星屑に導かれて 43




灯りをベッドランプに切り替えると、薄暗いオレンジ色のぼんやりとした光が、江里子の素肌を艶めかしい薔薇色に照らし出した。


「・・・まずは俺に任せてくれ。」

ポルナレフはタンクトップを脱ぎ捨てると、江里子に覆い被さった。一番難しい最初の勢い付けは、言い出しっぺの自分がしなければと考えての事だった。


「・・・・・・」

人に見られながらというのは、やはり恥ずかしいものだった。それも、想像以上に。
今まで気に留めた事もなかったが、ポルノ男優というのは凄い奴だ。大勢の人間に見られながら撮影までされ、かつそれを不特定多数に公開されるのだから。ふとそんな事を考えてしまう位、いざとなると恥ずかしい事だった。
しかし、今更引っ込みはつかないし、またそのつもりもない。
ポルナレフは己の中の羞恥心を力ずくで蹴り出すと、江里子の唇に深く口付けた。


「は・・・・・っ・・・・・」

江里子の唇は、柔らかく、自然に、ポルナレフを受け止めた。
カルカッタでの時のように、なす術もなく翻弄されているという風ではなく、ごく自然に唇を開き、自ら舌を絡めて、ポルナレフのキスに応えていた。
これも媚薬のせいだろうか。
それとも、あの後、この中の誰かとキスして覚えたのだろうか。
一瞬頭をもたげたジェラシーを、ポルナレフは必死で振り払った。


― 俺の馬鹿野郎ッ、これからそんなどころじゃねえ事するんだろうが・・・・!


「んんっ・・・・・、んっ・・・・・!」

ポルナレフは江里子の舌を吸いながら、胸を柔らかく揉みしだき、手を下へ這わせていった。


「んっ・・・・・、ぅぅっ・・・・・!」

脇腹から腰にかけてのカーブを撫でて、そっと秘部へ滑り込ませると、すぐさま指先が濡れた。


「んんっ・・・・・・・!」

そこはもう、熱い蜜でしとどに濡れていた。
ポルナレフは唇を離して身を起こすと、江里子の両膝を大きく割り開いた。


「あぁ、エリー・・・・・・」

艶めかしく開いた濃い桃色の花弁が、赤裸々に曝け出された。
小さな口が蜜を垂らしながら物欲しげに蠢いているのが、丸見えになっている。
その壮絶なまでに扇情的な光景を目の当たりにした承太郎達が、微かに息を呑む音が聞こえた。


「凄ぇ・・・・・・、もうこんなになっちまって・・・・・・・」

ポルナレフとて勿論、冷静ではいられなかった。
蜜に惹きつけられる蝶のように、ポルナレフは江里子の花弁に舌を這わせた。


「あぁんっ・・・・・!」

溢れ出ている蜜を舌で掬い取ると、江里子は背を反らせてビクンと震えた。
蜜も、声も、蕩けるように甘かった。
いつも必死で肩肘張っている江里子の、無防備な女の部分が、ポルナレフをどうしようもなく煽り立てた。


「あっ、あっ、あんっ・・・・!あっ、んんっ・・・・・!」

ポルナレフは舌を器用に操り、江里子を愛撫した。


「あぁっ・・・・・、やぁっ・・・・・!」

黒い茂みから控えめに顔を出している紅い花芽を舌先で突くと、江里子がまた大きく震えた。
普通のセックスならば、敢えて焦らすのも盛り上がるが、今は一刻も早く江里子を満足させてやらねばならない。ポルナレフは江里子の腰をしっかり抑え込むと、敏感な花芽を徹底的に攻め始めた。


「あぁっ・・・!あっ、はっ、あぁっ・・・・!あんっ・・・・!」

ポルナレフの舌使いに合わせるように、江里子が啼く。
絞り出すようなか細く小さな声で、堪らなく甘く。


「あぁぁっ・・・・!ぃ・・・あぁっ・・・・・!」

もう江里子の事しか考えられなかった。
仲間達に見られているという事も、いつの間にか忘却の彼方となっていた。
力が篭って次第に閉じてくる太腿を押し広げて、只々、江里子に絶頂を与えんと、ポルナレフは無我夢中で舌を動かした。


「あぁぁぁっ・・・・・・!!」

やがて、江里子は激しく身体を痙攣させて達した。
江里子の身体の震えが治まるのを待ってから、ポルナレフはそっと江里子を解放した。


「あ・・・っ・・・・・、は・・・・ぁ・・・・・っ・・・・・・!」

江里子は甘い吐息を零しながら、疲れきったようにぐったりと目を閉じていた。多分、これが初めてのエクスタシー。未知の経験に身体が追い付いていないのだろう。
だが、ガイル家秘伝の媚薬とやらの毒は、これしきで消えてくれるような生易しいものではない筈だった。














「・・・・・早く代わってくれ、ポルナレフ・・・・・・」

絶頂に押し上げられて喘ぐ江里子を見ている内に、口から勝手にそんな言葉が出た。
ガツガツしていて、全くもって余裕がない一言だが、それを恥ずかしく思う冷静さは、もう花京院には無かった。


「ああ・・・・・・・・」

ポルナレフは、意外にもあっさりと江里子を花京院の手に委ねた。
ズボンの前がはち切れそうになっているというのに。
この瞬間、花京院は何となく、この奇妙な夜のルールを悟ったような気になった。

遠慮はしない。人にもさせない。
下手に取り繕ったり、隠したりもしない。
自分の何もかもを曝け出して、互いを信じて、皆で江里子を愛するのだ。
それが、何でも有りなこのとんでもない夜の、鉄の掟なのだ。
花京院はそれを噛み締めながら、学ランとワイシャツを脱ぎ捨て、江里子を仰向けに組み敷いた。


「・・・・・江里子さん・・・・・」

この時を、何度夢想した事か。
花京院は薄く開いた江里子の唇に、そっと口付けを落とした。


「んん・・・・・・・・」

消える寸前のナイトメア・ワールドでの事が思い起こされた。
江里子の唇は、あの時と同じように柔らかかった。
あの時のキスを、告白を、江里子はきっと、もう忘れてしまっているだろうけれども。


