愛願人形 11




クリスマスが済むと、次はいきなり正月ムードになるのが日本の不思議なところだ。
まるで早着替えのように様変わりする町を見て、ああ次は正月だと思うのが毎年の常だったのだが、今年は外に出ていないからか、その感覚がまるで無かった。
家を出て来てからはや1週間、親や学校の教師・同級生達に見つかるとまずいから外へは出るなという形兆の言いつけを、は守り続けていた。
最初は内心で少し不安を感じていたが、実際にやってみると意外と苦ではなかった。
多少退屈ではあるが、やる事は何なりとあるし、特に億泰の相手をしている時は、勉強にしろ遊びにしろ、結構な暇が潰れる。
家の中も好きなように使って良いと言われていて、不自由はなかった。
虹村兄弟の父親の面倒も、すっかり慣れたとは言えないが、幾らかは慣れてきていた。

『紹介』されてから以降、虹村兄弟の父親は監禁を解かれ、家の中を自由に行き来出来るようになっていた。トイレの世話が大変だから一応はそれが通常で、必要がある時だけ部屋に閉じ込めるのだと、形兆は言っていた。
その言葉通り、彼は時々フラッと現れては、トイレへ入って行く。
そして、用が済むと、またさっさと自分の部屋へ戻って行く。
鎖を外されている状態でも、彼がトイレ以外で自発的に部屋を出てくる事は無かった。
外には勿論出さないし、風呂は数日に一度の割合で形兆が入れているらしく、彼の世話と言えば実質、3度の食事を部屋まで運んでやる事だった。

彼は食欲が非常に旺盛で、腹が減れば大声で呻いたり、食事を出す度に飛び掛からんばかりの勢いで手を伸ばしてくる。
正直なところ、それがとてつもなく怖いのだが、兄弟のどちらかが手伝ってくれるので、何とかこなす事が出来ていた。
それに、恐怖を催させるその外見や声の割に、彼は意外な程大人しかった。
噛み付いたり殴りかかってきたりするような事は勿論、警戒したり威嚇するような素振りも見せなかった。の事を受け入れているというよりは、形兆の言っていた通り、分かっていないという様子だった。
彼の目に映るのは、食べ物と、部屋の片隅に置かれた赤茶けた大きな木箱だけで、それ以外の物には興味を示さなかった。

それを幸い、とするのは少し気が咎めたが、も虹村兄弟に倣って、彼には必要最低限以外近付かないようにしていた。
話しかけたって会話が出来る訳でもなく、意思の疎通が図れる訳でもない。
何したって無駄だから、しなきゃいけない世話以外はほっとけば良いという形兆の言葉に従う体で、は彼との接触をなるべく避けていた。
頭では分かっている。
彼は虹村兄弟の父親で、今の自分は、彼が昔稼いで蓄えた金で生活をさせて貰っているのだと。
普通ならば、避けるどころか頭が上がらない相手なのだと。
しかし、分かってはいても、やはり積極的に近付きたいとは思えなかった。
兄弟の方も、そんなに対して何か言う事も無かった。


と父親を引き合わせてから以降、形兆は毎日朝から晩まで出掛けていた。
行先は東京、目的は例の『調査』である。
わざわざ東京にある大学の図書館まで行くのはその為だったのだと分かった時、は自分の単純さが可笑しくて笑ってしまった。
たかだか中学の勉強をしにそんな所まで行く必要があるかどうか、少し考えてみれば分かる事なのに、今まで少しも疑問に思っていなかった自分が、億泰と同じ小学生レベルで単純だと可笑しくなってしまったのだ。
笑うを見て、形兆は少し気まずそうな顔を見せたが、は形兆に騙されたとは思わなかった。勿論、責める気も更々無かった。

隠し立てする必要も無くなった今、冬休みである事も手伝って、形兆はひたすら調査に没頭していた。
ついこの間までは毎日のように求められ、甘い夜を過ごしていたのに、このところは触れ合うどころかろくに会話もしていない。
その事に関しては、内心寂しいと思わないではなかった。
だが、自分から誘う勇気などとても持てなかったし、何より、取り憑かれたように調査に没頭している形兆に、甘ったれた我儘を言う事は出来なかった。
遅くに帰って来てからも、夕食もそこそこにまた机に向かう形兆は、真剣を通り越して切羽詰まったような、鬼気迫る表情をしていた。
それなのに、邪魔をするような事など、どうして言えようか。
形兆が求めているのは、甘い語らいや肌の触れ合いではなく、心おきなく調査に集中出来る環境なのだ。弟や父親の事を気にせず、家の中の雑多な用事に手を取られる事なく、調査だけに集中出来る時間なのだ。
それを与えてあげるのが今の形兆に向けるべき愛情表現なのだと思うと、自分の中の甘ったれた寂しさは、抑えるしかなかった。

先の事など、何も見えなかった。
虹村兄弟の未来も、自身の未来も、何もかもが今は闇に閉ざされていた。
でも、必ず明ける時が来る。はそう信じていた。
だからそれまでは、自分の事は考えるまいと決めた。
いつの日か、形兆が自分の人生を始める時まで。
その時まで。












