星屑に導かれて 14




イエローテンパランスを撃破してから以後は、至って平和なものだった。
夕方前にはポルナレフも無事に戻って来て、ホテルで一番高級なレストランで、彼の出所(?)祝いを盛大に行った。
食事は楽しく、美味しく、出来ればいつまでもと願いたかったが、明日は朝早くから出発するからと、宵の口にはお開きとなった。
江里子はアンと最後の夜を過ごし、そして、夜が明けた。




まだ朝早い時間、江里子は既に起き出して支度をしていた。
今日はいよいよ出発の日なのだ。


「・・・もう行くの?」

鏡台に向かって化粧をしていると、ベッドの中からアンが話しかけてきた。


「ごめん、起こしちゃった?」
「ううん。」

寝ているとばかり思っていたアンの声は、やけに明瞭だった。


「もう、行っちゃうの?」
「うん。」
「朝ご飯は?」
「これからジョースターさん達の部屋で食べるわ。まだ早い時間だから、特別にお部屋に運んで貰うように頼んであるの。」
「そっか・・・・・。」
「アンは好きな時間に、いつものレストランで食べてね。お金はジョースターさんに貰ってるでしょ?ちゃんと持ってるわよね?」
「うん・・・・・・・」

一人置いていくアンの為に、ジョースターは出来るだけの事をしていた。
まだ幼いアンに対して十分な配慮をしてやって欲しいとホテルに話をつけて、アンが父親と落ち合う約束の日までの宿泊料を、決して少なくない手数料を上乗せして前払いし、十分と思われる数の着替えを買い与え、更には食費・生活費としての現金をも与えていたのだった。
だが、ここまで手厚い心遣いを受けていて尚、アンは満足そうではなかった。


「・・・・・・・」

いや、満足していないのではない。寂しいのだ。
それは、暗く沈んだアンの顔を見れば、すぐに分かる事だった。


「・・・・・・そうだ。アンに渡す物があるんだ。」

江里子は手荷物を入れたショルダーバッグを開けると、中からブレスレットを2つ、取り出した。


「これ、私からのプレゼント。」

麻糸とカラフルに着色された木のビーズで編んであるエスニック風のこのブレスレットは、ホテルのすぐ近くにある露店で買ったものだった。
初日の買い物の時に見つけていたのを、昨日の騒動の後、改めてこっそり買いに出たのである。
この旅に出てからというもの、ホテルの宿泊費から交通費、着替えの下着の代金に至るまで、ほぼ全てジョースターに甘えてしまっているが、これだけはどうしても自分で買いたかったのだ。


「お揃いよ。友達の印。」

江里子は片方をアンに渡すと、もう片方を自分の左手首に着けた。
すると、アンもおずおずと、自分の右手首に着けた。


「それと、これも。」

江里子は更に、小さく畳んだメモを差し出した。


「これは・・・・・・?」
「日本の、私の住所。っていうか、承太郎さんの住所ね。」
「えっ!?」

驚くアンに、江里子は笑って言った。


「私、承太郎さんちの家政婦だって言ったでしょ?住み込みなのよ。だから住所が同じってわけ。」
「ああ、そっか・・・・・・。」
「実家も近いんだけど、そっちにはあんまり帰らないから。だから、こっちの住所に送って。」
「え・・・・・?」
「手紙。」

江里子がそう言うと、アンは目を丸くした。


「まだ2ヶ月位は日本に戻れないと思うけど、手紙ちょうだい。私宛でも、承太郎さん宛でも良いから。」

江里子は茶化すように笑いかけてから、アンの華奢な肩に手を置いた。


「・・・・ありがとう。楽しかった。」
「・・・・・エリー・・・・・・」
「私ね、今まであんまり友達っていた事なかったんだ。家が貧乏で、持ち物とか習い事とか友達付き合いとか、周りの子と同じようには出来なくて。だから、いつもいじめられてばかりいたの。
偶に出来る友達は、同じように仲間外れにされた子だけで、だけど大抵はすぐにいじめのターゲットが変わって、また元の仲間の所に戻れるから、いつの間にかまた無視されたりいじめられるようになって・・・・。」
「・・・・・酷い・・・・・」

それは、これまで誰にも話した事のない、己の汚点だった。
誰にも対等に付き合って貰えず、近付いてくる人間は皆、『孤独』という屈辱から逃れたい為だけで、一時の友情はすぐに裏切られてゴミのように捨てられる。
そうして、捨てられる怖さから逃げる為に、人を信じなくなる。
自分だけが、常に『孤独』に付き纏われる。
そんな事を繰り返してきた自分の学生時代は、江里子にとっては人生の汚点以外の何物でもなかった。いや、自分のこれまでの人生丸ごと、そのものが汚点だった。そう思っていた。


