「どうぞ〜、奥で座ってて下さい。今お茶入れますんで。コーヒーと紅茶どっちがいいですか?」
「・・・コーヒー」
「了解しました!」
は、玄関を入ってすぐの台所で、お湯を沸かし始める。
間柴はそのまま奥の部屋へと進んだ。
女性らしい明るい清潔な部屋。
必要最低限の家具と、いつか話していた、子供の頃に買ってもらったらしいピアノが置いてあった。
部屋からはの香りがし、間柴は気恥ずかしくて眉間に皺を寄せた。
「お待たせしました〜。あ、座布団どうぞ。座って下さい。」
座布団を差し出され、その上に腰を下ろす。
テーブルを挟んで向かい同士になるように、も腰を下ろした。
・・・・・会話がない。
どうしよう。気まずい。
場の空気に耐え切れず、が口を開く。
「そ、そういえば!妹さんどちらにいらしてるんですか?」
「・・・箱根だとよ。同僚と温泉につかるんだとか言ってやがった。」
「温泉!いいな〜、楽しそう〜!」
久美の話を出され、またしても妹の身が気になり始める間柴。その不安が思わず口をついて出る。
「・・・そんなのは嘘だ、俺には分かる。」
「嘘?温泉が?」
「違う。行き先なんざどうでもいい。一緒にいる面子だ!」
「はは〜ん、同僚じゃなくてホントは彼・・・」
「言うんじゃねぇ!!!」
否応なく幕之内一歩の顔を想像させられ、の言葉を途中で遮る。
「アハハ!心配なんですねぇ〜。」
「当たり前だ!俺の目の黒いうちは絶対に許さん!!」
逆上して早口でまくしたてる間柴。
その様子がおかしくて、は思わず笑ってしまう。
「なんだか『お父さん』みたい〜。」
「うちは両親がいないんだ!俺があいつの父親代わりなんだよ!」
「頼もしいお兄さんで羨ましいな〜。」
「・・・馬鹿にしてんのか?」
「違いますよ〜!本当にそう思いますってば〜!」
「・・・そうか」
「でもそんなに気になるなら・・・」
「なんだ?」
「尾行でもしてみますか?」
にこにこと言う。
に誘われなかったら実行していたであろう行動をズバリと言われ、言葉に詰まる。
「あ、結構乗り気ですか?もしかして私今日誘わない方が良かったですか?」
申し訳なさそうに言うに、
「そんなこたねぇ。」と即答する。
妹の安否(?)も気になるが、実際との約束を優先させたのだから、それは事実であった。
「それより、あんた仕事は?」
「私ですか?一応GWは休みです。ほら、うち生徒みんな子供でしょ?どこの家もレジャーに行ってて、レッスン入ってないんです。」
「そうか。」
「間柴さんは?」
「俺も休みだ。ジムのからも休暇ぐらいゆっくりしろって締め出しくらっちまった。」
「そうなんですか〜。じゃあ束の間の休息ってやつですね。せっかくですから羽を伸ばさないと。」
「・・・・あぁ。」
そこで再び会話が途切れた。
どうすりゃいいんだよ。
もう何を話せばいいのか分からねぇよ。
話が途切れたのをきっかけに、は冷めたお茶を淹れ直すと行って台所へ立った。
時間はそろそろ夜の11時を回ろうとしていた。
・・・・やはり帰ろう。
立ち上がって脱いであった上着を着る。
自分に背を向けて立っているに、『邪魔したな、そろそろ帰る』と声を掛けようと思ったその時、
急に振り向いて一歩前に出たと思いっきりぶつかった。
「うぉっ!」
「きゃっ!」
ぶつかった反動で後ろによろけそうになるをとっさに抱き寄せた・・・・・。
・・・何が起こったんだろう?
次もコーヒーでいいかと間柴に聞こうとして、振り返って・・・・
気がつくと、彼の腕の中にいた・・・・
心臓の鼓動が早くなるのが、自分でも分かった。
腕の中のは放心したようにびくとも動かない。
そっと腕をほどくと、が驚いた顔で自分を見上げる。
少し赤く染まった頬と潤んだ瞳が、間柴を衝動的に次の行動に走らせた。
両手で頬を包んで、小さな唇に己のそれを重ねる。
数秒そのままでいた後、少しだけ顔を離した。
の体が強張っているのが分かる。
再び唇を合わせる。今度はゆっくりと舌を差し入れる。
一瞬がビクッと震えたが、やがておずおずと自分の背中に腕を回してきた。
頬から手を離し、代わりに細い身体をきつく抱き締めながら口内を徐々に激しく弄る。
息苦しいのか、の吐息が喉から漏れる。
力の抜けたの身体を片手で抱きかかえ、間柴はコンロの火を消した。