ふと気付いて時計を見ると、真夜中を過ぎていた。
少し休憩するかと、形兆は立ち上がって大きく腕を伸ばし、首を回した。
流石に根を詰めすぎているだろうか、肩が凝っている。
だが、その甲斐あって、調査はまずまず順調に進んでいた。
答えに辿り着けないのは相変わらずだが、スピードワゴン財団とジョセフ・ジョースターの事が色々と分かってきたのだ。
スピードワゴン財団の創設者とジョセフ・ジョースターの祖父は大層深い親交があり、生涯独身を貫いたスピードワゴン氏と、ジョセフ・ジョースターは、実の祖父と孫のような関係であった事。
スピードワゴン氏の死後も、財団はジョセフ・ジョースターを全面的にバックアップしており、彼が不動産王として大成するのに大きな貢献を果たしていた事。
アメリカ経済界の大物となったジョセフ・ジョースターは、スピードワゴン財団の特別顧問という地位に就いた事。
そして、ジョセフ・ジョースターの一人娘が、どうやら日本人と結婚して、日本に住んでいるらしい事も。
特に、娘の情報は大きな収穫だった。
アメリカにはそうそう簡単に行けないが、日本国内ならば何処へだって行ける。
居所さえ突き止めれば、訪ねて行ってその娘から直接話を聞く事が出来るのだ。
その人ならば、もしかしたら、エジプトの事件の事なども何か知っているかも知れない。
密かな期待を抱きながら、形兆は自室を出て下に下りた。
すると、居間の電気が点いていて、がこたつで何か書き物をしていた。


「・・・まだ起きてたのか。」

声を掛けると、は顔を上げて微笑んだ。


「・・・形兆君こそ。もう12時過ぎてるよ。朝起きられなくなるんじゃない?」
「別に良いんだよ。明日から正月休みで図書館閉まるんだ。」

折角順調に進んでいたが、調査は一旦ここで終了だった。
ジョースターの娘について早く調査を始めていきたいのは山々だが、この数日で集めた資料もまだ全部解読した訳ではないし、冬休みの宿題もある。正月が明けるまでは、休憩も兼ねて家でゆっくり過ごすつもりでいた。


「ああ、そっか。じゃあ久しぶりにゆっくり寝られるね。」

は笑ってこたつから出てきて、形兆に『お茶でも飲む?』と尋ねた。
ああ、と返事をすると、はダイニングに入って行った。


「何してたんだ?」

後について自分もダイニングに入った形兆は、の背中にそう問いかけた。


「ん〜?うん、ちょっとね・・・、冬休みの宿題を。一応やっとこうかなと思って。」
「・・・・・そうか」

の口調には、僅かな遠慮があるように感じた。
多分、外へ出るなと指示をしているからだろう。
そういえば、冬休みが明けた後の事はまだ何も指示をしていないが、はどう思っているだろうか。
華奢な背中を見つめながら、形兆はの胸中を慮った。


「・・・・・・・」

学校へ行きたいと思っているだろうか?
いい加減に外へ出たいと思っているだろうか?
家に帰りたいと、思っているだろうか?


「形兆君は?」
「・・・あ?」

から訊き返されて、形兆は我に返った。


「調査。捗ってる?」
「ああ・・・、まあまあってとこだな。」
「そっか。」

急須にコポコポと湯が注がれ、お茶の香ばしい香りがふわりと立ち込めた。


「・・・親父、大人しくしてたか?」
「うん。いつも通りだったよ。」
「億泰は?」
「うん、いつも通り。あ、宿題のプリントねぇ、今日で終わったよ。あとは書き初めだけ。」
「・・・・そうか・・・・・」
「はい、お茶。」
「ああ・・・・・」

が来てからのこの1週間は、今までにない程快適な暮らしだった。
料理も、洗濯も、掃除も、洗い物もしなくて良い。
億泰の宿題も、あの化け物の食べ散らかした跡も、いつの間にか片付いている。
こんなに快適な生活は、母親が健在だった頃以来だった。


「・・・・お前には・・・・・」

感謝している。
そう言いかけて、形兆は言葉を切った。


「何?」
「・・・いや・・・・」

そんな事を言ってはいけなかった。
の身も心も、全てを利用し尽くそうとしておきながら感謝だなんて、そんな言葉を口にする資格は無かった。


「そ・・・、そういやお前には何もやってねぇなと思ってよ。」
「何もって?」
「いや、だから、その・・・・、俺は誕生日プレゼント貰ってんのによ、こないだのクリスマスに何もやらなかったから・・・・」

クリスマスのプレゼントも、幸せが壊れた頃から無くなった習慣だった。
だから、その感覚でにも何も渡さなかったのだが、日が経つにつれてそれが気になるようになっていた。


「ああ・・・・、ふふっ、何だそんな事。そんなの気にしないでよ。」
「お前、誕生日いつなんだよ?」
「私?3月30日だよ。」

一緒に暮らすまでの仲になっておきながら誕生日は知らなかったなんて、おかしな話だった。億泰ですらとっくに知っているであろう事なのに。


「でも、本当に気にしないでね。気持ちだけで十分嬉しいから。」

は恥ずかしそうに笑って、そそくさと茶筒を片付けた。


「さ、そろそろ寝よっかな。形兆君もあんまり根詰めないでね。」
「ああ。」
「湯呑も急須も置いといてね。明日私が洗うから。おやすみなさい。」

は小さく手を振って、1階へ下りて行った。


― 何今更誕生日なんて訊いてんだ、俺は・・・・

そんな事を訊いて、どうするというのか。
プレゼントを贈っての喜ぶ顔を見て、どうしたいというのか。
の心も身体も自分のものにして利用しようとしておきながら、まだ心底諦めきれてはいないなんて、我ながら馬鹿みたいだった。