「そのうちね、友達なんて要らないって思うようになっていった。
誰かが擦り寄って来ても、笑って相手して、泣き言垂れるのを優しく慰めてあげながら、心の中で『どうせコイツもすぐ裏切るんだ』って、そんな風に思ったりして。」
「・・・・・・・・・・」
「だけどね、フッと気が付いたの。友達が出来なかった一番の原因は、どうせ自分は貧乏で悪い家庭の娘だからとか、どうせ嫌われ者だからって卑屈になって、自分の殻に閉じ籠っていた事なんだろうな、って。」

殻は、目を背けたくなる程汚らしい周りのものから、自分を守る為に必要なものだった。
だがそれは同時に、その汚らしいどん底から飛び立って行くのを阻む、檻でもあったのだ。


「アンに出会って、それが分かった。こんな年上なのに恥ずかしいけど。ふふっ。」
「・・・・・・・・・」
「危ない目にも怖い目にも遭ったけど、楽しかった。
私、アンと過ごしたこの何日間かの事、一生忘れない。
日本に帰ったら、また一生懸命働いてお金貯めて、アンに会いに来るわ。必ず。」
「エリー・・・・・・」

江里子は、アンに握手を求めた。


「またね。」
「・・・・うん・・・・!」

お揃いのブレスレットを嵌めた小さな手と手が、永遠の友情を結んだ。
生まれて初めて、本当の友達が出来た。
涙のいっぱい溜まったアンの大きな黒い瞳を見て、江里子はそう思った。



「・・・・・・ハァ・・・・・・・」

12階へと向かうエレベーターの中で、江里子は一人、寂しさを噛み締めていた。
年上の意地で何とか堪えた涙が、今頃滲み出てくる。
旅はまだまだこれからで、別れの寂しさに泣いている場合でないのは分かっているが、今は、今だけは。誰もいないこの密室の中だけでならば。
江里子は束の間、静かに涙を零した。
そして、12階に着くと、濡れた頬を拭って気を引き締めた。


「よし・・・・・・!」

感傷に浸るのはここまで。
ここから先は、また、険しい旅路が続いている。
江里子はエレベーターを降りて、廊下を歩き出した。
その途端。


「きゃっ・・・・・!」

階段から上がってきた承太郎と花京院に出くわした。


「あ、おはようございます、江里子さん。」
「あ、お、おはようございます・・・・」

江里子は咄嗟に笑顔を張り付けて、何気に目を逸らした。
だが、ついさっき流したばかりの涙の跡は、残念ながら隠し通す事は出来なかった。


「・・・・朝っぱらからなに辛気臭ぇツラしてんだ。」
「江里子さん、もしかして、泣いてました?」
「な、泣いてないですよ・・・・!」

思わず顔を背けてしまったそのリアクションが、何よりの証拠になってしまっている。しまったと思っても、後の祭りだった。


「・・・・・まあ、察しはつくがな。」

承太郎は小さく溜息を吐いて言った。


「・・・・・・」
「だが、お前の為に言っておいてやる。」
「な・・、何ですか・・・・・?」
「ブスの泣きっ面は余計無様なだけだぜ。」
「はっ・・・ら立つ・・・・!だから泣いてませんてば!」
「江里子さん、シーッ・・・・!まだ朝早いですから・・・・!」

そう。
旅はまだまだ、これからが始まりのようなものだった。

















承太郎がその事を口にしたのは、朝食の席でだった。


「皆、ちょっと聞いてくれ。」

食事が済み、早速にも出発しようという時に、承太郎は不意に声を上げた。
それが何だかやけに改まった感じだったので、一同は理由も聞かず、浮かせかけた腰をもう一度椅子に落ち着けた。


「昨日のヘドロ野郎から、敵の情報を聞き出した。」
「何じゃと!?何ですぐに言わなかった!?」
「出発の前夜に気負い過ぎねぇようにと思ってな。」
「むう・・・・・。して、どんな情報だ?」

ジョースターが話すように促すと、承太郎は煙草に火を点けて燻らせながら喋り始めた。


「追手の数は4人。死神、女帝、吊られた男、皇帝・・・・・。
DIOの手下がたったそれだけとは考え難いが、奴が知っている限り、今、俺達に向けられている刺客はその4人だそうだ。」
「死神、女帝、吊られた男、皇帝、か・・・・・。誰か、この4人の事を知っている者はいるか?」

ジョースターは、アヴドゥル・ポルナレフ・花京院に向かって尋ねた。
だが彼等は、いずれも小さく首を振っただけだった。


「それぞれの能力の事は聞き出せなかった。本当に知らねぇようだった。能力を他人に見せる事は、弱点を教える事に他ならねぇからと言ってな。」
「うむ。それは恐らく事実だろう。」