― 愛している・・・・・・・・


今、心にあるのは、醜い嫉妬や独占欲ではない。
ただ、江里子を愛している。その想いだけだった。


「ん・・・・・・っ・・・・・・」

様子を伺うようにそっと舌を差し込むと、江里子の小さな舌がそれに応えてきた。


「んんっ・・・・・・、んぅ・・・・・・」

甘酸っぱいファーストキスではない、初めての、大人の本気のキス。やり方は分からないながらも、花京院は夢中で江里子の舌を絡め取り、柔らかな唇を吸った。
うっとりとした表情でそれを受け入れている江里子を見ていると、手が勝手に動き、ふっくらと盛り上がった乳房をやんわりと掴んで揉み始めた。


― ああ・・・、凄い・・・・、こんな感触なんだ・・・・・


吸い付くような肌とは、正にこの事を言うのだろう。
しかし、これまで目や耳から仕入れてきた膨大な量の知識は、己の身体で感じる感覚の百分の一にも及ばなかった。
滑らかなこの手触り、じんわりとした温もり、掌を押し返すような弾力。何もかもが、知識の上に膨らませてきた想像とはまるで違っていた。


「あ・・・・ん・・・・・・・」

初めてのその感覚に酔いしれながら、花京院はゆっくりとキスの位置をずらしていった。
唇から頬へ、首筋へ、鎖骨へ。
そして、ツンと立ち上がった乳首へと。


「あんっ・・・・!」

そこへ口付けた瞬間、江里子の嬌声がまた甘く、鋭くなった。
花京院はおもむろにそれを口に含み、舌先で転がし始めた。


「あぁんっ!あっ、あっ、あっ・・・・・!」

大好物のチェリーを食べる時のように舌先で軽やかに転がすと、江里子は切なげに身を捩って喘ぎ始めた。
感じているのだ。
愛する女性を今、感じさせているのだ。
生まれて初めて覚える男としての達成感に、花京院は益々奮い立った。


「あっ、やぁっ・・・・・!あぁっ・・・・・・!」

舐め転がすにつれて、江里子の乳首は益々コリコリと固くしこり立っていく。
刺激が強すぎるのか、江里子は啜り泣きながら、いやいやと首を振っているが、そのいじらしくも扇情的な姿は、花京院を昂らせるだけにしかならなかった。


「あぁぁっ・・・・・・・・・!んぁぁぁっ・・・・・・!」

反対側の乳首を指で捏ね回しながら、少し強めに舌を押し付けるようにして転がすと、江里子はビクビクと痙攣を始めた。
小さな手が、押しやろうとするかのように花京院の肩に着いたが、その手が花京院を突き飛ばす事はなかった。


「あっ・・・・、あっ・・・・・、あんんっ・・・・・・!」

ラストスパートをかけて執拗に両乳首を攻め立てると、江里子の指先が花京院の肩にグッと食い込んだ。桜貝のような爪が肩に食い込む痛みさえ、今の花京院には快感だった。


「あぁぁぁぁっ・・・・・・!!」

やがて江里子は、さっきのようにビクビクと大きく身を震わせた。














「あ・・・・っ・・・・・!はぁっ・・・・・・!は・・・・・っ・・・・・」

またぐったりとした江里子を見つめながら、承太郎も帽子を取り、学ランとタンクトップを脱ぎ捨てた。
それに気付いた花京院が、静かに江里子の側から離れた。
承太郎はベッドに上がり、江里子の上に覆い被さった。


「江里・・・・・・」


江里子はまだぐったりと目を閉じたままだった。
江里子は、今誰に組み敷かれているのか、分かっているだろうか。


「ん・・・・・・・・」

口付けると、江里子はそれに応えてきた。
意図して応えている感じではない、条件反射のような、無意識的な様子だった。
多分、薬のせいなのだろう。
江里子はきっと今、自分が何をしているかも、何をされているかも分かっていない。
ねだる様に自分から舌を絡めてくる江里子に応えていると、堪らない口惜しさが承太郎の中に湧き起こってきた。


― 上等だ、だったらこっちはその上を行ってやるぜ・・・・・!


薬で理性を飛ばされた状態でも、記憶が残る位に抱いてやる。
承太郎は一層深く口付けながら、手を下へと伸ばした。


「ん・・・・、あぁ・・・・っ・・・・・・!」

下腹部を撫で、そのまま秘部へと手を滑り込ませると、江里子はビクンと肩を震わせた。
初めて触れた其処は、熱くて、柔らかかった。
男の身体とは、まるで違うものだった。


「んんっ・・・・・・・・・!」

まだ誰の侵入も許した事のない筈の其処へ、承太郎はゆっくりと中指を挿入した。
江里子の中は更に熱く、トロトロに蕩けていた。


「んあ、ぁ・・・・っ・・・・!」

奥へ奥へと深く沈めていくにつれて、江里子は辛そうに顔を顰めた。
気持ち良いのか痛いのか、承太郎にはその判断がつかなかった。
何しろ、女を抱くのはこれが初めてなのだ。


「は・・・っ、あぁっっ・・・・・!」

中指を挿入したまま、親指で花芽を撫でると、江里子は切なげな嬌声を上げた。
さっきポルナレフに舐められていた時も、堪らなく甘い声を上げてよがっていたが、やはりここは強烈に感じるポイントなのだろう。


「あっ・・・・、んんっ・・・・!んぅぅっ・・・・・・!」

より強い刺激に気を取られて応えなくなった舌を追いかけて絡め取り、甘く吸いながら、承太郎は江里子の花芽を指先で苛んだ。擦れば擦る程、それは固く膨れ上がっていった。


「んんんっ・・・・・・・!!」

ザラザラとした熱い柔襞が、承太郎の中指を吸い上げるように締め付けてくる。
締め付けたり弛んだりを繰り返しながら、より一層奥へと誘うように蠢き、とうとう付け根まで飲み込んだ。


「んっ・・・・、あぁぅっ・・・・!」

指を反転させるように動かすと、江里子は肩を震わせた。
深く穿ったその指で、承太郎は江里子の中をゆっくりとかき回し始めた。


「あっ、あぁっ・・・・・、んっ・・・・・・!」

淫靡な水音と江里子の喘ぎ声だけが、この部屋の中に流れる音の全てだった。
他には何の音もせず、誰も一言も発しなかった。
皆、息を潜めて、乱れる江里子をじっと見ている。
滾るような欲望を秘めた仲間達の熱い視線を、承太郎は己の肌で感じていた。


