姿は、ポルナレフを激しく昂らせた。


「あっ・・・・!んんっ・・・・・!」

しなやかな背中を抱き竦め、夢中で唇を押し当てた。
柔らかい髪を掻き分けて、ほっそりとした項を甘く吸った。
その度に江里子は身を震わせ、甘い声を詰まらせた。


「あっ・・・・!あぁっ・・・・!やぁぁぁっ・・・・・!」

ポルナレフは、次第に動きを激しくしていった。
半分は意図的にだったが、もう半分は否応無しだった。
江里子の欲求を満たしてやりたい、その大義名分の上に、ポルナレフ自身の欲望が完全に重なっていた。


「あっはぁっ・・・・!んんぁっ・・・・!ぅんっ・・・・!」

大きくなってきた結合音と江里子の喘ぎ声が、どうしようもないその激しい感情を煽りに煽って、もう歯止めが利かなかった。


「んんぅっ・・・・・!んぁっ・・・・・!」

夢中だった。
江里子の温もりに、焦がれそうなこの想いに、溺れずにはいられなかった。
これで江里子が自分のものになった訳でないのは分かっているが、今ひと時、結ばれた悦びに身も心も熱く痺れていた。


「はぁっ・・・・・!エリー・・・・・」
「んんぅ・・・・・っ・・・・・!」

江里子の耳元に囁きかけ、小さな顎をやんわりと掴んで振り向かせると、引き合うように自然と唇が重なった。


「は・・・・っ・・・・・・・」
「んんぅっ・・・・・・・!」

舌先で歯列をなぞり、上顎を擽ると、江里子の中がキュンと締まる。
一層狭くなった其処を解し拡げるように、ポルナレフは腰をしっかりと押し付けて回転させ始めた。


「んふぅっ・・・・・!ん゛んっ・・・・・!」

最奥を強く激しく突くのとはまた違う刺激に、江里子は涙を滲ませて喘いでいる。
上半身がだんだんと低く沈んでいき、絡め合わせていた舌も緩んで解けていく。
自分を支える力も、キスに応える力も、抜けてきているのだ。
ポルナレフは江里子の唇を解放すると、今度は耳に舌を這わせた。


「あぁっはぁっ・・・・・!!」

江里子は波打つように肩を震わせ、腰だけを高く上げたまま、完全にベッドに沈み込んだ。
どうやら耳もかなり感じるらしい。
ポルナレフは江里子の華奢な背中にしっかり圧し掛かると、腰を逃がさないようにして、耳を徹底的に愛撫した。


「ぃやぁぁぁっ・・・・!あぁぁんっ・・・・!」

江里子の耳はとても綺麗で、柔らかくて、いじらしい程に敏感だった。
耳朶を甘く噛んでも、舌で擽っても、熱い吐息を吹き込んでも、江里子はその度に声を甘く震わせて啼き、キュンキュンと中を痙攣させてポルナレフを絞り上げてくる。
このまま一度押し上げてやるつもりで、ポルナレフは腰の回転を速めていった。


「あ・・ああぁぁぁあっ・・・・・!!」

程なくして、江里子は声を擦り切れさせながら、激しいエクスタシーを迎えた。


「くぅっ・・・・・・・・・!」

激しく痙攣する内壁に危うく釣られてしまいそうになったが、しかしポルナレフはそれを何とか堪えた。
まだ終わらせたくなかったのだ。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・・、エリー・・・・・」
「あぅっ・・・ん・・・・!」

一度結合を解くと、江里子は糸の切れたマリオネットのように力なく崩れた。



「今度は顔・・・見せてくれよ・・・・・」

力の抜けきった江里子の身体を仰向けに転がし、ポルナレフは再び江里子の中に入り込んだ。


「はぁぁっ・・・・・・・!」
「ああ・・・・、エリー・・・・・」

いつからだったろうか。
こうなる事を、本気で夢見るようになったのは。
今でも願っている。
こんな汚い策略に踊らされてではなく、江里子の意思で、望まれて、結ばれたいと。