アヴドゥルが頷いた。


「だが、DIOの野郎にスタンドを教えた魔女がいるらしい。
そして、その魔女の息子が、その4人の中にいる、と。」
「魔女・・・・・・?」

花京院が首を傾げたと同時に、承太郎の煙草の灰が、音も無く灰皿に落ちて崩れた。


「そいつの名前はJ・ガイル。カードの暗示は『吊られた男』。
そして目印は・・・・、両手とも右手の男。」

ガシャン、と音がした。
水のグラスを、ポルナレフが握り潰した音だった。


「・・・・・今・・・・、何て言った、ジョジョ?」
「お前の妹の仇が判明したと言ったのだ。」
「っ・・・・・・・・!」

ポルナレフは、掌に突き立ったガラスの破片を鬱陶しそうに引き抜き、皿の上に投げ捨てた。
ともかく止血をと、江里子はナフキンを差し出したが、受け取っては貰えなかった。
今のポルナレフの目に、江里子は映っていなかった。


「そいつの能力は、鏡を使うらしい。あのヘドロ野郎も、よくは知らなかったみてぇだがな。」
「鏡・・・・・・・」
「あのヘドロ野郎は、お前では勝てねぇだろうと言っていた。」
「なぁにぃ・・・・・!?」

ポルナレフは、目に見えて怒りを滾らせた。それは誰でも簡単に分かる事だった。
草の根を分けて捜し回った仇がようやく見つかった、それだけでも十分に平常心を欠く事だというのに、更にそのような挑発的な事を言われては、誰だって怒り狂うというものだ。


「承太郎さん、何もそんな事言わなくても・・・!」
「用心しろと言っているのだ。」

承太郎は窘める江里子を無視し、ポルナレフに向かってきっぱりと言い放った。


「怒りで頭に血が上りゃあ、思わぬところで躓く。隙が出来る。勝てる相手にも勝てねぇ事がある。」
「・・・・・・・」
「気をつけろ。妹の仇を討ちたきゃあな。」

ポルナレフは暫し無言で承太郎を睨んでいたが、やがて小さく笑うと、江里子の手からナフキンを奪い取って掌に巻き付け始めた。


「・・・・・・分かってる。ありがとよジョジョ。良い情報を聞かせてくれて。
やっぱりお前らについて来て正解だったぜ。こうもすぐに仇に巡り遭えた。」
「ポルナレフさん・・・・・」
「俺では勝てねぇだと?フン、上等だ。勝てねぇかどうか、試せば分かる事だぜ。すぐにな。」

その涼しげな青い瞳に壮絶な闘志を漲らせているポルナレフが、江里子には危なっかしく見えた。
心配し、忠告してくれた事にではなく、仇の情報を入手してきてくれた事に対して礼を言った彼が、とても不安だった。
他人の目から見ても分かる程に憎悪を燃やし、当然勝てると確信している、そんな彼が。
尤も、闘えないお荷物にそれを指摘する事は出来ず、江里子は黙ったまま、微かに溜息を吐いた。
すると、承太郎が独り言のように呟いた。
こうなるだろうと思ったから、昨日は話さなかったんだ、と。

















午前7時半のタイ・ハジャイ行きの列車に乗るべく、一同はシンガポール駅にやって来た。
列車が時刻通りに発着するのはどうやら日本ぐらいのものらしく、この辺りでは数時間の遅れも珍しくないとの話だった。
もしもそうなった場合の事も一応は考慮に入れてあったのだが、駅に着いてすぐ駅員に確認すると、幸運な事に、今朝の列車はほぼ予定時刻通りに出発するだろうとの事だった。
安心して、ひとまずは荷物を下ろし、一息ついていると、人と人の間に、チラホラと見覚えのある子供の影が見え隠れした。


「んん?」

ジョースターがじっと目で追っていると、やがてその影は、実体を現わした。


『アン!』

決まりの悪そうな顰めっ面をヒョコッと出したのは、アンだった。
ついさっき涙の別れを済ませたところなのに、こんな所で早くも再会とは。
江里子は驚きと、ほんの少しの嬉しさを感じながら、モジモジと立ち尽くしているアンの側に駆け寄った。


「どうしたの、アン!?」
「べ、別に・・・・・・・・」
「もしかして、見送りに来てくれたの?」
「いや、別に・・・・・・」

一応は尋ねる形を取ったが、そしてアンもはっきりとは答えなかったが、そうだとしか思えなかった。
考えてみれば、別れの挨拶らしい挨拶をしたのは江里子だけなのだ。
アンと男性陣とは、昨夜のポルナレフ出所祝い(?)の席で別れたきり、顔を合わせてもいなかった。
だからきっと、そのまま別れてしまうのが嫌だったのだろう。
特に、誰かさんとは。
察しのついた江里子は、アンの腕を多少強引に引っ張って、承太郎達の元へ連れて行った。