それから間もなくして、新しい年が明けた。
生まれて初めて、母親の側を離れて迎えた正月だった。
ほんの数ヶ月前までは、来年はいよいよ高校受験だと当たり前のように思っていたが、今のには、この一年がどんな年になるのか、何の予測も、何の想像も出来なかった。
ただ一つ思い浮かぶのは、大海原を小舟で漂う自分の姿だった。
虹村兄弟と共に、頼りない手漕ぎの小舟で果てしない海を行こうとしている無謀なイメージ、それのみだった。


「・・・・ん?」

それが起きたのは、年が明けたばかりの、ある夜の事だった。
夕食を終えて、今日の一番風呂は形兆だった。
億泰は居間でTVを見ていて、は台所で洗い物をしていた。
何の変哲もない、至っていつも通りの夜だった。


「あれ・・・・?」

だが突然、奇妙な音がの耳に届いた。
最初は空耳か、億泰の見ているTVの音かと思ったが、そうではなかった。
水を止め、じっと耳を澄ましてみると、TVの音とは異なる音が、確かに聞こえてきていた。
いや、音というよりは声、声というよりは唸りと言おうか。とにかく奇妙だった。
気になったは、居間にいる億泰に声を掛けた。


「ねぇ億泰君。何か聞こえない?」
「え〜?何かって?」
「何か変な・・・音?っていうか、声っていうか・・・・」

その瞬間、声が一段大きくなった。
もうはっきりと聞こえるそれは、3階から聞こえてきていた。
億泰も気付いたらしく、少し怯えたような顔になった。


「あれ、お父さん、だよね・・・・?」

声の発生源が3階だと判れば、別に不思議は無かった。
気になるのは、今まで聞いた事のない種類の声だという事だった。


「何か・・・・、様子がおかしくない・・・?どしたんだろ・・・?」

腹を空かせた時の声ではない。
形兆に怒られて殴られている時の悲鳴でもない。


「ちょ、ちょっと、様子見に行ってくるね・・・・」

正直、気は進まないが、は3階へ行こうと階段を上がりかけた。
その時。


「ヴオォォォ・・・・!」

身の毛もよだつような唸り声が階段を這い下りて来るように聞こえてきて、は思わず足を止めた。


「な、何・・・?今の・・・・」

は恐怖に強張りながら、億泰を見た。
億泰も、と同じように竦んで立ち尽くしていた。
しかしその表情は、何も知らないという感じではなかった。


「お、億泰、君・・・・?」
「ヌオォォォ・・・!!オォォォゥゥゥ・・・!!」
「っ・・・・・!」

億泰は、父親のこの声に、明らかに覚えがある様子だった。


「い・・・・行かなくて良いよネーちゃん・・・・」
「で、でも・・・・」
「あ、あの声の時は・・・・、行っちゃいけねーんだ・・・・。
あ、アニキがいつも、来るんじゃねーぞって・・・・」
「ど、どういう事・・・?いつもって、よくある事なの・・・?」
「わ、分かんねぇ・・・・。と、とにかく、オレらは行かなくて良いんだよ・・・。勝手に見に行ったりしたら、アニキに怒られちまうから・・・・」

億泰は唇を微かに震わせながらそう呟くと、耳を塞ぐ代わりのようにTVの音量を上げた。何か知っている風だが、どうも答えたくないようだった。
そうこうしている間にも、3階からは尋常じゃない唸り声が絶え間なく聞こえてきている。は束の間悩んでから、風呂場に形兆を呼びに行った。


「形兆君、ちょっと良い?」

戸を軽く叩いて呼びかけると、すぐに内側から戸が開いた。


「何だ、どうした?」

湯船に浸かったまま、形兆が少しだけ顔を出した。
風呂場を覗くような真似をするのは恥ずかしかったのだが、そんな事を言っている場合ではなかった。


「あの、お父さんの様子が変なの。」
「あぁ?変ってどういう風にだよ?」
「何か、変な声がするの・・・。何か、凄い怖い感じの、唸り声、みたいな・・・・」
「・・・・・・」

形兆は一瞬、顔を強張らせた。


「様子、見てこようか・・・・?億泰君は行かなくて良いって言うんだけど、何か、只事じゃない感じだから・・・・」
「・・・いや」

形兆は微かに首を振った。
一瞬垣間見せた不穏な緊張感も、もう既に消えていた。


「俺が見に行く。もう出るところだから、少し待っててくれ。」
「う、ん・・・・」
「心配は要らねぇ。ちょっとうるせぇが、気にしねぇでほっといてくれ。」
「・・・・分かった・・・・・」

こう言われては引き下がるしかなく、は台所へ戻り、洗い物を再開した。
しかしその間も彼の唸り声は絶える事なく、むしろ益々大きく、狂おしくなっていく一方だった。














「・・・・・やっぱりな。」

案の定、発情していた父の姿を蔑みの目で見下ろして、形兆は深い溜息を吐いた。


「ヴァォォォ・・・・!オォォォォゥゥ・・・・!!」
「うるせぇ。デケぇ声で叫ぶんじゃねーよクソが。」

形兆はいつもの通りに父の口を塞ぎ、雑誌を出してやった。
しかし今回、父は最初から興味を示さず、目もくれなかった。


「・・・・やっぱりか・・・・」

もう雑誌は役に立たないと判断せざるを得なかった。
これは、成長していく子供が、幼い頃の玩具に飽きていくようなものだろうか?
つまりは、この化け物に元の知能が戻りつつあるという事なのだろうか?
考えてみれば、化け物に変貌した当初から比べてみると、ここ数年は幾らか世話が楽になってきている。
最初は垂れ流しだった糞尿も、根気強く躾けたらトイレで排泄出来るようになったし、発情と木箱を漁っている時以外は、大人しく命令に従うようにもなってきた。