「んんっ・・・・・・!」

江里子が逃げるように顔を横に背けた拍子に、形の良い耳が承太郎の眼前に曝け出された。


「あぁんっ・・・・・・!」

耳朶を甘く噛むと、江里子の声が更に一段高く上擦った。
そう言えば、耳も性感帯の一つだと聞いた事がある。
そういうのは皆が皆同じという訳ではないのだろうが、江里子にはどうやら当てはまるようだった。


「んっ、あっ、んんっ・・・、やぁっ・・・・・!」

耳に舌を這わせ、吐息を吹きかけると、江里子は小刻みに身体を震わせ始めた。
また新たな蜜が溢れて、指を伝い落ちていくのが分かる。
多分、あともう少しだ。
承太郎は一心不乱に江里子の中をかき回し、敏感な耳元や項を、唇と舌と吐息で擽り続けた。


「あぁっ・・・・!も・・・・、あぁぁぁっ・・・・・・!」

程なくして、江里子は悲鳴のようなか細い声を上げて、大きく身を震わせた。














「はっ・・・・ぅ・・・・・、ん・・・・・・」

シーツを強く掴んでいた手から力が抜けていくと、承太郎が江里子から離れた。
肩越しに振り返って彼が見たのは、アヴドゥルだった。
次はいよいよ自分の番だ。
仲間達の胸中と、江里子への想いを噛み締めながら、アヴドゥルはアクセサリーを外し、上着とシャツを脱ぎ捨てた。
そして、ベッドに上がり、江里子と向き合った。


「はぁ・・・・・、はぁ・・・・・」

あどけない少女の顔には些かアンバランスな程の豊満な乳房が、浅い呼吸に合わせて上下している。
アヴドゥルは手を伸ばし、人差し指をそっと、その白い胸元に滑らせた。


「ぁ、ん・・・・・・・・」

擽ったかったのか、江里子は微かに身じろいだ。


「・・・エリー・・・・・・」

江里子の横に腕を着き、アヴドゥルはゆっくりと江里子の上に被さっていった。
さっきは凄い勢いで江里子から『正面衝突』してきたが、何度か絶頂へ押し上げられた為か、今はもうあの空回りするような激しさは鳴りを潜めていた。


「・・・・・ん・・・・・・・」

今度はアヴドゥルの方から唇を重ねていった。
触れた瞬間、江里子の小さな唇は、まるで花の蕾が綻ぶように薄らと開いた。
もはや躊躇う理由はない。
アヴドゥルはそこへ己の舌を差し込み、深く、深く、口付けた。


「んん・・・・・っ・・・・・・」

舌を絡め合わせながら乳房に手を伸ばすと、先端が固くしこっていた。
何度か指先で弄った後、アヴドゥルはそこに口付けた。


「は、んっ・・・・・・・!」

唇で軽く触れただけで、江里子の声にまた甘い期待が満ちた。
それに応えるべく、アヴドゥルはそれを口に含んだ。


「はぁっ・・・・・!あぁ・・・ん・・・・・!」

舌先で転がし、舌で包んで吸い上げると、江里子の身体が固く強張ってきた。
アヴドゥルは更に手を伸ばし、江里子の秘部に触れた。


「あんっ・・・・・・・!」

既に熱く蕩けている其処は、アヴドゥルの指を待ち侘びていたかのように受け入れて包み込んだ。
アヴドゥルは、蜜に滑る秘裂をゆっくりと擦り始めた。


「んん・・・・・、ぁ・・ん・・・・・」

恍惚とした表情を浮かべて、江里子は今、完全に『女』になっていた。
そしてアヴドゥルもまた、『男』で在らずにはいられなかった。
年長者として、一歩引いた所から見守らねばという自戒の念は、今はもう霧散していた。


「あ・・・・は・・・っ・・・・・!」

アヴドゥルはゆっくりと、江里子の中に指を沈めていった。


「あ・・・ん・・・・・・!」

熱くて狭いその中を、アヴドゥルは挿入した指で突き始めた。
デリケートな柔襞を傷付けないようにゆっくりと注意深く、それでいて、指一本でもきつい其処をしっかり押し拡げるように。


「あっ・・・・・!あぁっ・・・・・!」

指が奥へ挿入り込んでいくにつれて、江里子はしきりと身を捩るようになってきた。


「あぁっ・・・・・!っああっ・・・・・・!」

切なげに顔を顰めて、声を詰まらせて、咽び泣くように喘ぐ江里子は、アヴドゥルの理性も痩せ我慢も粉々にしてしまう程に艶かしかった。


「あはっ・・・・・ん・・・・・!あぁんっ・・・・・!」

只々、江里子を感じさせたい。それしか考えられなかった。
これは敵との闘いであり、江里子を救う為の行為に他ならないのだが、思わずそれを忘れてしまいそうになる位、アヴドゥルは江里子の色香に溺れていた。


「んんんっ・・・・・!ふぁ、ぁぁぁぁ・・・・っ・・・・・・!」

江里子が腕の中で激しく身を震わせるまで、心のままに。



















一巡した後、男達は、ぐったりと目を閉じて息を乱している江里子の様子を伺った。


「・・・・・大丈夫かな?いきなり激しくしすぎたか・・・・・?」

ポルナレフが心配そうに呟くと、アヴドゥルはどちらともつかないように小さく唸った。


「分からん・・・・。とにかく、様子を見ながら続けていくしかあるまい。・・・少なくとも、エリーが正気に戻るまではな。」

花京院は江里子の側へ行き、軽く肩を揺さぶった。


「江里子さん、江里子さん・・・・・・」
「・・・・・ん・・・・・」

江里子はぼんやりと目を開け、花京院を見た。


「大丈夫ですか・・・・・?」
「・・・・と・・・・・・・」
「え・・・・・・?」

江里子が何事かを呟いたが、声が小さくて聞こえなかったので、花京院は江里子の口元に耳を寄せた。


「何ですか、江里子さん?もう一度言って下さ・・・」
「・・・・・もっと・・・・・・して・・・・・・・」

江里子の囁き声が、花京院の耳を甘く擽った。


「っ・・・・・・・・!」
「もっと・・・・・・・・・」
「・・・・江里子さん・・・・・」

複雑な心境だった。
愛しい人に求められる悦びに震えるような高揚感を覚えるその一方で、今の江里子に理性や判断力は無いというのも、花京院は分かっていた。
今の江里子は只々肉体の快楽に飢え乾き、それを与えてくれる者なら誰でも良いという状態に陥っている。愛だの恋だのは、恐らく届かない。
だが、それなら伝えようとするのは無駄な事だ、とは思えなかった。

