星屑に導かれて 40




一行は一路、北を目指していた。
天気は上々、道はガラ空き、車は快適・・・、だったのだが、如何せん後部座席に4人は少々狭すぎた。
のんびり足を伸ばす事は勿論、腕をダランとさせるスペースもなく、きっちり座っていないと隣に迷惑がかかる。従って江里子は、きちっと背筋を伸ばし、膝を閉じ、肩を出来るだけ狭めて座っていた。
だがそれでも、両隣の男達と肩や腕が触れ合い、腰や太腿がくっついてしまう。
それについて誰が何を言う訳ではないのだが、江里子は一人で密かに意識し、動揺していた。


― や、やだなぁ・・・、何か、変に意識しちゃう・・・・・・・


左に傾けば、花京院にくっつく。
右に傾けば、承太郎にくっつく。
どうしたって、どちらにもくっついてしまう。
それはスペース上、仕方のない事なのだが、何だか妙に気になって仕方がなかった。


― 本当、何でだろ・・・・・・・?


考えてみれば、似たような状況は今まで何度もあった。
車で何日もドライブした事もあったし、砂漠の岩の下に潜り込んだ事もあった。
セスナも結構狭かったし、馬車の中では密着するのが気になるどころか、ポルナレフや花京院に完全にもたれ掛かって爆睡してしまっていた位だった。
それなのに、何故今更、こんな事で妙に動揺してしまうのだろうか。


― ・・・・何だろ・・・・・・・


触れ合っている部分から伝わる温もりが、堪らなく気になる。
不愉快なのではない。むしろその逆だった。
江里子は車に揺られるがまま、ゆっくりと身体の左側に重心を移した。
すると、花京院の微かな匂いが、ふわりと鼻についた。


「っ・・・・・・・」

アブダビのホテルの部屋で二人きりになったあの時、花京院に背中を抱きしめられたあの時の事が、江里子の脳裏に瞬時に蘇った。
あの時もこうして、彼の匂いを間近で感じた。
この匂いと記憶が、江里子の肌をゾクリと粟立たせた。


― なっ、何・・・・・!?今の・・・・・・・


一瞬身体を震わせた不思議な感覚に、江里子は戸惑った。
だが、その一度で終わった訳ではなかった。
自分でも信じられない事だったが、江里子はその感覚を更に求めようとしていた。


― や、やだ・・・・、何しようとしているの、私・・・・・・!?


羞恥に駆られながらも、そんな自分を完全に止める事は出来なかった。
江里子はまたも車に揺られた振りをして、花京院に密かに身を擦り寄せた。


「っ・・・・・・・」

鼻腔を擽る花京院の匂いに、江里子は人知れず震えた。
そんな恥ずかしい事をしている自分を花京院に気付かれたくなくて、江里子はさり気なく重心を右に移した。
すると今度は、承太郎の匂いが江里子の背筋を震わせた。


「っ・・・・・!」

今度はカラチの路地裏の風景が、あの時のキスが、江里子の脳裏に蘇った。
背筋が痺れて、崩れ落ちてしまいそうな、甘いキスの記憶が。


― や、やだ・・・・・!私ったら、何を考えているの・・・・・!?さっきまで下らない口喧嘩してムカついてたのに、今私・・・・・、今私・・・・・!


江里子は気付かれないように、視界の隅にそっと承太郎を映した。


― 今私、承太郎さんにキスされたいと思ってる・・・・・!


認めたくなくても、それは事実だった。
事実だが、恥ずかしすぎて、とても受け入れられなかった。
何を急にそんな事を考えているのか。
それも、たった今の今まで、反対隣の花京院にクラクラしていたという状況で。
確かに二人に対して、それぞれ特別な想いを持っている。
だがこんな風に同時に、そして別々に、ふしだらな事を考えてしまうなんて、どう考えても変だった。


― だ、駄目よ、これ以上妙な事を考えちゃあ駄目・・・・・!そうだ、素数、素数を数えよう・・・・!えーと、2、3、5、7・・・・


気を紛らわせる為に素数を数え始めた途端、右端に座っているアヴドゥルが、水筒を取り出して水を飲み始めた。


「お!アヴドゥル、俺にもくれよ!喉乾いちまった!」

それに気付いたポルナレフが、前を向いたまま、声だけ後ろに投げ掛けた。


「ああ。すまんエリー、これをポルナレフに渡してやってくれ。」
「へ!?・・・あ、は、はい・・・・!」

江里子はギクシャクと手を伸ばし、アヴドゥルから水筒を受け取った。
その時、アヴドゥルの手が江里子の手に触れた。


「っ・・・・・・・」

大きくて、固くて、温かい手だった。
追いかけて、思わず掴みたくなるのをぐっと堪えて、江里子は水筒を運転席のポルナレフに差し出した。


「ど、どうぞ・・・・」
「おう、メルシー!」

運転中のポルナレフは、首は動かさずに手だけを伸ばして、水筒を受け取ろうとした。それ故に、水筒を江里子の手ごと、ガシッと掴んだ。


「っ・・・・・・・!!」

大きくてゴツゴツした力強い手に手を握られて、江里子は思わず息を呑んだ。


「ああ、悪い悪い。」
「い、いえ・・・・・」

ポルナレフはすぐに手を放してくれたが、江里子の心臓の早鐘は鳴り止まなかった。


― な、何なの・・・・・・・!?


江里子の頭の中に、彼等との記憶が走馬灯のように駆け廻った。
夜の浜辺で抱きしめられた事。手の甲に口付けられた事。
逞しい腕に抱き上げられた事も、果ては、押し倒されて唇を貪られた事まで。


― やだ・・・・・・、本当に私、どうしちゃったの・・・・・!?


次々と蘇ってくるその記憶は、甘くて強い酒のようだった。
思い出す時にはいつも羞恥せずにはいられなかったそれらに、江里子は今、言い様もない程酔いしれていた。甘く蕩けるようなその感覚が、江里子の中の何かを刺激し始めていた。


― どうしよう・・・・!?どうしよう・・・・・・・・!?


まるで頭と身体が別々になってしまったようで、自分で自分が分からなかった。
だが、皆に異変を訴え、助けを求める事など、どうして出来ようか。
貴方達に抱きしめられて、キスされたくて堪らないなんて、そんなはしたない事をどうして口走れようか。
だから江里子には、黙って耐える以外、どうする事も出来なかった。


― しっかりして・・・・・・・!気をしっかり持つのよ・・・・・!