「・・・・まさか、な・・・・」

一瞬ふと頭を過ぎったポジティブな発想を、形兆はすぐに自嘲した。
昔より幾らかマシになってきたとはいえ、化け物は相変わらず化け物のままだ。
何年経っても猿のように手掴みで物を食べ、言葉も発さない。
ブタのように呻くばかりで、泣きも笑いも、怒りもしない。
話だって何も通じない。言う事を聞かせるには、依然として罵倒と暴力が必要だ。
発情時の様子が変わってきたからといって、イコール知能の回復と見なすのは、都合の良い短絡的思考というやつだった。


「・・・・親父、もう少しだ。もう少し辛抱してろよ・・・・」

形兆は、父親の首輪に鎖を繋いだ。
いよいよこの時が来た。
形兆は腹を括り、2階へと下りた。
は居間でTVを見ていたが、ただ眺めていただけだったようで、形兆が階段を下りるや否や、落ち着かない様子でこたつから抜け出してきた。


「ど、どうだった?お父さん、大丈夫なの?」
「ああ。まぁな。」
「そう、良かった・・・・。」

この女は、何処までお人好しなのだろう。
あんなおぞましい化け物の世話なんて、普通、強制されたって出来やしないのに。


「・・・。ちょっとお前に頼みたい事があるんだ。」
「うん、何?」

こんな利己的で残酷な男の事を、どうしてここまで手放しに信じられるのだろう。
一片の疑念も見当たらないの素直な顔を見つめながら、形兆はそんな事を考えていた。
だが、このひたむきすぎる想いも、流石に今度こそ壊れてしまうだろう。まっすぐで強いこの愛情はきっと、それ以上の強さの恐怖や、憎しみや、恨みに変わる。
いや、それで済めばまだ良い。
万が一、逃げ出されてこの家の内情を外部に洩らされるような恐れがある時は、その時は。


「・・・ついて来てくれ。」
「うん。」

を、この手で殺す。
その密かな覚悟を、形兆は完璧に隠した。














大丈夫だと形兆は言ったが、本当に大丈夫なのだろうか。
しかし、そう口に出して訊く事は出来なかった。
一歩前を行く形兆の背中が、それを禁じているように見えて。
それに、彼が持ってきた板蒟蒻も奇妙だった。
真ん中に包丁で切り目を入れただけの、調理もしていない蒟蒻なんて、何にするのだろうか。食事やおやつは皆と同じ物を与えていて、生のままの蒟蒻なんて食べさせた事は一度もないのに。
訊くに訊けない空気の中、は黙ったまま、形兆の後について彼の父親の部屋に入った。


「フォォォォゥ・・・・!!ォォォォゥ・・・・!!」

豆球の薄暗いオレンジ色の灯りが照らし出す彼の姿を見て、は息を呑んだ。


「ゥォォォォ・・・・!!」

猿轡を噛まされ、鎖で壁に繋がれた彼は、股間から生えているものを手で擦っていた。
それはイボだらけで、ゾッとする程太くて長くて、グロテスクな器官だった。
形兆のそれも、初めてまともに見た時は内心で怖いと思ってしまったが、それとは全く次元が違っていた。


「ヌ゛ォォォォォォゥゥッ・・・!!」
「きゃあっ・・・・!」

それが突然、勢い良く大量の粘液を噴出した。一部が足に掛かりそうな程近くに飛んで来て、は思わず悲鳴を上げて後退った。


「・・・・け・・・形兆君・・・・」

弾みでよろけたを、形兆が抱き止めた。


「いきなりイヤなもん見せちまって、すまねぇな。」

形兆は抑揚のない声で、淡々とそう呟いた。


「け、形兆君・・・、あれ・・・何・・・・?」
「見ての通りさ。親父は今、発情してるんだ。」
「発・・・情・・・・?」

底知れぬ恐怖に、身体の芯が震えていた。


「大体月イチ位でなるんだ。一旦こうなっちまうと、治まるまで何日かずっとこの調子でな。眠りもせず、飯も食わねぇで、ずっとこうしてる。さっきみたいな耳障りな大声で唸りながら、ずっとだぜ。
うるせぇし気持ち悪ぃし、何とか止めさせようとはしたんだがよ。どれだけ殴ろうが蹴ろうが、どうしたって止めやしねぇ。
だから仕方なしに、手助けしてやってるんだよ。少しでも早く満足させて、終わらせる為にな。」
「・・・手助・・け・・・・?」
「ああ。こうやってな。・・・・親父、ほらよ。」

形兆はおもむろに蒟蒻を父親の股間に宛がった。
すると、切り目を通ったその先端が、ヌルリと突き出した。
膨れ上がった頭の部分が全部出たかと思うと、あっという間に全体が突き抜け、ヌチャヌチャと粘ついた音を立てながら出入りを始めた。
その生々しさ、そのおぞましさに、思わず吐き気を催したは、反射的に口を手で覆った。形兆に失礼ではないかと気を遣う余裕は、全く無かった。