「皆さん、アンが見送りに来てくれましたよ!」
「おお、そうなのか!わざわざありがとう!」

ジョースターは朗らかに笑うと、アンの頭を撫でた。


「まだ早い時間だが、ちゃんと朝食は食べてきたのか?うん?」
「ああ・・・・うん、まあ・・・・・・、っていうか・・・・・」
「何じゃ?」
「ホテル・・・、あたいも・・・、チェックアウト、して、きたんだ・・・・・」

アンはモジモジと上目遣いにジョースターを見ながら、小さな声でそう告白した。


「何じゃとぉ!?!?」

ところがジョースターの方は、一瞬目を丸くしてから、厳しい顔になった。


「何でそんな事をしたんじゃあ!?親父さんと会うまで、まだ日があるだろう!?そんな事して、それまでどうする気なんじゃあっ!」
「っ・・・・・・!」

ジョースターに叱り飛ばされ、アンは一瞬、ビクッと身を竦ませた。


「ちっ・・・、違ぇーよッ!勘違いしてたんだよ!父ちゃんと会うの、今日だったんだ!」
「何ぃ!?」
「あ、あたいももうじき約束の時間なんだよ!テメーらなんかに構ってられっか!
そっちはそっちで勝手にインドでもどこでも行きやがれっ!」
「あっ、アンっ・・・・!」

江里子が止める間もなく、アンはまた何処かへ走って行ってしまった。


「アンってば・・・・・・・」

父親との約束の日が今日だったなんて、本当なのだろうか。
本当だったら良いのだが、もし嘘だったら。


「心配要りませんよ、江里子さん。」

江里子の気持ちを見透かすように、花京院が話しかけてきた。


「我々日本人の感覚で考えればとても有り得ない事ですから、江里子さんが心配する気持ちは分かりますけどね。
他のアジア諸国の子供達は、日本のように大人の手厚い庇護の下では育てられていません。ほんの一部の上流階級の子供達を除いて、あとは皆、吃驚する程野放しなんです。小さい時からね。」
「そう、なんですか・・・・?」
「ええ。だから皆、逞しい人間に育つのですよ。あの子もきっとそうなんです。
本当の事情がどんなところかは知りませんが、ここまで一人で来ているんです。心配はないでしょう。」

反論する事は、江里子には出来なかった。
もしもアンが嘘を吐いていたとして、心配だから、だからどうしてやれるのか?してあげられる事など何もないのに。
一緒に連れて行けば、この間の海でのように、それこそ死ぬ程の危険な目に遭わせてしまうのに。


「皆、列車が来たぞ。」

アヴドゥルの声で線路に目を向けると、ハジャイ行きの列車が到着しようとしていた。
いよいよ出発なのだ。
これ以上はもう、どうしようもない。
お父さんにちゃんと会えるように、とにかく、無事でいるように。
今は姿の見えないアンにそう願いながら、江里子は皆と共に列車に乗り込んだ。
















列車の旅は、船や飛行機とはまた違った風情があった。
絶え間なくやって来ては過ぎ去ってゆく景色は、どこまでも青や黒一色だった海や空とは違い、様々な色に彩られ、場所によって風の匂いが変わった。
食堂車の車窓から、江里子はそれらを目で、鼻で、楽しんでいた。


「・・・・やれやれ。いよいよインドへ向かう、か。」

隣のテーブルで、やはり同じように窓の外の景色を眺めながら、ポルナレフが呟いた。


「両手とも右手の男、J.ガイル・・・・、か・・・・」

今朝、朝食の席でその話を聞いてから、彼は何度となく思い詰めた顔をしている。
この様子では、昨日の承太郎の判断は、正解だったと言えるだろう。
もしも昨日聞かされていたら、ポルナレフはきっと一睡も出来ず、今日の移動に差し支えただろうから。


「ところで、アンはどうした?」

我に返ったポルナレフは、ふと思い出したようにアンの事を口にした。


「列車の出発間際まで、シンガポール駅にいたんだがなぁ。」
「きっと、お父さんとの約束の時間が来たので、会いに行ったのでしょう。」

ジョースターとアヴドゥルが、それに答えた。


「あのガキ、どうもお父さんに会いに来たってのが嘘くせぇんだよなぁ。
ま、いないと、ちょいと寂しい気もするが。な?ジョジョ。」

ポルナレフはようやく、いつものようにふざけて軽口を叩いた。
承太郎が笑ったのは、冷やかされたせいだけではない筈だった。


「しかし、全く嫌な気分だな。僕そのものに化けるスタンドなんて。」

花京院が、イエローテンパランスとの戦闘の話を持ち出してきた。


「ホテルを出る時から、もう既に変身していたらしい。」
「やっぱり。」

その話に承太郎も乗ってきたので、同じテーブルに着いている江里子も乗る事にした。


「2度目の電話、私達を部屋まで迎えに来るっていうのも、あれもあの人だったんでしょうね。
今思えば変でしたもん。一方的に言ってさっさと電話切っちゃうんですから。」
「ああ、きっとな。ジジイの部屋にいた俺の所にも、電話を掛けてきやがった。待ち合わせ場所を変更するってよ。
今思えば、全くもって怪しい限りだぜ。あの時は、不思議と特に変だとは思わなかったんだが。」
「無理もないさ。江里子さん達に危険が及ばないよう、万が一の用心なんて尤もらしい口実をつけられちゃあ。」