届かなくても良い。
覚えていなくても良い。
それでも良いから、伝えたかった。
身体から溢れ出てしまいそうな程の、この熱い想いを。


「ん・・・・・・・・・」

愛している。
その想いを込めて、花京院は江里子に深く口付けた。
そして、江里子の舌を優しく絡め取りながら、手を秘部へと這わせていった。


「んぅ・・・・・・・」

表面に触れただけで、蜜の滑る音がした。
江里子の花弁は熱く、柔らかく、初めて触れるその感触を噛み締めるように、花京院はもうすっかり蕩けきっている其処をゆっくりと擦り始めた。


「は・・・・ぁぁ・・・・・・」

江里子は目を閉じて、恍惚とした吐息を零している。
足りないというなら、幾らでも注いでやろう。忌まわしい媚薬がどれだけ江里子を干からびさせようとも、その端から注いでやろう。
そんな薬の魔力よりも、この想いの方が遥かに強く、大きいのだから。


「あ・・・・、あん・・・・・・!」

屹立した花芽をじわじわと擦り上げると、江里子は小刻みに身体を震わせた。
太腿に力が篭り、手を挟み込んで締め付けてくる。
花京院はキスを下へとずらしていき、戦慄く白い太腿に手をかけて、やんわりと開いた。


「はっ・・・・んん・・・・・・」

咲き誇るように開いた江里子の『華』を間近で見て、花京院はその艶めかしさに改めて息を呑んだ。
実のところ、女性の身体それ自体を見るのは、初めてではなかった。
元いた学校は確かに超難関のエリート校で、生徒は皆天才・秀才ばかり、親や教師の望む通りに優秀で品行方正な若者を演じている曲者揃いだったが、たった一つ、ある共通点があった。
それは、女性への興味だ。
学内には教師達の目を巧みに誤魔化すようにして、ポルノ雑誌やビデオが多数存在していた。
しかし、これは全く違っていた。
ポルノ女優の映像と、愛する女性の身体を実際に見るのとでは、全く違っていた。
思わず見つめていると、濃い桃色の花芯が微かに蠢き、透明の蜜がトロ・・・と溢れ出した。それがシーツへと伝い落ちていきそうになるのを見た瞬間、身体が勝手に動いて、それを舐め取っていた。


「はぁんっ・・・・・!」

江里子は甘い声を上げて、ビクンと身体を震わせた。
また新たな蜜が、花京院の舌に伝い落ちてきた。
花京院はそれを掬い取るようにして、桃色の秘裂をゆっくりと舐め上げた。


「あっ・・あぁんっ・・・・・!」

何度か舐めてから、花京院は茂みの中で紅く色づいている花芽に目を留めた。
そして、柔らかい茂みを優しくかき分け、舌先でそっとそれを突いた。


「んんんっ・・・・・!」

江里子は声を詰まらせ、背を弓なりに反らして震えた。
この小さな小さな果実がとてつもなく敏感だというのは、本当の事らしい。
胸の先端とはまた違う感触のそれを、花京院はゆっくりと舌で転がし始めた。


「あっ、あぁんっ・・・・・・!あっ、あぅっ・・・・・・!」

花京院は、腰をくねらせて喘ぐ江里子をやんわりと押さえ付けて、敏感な花芽を舐め転がした。
それをすると江里子はまるで啜り泣きのように切なげな声を上げて喘ぎ、それが花京院の中の『男』を擽り、激しく刺激した。


「あんっ・・・・!あぁぁんっ・・・・・・!」

花京院は江里子の花芽を舌で転がしながら、蜜を溢れさせている花芯を指で擽った。
ほんの少し、入口のごく浅い所にほんの少しだけ指先を食い込ませただけで、其処は物欲しそうに蠢き、収縮しながら花京院の指に吸い付いてきた。
花京院はゆっくりと、その指を江里子の中へと沈めていった。


「は・・・っ・・・・・!あぁぁっ・・・・・・!」

指を沈めると、それを絞り上げるようにして、内壁が絡み付いて締め付けてくる。
その感触だけで、目も眩む程の快感が花京院を襲った。
早く、ひとつに繋がりたい。
江里子の中に包まれたい。
その強い欲求を、しかし花京院はぐっと抑え付けた。
満たすべきは自分の欲望ではない、江里子のそれなのだ。


「あぁっ・・・・・!んあぁぁっ・・・・・・!」

ビクンビクンと痙攣を繰り返すようになってきた江里子の身体を押さえて、花京院は舌の動きを一層速めながら、指を更に奥へと挿入させた。


「あぁっ・・・・!や・・・・っ・・・・あぁぁぁっ・・・・・・!」

江里子はあっという間に、また絶頂へと駆け上っていった。





















「はぁっ・・・・、はぁっ・・・・・、はぁっ・・・・・・」

絶頂の波が引いたらしい後も、江里子はまだ呼吸を乱してぐったりとしていた。
切れる呼吸のその合間に、江里子は何事かを消え入るような声で呟いていた。
じっと耳を澄ませると、『site, motto site』というように聞こえた。
『site』と『motto』、その2語だけを、江里子はうわ言のように繰り返していた。


「な、なあ、エリーは何て言ってんだ?」

江里子は今、無意識でも使える言葉、即ち母国語である日本語しか喋れないようだった。
同じ日本人の承太郎や花京院には、当然通じている筈だ。
大の日本贔屓で多少の日本語が喋れるアヴドゥルも、恐らく理解出来ているだろう。
しかしポルナレフには、今の江里子の言葉は何一つ理解出来なかった。