「・・・・ああやって蒟蒻に切り目入れて擦るとよ、女のナカに入れんのと似た感じがするんだとよ。」

一切の恥じらいも躊躇いもなく自慰に耽る父親の姿を冷めた目で眺めながら、形兆はそう言った。


「・・・だんだん様子が変わってきてるんだ。
エロ本だけで何とかなってたのが、同じ本じゃ飽きるようになってきて、飽きるのがだんだん早くなってきて、ここ最近は本だけじゃ満足しきれねぇみたいで、一層耳障りな声で喚くようになってきた。
だから、こんなモンまで使うようになっちまったって訳だ。
だが、これもいつまでもつかは分からねぇ。発情の周期自体も短くなってきたしな。」

遠回しな言い方は、却って恐怖を煽った。
ひと思いにとどめを刺してくれた方が、まだ楽になる。
は吐き気を堪えながら、形兆の顔を見上げた。


「・・・・それで・・・・、私に頼みたい事って・・・何・・・・?」

形兆はすぐには答えなかった。
それはもう、この最悪の予感が当たっているという何よりの証拠だった。


「はっきり言って・・・・!」

腕を掴んで詰め寄ると、形兆はようやく口を開いた。


「・・・・親父の相手を、してやって欲しい。」

見つめ返してくる形兆の眼差しは、まっすぐで、強かった。
冗談や興味本位で言っているのではないと、すぐに分かった。
その真剣な目をこれ以上見たくなくて瞼を固く閉じると、涙が零れ落ちた。


「・・・何も本当にセックスしてくれっていうんじゃねぇ・・・」

俯いたの頭上に、ボソボソした形兆の声が降ってきた。


「疑似で良いんだ。本当にヤらせる必要はねぇ。それじゃあまりに危険だからな。
ただ、コイツが女抱いてる気分になれるように、協力してやって欲しいんだ。」

この人は何で、こんな事を言うのだろう。
こんなに哀しそうな声で、こんな残酷な事を言うのだろう。


「・・・・・訊いても・・・・・良い・・・・・・?」
「・・・・・何だよ?」
「どうして・・・・・、そこまでするの・・・・・?
いっぱい、殴られて・・・・、いっぱい、いっぱい、傷付けられたのに・・・・、形兆君はどうしてそんなに、お父さんの事・・・・」

親は親、子供は子供、自分を押し殺して我慢する事などないと言ったのは形兆自身なのに、彼は何故、こんなにも自分を犠牲にするのだろう。
自分の何もかもを犠牲にして、親の為、家族の為に生きようとするのだろう。


「・・・ああ、そうだな・・・。何でだろうな・・・・」

彼の抱えるその矛盾が、堪らなく哀しかった。


「100万回ぶっ殺したって飽き足りねぇ奴なのによ、何で俺がこんな事までしてやんなきゃいけねぇんだろうな・・・・・」

遠い目で父親を眺めながら、形兆は小さな声で呟いた。


「でもな、それでもコイツは、俺の父親なんだよ・・・・・。
今はこんな気持ち悪ぃバケモンで、昔は最低最悪のクソカスだったけどよ、その前は・・・、その前は・・・・、普通の、優しい父親だった・・・・。
カネ・カネって、金に狂っていったのも、つまるところは俺達家族の為だった・・・・。
日に日にバケモンになっていく中で、必死に色々と準備していたのは、孤児同然になる俺と億泰の為だった・・・・」

その目には、その顔には、紛れもなく深い情が宿っていた。


「だから俺は、俺の為だけじゃなくコイツの為にも、どうしてもコイツをきっちり殺してやりてぇんだよ。放り出して知らん顔するんじゃなくて、ちゃんと息の根を止めて、お袋の所へ行かせてやりてぇんだ。
お袋もきっと待ってる。こんな最低な野郎だがよ、お袋は最期まで、コイツを想ってたからな・・・・。」

形兆の中に、彼の家族はまだ生きている。
物心がつく前だった億泰とは違って、形兆の中には沢山の家族の記憶が残されていて、それが今もまだ生きている。
だから彼は、こんなに必死なのだ。愛情か、憎しみか、そのどちらかだけで片がつかない気持ちだから、こんなにも苦しむのだ。
母・和代の顔を思い出しながら、はそう思った。


「お袋は死ぬ直前、俺に親父宛ての遺書を託した。
俺はそれを親父に渡さなかった。葬式にも出なかったような外道に渡す位なら捨ててやろうと思ったんだ。
けど、どうしても出来なくて、目につかない所にしまい込んで忘れる事にした。
それを見つけたのは、ここへ引っ越して来る事になって、荷造りしてた時だった。
手紙の中でお袋は、最期の最期まで親父に感謝していた。
親父は、手術も出来ねぇ、既存の薬も効かねぇお袋の為に、当時開発されたばかりの新薬を使ってくれと医者に頼んでいたらしい。
でもそれは、とんでもなく高価な薬だったみてぇでな。お袋はそれを遠慮して、残される俺達3人の先々の事ばかりを心配していた。」

それを最後に、形兆はプツリと黙り込んだ。
そっと様子を窺うと、唇が微かに震えていた。


「・・・・遅ぇんだよ・・・・」

泣いているのかと思ったが、形兆は笑っていた。
諦めたような、力のない哀しい笑みを口元に湛えて、声を出さずに笑っていた。


「お袋がその手紙を書いてた頃にはよぉ、親父はもうとっくに、金の為に魂を売っ払ってたっつーのによぉ・・・・・。何にも知らずに只々心配して、感謝して、俺に、親父を恨まないでやってくれなんて言ってよぉ・・・・・・」