花京院は小さく肩を竦めると、ふと承太郎の食事の皿に残されている、彩り用の赤いチェリーに目を留めた。


「ジョジョ、そのチェリー、食べないのか?がっつくようだが、僕の好物なんだ。くれないか?」
「ああ。」
「サンキュー。」

花京院は嬉しそうにチェリーを貰うと、おもむろに口に放り込み、そして・・・・


「レロレロレロレロレロレロ・・・・」

と、やり始めた。


「・・・・・;」
「・・・・・;」

江里子と承太郎は、思わず引き攣った顔を見合わせた。


「お、ジョジョ見ろ。フラミンゴが飛んだぞ。江里子さんも、見えますか?」
「え・・・・、ええ・・・・・」
「・・・やれやれ。」

何か嫌だからソレやめて下さい、とは言えなかった。
行儀が悪いという正当な理由はあるのだが、しかし、悪気もなく、他意もなく、只々幸せそうにチェリーを舐め転がす花京院に、とてもそうは言えなかった。


「あ、そ、そういえば、私思うんですけど。」

やめて下さいと言い放つ代わりに、江里子は話題を微妙に変えた。


「あの、悪魔のデーボと、昨日の黄色い人って、コンビを組んでたんじゃあないでしょうか?」
「『呪い』のデーボな。」

ポルナレフが、江里子の間違いをさり気なく正してから、何でそう思うんだよと訊いてきた。


「ポルナレフさんがデーボに襲われたのは、部屋に入ってすぐだったんでしょう?」
「ああ。冷蔵庫の中に隠れてやがったんだ。」
「私達が部屋に入ったのは、フロントで鍵を受け取ってすぐでした。
私達がチェックインした後、部屋の中に忍び込んで冷蔵庫の中に隠れる暇なんて、普通に考えてないでしょう?」

これは、昨日の闘いの後から、密かにずっと考えていた事だった。
どちらも倒した今となってはどうでも良い事なのだが、移動中の話のネタにでもなるんじゃないかと思い、考えていたのだ。


「仮にもっとずっと前から隠れていたとしても、どうして912号室に隠れたんですか?もし私達がその部屋を借りなかったら?」
「ほほぉ、確かに。それでは待ち伏せする意味がなくなるのう。」

一生懸命推理した甲斐があり、皆、割と興味深そうに耳を傾けてくれていた。
反応があれば、やはり嬉しくなるというもの。
江里子は次第次第に熱弁を振るい始めた。


「そうなんです。つまりあの人達は、私達の内の誰かが912号室を使うのを知っていたんです。
それも、チェックインの後で知ったんじゃあなく、チェックインする前から。
言い変えると、私達が912号室に当たるように、わざと仕向けたんです。」
「ああ・・・・・、なるほど、そういう事ですか。」

花京院が、江里子の推理をいち早く読んだようだった。


「そうです!そこで、黄色い人の出番な訳です!」
「黄色いのはラバーソールって名前だったぜ。」
「本名なんかどうでも良いんです。」

承太郎のさり気ないツッコミを軽く流し、江里子は続けた。


「問題はあの人の能力です。あの人は、他の人間に化けられました。
きっとその能力で、ホテルのフロント係の人に化けていたんです。
そうして私達を、デーボの潜んでいる部屋に割り当てたんです。
だからデーボは、部屋に着いたばかりのポルナレフさんを襲う事が出来たし、あの黄色は、私達の部屋番号を知っていて、電話を掛けてくる事が出来た!
ほら、辻褄が合うでしょう!?」
「おお、本当だ!冴えているな、エリー!」

アヴドゥルが、感心したように江里子を褒めた。


「ちなみに多分、私達の部屋の電話には盗聴器の類が仕掛けられていたんじゃあないでしょうか?
それできっと、私達の会話を盗み聞きして、私達の行動を探り、襲撃のチャンスを伺っていたんだと思います。」
「凄いじゃないか、エリー!まるで名探偵だな!ガッハハハ!」
「うふふっ、ありがとうございます。」

ジョースターにも褒められ、江里子は益々嬉しくなった。


「私、実は結構ミステリー好きなんです。」
「ヘッ、何がミステリーだ。テメェの専門は『何とか殺人事件』とかいうTVドラマだろう?お袋と一緒に煎餅齧りながらよ。」

鼻で笑う承太郎に、江里子はツンと澄まして言い返した。


「あら、馬鹿にしないで下さい?あの手のドラマには、人間の生々しい感情がギュッと詰まっているんですよ。人の愛と憎しみの縮図なんですから。」
「ヘッ、下らねぇ。何が面白ぇんだ、んなモン。」
「まあともかく、こうして皆無事で出て来られて良かったわい。」