江里子は奥歯を噛み締め、必死で素数を数えた。
しかし、生憎と数学は得意な方ではなく、それも程なくして力尽きた。
だが、何かを考えていないと、また花京院や承太郎に擦り寄って行きそうになる。


― 駄目よ、駄目・・・・!何か考えるのよ、何か・・・・!えっと、えっと・・・・!そうだ、九九!1×1が1、1×2が2・・・!


九九を数えるのなんて随分久しぶりだったが、それを懐かしく思う余裕も無かった。
身体に篭る力も、知らず知らずの内に強くなる一方だった。













「・・・・・・・ぅ・・・・・・・・、ゅうろく・・・・・」
「・・・・・おい」
「・・・・・・ぅに・・・・・」
「おい、江里。」
「っ・・・・・・・!」

腕を肘で軽く小突かれた感覚に、江里子は息を呑んだ。


「な・・・、何ですか・・・・・?」
「それはこっちの台詞だ。お前、さっきから何をブツブツ言ってるんだ?」
「え・・・・・・・?」

気付けば、承太郎が怪訝な顔で江里子を見ていた。
思わずひっくり返った声を咳払いで整えて、江里子は形ばかり笑ってみせた。


「べ、別に・・・。ちょ、ちょっと九九を数えてただけですよ。た、退屈だったから・・・」
「あぁ?」
「ほ、ほら、九九って時々忘れそうになりません?6×8とか特に。42だったかな?48だったかな?って、あは、あはは・・・・」

承太郎は一層怪訝そうな顔になって、軽く首を捻った。


「酔っ払ってんのかお前?言ってる事がさっぱり分かんねぇぜ。」
「べ、別に全然。私は全然正気ですよ・・・・・。」
「はは、まさか。幾ら江里子さんが下戸でも、飲んでもいない酒で酔っ払う訳ないよ。」

花京院が笑って会話に加わってきたが、しかし彼は、ある意味では承太郎よりも厄介だった。


「でも・・・、もしかして酔いましたか?車に。」
「え・・・・・・・・」
「本当に、さっきから様子が変ですよ。もしかして、気分が悪いのを我慢してるんじゃあありませんか?」

花京院は心配そうに江里子を見て、承太郎のように放っておいてはくれなかった。


「体調が悪い時は、下手に遠慮してはいけませんよ。何でも軽い内に対処するのが良いんですから。
アヴドゥルさん、荷物の中からビニール袋を取って下さい。
それからポルナレフ、水筒をこっちにくれ。」
「あ、あの・・・・・、ぁ・・・・・・・」

江里子が何か言う暇もなく、花京院はテキパキと乗り物酔いの対策を整えてくれた。
しかし、そうではないのだ。
気分は悪くない。
むしろ、どんどん、どんどん・・・・・


「何だ、エリーは車酔いか?大丈夫か?」
「目的地までもうすぐじゃ。道も悪くはないし、あともうほんの少しの辛抱じゃよ。」

アヴドゥルとジョースターが、少しだけ身を乗り出して心配そうに声を掛けてくれる。それすらも、今の江里子には刺激になっていた。
程なくして、車が道の端に寄せられ、静かに停まった。


「何だぁ、車酔いかぁエリー!?しっかりしろよ!ほれ、水だぜ!」
「あ・・・、ありがとう、ございます・・・・・・・」

差し出された水筒を、江里子はやっとの思いで受け取った。


「もうすぐ目的の町に着くけどよ、ここで少し休憩していくか?」
「そうしましょうか、江里子さん。ちょっと車から降りましょう。」

花京院に降車を勧められたが、動く事は出来なかった。
腰が甘く痺れていて、迂闊に立てば、崩れ落ちそうな気がしたのだ。
それに、少し前から、江里子の身には更なる異変が起きていた。
下腹部がしばしばキュンと疼いて、堪らなく切ないのだ。
太腿をしっかりと閉じ合わせ、下腹部にギュッと力を入れる事で幾らか軽減されるが、それをやめるとたちまち、身を捩って悶えたくなるような感覚に襲われてしまうのだ。


「・・・い、いえ・・・・、大丈夫です・・・・・。」
「・・・・ん?」

江里子が微かに太腿を擦り合わせているのを見て、ポルナレフはその青い瞳を探るように鋭く細めた。


「エリー、オメェまさか・・・・・・・」
「っ・・・・・・・・!」
「ションベン我慢してたのかぁ!?」
「なっ・・・・・・・!!!」

瞬時に顔が火照るのが分かった。


「ポルナレフ!お前はデリカシーというモンがないのかぁ!?相手はレディじゃぞ!?」
「ゴフッ、ゴフン!!ン゛ン゛ッ!ア゛ア゛ッ!」
「君は女好きな割に、女性に対する接し方の基本を心得ていないのだな。」
「どいつもこいつも、やれやれだぜ。」

皆の意識が一斉にポルナレフへと向き、江里子は内心で胸を撫で下ろした。


「んだよー!だってモジモジしてんじゃねーか!明らかにションベンを我慢している状態だろコレは!」
「ああーもう分かった分かった。もうそれ以上失言を重ねるなポルナレフ。」

ジョースターは憤慨するポルナレフを止めると、江里子の方を見た。


「車酔いの方は大丈夫なのか?」
「え、ええ・・・。全く、大丈夫です・・・・・。」
「そうか。目的の町まであと15分程度なのだが、その・・・、大丈夫かね?」
「・・・・・はい・・・・・」
「よろしい。ならば出発しよう。」

ジョースターは笑って頷き、また前を向いた。


「ポルナレフ、出してくれ。」
「あいよ!最速でかっ飛ばしてやるから、チビんじゃねーぞ、エリー!」
「ポルナレフ!!」
「ははは!」

車は再び走り出した。先程よりも、更にスピードを出して。
しかし今の江里子には、ポルナレフにスピードの出し過ぎを注意する事も、ジョースターと一緒に彼の失言を叱る事も出来なかった。


















ポルナレフが最速でかっ飛ばしてくれたお陰で、目的の町にはそれから10分足らずで到着した。
だがその頃には、身体の異変もより一層酷くなっていた。
下腹部が疼く間隔はどんどん狭まり、疼きも強くなる一方だった。
それに、もう腹の奥だけではない。
秘部もジンジンと痺れて、太腿を擦り合わせるのも、下腹部の疼きを堪える為というより、秘部の痺れを慰める為にしているようなものだった。