形兆の背負っているものは、14歳の少年が独りで背負いきれるようなものではない。大人だってきっと無理だろう。
だから、利用できるものは何でも利用しないとやっていけないのだ。
そのひとつが自分であるというのなら、そうならば、どう思う?
は自分の心の内に、そう問いかけた。


「・・・・もうひとつ・・・・訊かせて・・・・」
「・・・・・何だよ」
「正直に答えてね。私の事・・・」

は、形兆の目をじっと、まっすぐに見つめた。


「私の事・・・・、本当に・・・・」

形兆の心の内を、そして自分の心の内を、覗き込んだ。


「本当に・・・・役に立つと思ってる・・・・?」
「・・・・あ・・・・?」
「私がここにいて、形兆君の言う事を聞いてたら・・・、本当に、形兆君の役に立ってる・・・・?」

がそう問いかけると、形兆は一瞬、想定外のように唖然とした。
だが、すぐに元の表情に戻り、小さく頷いた。


「・・・ああ・・・・」
「・・・だったら、良いよ・・・。」

は、哀しい顔をしている形兆に微笑みかけた。
たとえ髪の毛1本に至るまで利用されるとしても、それでも良い。
形兆を嫌いになる事は、彼と離れる事は、どうしても考えられなかった。


「でも、その・・・、どうすれば良いの・・・・?
疑似・・って言われても・・・、私、どうしたら良いのか・・・」
「・・・・後で・・・・教える。億泰が寝たら部屋に行くから、待ってろ。」
「・・・・うん・・・・」

恐怖と羞恥に震えそうになるのを形兆に気付かれないようにしながら、は小さく頷いた。

















形兆は安堵していた。が、内心はどうであれ、割とすんなり理解を示して受け入れてくれた事に、勿論安堵していた。
自分の手で殺さずに済んだのだから、当然だった。
しかし、それだけでは割り切れない感情が、さっきから心の片隅ジリジリと焦がしている。耐えられない程痛い訳ではないが、ジリジリ、ジリジリと焦がされ続けて、何かの拍子に爆発してしまいそうな感じがする。
それを抑えて、形兆はの部屋にしている1階の事務所のドアをノックした。
ドアはすぐに開き、中からが顔を出した。
起きて待っていたのだろう、目はしっかりと開いていて、緊張に強張った微笑みが顔に張り付いていた。
形兆は中に入ると、ドアの鍵をかけた。
その微かな音に、は目に見えて身を固くした。
新しい蛍光灯を取り付けたばかりの室内は煌々と明るく、の引き攣った表情がはっきりと見て取れた。こんな風に怯えられると何だか悪い事をしているようで(いや、実際しようとしているのだが)、居た堪れなかった。


「・・・んなビビんなよ・・・」

形兆は大きな溜息を吐いて、を軽く睨んだ。


「べ、別にビビってないよ・・・。」

はさっき以上にギクシャクした笑顔になった。


「・・・・・・」
「・・・・・・」

気まずい空気が、二人の間に流れた。
そういえば、が家を出てきてからというもの、セックスどころかキスもしていなかった事を、形兆は今更ながらに思い出した。


「・・・・・・・・」

前は何も身構えなくても自然にそういう雰囲気にもっていけたのに、今は不思議と、肩を抱く事すら躊躇ってしまう。
あんな事を頼んでおきながら今更彼氏面なんて、とても出来なかった。
かと言って、有無を言わせず強引に事を進めていくなんて、もっと出来ない。


「・・・・あの・・・・、変な事・・・、訊いても良い・・・?」

どうしたものかと内心で困っていると、の方から先に口を開いた。


「・・・何だよ?」
「形兆君って、もしかして・・・、今まで女の子と付き合った事・・ある・・・?」
「・・・・・・は?」

形兆が眉を潜めると、はまたぎこちなく笑った。


「何でそんな事訊くんだよ?」
「だって何か・・・・、慣れてる感じがしたから・・・・」
「慣れてるって、何が?」
「えと、あの・・・、その・・・、色々・・・、知ってるみたいというか・・・・」

何だかやけにぼかされていて分かり難かったが、少しすると、が何の事を言っているのか見当がついた。


「形兆君、モテるもんね・・・。クラスの女子も皆結構憧れてるみたいだし、前の学校でもきっと同じだったんでしょ?
だから、よく考えたら、彼女いた事あったのかなぁって・・・。
だからその、色々、知ってる、の、かなぁ、って・・・・」

形兆は、深々とした溜息を吐いた。


「・・・・もう何遍も言ってるが、俺は他人とは極力関わらねぇようにしてるんだ。野郎のツレも作ってねぇのに、女と付き合った事がある訳ねぇだろ。」
「・・・ほ・・・、ホント・・・?」
「本当だよ。大体、別に色々なんか知らねぇし。全部エロ本の受け売りだよ。言わすなこんな恥ずかしい事。」