ジョースターが、アルコールのリストを開きながら笑った。


「ひとまず、この列車がタイに着くまではする事もない。
今日は昼酒でもかっくらってゴロ寝して、鋭気を養おう。
エジプトどころか、次の目的地のインドもまだまだ遠い。休める時はしっかりと休んでおかんとな。」

ジョースターは通りがかったウェイターを呼び止めると、ワインを注文した。
程なくして出てきた赤ワインを前に、江里子は何とも複雑な気持ちになった。

酒は、キャバレーでアルバイトをしたあの日以来、飲んでいなかった。
あの時の嫌な思い出と、飲んだくれの父親の悪印象が強くて、飲みたいという欲求も、酒への好奇心も湧かなかったのだ。
高校の卒業祝いに空条夫妻が一席設けてくれた時も、夫妻は勿論、在校生の承太郎までビールを飲んでいたのに、江里子は終始オレンジジュースだった。

多分ジョースターは、江里子に酒を強要する気はないのだろう。
時々口は悪くなるし、結構いい加減なところもあるが、決して傍若無人ではない。何事においても、踏み外してはならないラインというものを正確に弁えている人なのだ。
ことに女の扱いに関しては、完璧だった。
子供だからと見くびる事もなく、江里子やアンのような未熟な少女を一人前のレディとして扱い、それでいて父親のように無条件に守ってくれている。
そんな人が、飲めない酒を飲めと強要する事は、きっと、絶対、ないだろう。

だからこそ、余計な気を遣わせるのが心苦しかった。
ジョースターは呑気な言い方をしたが、しかし、本当に気を緩めている者は、きっと一人もいない筈なのだ。
もしかしたら、今にも新たな刺客が襲い掛かってくるかも知れない。その位の警戒心は、きっと皆、心の中に秘めている。
その上で、羽を伸ばそうとしているのだ。まだ遠く手の届かぬ真の敵と闘う為、そこに辿り着く前に力尽きてしまわないように、と。
ここで『私、お酒飲めないんですけど』と言い放つのは、彼等の士気に水を差す真似のような気がした。


「よし、ひとつ乾杯でもするか!」

ジョースターがグラスを掲げた。


「君達に!」

誰からともなく、ジョースターに倣ってグラスを持ち上げた。


『ジョースターさんに!』

この旅は、喩えて言うならマラソンだ。
それも、整備されたコースではなく、未開の地の、道なき道を行くマラソンなのだ。
道のりは、果てしなく長い。山もあれば谷もあろう。
予想もつかない何かが待ち受けている事だって、きっとある。
だから、ずっと緊張しっぱなしではとても完走出来ない。
道が平坦な時は、たとえ一瞬でも、心を緩めて足を休める。全力で、心からリラックスするのだ。
でなければ、完走は出来ない。


『乾杯!!』

仲間達とグラスを触れ合せると、江里子はゆっくりと、紅い液体を喉に流し込んだ。





「んん!良いワインだ!」

一番早くグラスを空けたのは、ポルナレフだった。
彼は1杯目を飲みきると、目を丸くして歓声を上げた。


「こんな所で、このグレードの代物を味わえるなんて、思ってもみなかったぜ!」
「ワインが好きなのか?」

ポルナレフに次いでグラスを空にした承太郎は、2杯目を手酌しながらそう尋ねた。


「何言ってやがる!ワインとチーズはフランス人の心だぜ!」
「日本で言うところの、日本酒と味噌のようなものか。」

花京院が笑ってそう言った。
なるほど確かに、そんなようなものなのだろう。
遥か昔の時代から、脈々と受け継がれてきた伝統。
たかが飲み物、たかが食べ物と侮る事は出来ない。国の誇りと言っても良い物だ。


「どうした、エリー?全然減ってねぇじゃねぇか。」
「う゛・・・・・」

だが、ポルナレフにとってのそれは、江里子にとっては少し、舌に苦かった。
如何にも皆と同じように飲んでいますという顔でチビチビと舐めていたのだが、あっさりとバレてしまった。


「気に入らねぇか?」
「そ、そんな事ないですよ!とっても美味しいです!」
「無理すんなって。ワインの味は複雑なんだ。一口に赤だ白だと言っても、産地や年によって、味が全部違う。
飲む人の好みも、凄くハッキリ分かれてる。ワインってのはそういう飲み物なんだよ。」
「は、はぁ・・・・・・」