「・・・・・・・・・・」

花京院は江里子を愛しげに見つめながら乱れた髪を何度か指で梳いてやり、ふと立ち上がった。そして、ポルナレフをまっすぐ見つめて答えた。


「・・・She says, "I want you to do more."」

意味が分かった瞬間、花京院が微かに微笑んだ。
次は君が与えてやれ、そう言われた気がして、ポルナレフは引き寄せられるように江里子の側へ行った。


「・・・エリー、分かったよ・・・・・。お前が望むなら、幾らでもしてやるよ・・・・・。
だから・・・・・な?絶対死ぬんじゃねぇぞ・・・・・・?」

薔薇色に上気した頬を撫でてやると、江里子の表情が一瞬、ホッとしたように見えた。
ポルナレフはほんの僅かに微笑むと、再び江里子を組み敷いた。


「は・・・・ぁ・・・・・」

首筋や鎖骨、ふっくらと盛り上がる白い乳房に軽いキスをした後、ポルナレフは小さく立ち上がった胸の頂に舌を這わせた。


「っあぁ・・・・・・・!」

ビクンと震える江里子を優しく抱きしめて、ポルナレフは其処を愛撫し始めた。


「あっ、あんっ、あっ・・・・・!」

舌先で擽り、押し潰すようにねっとりと舐め上げ、軽く音を立てて吸い付く。
そのいずれにも、江里子は甘い声を上げて反応した。
きっと元々、とびきり感度の良い身体をしているのだろう。
あの忌々しい薬の影響もあるのかも知れないが、あってもそれはほんの僅かだと思いたかった。


「あはっ・・・・・・!んぁっ・・・・・・・・!」

胸への愛撫に集中していると、江里子がもどかしそうに太腿を擦り合わせ始めた。
車の中でモジモジしていたのも、今となってはコレだったのだと分かる。
知らなかったとはいえ、からかったりして可哀相な事をしてしまった。抗い難い欲求を抑え込んで平気な顔をしてみせるのは、とてつもなく辛かっただろうに。
それを、誰にも何も言わず、一人でどうにかしようとするなんて、何と無鉄砲で意地っ張りな娘だろうか。カルカッタでは、やれ仲間だの支え合いだのと尤もらしく説教し、こちらを意地っ張り扱いしていた癖に。


― 確かに俺も大概意地っ張りだが、お前程じゃあねぇぜ・・・・・


堪らない声で喘ぐ江里子の顔をチラリと見て、ポルナレフは微かに苦笑した。
無茶で無鉄砲でとんでもなく意地っ張りだが、そんな江里子がどうしようもなく好きだと思った。


「・・・分かってるよ。コッチもだろ・・・・・・?」
「あん・・・・・・・!」

チロチロと胸の頂を舐め転がしながら太腿の間に手を滑り込ませると、江里子は嬉しそうに声を震わせた。


「よく解しとかねぇとな・・・・・・」

ポルナレフは一瞬で蜜に塗れた指を2本、纏めてゆっくりと江里子の中に挿入していった。


「はっ・・・・・あぁ・・・・・・っ!」

江里子は辛そうに顔を顰めた。
男の指2本は、処女である江里子には少々きつすぎるのかも知れない。
だが、これ位はしておかないと、後がもっと辛い筈だ。


「あっ・・・・!あぁっ・・・・・!あぁぅ・・・・・!」

2本の指をゆっくりと捻じ込むようにして挿入すると、江里子の声のトーンが変わった。


「んっ・・・・!んぅっ・・・・!あ・・・・はぁっ・・・・・・!」

江里子の中で蜜の撹拌される淫らな音が、次第に大きくなってきた。しかし、力が篭ってしまっているせいか、一度は開きかけた脚がまた閉じてきている。
ポルナレフは江里子の脚の間に割り込んで、片膝を立ててしっかりと開かせると、更にじわじわと指を挿入していった。狭くてデリケートな其処を傷付けてしまわないように、優しく、ゆっくりと。


「ああっ・・・・・・!」

第二関節までが完全に埋まった。


「あぁぅっ・・・・・・!」

そしてとうとう、根元まで。
ポルナレフの人差し指と中指を全てその身に受け入れた江里子は、苦しげに眉根を寄せて浅い呼吸を繰り返していた。
だが、奥の深い所までしっかりと解してやった方が、破瓜の苦痛も幾らかは軽減されるだろうし、身体の疼きを満足させるには、其処を刺激するのが一番確実なのだ。


「エリー、力抜いてろよ。すぐ気持ち良くしてやるからな・・・・・・」

ポルナレフは、江里子の耳元にそう囁きかけた。
通じているかいないかなど考えてもいなかった。
ただ、江里子に声を掛けたくて、自然と言葉を掛けていた。


「はぁっ・・・・、あぁぁっ・・・・・!」

ゆっくりとかき回すように指を動かすと、江里子がか細い悲鳴を上げながらしがみついてきた。
ポルナレフは江里子に口付けながら、ゆっくり、ゆっくり、かき回した。


「あっ・・・・!ふ、ぅっ・・・・・・!!」

奥を拡げるように、じわじわとゆっくり、指を捻じ込んでいく。
指が内壁を擦り上げる刺激に、江里子は身を震わせ始めた。


「んぅぅっ・・・・・!んん゛っ・・・・・・!」

強く抱きしめ、深く唇を重ね合わせると、江里子の全身に力が篭った。
また来るのだ。
ポルナレフは一分の隙もない程に江里子の唇を深く吸いながら、ググ・・・ッと指を深く突き込んだ。すると。


「ん゛ん゛んんんーーーッッ・・・・・!」

ビクン、ビクンと身体を激しく痙攣させながら、江里子は果てた。


















解放されると、江里子は閉じた瞼の際から一筋の涙を零した。
それをそっと拭い取って額に軽いキスをしてから、ポルナレフは江里子の側を離れていった。
これまでにない位、自身が滾っている。衣服に押さえ付けられて、窮屈を通り越して痛みさえ感じる程に。承太郎は堪らずにベルトを外し、ズボンを脱いだ。すると、全員がギョッとした顔を承太郎に向けた。