ヤケクソ気味にそう白状すると、は小さく吹き出した。
さっきまでの作った微笑みではなく、ごく自然な笑顔になって。


「ふふっ・・・、ふふふっ・・・」
「・・・何笑ってんだよ・・・」
「だって・・・、ふふっ・・・」

はクスクスと軽やかな笑い声を洩らしながら、その細い指先を形兆の顔に伸ばしてきた。


「眉間の皺、凄い。今まで見た中で最高記録。」
「・・・るせぇ」

眉間を揉む人差し指の感触が擽ったかった。
だが、払い除ける事はしたくなくて、そのまま、されるがままになっていた。
面白そうに眉間の皺を揉んだり伸ばしたりしているの無邪気な笑い声を、もう少しだけ、聞いていたくて。


「・・・・・」

やがて、の笑い声が止んだ。
目の前のか細い手首を掴んでそっと退けると、泣きそうなの顔があった。
その顔を見た瞬間、形兆は自分達の関係の歪さを目の当たりにした気がして、思わず笑った。


「形兆、君・・・・・?」

惚れた女にあんな事を頼む野郎が何処にいる?
しかも、自分で頼んでおきながら、こんなにも後悔しているなんて。
好きな男にそんな事を頼まれて、良いよと答える女が何処にいる?
口先だけの愛の言葉すら求めずに、私は役に立つかと訊くなんて。


「あ・・・・・・」

だが、もう引き返せない。
形兆はそのまま手を引いての身体を抱き寄せ、その唇に深く口付けた。










「んっ・・・・・・」

キスをしながらベッドの方へ歩き、を先に座らせてから、形兆もその上に圧し掛かるように、ベッドに膝を着いた。


「んんっ・・・・・」

そして、の手を取り、自分の股間へと導いた。


「ゃっ・・・・・!」

其処に触れた瞬間、の手はビクリと跳ね、逃げるように引きかけたが、形兆はそれをしっかりと押さえ込んだ。


「怖がらねぇで触れよ。」

そう命じると、は目を泳がせながらも、おずおずと自分から形兆に触れた。


「手、動かしてみろよ。」
「ど・・・、どうやって・・・?」
「こうだ・・・・・」

形兆はの手に自分の手を重ね、擦るように動かし始めた。


「っ・・・・・・」

の手の感触と潜めた息遣いに、否応なく己が昂っていく。
みるみる硬くなっていくそれに気付いて益々目を泳がせるの眼差しにすら、欲情が掻き立てられる。
このまま心のままにを押し倒して、いつものようにその柔肌を弄りたくなったが、しかし形兆はそれをぐっと堪え、自分のスウェットのズボンと下着を引き下ろした。


「はっ・・・・!」
「今度は直に触ってみろよ。」

形兆は軽く足を開いてベッドの上に座り、下腹に先端が着く程反り返っている自身をに見せつけた。
セックスこそ何度もしているが、いつも受け身でいさせた為、はまだ男の身体に慣れておらず、明らかに恥じらい、戸惑っていた。


「早く。」

だが、実のところ、それは形兆も同じだった。
意地で平静を装ってはいるが、他人に身を任せるという未知の行為に、内心では大いに羞恥し、戸惑っていた。
初めてを抱いた時も緊張はしたが、この行為は、自分本位に自分の思うように攻めていけるセックスとはまた違っていた。


「う・・・ん・・・・・」

は頬を赤らめながら、恐る恐る形兆に触れ、さっきと同じように擦った。
の手の感触は、自分で触る時とは全く違っていた。
小さくて、頼りなくて、もどかしくなってくる。


「握ってみろよ。」
「こ・・・・こう・・・・・?」
「そう、それで、ゆっくり上下に動かすんだ・・・・・。あんまり力入れずにな。」
「うん・・・・・」

火を噴きそうな顔色になりながら、は言われた通りに形兆を扱き始めた。
息を呑むようなの呼吸音に、形兆のそれが重なっていく。
二人で息を潜めて、互いに視線を逸らして、互いの息遣いを聞いている内に、の手の中で形兆は益々硬く猛り、痛い程に張り詰めるようになってきた。


「・・・・次は舐めてみろ。」
「っ・・・・・・!」

そう命じた途端、は泣きそうな顔を跳ね上げた。
雑誌の女達は皆、恍惚とした表情で男のものに舌を這わせ、口一杯に咥え込んでいるが、はとてもそんな事が出来そうな様子ではなかった。
そんなに無茶な事を要求してしまったのだろうか?
ああいうのはプロがやる撮影用の演出で、普通の女はしない事なのだろうか?
形兆も思わず戸惑ってしまったが、しかし一旦言ってしまったものは引っ込みがつかず、そのまま押し進めるしかなかった。


「ほら。」
「・・・ぅ・・・・・」

は目に見えて動揺しながらも、形兆の股間に顔を近付けていった。
自身にの吐息が当たった瞬間、甘い痺れが形兆の背筋を軽く駆け抜けていった。
やがて、何か柔らかいものが茎の部分にそっと押し当てられた。
の舌先が触れているのだ。
そう思うと、背中にまた甘い痺れが走った。


「・・・そのまま舐めろよ。」
「ぅ、ん・・・・・・・」

温かく滑るの舌が、恐々と遠慮がちに、形兆を撫で始めた。
恥ずかしいのか、怖いのか、肩が小刻みに震えている。
内心恥ずかしいのは形兆も同じだったが、しかし、抗う事は出来なかった。


「・・・・ぅ・・・・・・・・」

の愛撫に、形兆は確かな快感を覚えていた。
たどたどしく自身を擽っていく舌の動きに、劣情を煽られていた。
何の為にこんな事をしているのか、その目的を思わず忘れてしまう位に。