そんな高尚な次元の話ではないのだ。
自分は単なる下戸で、ワインの味の違いなんてまるで分からない。
要するにそれだけの話なのだが、しかしそう言い切ってしまうと、折角色々と教えてくれたポルナレフに悪い気がして、言い出せなかった。


「ポルナレフ、折角の講釈だが、エリーは酒が苦手なのだそうだ。」

江里子に変わってそれを口にしたのは、アヴドゥルだった。
するとポルナレフは、また目を丸くして『マジかよ!?』と叫んだ。


「す、すみません、実はマジです・・・・・・」
「エリー、無理して全部飲む必要はないぞ。君は何か好きなジュースでも・・」
「ちょっと待ってくれ!」

アヴドゥルがウェイターを呼ぼうとするのを、ポルナレフは阻んだ。


「何だポルナレフ?」
「オーケイ、分かった!ならばエリー、俺に任せてくれ!」
「??は、はぁ・・・・・・・」

何が何だか分からないが、江里子はともかく、ポルナレフに一任した。
するとポルナレフは、アヴドゥルが呼びかけたウェイターを呼び寄せ、何かを注文した。
程なくして出てきたのは、しっとりとした蜜色の白ワインだった。


「飲んでみ。」

ポルナレフに勧められるまま、江里子はおずおずとグラスに口をつけた。
そして、一口味わって、思わず目を見開いた。


「美味しい!!」

江里子の反応を見て、ポルナレフは満足そうに『だろ?』笑った。


「えっ!?これもワインですよね!?何でこんなに甘いの!?さっきのと全然違う!」
「さっきの赤は辛口なんだ。俺個人としてはあっちの方が好みなんだが、そいつは甘口だ。コトー・デュ・レイヨン。蜂蜜やフルーツや、ナッツみたいな香りがするだろう?」
「あ、ホントだ・・・・・!」

言葉で言われたせいかも知れないが、確かにそんな香りがした。
色々な種類の甘い香りが複雑かつ絶妙に絡み合って、何とも芳醇な味わいだった。


「フランスのロワール地方、レイヨン川の周辺で作られてるワインだ。その辺りは、甘口のワインの産地として有名なんだ。」
「へぇ〜っ!とても詳しいんですね、ポルナレフさん!
私も味噌は日本人の心だと思いますけど、でも、味噌の事そんなに詳しくないですよ!せいぜい赤味噌と白味噌の区別ぐらい。どこの産地のものがどんな味かなんて、全然分かんないですもん!」

江里子は心から感心して、ポルナレフを称えた。
するとポルナレフは、苦笑して肩を竦めた。


「そりゃあそうさ。フランス人だからって、皆が皆、ワインに詳しい訳じゃあない。俺はワイナリーで働いてたんだ。」
「ワイナリー?」
「ワインを作る会社だ。広大な葡萄園があって、そこで採れた葡萄を原料にワインを作り、販売する。フランスじゃあ、そういう会社が沢山あるんだ。」
「へ〜っ!じゃあ、日本で言うところの、あの・・・、ほらあれ、何でしたっけ?日本酒作る人の事・・」

江里子は日本男児二人に向かって尋ねた。すると承太郎が『杜氏だろ』と答えた。


「あ、そうそう!それ!そういう人だったんですね、ポルナレフさんって!
いつからそのお仕事をされていたんですか?」
「義務教育が終わってすぐだから・・・・、15、6の頃からか。」

ポルナレフはふと、遠い目をした。


「うちは母親を早くに亡くして、親父も船乗りで家には滅多に帰らなくて、妹と二人だったからな。うちで稼げるのは、俺しかいなかったんだ。
親父から金は送られてきていたけど、会社の給料みたいにきっちり決まった日にくれる訳でもねぇし、金額も、食っていくのが精一杯って程度だった。けど、妹を学校に行かせてやりたくてな。」
「学校?」
「アイツ、絵の才能があったんだよ。小せぇ頃から何回も賞を貰ってたし、パリの大きな絵のコンクールで入賞した事もあった!
うちはプロヴァンス地方の田舎町でさ、パリのコンクールに出展して賞を取るなんて、本当に凄ぇ事だったんだよ!その展覧会を観に行って来いって、近所の奴等が旅費をカンパしてくれる位にさ!」

それを語るポルナレフの顔は、この短い付き合いの中で見てきたどの顔よりも誇らしげに見えた。


「だから、どうしてもパリの美術学校で本格的に勉強させてやりたくてな。
その為には、親父からの仕送りだけじゃあとても足りなかったから、俺は義務教育を終えるとすぐ働く事にしたんだ。
ほら、俺の取り柄は、このハンサムな顔とパーフェクトなボディと温厚な性格と、超強くて超イカしたスタンドだろ!?
どれもこれも天性のもんっつーの?学校で勉強してどうこうするもんじゃあなかったからよ!」