「ともかく、トイレじゃな。おお、あそこのカフェなんかどうじゃ?」

車を降り立つと、ジョースターはすぐさま辺りを見回し、近くの店を指差した。


「広いし、なかなか小奇麗な店構えじゃあないか。あそこならマシなトイレがありそうだ。まずはあそこでちょいと休憩してから、ゆっくりホテルを探そう。」

その案に反対する者は、誰もいなかった。


「先に行ってても良いんだぜぇ、エリー?ヘヘッ。」

ポルナレフがニヤニヤと笑いながら、江里子の肩を軽く叩いた。
その手の感触にさえ背筋が痺れ、思わず変な声が出そうになった。


「っ・・・・・!べっ、別にそこまで切羽詰まってませんから・・・・・。」

笑ったつもりだが、うまく笑えていただろうか。
己の一挙手一投足が皆にどう見えているか、気になって気になって仕方がなかった。
江里子は腹にグッと力を込めると、気をつけて、気をつけて、皆の後ろを歩いた。
少しでも気を抜けば、はしたなく脚をモジモジさせてしまいそうだった。
車の中で座っている時には誤魔化し誤魔化し出来たが、外を歩いている時にやれば、絶対に人目についてしまう。そうなれば、もう誤魔化しは利かない。


― しっかりしなさい!もう少しよ、もう少し・・・・・!


江里子は歯を食い縛って何でもない振りをし続け、何とか皆と一緒に店内に入った。
客は他に何組かいたが、テーブルにはまだ空きがあり、一行はその内のひとつに腰を落ち着けた。


「じゃ、じゃあちょっと失礼して・・・・・。注文はお任せします・・・・。」

江里子は一人、椅子には一度も座らず、皆が席に着いたのを見計らって小さく頭を下げた。


「おー!ゆっくりしてこい!」
「ポルナレフ!!」
「しつこいぞ!!」
「ぐふっ!!!」

アヴドゥルと花京院が、両側からポルナレフの脇腹を思いきり肘打ちしたが、それを見て笑う余裕も無く、江里子はそそくさとその場を離れ、バーカウンターの中にいる店主にトイレの場所を訊きに行った。


「すみません、トイレはどこですか?」
「ああ。一度店の外へ出て、すぐ右手だよ。見たらすぐに分かる。」
「ありがとうございます・・・・!」

江里子はまたそそくさと早足で歩き、店の外へ出た。
右手に曲ると、言われた通り、トイレがあった。ポツンとひとつだけ建っている簡易公衆トイレのようなものではなく、割と広めの、きちんとしたトイレだった。
男女はちゃんと別になっており、男性用は分からないが、女性用の方は個室が3つあった。個室は3つとも空いており、どれも特別綺麗でもないが、汚くもなかった。
江里子はその中のひとつに取り急ぎ駆け込むと、深々と溜息を吐いた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・、あぁっ・・・・・・!」

一人になれて気が緩んだ瞬間、今までよりも一層甘い疼きが、江里子の中を突き上げてきた。
もう、我慢が出来なかった。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・・・!」

江里子は崩れ落ちるように洋式の便座に座り込むと、自分で自分を抱きしめた。
知らず知らずの内に、手が乳房を掴み、揉みしだき始めた。


「はぁ・・・・、はぁっ・・・・、はぁっ・・・・・・・!」

今まで全く経験がない・・・、訳ではなかった。
どん底の生活から自分を助け出してくれる白馬の王子様を頭の中で思い描いて、理想通りのその凛々しい若者に愛される空想に耽りながら、自分の乳房や秘部を何となく触った経験が、全く無い訳では。
だが、空条家で暮らし始めてからはしなくなっていた。
何故ならその行為は、孤独な自分を慰める為のもので、こんなに強烈な衝動に突き動かされての事ではなかったからだ。
家の中にはいつでも優しいホリィがいて、彼女と並んで料理をしたり、掃除をしたり、お茶を飲んでおやつを食べて、他愛のない世間話をしている内に、独りぼっちの寂しさはどんどん消えていった。
だから、ふと気が付けば、しないようになっていたのだ。自分の温もりを自分の肌に与えて、自分を慰める必要がなくなった、今思えばそういう事なのだろう。


「はぁっ・・・・!はぁっ、はぁっ・・・・・・・!」

しかし、これは違っていた。
これは、寂しさや孤独を埋める為の幼稚な慰めなんかじゃない。
今まで知らなかった、全く未知の欲望だった。
これが『性欲』というものなのだろうか。
それはこんなにも激しいもので、こんなにも突然、場所も状況も弁えずに発露するものなのか。
戸惑いながらも、江里子はそれに翻弄される自分を止める事が出来なかった。


「はぁっ・・・・、ぁん・・・・・・・!」

今の江里子を埋められるものは、他愛のないお喋りや優しい時間などではなかった。
肉体の快楽、只それだけだった。
服の上から弄るだけでは飽き足らず、江里子はとうとうブラウスをたくし上げ、ブラジャーを強引に引き下ろして、胸の先端を直にギュッと摘んだ。


「んんっ・・・・・!!」

その強い刺激は、激しい欲を満たしてくれるどころか、より一層煽るだけだった。正に焼け石に水という状態だった。


「ど・・・・、どうして・・・・・・!?どうすれば良いの・・・・・・!?」

江里子は掠れた声で、我が身の異変を嘆いた。
欲のままにこうしていても、楽になるどころか更に酷くなるばかりな気がして、江里子は再び奥歯を噛み締め、乱した服を整え直した。


「・・・・しっかり、しなさい・・・・、しっかり・・・・・!」

江里子は手の甲を思いきり抓り、その痛みで何とか自分を奮い立たせた。そして、身体を引き摺るようにして、個室の外へ出た。



「・・・どうしたの?大丈夫?」
「はっ・・・・・!!」

外に出た瞬間、誰かが江里子に声を掛けてきた。
江里子は驚いて、俯けていた顔を跳ね上げた。


「随分辛そうねぇ。」
「・・・・・・・あな・・・た・・・・・・・」

その人に見覚えがあった。
男っぽい女のようにも、女っぽい男のようにも見える、中性的な顔と身体。
短く刈り込んだ坊主頭と、男女どちらともつかぬトーンの声。


「あなた・・・・・、さっきの町のアクセサリー屋さん・・・・・!?」

そう。
その人は、江里子がペンダントを買った、あのアクセサリー屋の若者だった。


「何であなたがここに・・・・・!?」
「ハァイ、また会ったわね、エリー。」
「・・・・・・・え・・・・・・・?」

彼に愛称を呼ばれて、江里子は思わず一瞬、何もかもを忘れて呆然と彼を見た。


「ど・・・・・、どうして・・・・・・?どうしてあなたが私の名前を・・・・?」
「だってアンタ、仲間にそう呼ばれてたでしょ?」
「え・・・・?あ・・・・・」
「・・・尤もボクは、アンタがボクの店に来る前からアンタを、いいや、アンタ達を知っていたけどね、エリー。」
「っ・・・・・!!」