「・・・・・くっ・・・・・!」

裏側の筋を舐め上げられた瞬間、腰が震えて、思わず声が漏れた。
その声を勘違いしたらしいが、慌てて顔を上げた。


「あ、ご、ごめん・・・!痛かった・・・!?」

の唇に、目が釘付けになった。
この小さな唇の中に突き込みたいという衝動が、抑えられなかった。


「・・・・咥えろよ・・・・」
「え・・・・・・?」
「口開けて咥えろ・・・・・」

はまた恥ずかしそうに目を伏せて、おずおずと口を開いた。


「ん・・・・、っ・・・・」

張り詰めた自身がの唇を目一杯こじ開けて口内に入っていく様を、形兆は息を殺して見つめていた。


「ぅ、ぐ・・・ぅっ・・・・」

苦しそうに喉を詰まらせながらも、言われた通りに飲み込んでいくに、どうしようもなく欲情していた。


「さっき手でしたみてぇに、顔を動かしてみろ。歯は立てんなよ。」
「ぅ・・・・・・」

は微かに頷いて、ぎこちなく顔を上下させ始めた。
さっき強く感じた裏側を舌全体で擦り上げられ、形兆は思わず身を震わせた。


「く、ぅっ・・・・・・」
「い、痛い・・・・・?」
「痛くねぇ・・・・・、いいから黙って続けろ・・・・」

掠れた声でそう呟くと、はまた形兆を迎え入れた。


「ハッ・・・、ハァッ・・・」

さっきまで戸惑っていたのが嘘のように、形兆は更なる快楽を求めていた。


「口・・・、もっと吸い付けよ・・・・」

その一言で只でさえ狭い口内が更に狭まり、形兆を絞り上げるように蠢いた。


「ハッ・・・、ハァッ・・・・、ハッ・・・・・・・!」

呼吸が乱れて、荒くなってくる。
身体が熱く火照って、まるでセックスの時のように昂ってくる。


「ハァッ・・・、・・・・」

形兆は知らず知らずの内にの名を呟き、頭を撫でた。


「ハァッ・・・、ハッ・・・・!」

その意識もなく頭を撫で続けていると、ふとが顔を上げた。


「っ・・・・・・!」

頬を紅潮させ、涙に潤んだ瞳をしているの顔をまともに見た瞬間、形兆は限界を迎えた。


・・・・・!」
「うぐっ・・・・・!」

もっと、もっと深く。
形兆は夢中での頭を押さえ付けた。
最初はそのつもりではなかったが、この昂りを今すぐ放出させなければ気が済まないところまで、もう来てしまっていた。


「く、うぅ・・っ・・・・・!」
「ぐ、ぅ、ぅっ・・・・・!!」

根元に唇が当たるまでの頭を押さえ込み、形兆は己の欲を爆発させた。


「うっ・・・!!うぅぅっ・・・!!」

苦しそうにもがくを強く押さえ付けて、全てを解き放った。
理性を取り戻したのは、1滴残らずの喉の奥に出し終わった後だった。


「う、ぐっ・・・、ゴホッ・・・!ゴホッゴホッ・・・!!」
「あ・・・・・・」

気が付くと、が背中を丸めて激しく咳込んでいた。


「わ、悪ぃ・・・!ここに出せよ・・・!」

傍らのゴミ箱を差し出したが、は盛大にむせながらも首を振った。


「ゴホッ・・・!はぁっ、はぁっ・・・・!も・・・、飲み込んじゃったから・・・・」

は肩で息をしながら、自分でティッシュを取って口元を拭った。


「はぁっ・・・、はぁっ・・・、はぁ・・・・」

呼吸が整ってくると、は羞恥が蘇ってきたかのように、形兆から目を背けた。
だが、まだこれで終わりという訳ではない。
形兆は敷毛布の下からコンドームの箱を取り出し、手早く装着した。果てたばかりで硬度は幾らか失われているが、問題は無かった。


「・・・脱げよ。パジャマのズボンだけで良いから。」

避妊具を着けた形兆を見て、これから抱かれると予感していたらしいは、一瞬の間を置いた後、驚いたように目を見開いた。


「え・・・?ど、どういう事・・・?な、何する気・・・・?」
「やりゃあ分かる。良いから早く脱げ。」
「う・・・・ん・・・・・」

は戸惑いながらも、形兆の言う通りにパジャマのズボンだけを脱いだ。


「寝転べよ。仰向けで。」

はおずおずと仰向けに寝た。
張りのある白い太腿は警戒したようにピタリと閉じられていて、その中心の三角地帯を、白地に小さい苺の柄がまばらに散った子供っぽい下着が完全に覆い隠していた。


「ぁ・・・・・・」

いつものようにの両脚を開き、間に入り込むと、は困惑した表情になった。
正しく挿入を果たそうとする姿勢でありながら、下着も取らず、指1本触れてもいないのだから、が戸惑うのも当然だった。


「いくぞ・・・・・・」
「ぅ・・・ん・・・・!」

身構えて固く目を瞑ったの顔を一瞥してから、形兆はの秘部に自身を近付けていった。




back   pre   next



後書き

自分で書いといて何ですが、ダメ!こんな中坊ダメ!(笑)
そして次回は、もっとダメな回になります。(←オイ)
いよいよ虹村パパのアレなシーンが入ります。
今一度確認させて頂きますよ。
この作品は、18歳以上の何でも許せる方向けです。
宜しいですか?
宜しいですね?
では、どうぞー!