「あっ・・・・!あぁっ・・・・!」

いつか必ず、そうなってみせる。
承太郎にも、花京院にも、アヴドゥルにも、負けはしない。
すべてを乗り越えたその後で、この惚れ惚れする程手強いライバル達から、正々堂々と江里子を勝ち取ってみせる。
その為には、まず。


「戻って来い・・・・・!戻って来いよ、エリーッ・・・・・!」

ポルナレフは江里子を力強く突き上げながら、戻って来いと繰り返した。


「あぁぁぁっ・・・・・!」
「エリー・・・・、エリー・・・・・!」

汗で額に張り付いた前髪を掻き上げて、柔らかい頬を撫でて、何度も名前を呼んだ。
すると、不意に江里子がゆるゆると目を開けてポルナレフを見た。


「エリー・・・・・!俺が分かるか・・・・・?」

その呼びかけに、江里子は微かに頷いて応えた。
言葉は勿論、日本語ではない。
意識が、理性が、どんどん戻ってきているのだ。


「分かるんだな!?良かった、エリー・・・・!良かったぜ・・・・・!」

ポルナレフは喜びのままに江里子を強く抱きしめては、頬や髪を撫でた。
もうじきに、江里子の瞳はいつものあの快活な輝きを取り戻すだろう。そう思うと、嬉しくて、ホッとして、つい目頭が熱くなった。


「・・・・泣か・・・ないで・・・・・」

江里子は薄らと微笑み、力のない指先でポルナレフの瞼にそっと触れた。


「へへ・・・・、泣いてねぇよ・・・・・」

ポルナレフは江里子のその手を取り、指先に口付けた。


「迷惑・・・・かけて・・・・・、ごめんなさい・・・・・・」

正気に戻った途端に詫びとは、如何にも江里子らしい。
嬉しいが、しかし、聞きたいのはそんな水臭い言葉ではなかった。


「何言ってんだよ・・・・・。こんな時に、そんなムードのない事言うんじゃねぇよ・・・・・」

ポルナレフは江里子の唇に優しくキスすると、その黒い瞳をまっすぐに見つめた。


「愛してる・・・・・。愛してるよ、エリー・・・・・」

ポルナレフが微笑むと、江里子も微笑んで微かに頷いた。


「・・・・・私も・・・・・愛してる・・・・・・」
「・・・エリー・・・・・!」

感極まったポルナレフは、江里子を強く抱きしめた。
これで江里子が自分のものになったという訳でない事は勿論分かっているが、それでも幸せだった。


「ぁっ・・・・・・!」

抱きしめた拍子に中を刺激したのか、江里子が小さく声を上げた。


「エリー、良いか・・・・・?」
「・・・・ん・・・・・・・」

江里子が小さく頷くと、ポルナレフはゆっくりと律動を再開した。


「あ・・・・、はぁッ・・・・・」

媚薬の毒は、もう抜けた。
あとは強い快楽よりも、心からの愛を与えたい。
そしてポルナレフ自身も、この想いをしっかりと抱きしめていたかった。


「あぁっ・・・・・・・・!」

ポルナレフはゆっくりと、深く、江里子の中を突き上げた。
緩慢な動作だったが、既に限界寸前まで昂っていた為か、ほんの何度かで痺れるような予兆が戻ってきた。


「あっ・・・・!あぁんっ・・・・!」
「エリー・・・・、あぁ・・・、エリー・・・・!」
「あぁぁっっ・・・・・・!」

愛している。
その熱い想いが、江里子の中へと激しく迸った。



「うぅっ・・・・・!・・・・っく・・・・・」

大きな波が引いた後、ポルナレフはゆっくりと自身を引き抜いた。
そして、手早く後始末をしてから、改めて江里子と向き合った。


「エリー。大丈夫か?」
「ぅ・・・・ん・・・・・」
「エリー。」

肩を揺すっても、頬をペチペチと叩いても、江里子は目を開けなかった。


「・・・エリー?」
「・・・・・・・」

ついさっきまでは、目を開けていたのに。


「エリー?」

ちゃんと言葉を交わし合ったのに。


「・・・・・・」
「エリー!?おいエリー!?」

愛していると、言ってくれたのに。




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