江里子は目を見開いた。


「あなたまさか・・・・・、DIOの・・・・・・」
「・・・の、予定ってとこ。残念ながら、今はまだね。」
「ど、どういう事・・・・・?」
「ボクがDIO様の『お友達』になれるかどうかは、アンタに懸かってんのよ、エリー。」
「え・・・・・・・?」
「ねぇエリー。ボク、DIO様と『お友達』になりたいんだぁ。協力してくれるでしょお?ね?」

彼はまるで女友達のような気安い仕草で、江里子に纏わり付いて甘えた声を出した。
同じような事はアンにもよくされたが、アンには一度も感じなかった嫌悪感で鳥肌が立った。
勿論、頷く事など出来なかった。
この話を聞く限り、彼はDIOから差し向けられた刺客という訳でもなさそうだったが、味方になり得ない事だけは間違いなかった。


「・・・・・・どうして私が協力しなくちゃいけないの?」

江里子は自分を励まし、纏わり付く彼をきっぱりと振り払った。
すると彼は、やれやれとばかりに溜息を吐いた。


「どうしても嫌なら、嫌でも良いんだけどさぁ。
でもアンタ、今かなり辛いでしょ?身体が疼いて疼いて、仕方がないでしょ?」
「っ・・・・!!ど、どうして・・・」

どうしてそれを知っているのかと訊きかけて、江里子はハッとした。
そういえば、心当たりがひとつだけあった事に気付いたのだ。


「・・・ま・・・・、まさか・・・・・・、あのチョコレート・・・・・!?」

何故食べたのか、いつ食べたのか、はっきり覚えのない一欠片のチョコレート。
考えてみれば、心当たりはそれしかなかった。


「ピーンポーン。フフッ。美味しかったでしょ。何ならお替りをあげても良いわよ?」
「ふざけないで・・・・・!!何なのあれは・・・・!?」
「・・・・知りたい?」
「当たり前でしょう・・・!」

江里子は彼を睨みつけたが、彼の方はどこ吹く風で飄々としていた。


「じゃあ教えてあげても良いけど、トイレで立ち話ってのもどうかしらね。ちょっと散歩に付き合ってよ。場所を変えて話しましょ。」
「そんな・・・・・・!」
「勿論、ジョースター共に知らせに行く事は許さない。今すぐボクについてくるか、このままトイレで悶え続けるか、二つに一つよ。」
「くっ・・・・・・・」

選択肢は結局、一つしかなかった。




















江里子は彼について、すぐにその場を離れた。
ジョースター達に知らせに行く事は勿論、サインになるような物を残してくる事なども一切出来なかった。
彼は江里子の横を付かず離れず歩き、カフェからどんどん離れていった。
最初は無言だったが、少し歩いた辺りで、彼はおもむろに喋り始めた。


「・・・まずは自己紹介をするよ。ボクはラビッシュ。ポルナレフのアホに殺された、J・ガイルの弟さ。」

まずいきなり聞かされたのは、衝撃の情報だった。
嘘やデタラメで、こんな正確な情報を持っている訳がない。
つまり彼は、本当にあのJ・ガイルの弟だという事になる。
そしてそれは即ち・・・・


「じゃ、じゃああなたは、エンヤ婆の・・・」
「そ、息子ってわけ。」

江里子は思わずアクセサリー屋、いや、ラビッシュの左手に目を向けた。
こうして自己紹介を受けるまで全く気付かなかったが、あのJ・ガイルとエンヤ婆の肉親ならば、そこに見紛う筈のない特徴がある筈だった。
しかしラビッシュは、そんな江里子を見て、お見通しだと言わんばかりに口の端を吊り上げた。


「・・・あ、今、ボクの左手を見たね。そうさ。この通り、ボクの左手は『左手』なんだ。」

ラビッシュは自分の左手を、江里子の目の前に翳して見せた。
それはやはり、普通の人間と何ら変わりのない、普通の左手だった。


「魔女エンヤの息子でありながら、ボクは両右手も、スタンドも持って生まれなかった。つまりボクは、アンタと同じ、闘う力の無い役立たずってわけ。」

ごく当たり前の事を言うような口ぶりで自嘲するラビッシュに、返す言葉が思い付かなかった。


「・・・だけどね、ボクはアンタと違って何にも出来ない訳じゃあない。
確かにジョースター共を直接ぶっ殺す事は出来ないけど、奴等の戦力を大きく削ぎ落としてやる事は出来る。
このボクの、魔道士としての知識を用いてね。」
「魔道士としての・・・・・知識・・・・・?」
「ボクの血統、ガイル家はね、由緒ある魔道士の家系なんだ。数百年もの昔から、ガイル家の者は代々魔道に身を置き、あらゆる魔術・霊術・呪術を研究してきた。
その霊力と知識は、時の権力者に栄耀栄華を掴ませる事も、また逆に破滅させる事も出来た。いわば、歴史の陰で暗躍する、真の支配者だったという訳さ。」

ラビッシュは誇らしげに、とうとうと語り続けた。


「ねぇエリー、知ってる?魔道ってのは、あの世にあるんじゃあない。
アンタら馬鹿な一般人共は、そういうのは死んだ後の世界、地獄か何かにあると考えてるけど、そうじゃあない。
魔道ってのはね、この世に生きている生身の人間、その一人一人の、心の中にあるんだ。」

ラビッシュのその言葉に、江里子は戦慄した。
心の中に冷たい風がヒュッと吹き込んだような、そんな嫌な寒々しさを覚えた。


「恨み、憎しみ、嫉妬、猜疑、嫌悪、挫折・・・、ほら、全部覚えがあるでしょ?」
「っ・・・・・」

否定は出来なかった。
ラビッシュの言う感情の全てに、確かに覚えがあった。


「ガイル家の魔道士達はね、生まれ持ったスタンドや霊力で闘ったり、霊魂を操ったり、呪いをかけたりというような、オカルティックな事ばかりしていた訳じゃあない。
人間のそういう黒い感情を深く解析し、人の心を操る術をも研究してきたの。
そしてボクには、スタンドこそ無いけれど、数百年に渡って伝え遺されてきたその知識がある。」