「ええぇぇっ!?ちょちょちょ・・・!待てよ承太郎、もう入れるのかよ!?」
「いや、別にそういう訳じゃあねぇが・・・・・」

青い目をまん丸に見開いているポルナレフの狼狽っぷりに、承太郎は呆れて小さく溜息を吐いた。


「苦しかったから脱いだだけだ。つーか、どうせ遅かれ早かれ入れるじゃねぇか。何をそんなにうろたえてる?何か問題でもあんのか?」
「いやまあ、それはそうなんだけどよ・・・・・」

ポルナレフはゴニョゴニョと言葉を濁しながら、複雑そうな顔で承太郎のある一点をまじまじと見た。


「・・・何つーか・・・・、心の準備がまだ出来てねぇっつーかよぉ・・・・・」
「気持ち悪い事を言うな。何故お前が心の準備をする必要があるのだ。」
「いやまあそれはそうなんだけどよぉ、でも見てみろよアヴドゥル・・・・・」

ポルナレフに促され、呆れ顔をしていたアヴドゥルも同じように承太郎へ視線を向けた。
そして、そのまま硬直した。


「・・・・な?ヤバくね?」
「・・・・うぅむ・・・・・」
「俺が女だったら御免被りたいね。あんなモンブチ込まれた日にゃあ、口から内臓飛び出しちまう。」
「萎えるジョークはやめてくれ。」

花京院は顔を顰めてポルナレフを睨んだ。


「そんな事より、ここからはどうする?確かに承太郎の言う通り、遅かれ早かれ事に及ぶ訳だが、その・・・」

花京院は一度口籠ると、思い切ったように再び話し始めた。


「・・・・・僕が思うに、江里子さんは恐らく処女だろう。
こんな時につまらない事に拘るなと言われるかも知れないが、僕はやはり、どうしても気になってしまうんだ。
男として、愛する女性の初めての男になりたいという願望もあるが、女性にとっても、初めての相手というのはきっと特別な存在の筈だ。だから・・・・」
「いや花京院。お前の言いたい事は分かる。」

アヴドゥルが静かな声で、花京院の話を遮った。


「確かに今はエリーの命が懸かっている非常時だ。だからこそこんな事までしている訳だが、しかし、助かりさえすれば何でも良いという訳じゃあない。
後で知った時にエリーが悔やまないように、一番手を務める者はきちんと考えて決めよう。」

アヴドゥルは微かに微笑んで仲間達を見回してから、厳かに告げた。


「まず、私は除外してくれ。それは私がやるべき事ではない。」

その言葉に、他の3人は気まずそうに黙り込んだ。


「フッ・・・、そんな顔をしないでくれ。言っておくが、私は何も身を引こうという訳じゃあないぞ。ただ、一番手を辞退するというだけの事だ。」

その何とも言えない神妙な表情が可笑しくて、アヴドゥルは小さく笑った。


「花京院の言う通り、初めての経験というものは特別だ。女にとっては勿論、男にとってもな。
例えば、エリーが我々にとって只の女で、ただ抱くだけなら、順番などどうでも良いのだろう。
しかし我々は・・・・・、私は・・・・・、彼女を愛している。」

アヴドゥルは、優しい眼差しをベッドの上の江里子にチラリと投げ掛けた。


「だから、彼女の『特別』を、私も大事にしたいと思う。
こんな形で、彼女の意思とは無関係に問答無用で奪ってしまうからこそ、尚更な。」
「ええ・・・・・。全く、僕も同感です・・・・・。」

そう、全くもってその通りだ。
花京院はアヴドゥルの言葉に心底共感し、しみじみと頷いた。
もう散々やらかしておいて、今更抱く順番を気にするなんて滑稽かも知れないが、こんな状況だからこそ、江里子の気持ちを考えると、尚更拘らずにはいられなかった。


「それに、愛する女性の初めての男になりたいという願望も、同じ男として良く理解出来る。
だからこそ私は、彼女を最初に抱く男は、彼女と同じく若い、まだ経験の浅い者が適任だと思うのだが?」

アヴドゥルはチラリとポルナレフを一瞥した。
彼は大人の男として自ら一歩退き、若者達に譲る気らしいが、その提案が通るかどうかはどうやら俺にかかっているらしいと、ポルナレフは即座に理解し、苦笑せずにはいられなかった。


「何だ、何がおかしい?」
「いや・・・・、オメェはどうせ、俺が盛大に文句を垂れて、一番手は俺だと言い張ると思ってんだろうと思ってな。」
「ふむ。よく分かってるじゃないか。」

遠慮のない物言いに、ポルナレフはもう一度苦笑した。


「生憎だったなアヴドゥル。残念ながら、俺もお前に賛成だ。つまり、俺も一番手を辞退するという事さ。」
「ほう?」

アヴドゥルは勿論、花京院も承太郎も、意外そうな表情でポルナレフを見た。
年上のアヴドゥルはともかく、年下の二人にまで我儘なガキ扱いされるのは些か癪だったが、自分が我儘な性質である事は事実だと、ポルナレフはまたも苦笑した。


「・・・この際だから白状するが、エリーのファーストキスの相手は俺だ。」

誰も何も言わなかった。黙ったまま、話の続きを待っていた。
その痛い程の沈黙の中、ポルナレフは煙草に火を点けた。


「カルカッタで、お前らの元を飛び出した時の事だ。
あの夜、俺達はボロ宿の一室に身を寄せた。
エリーはそこで、俺をお前らの元に連れ戻そうと必死に説得してきた。
俺の仇討ちに協力する、どんな事でも自分に出来る事なら何だってやる、とな。」

舌を刺激する煙草の苦さが、あの時の苦い思い出を鮮明に蘇らせるようだった。
だが、どうしても話しておきたかったのだ。
江里子の好意に甘えてあの卑劣な行いを内緒にしたまま、仲間と共にこのまま江里子を抱くのは、どうしても卑怯な気がして。