冗談めかした軽口は、しかし、彼の事情を知る江里子達には、もの哀しく聞こえた。


「・・・だから・・・・・、アイツには、もっともっと描いて欲しかった。
好きな事に、とことん打ち込んで欲しかった・・・・・。」

江里子は、香港から乗ったクルーザーの中で話した事を思い出していた。
17歳の時、彼はガールフレンドと遊ぶ事しか考えていなかったと言っていた。
それはやはり単なるジョークだったのだろう。
いや、多分ガールフレンドと遊ぶのは遊んでいたのだろうし、もしかしたら派手にとっかえひっかえしていたかも知れないが、彼の心の中にいつでも一番大きく存在していたのは、妹のシェリーだった。
彼の人生はきっと、彼女の為にあった。犠牲になったのではなく、それが彼自身の希望だった。江里子には、そう思えてならなかった。
それを奪われた、そして、奪った奴が今日明日にでも襲ってくるかも知れないという状況になった今、彼の胸中は。


「っ・・・・・・・!」

居た堪れなくて、江里子は甘いワインを一息に飲み干した。蜜のように濃厚なその味は、行き場を失くした愛のように、甘く燻って胸を焦がした。


「ふぅっ・・・・・!」
「お!エリー、良い飲みっぷりじゃあねーか!気に入ったか?」
「とっても!ポルナレフさん、お替り!」
「ウィ、マドモアゼル!お前らも味見してみろよ、ほらほら!」

江里子や承太郎達にワインを勧めるポルナレフは、いつもと同じように、あっけらかんと笑っていた。
















30分後。


「江里子さん、しっかりして下さい、ほら、行きますよ・・・・」
「うぅん・・・・・・」

僅かグラス2杯の甘いワインで酔っぱらった江里子は、とうとうグラスを取り上げられ、客室に帰される事になった。
そして、花京院の肩を借りてヨロヨロと歩きながら、移動を始めた。


「すみません、花京院さん・・・・。飲み会の途中で中座させちゃって・・・・」
「良いんですよ。僕も未成年ですからね。お酒はこれ位でもう十分です。」

昼酒の宴会はまだ始まったばかりで、幾ら何でもお開きにするには早すぎた。
男連中は皆酒に強く、江里子が弱すぎたのだ。
だが、江里子一人で客室に帰すのは色んな意味で危険だからという事で、花京院が送り役を買って出てくれたのである。


「大丈夫ですか?」
「はい・・・・・・ん・・・・・?」

ぼーっとしながら歩いていると、ふと視界の隅にアンの姿が見えた気がして、江里子は後ろを振り返った。


「どうしました、江里子さん?」
「うん・・・・・・・・、いえ、何でもないです・・・・・・」

まさか。
いや、きっと見間違いだ。
こんな所に、あの娘がいる筈がないのだから。
良い感じに酔いが回って眠くて仕方がないせいもあり、江里子はそれ以上深く考えずにまた前を向き、ヨロヨロと歩き始めた。


「江里子さん、着きましたよ。ほら、ベッドです。」
「うぅ・・・・・、はい・・・・・・・・」
「さあ、横になって。ほら。」
「あぁ・・・・・・・!」

客室に到着すると、江里子は花京院の助けを借りて、寝台の上にゴロリと転がった。
寝台は固くて少し狭かったが、眠くて仕方のない今は、全く気にならなかった。


「はい、毛布。」
「ぁい・・・・・・・」

花京院は、すっかりダウンしている江里子の上に毛布を掛けながら苦笑した。


「ふふ、口当たりの良さにすっかり騙されてしまいましたね。確かに美味しかったですけど。」
「うぅ〜ん・・・・・・・・」
「気分は悪くないですか?」
「らいじょぶれす・・・・・・」

もはや舌の回っていない江里子の様子に、花京院はまた苦笑した。


「僕は隣の部屋にいますから、何かあったら呼んで下さい。」
「ありがと・・・・ざいます・・・・・・・」
「では。」

花京院は踵を返し、部屋を出て行きかけた。


「花京院さん・・・・・・」
「はい?」

それを呼び止めたのは、何故だったのだろうか。自分でもよく分からなかった。
ただ、何故だか無性に寂しかったのだ。
最愛の妹を亡くしたポルナレフの孤独が、日本で一人、病気と闘っているホリィの孤独が、全部自分に重なって、寂しくて堪らなかった。
しかし、これこそが『酔っ払いの戯言』というものなのかも知れない。
うまく説明の出来ないこの漠然とした寂しさを、僅か1歳差とはいえ、年下の花京院に対して子供みたいに訴える事は、恥ずかしくて出来なかった。


「・・・ありがとう、ございました・・・。お世話かけて、すみません・・・・」
「良いんですよ、そんな事。」

優しい微笑みを残して花京院が出て行った後、江里子はひっそりとその寂しさを噛みしめながら、一人、まどろみの中に落ちていった。




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