気が付けば、人気のない町外れに来ていた。
いつの間にこんな寂れた場所まで誘導されていたのだろうか。
江里子は今更ながらに、言われるまま一人でついて来た事を後悔した。
しかし、もう逃げ場は無かった。
目の前にあった、廃屋らしき建物と建物の間の細い路地を曲がらされると、そこは完全な袋小路だった。


「・・・さて、ボクがお喋りしている間に、一段とヤバくなってきたんじゃない?」

袋小路に入り込むと、ラビッシュは愉しげに肩を竦めてみせた。


「アンタにあげたあのチョコレートは、今言った知識の内のひとつさ。ねぇ、媚薬って知ってる?」
「・・・・・・・・」

その単語は聞いた事があったが、詳しくは知らなかった。
江里子が返事をせずにいると、ラビッシュは小馬鹿にするように笑った。


「いやぁだアンタ、ネンネにも程があるんじゃない?
媚薬ってのはね、まあ平たく言えば、惚れ薬よ。
気持ちがキュンキュンして、ヤリたくなっちゃう、そういうクスリ。
尤も、大抵は効果なんかまるでない胡散臭いエセ薬だったり、単なる麻薬だったりするんだけどね。」

ラビッシュはおもむろに江里子の肩を抱き、耳元に唇を寄せてきた。


「・・・でも、ボクが作った物は違う。ボクの薬はガイル家秘伝の、正真正銘の媚薬さ。」
「っ・・・・・!」

耳朶を擽るラビッシュの吐息に、江里子はゾクリと身を震わせた。


「ボクの家にあった古文書に、こんな記述があったんだ。
遥か昔、ある国の王が他国の美しい姫に一目惚れをしたが、求婚を断られたので、その国を滅ぼして、姫を無理矢理攫って連れ帰った。
その姫は大層誇り高く、王がどれ程尽くしても、決して王に応えようとはしなかった。
手に入れたくても手に入らない姫の心を渇望し過ぎたその王は、金に糸目をつけず、密かに薬を作らせた。姫の心を手に入れる、媚薬をね。」
「っ・・・・・・・・!」

逃れようとしても、ラビッシュの腕は江里子を離さなかった。
まるで女のようなこの細い腕の何処にそんな力があるのかと思う程、ラビッシュの力は強かった。


「その媚薬を飲ませると、姫は途端に心変わりをし、その身を王に差し出した。
まだ男を知らない純潔の乙女だったというのに、自ら王の前で服を脱ぎ、股を開いたそうだよ。
ちなみにその姫は、王に抱かれた後、どうなったと思う?」
「・・・・・・知る訳・・・・ないわ・・・・・・」

せめてもの意思表示でそっぽを向くと、ラビッシュは呆れたように笑った。


「フフッ、取りつく島もないわね。ちょっとは考えてみようとか思わないわけ?
まあ良いか。教えてあげる。
王に抱かれたその姫はね、その後すぐさま王に殺されたのよ!
王は気高い姫の心が欲しかったのであって、誰彼構わず際限なしに男を欲しがるメス豚が欲しかった訳じゃあないって怒り狂ったんだって!傑作でしょ、アッハハハハハ!!
首を刎ねられた姫の顔は、まるで別人みたいにだらしなく緩んでたそうだから、ま、実際はそのブス面に幻滅したってとこかしらね、アッハハハハハ!!」

江里子の耳元で、ラビッシュは甲高い笑い声を上げた。
そのやかましさに顔を顰めたのも束の間、ラビッシュはまた急に声を潜めた。


「・・・もう分かるでしょ?アンタが食べたあのチョコレートには、その媚薬が練り込んであった・・・ってわけ。」
「このっ・・・・・・!!」

激しい怒りに突き動かされ、江里子は思いきりラビッシュを振り解いた。
しかしラビッシュは、まだ愉悦の笑みを消さなかった。


「そうカッカしないでよ。まだこの話には続きがあるんだから。
その王の話はそこで終わりだけど、ガイル家の研究はそれで終わった訳じゃあなかった。何しろ我がガイル家は、代々勤勉な家系だからね。大失敗に終わったその薬を、その後も色々と研究し続けたのさ。
そしてその結果、幾つかの事が分かった。」
「何なのよ・・・・・!勿体つけないでさっさと話して・・・・・!」
「まず、効力が現れるのは服用後30分程してから。そして、自然に効力が切れる事はない。」
「なっ・・・・・・!」
「催淫効果が強烈すぎるんだよ。だから、放っておけば精神がそれに耐えられず、発狂する。良くて廃人、最悪の場合は死に至る。いや、この場合はむしろ逆かもね。
運が良ければスッパリ死ねるけど、運が悪ければ頭と股が緩みっ放しで、公衆便所みたいな一生を余儀なくされる・・・ってね。」

それは、あまりにも絶望的な宣告だった。


「そ・・・、そんな・・・・・・・!」
「薬の効力を消し、助かる方法はたったひとつ。男に抱かれる事よ。」

その話に、江里子は一瞬、怒りをも忘れて呆然とした。


「ひとたび異常な興奮状態に陥った身体は、自慰なんかじゃあ鎮まらないわ。満足するまで何度でも抱かれるしかない。1人の男で足りないのなら、2人、3人、或いはもっと多くの男に。」
「・・・・そ・・・・・、そんな・・・、事・・・・・・」

その『方法』とは、ホリィの教えを真っ向から裏切る事に他ならなかった。
女の子の魅力は、いつか現れるたった一人の王子様の為に、大切に磨き続けるもの。
今まで大切に胸に抱いてきたその教えを、こんな形で捨てなければならないなんて。


「何が目的なの・・・・・!?」

思わず声が震えた。
怒りの為だけではない。無念と悲しみに、江里子の胸は震えていた。彼等への、承太郎達への密かな想いを、汚されてズタズタに引き裂かれてしまったようで。


「私にこんな事をしたって、あなたはジョースターさん達に勝てないわ・・・・!
こんな汚い策略に負けるような人達じゃあない・・・・!
私にこんな事をしたって、彼らの力を削ぎ落すなんて不可能よ・・・・・!」