「完全に逆上していた俺は、エリーのその健気な気持ちに苛立ち、卑しくも欲情してしまった・・・・。
俺はエリーをベッドに押し倒して、無理矢理キスした・・・・。
甘いムードの中で気持ちを込めてするようなものじゃなくて、乱暴に、苛立ちをぶつけるようにやっちまった・・・・。
だが彼女は、そんな俺を憎んだり軽蔑したりするどころか、それで少しでも俺の役に立てるのならお安い御用だと、自分から服を脱ごうとさえした・・・・。」

こんな状況になって初めて白状して許して貰おうなんて、それはそれで卑怯で、虫の好い話だ。ポルナレフは内心で殴り飛ばされる覚悟を決めていた。
しかし、何処からも拳は飛んで来なかった。


「それがファーストキスだったと聞かされたのはその翌日、アヴドゥル、お前の『墓参り』に行った時だった。
お前に対しても、エリーに対しても、どう償えば良いか分からなかった俺の横っ面を思いっきり引っ叩いて、エリーはそれを、自分のファーストキスを奪ったペナルティだと言った。
それまでボーイフレンドがいた事も、キスもデートもした事がなかったそうだ。
そして、あんな形で経験するなんて不本意で腹が立つから、何とも思わない事にした、って・・・・。
そう言ってエリーは、笑って俺を許してくれた・・・・。
俺の気持ちは分かっている、俺の立場だったら誰だってあれ位感情が昂るって、そう言ってよ・・・・。結局何もなかったんだから、誰にも言わず、忘れてしまえば良いんだ、って・・・・」

あの時の江里子の優しい微笑みを思い出すと、思わず声が震えそうになった。
ポルナレフは胸一杯に紫煙を吸い込む事で、それを誤魔化した。


「・・・・・だから・・・・・、だからよ・・・・・・、この上バージンまで、俺が奪っちまう訳にはいかねぇんだ。幾らこんな状況とはいえ、な・・・・・」

それっきり、ポルナレフは黙り込んだ。
紫煙を燻らせている横顔にパンチの一発でも入れてやっても良いのだろうが、罪悪感に翳っているその顔を見ていると不思議とそんな気になれず、花京院は小さく溜息を吐いた。


「・・・・やはりな。何となく、そんな事でもあったんじゃあないかと思っていたんだ。あの朝、江里子さんを迎えに行ったら、ブラウスの胸元が破れていたから。
だが、何かあったんじゃないかと勘繰った僕に対して、彼女はしらを切った。切り通した。僕の目をまっすぐに見て、躊躇いなく。」

あの時の江里子のまっすぐな瞳を、花京院は思い出していた。
その真摯な眼差しに、あの時は決して少なくないショックを受けた。
江里子はポルナレフの事が好きだから庇っているのではないかと、瞬間的にそう考えてしまった。
いや、ポルナレフだけではなく、承太郎に対しても、アヴドゥルに対しても、気があるのではないかと勘繰ってしまう場面が幾度もあった。
その猜疑心は、花京院の心の片隅にずっと燻り続けてきた。江里子が花京院の心に寄り添うような言動をする度に、それはチクチクと痛んだし、今もまだ尚、完全に消えて無くなった訳ではない。
だが、こんな状況になって初めて見方が変わった。


「あの時は、突き詰める事が怖くて引き下がりながらも、内心は嫉妬と疑惑で一杯だったが、今なら分かる。
彼女は本当に、そういう人なんだ。
情が深くて、人の痛みに敏感で、自分の大切な人の為なら何でもする・・・・・、そういう、純粋で献身的な女性なんだ・・・・・。」

江里子は、同時に複数の男との恋を楽しめるような器用な女性ではない。
それが出来るのなら、媚薬で疼く身体を引き摺り、危険な目に遭ってまでも、独りになろうとはしない。
江里子の、自分達4人に対する愛は、それぞれ本物なのだ。
そしてそれを江里子自身、どうして良いか分からずに悩んできた。
今、花京院はそうはっきりと確信していた。


「・・・少々、危なっかしい位にな。」

アヴドゥルもまた、思い出していた。
ほんの少し前の、しかし遥か昔のような、あの夜の事を。


「インドに着く直前、近い未来に漠然とした不安を感じていた私に、エリーは言った。
我々に幾ら特別な力があると言ったって、人間なのだから、不安や悲しみや恐怖があったって当たり前だと。
そして、我々の手を煩わせるだけの『お荷物』ではなく、我々の役に立つ『道具』になりたいと。」
「ハッ・・・・、道具って・・・・・」

煙草の煙を吐き出しながら、ポルナレフが苦笑した。
アヴドゥルもまた、同じように苦笑した。


「本気で言ったのだ。あの娘はそんな事を、まっすぐな、綺麗な瞳で。」

あの時には既に、こうなる運命だと定まっていたのかも知れない。


「・・・・・・驚いたよ。いや全く、驚いた。この私が、衝動的にその場で彼女を抱きしめてしまったのだ。」

あの時、理性で食い止めた恋心は、結局消えはしなかった。
消えるどころかそれは、紅海の小島で再会を果たしたあの時に、揺るぎない愛へと変わってしまった。
しかしアヴドゥルはもう、それを悔いてはいなかった。
女を奪い合うという事自体が恥ずべき体たらくだというのに、よりにもよってそれを、己が命を預ける事の出来る仲間同士でやらかすなんてとんでもないと、ついさっきまでは思っていたが、今はもうそんな風に考えてはいなかった。


「ポルナレフじゃああるまいし、私は本来、そんなキャラクターではないのだがな。」

今は、自分の気持ちだけではなく、他の3人の江里子に対する気持ちも素直に受け入れられる。
こんなとんでもなく破廉恥な行為に及んでしまったせいで、吹っ切れるどころかぶっちぎってしまったのだろうか。そんな事を考えて、アヴドゥルは小さく笑った。


「俺じゃああるまいしってどういう意味だよ。」
「分からないか?短絡的で考えなしという意味だ。」
「にゃにおう!?」
「フッ・・・・・、いや。そりゃあ正しくアイツの事だ。」