涙を堪えてそう言い放つと、ラビッシュは馬鹿にするように鼻で笑った。


「いいや、不可能じゃあないね。
何故なら、こんな状態になったアンタを、アイツらが放っておける筈がないからさ。
アイツら皆、アンタを愛してるもの。仲間としてじゃなく、女としてね。」
「っ・・・・・!」

胸を射抜かれたように、一瞬、呼吸が止まった。


「アンタがこんな状態になったと知ったら皆、アンタを抱こうとする。
仲間とはいえ他の男に、惚れた女をむざむざくれてやりたくはないからね。
それが男の性ってもんよ。そうなれば、あとは自ずと始まるわ。醜い嫉妬と略奪の泥沼劇がね。
その結果、アイツらの信頼関係はズタボロになる。
そんな状態で、この先の旅がまともに続けられると思う?」
「・・・・・・・!」
「放っておいても、アイツらは自滅するのさ。間抜けなアンタのせいでね。」

そう言って、ラビッシュは愉しげに笑った。
人の尊厳を、心を、踏みにじっておいて、何がそんなに愉しいのか。
許せなかった。
この男の思い通りにだけは死んでもなりたくない、そう思った。


「・・・・そんな事・・・・、させないわ・・・・・」

江里子は歯を食い縛り、掠れる喉から声を絞り出した。
だがそれも、ラビッシュには通じなかった。


「口では幾らでも強がれるわよね。でもアンタも本当は、アイツらに抱かれたいんでしょ?」
「ぁっ・・・・・・!!」

江里子は突然、身体を廃屋の壁に押し付けられた。一瞬何が起きたのか分からなかったが、気が付けば、ラビッシュの顔がすぐ目の前にあった。


「・・・分かるわぁ。だってアイツら、堪らなくカッコ良くてセクシーだものね。女なら誰だって抱かれたくなる・・・・・。」

ラビッシュは江里子の目をじっと覗き込んで、そう囁いた。
その口ぶりは、まるで江里子と同じ女であるかのようだった。


「あなた・・・、女なの・・・・・!?」
「そうよ。だけど男でもある。」
「え・・・・・!?」
「アンドロギュヌス・・・・、ボクは二つの性を持つ者さ。
だから、男であるアイツらの気持ちも、女であるアンタの気持ちも、どっちも分かるんだ・・・・・。」

到底信じ難い話だった。
そんな江里子の心の中を読んだかのように、ラビッシュは口の端を吊り上げた。


「信じられない?だったら見せようか?ボクの・・・・、ア・ソ・コ・・・・。
ほら、全部付いてるんだよ、玉も棒も穴も、全部ね・・・・・」
「ひぃっ・・・・・!!」

ラビッシュはおもむろに江里子を抱きしめ、江里子の太腿に自らの股間を擦り付けてきた。おぞましいとしか言い様のないその行為に、江里子は女としての本能的な危機感に震えた。
反射的に犯されると思ったが、しかしラビッシュはそれ以上の事をしなかった。


「・・・花京院ってさぁ、素敵よねぇ。綺麗な顔してるし、頭も良い。典型的な王子様タイプよね。だけど、それでいて案外ゴツい身体してる。そのギャップが堪んないわよねぇ・・・・・」
「っ・・・・・・!」

ラビッシュは江里子の耳元に顔を近付け、擽るような声で囁きかけてきた。


「一見優しそうだけど、あのタイプは案外ねちっこいセックスするのよ。
想像してご覧なさいよ、アイツがアンタのそのデカい乳をさぁ、ねちっこく捏ね繰り回すのを・・・・」
「やめてっ・・・・・!!」

顔を背けても、余計に耳をラビッシュの口元に差し向ける形になるだけで、全く無駄だった。


「更にアイツの舌が、アンタの乳首をレロレロするの・・・・・。何度も何度も、レロレロレロレロ・・・・・・。」
「うぅっ・・・・・!やめ、て・・・・・!」
「そうそう。そうやって『やめて』って泣いて頼んでもやめて貰えなくてさぁ、ベッドに押さえ付けられて、乳首が取れちゃうんじゃあないかって位、執拗に舐め回されるの・・・・。右も左も、レロレロレロレロ、レロレロレロレロ・・・・・」
「や、め・・・・、うぅぅっ・・・・・・!!」

突然、身体に電流が走り、身体が勝手に痙攣した。
初めて感じるその激しい衝撃に、江里子は完全に飲み込まれてしまった。


「あぁっ・・・・・・!はぁっ・・・・・・!はぁっ・・・・・・・!」
「ウフフッ。次はそうねぇ・・・・、アヴドゥルなんかも良いわよねぇ。逞しくて、男臭くて、凄くセクシーだわ。男性ホルモン全開って感じで。」

ラビッシュは満足げに笑いながら、更に続けた。


「アイツ、大きな手をしてるわよねぇ。指も太くて長い。
あのゴツい指でさぁ、ナカを掻き回されたら、堪んないわよねぇ・・・・・」
「はぁっん・・・・・!」

一瞬引いたかのように思えた衝撃が、また江里子を襲った。


「1本だけでもキツいのに、更に増やされちゃったらどうする・・・・?2本、3本と捻じ込まれて掻き回されたら・・・・・・?」
「あぁっ・・・・・・!や・・・・ぁ・・・・・!」
「下手な短小野郎のコックより、アイツの指2本の方が断然太いわよ。捻じ込まれて掻き回されたら、アンタの貧相なプッシーなんか、あっという間にグッチュグチュになっちゃうわね・・・・・」
「ひぃぅっ・・・・・!!」

話の意味の正確なところはあまり分からなかったが、ねっとりしたラビッシュの口調と聞き覚えのある汚いスラングが身体に反応して、江里子はまたビクビクと痙攣した。


「アイツ、ジェントルマンを装ってるけど、割と熱くなるタイプよ。汁グチョグチョでヒクついてるアンタのプッシーを見たら、抑えが利かなくなるわ。ネンネのアンタなんか、指だけで気絶させられちゃうわね、きっと・・・・・。」
「は・・・・・、っ・・・・、ぁぁ・・・・・・・・」

とても立っていられないのに、ラビッシュの腕で阻まれて、倒れる事は許されなかった。


「ポルナレフもさぁ、口を開けばアホだけど、黙ってれば相当なハンサムよね。プレイボーイだから女慣れもしてる。女をキモチ良くするテクニック、いっぱい知ってるわよきっと。」
「んぁぁっ・・・・・!も・・・・、やめて、ぇ・・・・・・!」
「それが女の『OK』サインだっていうのも、勿論ね・・・・。だからアイツは、アンタのプッシーに優しく舌を這わせる・・・・・。」
「うぅっ・・・・・・!!」

耐え難くて、身を捩って逃げようとしたが、身体に力が入らない。思うように動けない。


「トロトロに溢れた汁を、アイツに全部舐め取られるの・・・・・。ピチャピチャいやらしい音を立ててさぁ、ぜ〜んぶ・・・・・。」
「はっ・・・、あ・・ん・・・・・!」
「舐めても舐めても、アンタのだらしないプッシーは汁を溢れさせるわ・・・・。だからアイツは、アンタのナカにまで舌を捻じ込むの・・・・・」
「んぁぅっ・・・・・・・!」
「ナカから直接汁を吸い出されて、勃起したクリットも舌で転がされまくるのよ・・・・。堪んないわよね・・・・・。全部舐められちゃうのよ、ピチャピチャクチュクチュとね・・・・・」
「ふぁぁぁっ・・・・!!」

また大きな波が襲ってきた。
口をついて出る喘ぎ声に羞恥する理性も、もう消えてなくなりそうだった。


「ジョースターはオジンだけど、その分テクニシャンよ。
若い男のように猛々しい欲望が無いから、女を悦ばせる事に終始する。自分で腰を振って疲れるより、女を一人でよがり狂わせる方が楽で気持ち良いのよね。オモチャなんかも使い慣れてるわよ、きっと。」
「ぅぅっ・・・・・・、ん・・・・・・・!」
「アンタの感じるところ全部、一度に責めてくれるわ・・・・。乳首とクリットにバイブレーターを付けて、ナカには極太のディルドーをブチ込んでさぁ・・・・」
「あぁぅっ・・・・・・!」
「ヒクついてるアンタのアナルを、ゆっくりゆっくり、調教するのよ・・・・・。じっくりと時間をかけてほじくって、拡げるの・・・・・。アンタにたっぷりとしゃぶらせて、ビンビンにしておいたコックがブチ込める位にまでね・・・・」
「いぁぁっ・・・・・・!」

こんな下劣な奴の戯言に翻弄されるなんて耐え難い屈辱なのに、身体が言う事を聞かなかった。


「そして、承太郎・・・・。本当、超絶的な美形よねぇ・・・・。正直言って、ボクが抱かれたい位だよ・・・・。まあ尤も、DIO様の魅力には遠く及ばないけどね、フフッ・・・・」
「うぅ・・・・、ぅ・・・・・・・」
「でも、アンタ程度の女には高嶺の花だよね・・・・。あの目に見つめられただけで、孕んじゃいそうでしょ?ウフフフフ・・・・。
本当に孕まされちゃったらどうする?あの逞しい腕で強く抱きしめられてさぁ、アイツのコックがアンタのナカにブチ込まれるの・・・・。かなりデカそうだから、子宮まで簡単に届いちゃうわね、きっと・・・・・・」
「ぁんんっ・・・・・・!!も・・・・・、やめ・・・・・・!」

身体が勝手に暴走して、止まらなかった。
止まらない自分が怖くて堪らないのに、それでも瞼の裏にチラつく仲間の顔に、言い様もない程昂った。
花京院、アヴドゥル、ポルナレフ、ジョースター、そして承太郎。
こんな不潔極まりない妄想で、大切な彼等を穢したくはないのに、まるで本当に彼等に抱かれているように、心も身体も高揚して止まらなかった。


「ガンガンに突きまくられて、腰がガクガクになって、プッシーがジンジン痺れて・・・・・。何度も何度もイカされた挙句に、奥の奥まで突き込まれて・・・・・、あぁ・・・・・!」
「い、やぁ・・・・・、もっ・・・・・!ダ・・・メぇ・・・・!!」

江里子は掌に爪を立て、歯を食い縛って、必死に自分にブレーキをかけた。
だが、妄想の中の承太郎は、抗う江里子をその熱い腕の中にしっかりと閉じ込め、激しく揺さぶって離さなかった。


「分かるでしょ・・・・・!今アンタのナカに、承太郎の熱いのがいっぱいブチ撒けられてるのよ・・・・!」
「あぁぁぁっ・・・・!!!」

やがて、承太郎の腕の中で、江里子は弾けた。



















「・・・・ぁっ・・・・、ぁ・・・・・ぁ・・・・・」

力を失った身体がズルズルと崩れ落ち、尻が地面に着いた。
その感覚で、江里子は自分が解放された事を何となく悟った。


「アッハハハハハ!すっごいイキっぷり!最後は潮まで吹いちゃったみたいね、プクク・・・・・!ねぇ、そうやって脚開いてると、ズボンの股の所が濡れてるの丸分かりだよ?女の癖に行儀が悪いわねぇ!」

脱力してものも言えない江里子を見下ろし、ラビッシュは嘲笑を浴びせかけた。


「どう?ちょっとは満たされた?少しは楽になった?ん?」
「・・・・・・・」

江里子は無言のまま、白々しい事を言うラビッシュを睨み上げた。
楽になど、少しもなっていない。
確かに一瞬は解放されたような気になったが、またぞろ下腹部が疼き出してきている。今はまだ理性を保っていられるが、多分またその内に、さっきのような状態に陥ってしまうのだろう。
そうなる前に、決着をつけねばならなかった。


「・・・・・殺しなさいよ・・・・・、私を・・・・・・」

江里子はラビッシュに向かって、そう呟いた。


「一思いに・・・・殺してよ・・・・・」

それ以外に方法は無かった。
この男を殺したところで媚薬の効果は消せないのだから、自分が死ぬしかない。それが江里子の出した結論だった。
しかしラビッシュは、江里子の文字通りの決死の覚悟を、まるでジョークのように笑い飛ばした。


「ハァ!?バカ言わないでよ!この薬を作るのに、どれだけ手間をかけたと思ってるの?そんな白けるオチのつけ方する位なら、最初からこんな事しやしないわよ!
ほら!早くアイツらのとこ帰って、ヤって貰ってきなよ!
アタシをファックしてって、皆におねだりしてきなよ!そのグッチョグチョの臭いプッシー見せてさぁ!アハハッ!アハハハハッ!!」