承太郎は小さく笑ってポルナレフの隣へ行き、一緒になって煙草を吸い始めた。


「パキスタンでラバーズと闘った時の事だ。
俺が手を出せないのを良い事に、ダンの野郎は好き放題にやってくれやがった。
その度にアイツは、いちいち横からしゃしゃり出て来て、俺を庇いやがった。
アイツにとってみりゃあ、少しでも俺の助けになるよう、自分に出来る事を必死でやっていたつもりだったんだろう。
だが俺にしてみりゃ、堪ったもんじゃあなかったぜ。
盗られそうになった俺の腕時計をテメェの身体と交換しようとしたり、野郎に無遠慮にキスされたり身体に触られたり、泣かされたりしているのを、目の前でなす術もなく次々と見せつけられるんだからな。」

今思い出しても、まだ腸が煮え繰り返る。
あれだけ報復してやったが、全く足りない位だ。


「それなのに当のアイツは、全く気にしちゃいねぇ。テメェの身よりも、俺の身体やプライド、果ては腕時計なんぞの方が大事だと本気で思ってやがる始末だ。
ったく、やれやれだぜ。人の気も知らねぇでよ・・・・」

言葉にならない激情が身体の中を駆け巡ったあの時の事を、承太郎は思い出していた。


「前々から馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、どこまで馬鹿な女なんだと思ったらついカッとなっちまって、気が付いたら、抱きしめてキスしてた。」

ふと、ポルナレフの煙草が目についた。
彼は話に聞き入っていて、灰が落ちかけているのに気付いていなかった。
承太郎は、目の前の灰皿をポルナレフの手元へ差し出してやってから、話を続けた。


「普通、気付くだろ?だが、それでもアイツは気付かねぇんだ。
確かに俺も咄嗟にふざけて誤魔化したが、だからってそれを真に受けて怒るか普通?
女ってのは勘の良い生き物じゃなかったのか?それとも、あの馬鹿だけが特別鈍感なのか?」
「う、うぅむ・・・・・;」
「さ、さあ・・・・・・;」

アヴドゥルと花京院が、何とも言えないというような顔で苦笑いした。


「・・・・挙句の果てには、媚薬を盛られて尚、可愛げなく突っ張りやがってよ。
俺達の足を引っ張る気はねぇだの、置き去りにでも見殺しにでもしろだの、意地張って心にもねぇ事ばかり言いやがって。
どうして素直に本心が言えねぇんだろうな、アイツは・・・・・」

言いながらも、分かっていた。
それはそのまま、承太郎自身にも当てはまる事だった。
この旅に出て来るずっと前から江里子の事を想っていたのに、それを伝える事が出来なかった。
そして未だ出来ないままに、身体だけを繋げてしまおうとしているのだから。



「・・・それは君も同じだよ、承太郎。」

いつになく饒舌に自分の心の内を語る承太郎に、花京院は小さく笑って言った。


「いつも憎まれ口ばかり叩いて喧嘩してるけど、本当はずっと前から、彼女の事を好きだったんじゃあないか?」

それは以前から最も気になっていた、けれど決して口にはしないようにしていた事だった。
それを訊いて、答えがどうであれ、冷静でいられる自信がなかったからだ。
他の二人の気持ちも気になってはいたが、承太郎は同じ日本人で、同じ年頃だからだろうか、恋のライバルとして他の二人よりも一層気になる存在で、彼の心を確かめるのが何よりも怖かった。
しかし今、花京院は自分でも不思議な位、ストレートかつあっさりと尋ねる事が出来ていた。


「・・・フン。」

承太郎の口元に薄らと浮かんだ、自嘲めいた笑いが、その質問に対する答えだった。
言葉でこそ否定も肯定もしていないが、花京院にはすぐにその意味が分かった。


「やっぱりな。そうじゃないかと思ってたんだ。君の家で世話になっていた時から。」

あの家を出る頃には、既に恋をしていた。
臆する事なくまっすぐ自分を見て、優しく笑いかけてくれた江里子に。
しかしその一方で、承太郎が江里子に想いを寄せているであろう事も、何となく感じていた。
それがはっきりと確かめられた今、悩む事など何もなかった。


「・・・承太郎。最初は君だ。」

花京院は静かに、はっきりと、そう告げた。


「しかし花京院・・・・、良いのか?」

アヴドゥルは躊躇いがちに念を押した。
人を愛する事に、上も下も、後も先もない。
花京院もまた、江里子の事をひたむきに愛しているのだ。
しかし花京院は、悪戯めいた笑みを浮かべて首を振った。


「一番先に辞退した貴方にそれを言われる筋合いはありませんよ、アヴドゥルさん。
僕も貴方と同じです。何も身を引こうというんじゃあありません。そんな気は更々ない。」
「むぅ・・・・・・」
「ただ何となく、それが一番自然な気がして。只それだけですよ。」

そう答えて、花京院は江里子の方に目を向けた。
立て続けに何度も達して気絶していた江里子が、目覚めたのか、今またベッドの上で身じろぎし始めていた。


「・・・・は・・・・・、あぁ・・・・・・」

気だるげな甘い吐息を零しながら、江里子はぼんやりと目を開けた。


「江里子さん、僕が分かりますか?気分は?」

花京院の問いかけに、江里子は何一つ答えなかった。
江里子は、焦点の定まらない潤んだ瞳で只ぼんやりと花京院を見つめながら、自分の手をゆるゆると秘部へ運んでいった。


「ぁ・・・・・・」

花京院はその手をやんわりと掴み、江里子のしようとしていた事を阻止した。


「駄目ですよ江里子さん。貴女にそんな事をされちゃあ、僕らの立つ瀬がない。」
「あぁ・・・・、いやぁ・・・・・」

邪魔をされて、江里子は苦しげに顔を顰めた。


「いやぁ・・・・!ねぇ、もっと・・・・、もっとぉ・・・・・!」

駄々をこねる幼い女の子ように、江里子は啜り泣きながらもがいた。
しかし、花京院の手を振り解くどころか、その身体には全く力が入っていなかった。


「承太郎、早く。」

花京院は宥めるように江里子の腕を擦りながら、承太郎に目配せをした。


「・・・・ああ。」

江里子が待っている。
承太郎は、吸っていた煙草を灰皿に押し付けた。




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後書き

※ご注意※
この回と次の第44話は、裏夢となっております。
18歳未満の方、こういった内容が苦手な方は、閲覧せずに前へお戻りになるか、第45話(最終回)へとお進み下さい。