甲高い声で笑いながら江里子をはやし立てるその姿は、狂気としか言い様がなかった。


「・・・・あなた・・・・・、狂ってるわ・・・・・・」

その異様な姿に思わず圧倒された江里子は、呆然と呟いた。
するとラビッシュは唐突に笑うのをやめ、剣呑な表情で江里子を見た。


「・・・・ボクはね、この時をずっと愉しみに待ってたんだ。
ねぇエリー、もっとボクを愉しませてよ?
ボク、アンタの惨めな姿が見たくて見たくて堪らなかったんだ・・・・・」
「っ・・・・・!?」
「何の役にも立たないくせにさぁ、無能者って責められるどころか、皆に大事にされて愛されてさぁ・・・・!スタンドも無ければ知恵も無い、只のバカ女のくせにさぁ・・・・!」

狂気じみたラビッシュの笑みが、江里子には一瞬、泣いているように見えた。


「明らかにお荷物なのに、それをちっとも申し訳なく思ってない・・・・!
守って貰って当然、庇って貰って当然だと思ってる・・・・!
お前より遥かに知恵と知識のあるこのボクが隅っこで小さくなってるのに、お前は当たり前の顔をしてヤツらと並んで歩き、同じテーブルで同じものを食べる、そして、命を張ってまで守って貰える・・・・!こんなバカな話は無いね!
いい!?無能な役立たずには何の価値も無いんだよ!!殺されないだけマシなんだ!!勘違いするな!!」

不思議だった。
さっきまで心の底から憎いと思っていたこのラビッシュに対して、江里子は今、妙な共感を覚えていた。
勿論、憎くはある。こんな事をされて、到底許せるものではない。
だが、こうして喚き散らす彼が、ほんの少しだけ、昔の自分に重なって見えたのだ。


「・・・・・あなたは・・・・エンヤ婆にそう言われて育ってきたのね・・・・・。多分、お兄さんのJ・ガイルにも・・・・・」
「っ・・・・・・!」
「私も割と酷い家庭で育ってきたつもりだったけど、あなた程ではなかったわ・・・・・。」
「だ・・、黙れーーッッ!!!」

ラビッシュはわなわなと身体を震わせ、不安定に叫んだ。


「母さまと兄さまの悪口を言うなーーッッ!!ボクを憐れむなーーッッ!!」
「あぅっ・・・・!」

突然激昂したラビッシュは、猛然と江里子を足蹴にした。
一度のみならず、何度も、何度も。


「クソッ!このっ!ファックしか取り柄のないクソビッチが!
子宮を踏み潰されたいのか!調子に乗るなよこのブスッ!クソッ!このっ!!」
「うぐっ・・・・・・!!うぅっ・・・・・!!」

江里子は身体を小さく丸めて、その蹴りに耐えた。
少しの間辛抱していると、ラビッシュは疲れてきたのか、蹴りが止んだ。


「ハァッ、ハァッ・・・・・・!」
「うぅっ・・・・・・、ぅっ・・・・・!」

ラビッシュが息を切らせている間に、江里子はヨロヨロと立ち上がった。また始まっていた下腹部の疼きは、今はラビッシュに蹴られた痛みがかき消してくれていた。


「・・・憐れんでなんか・・・・いないわ・・・・・・。
ただ・・・・・、あなたの気持ちが・・・・・、ほんの少し、分かる気がしただけ・・・・・。」
「分かる、だって・・・・!?」
「自分より恵まれている奴が・・・、それを少しも有り難がっていないのって・・・、ホント、目障りよね・・・・・。この気持ちも・・・・・、さっきあなたが言ってた・・・・、魔道、ってやつ・・・かしら・・・・」

ラビッシュはハッとしたように、目を大きく見開いた。


「あなた・・・、DIOの『友達』になりたいんだって言ってたけど・・・・、あなたは・・・・、自分の居場所が欲しいんでしょ・・・・・?」
「っ・・・・・!!」
「私もずっと・・・・、そんな事ばかり考えていた・・・・・。
幸せな人を妬んで、憎んで、それに比べて私は・・・って、卑屈になって・・・・。どこにも居場所が無くて・・・・、いつも・・・自分の居場所を求めていた・・・・。
だから、あなたの気持ち・・・・、少し分かった・・・・。ただそれだけよ・・・・・。」
「・・・・・・お前・・・・・・・」
「私を殺さないんでしょう・・・・?だったら、あなたに用は無いわ・・・・。もう・・・行くわね・・・・・。」

江里子はラビッシュの横を通り過ぎて歩き始めた。
薬の催淫効果が強烈すぎるというのは残念ながら本当の事らしく、蹴られた痛みが治まってくるにつれて、下腹部の疼きがまた蘇ってきていた。
もし背後から襲われて殺されるなら、それはそれで仕方がないと覚悟をしていたが、ラビッシュは追いかけて来なかった。


「・・・・・あぅっ・・・・・、・・・・ふふっ・・・・・」

人間、本当の窮地に陥ると、却って笑えるものなのだろうか。
身体を引き摺るようにして袋小路から出て行きながら、江里子は微かに笑った。


「さて、と・・・・・。これからどうしよ・・・、かな・・・・・・」

行くあても、やるべき事も、何も無かった。
ただひとつだけ決まっている事は、ジョースター達には迷惑をかけない、それだけだった。












「・・・・・・・・・」

一滴の涙が、頬を伝った。


「・・・・・・・・いいわ・・・・・・・」

その涙を乱雑に拭い、ラビッシュは小さな声で呟いた。


「見ててあげるわ、エリー。アンタがどうやってその窮地を切り抜けようとするのか・・・・。
だけど、アンタはどうしたってそこから抜け出せない。
アンタがイイ子ぶればイイ子ぶる程、アンタのダーリン達は醜い愛憎の泥沼に嵌って、抜き差しならなくなっていく・・・・。そしてアイツ等は、次の町に辿り着く前に、全滅する・・・・・・。」

ラビッシュは江里子が去って行った方を、瞬きもせずに呆然と見つめていた。


「ボクと同じ、独りぼっちになったら、ボクに泣いて頼むと良いよ。
アンタの態度次第では、ボクが拾って飼ってやっても良い・・・・・。
ウフフッ、女にこんな事思ったの、初めてだよ、ウフフフフッ・・・・・」

子供のように無邪気な、しかし、何処か禍々しい笑みを浮かべて。




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