SACRIFICE 7




「KING様、でございます。」

呼びかけても返事がない。
仕方なく、はドアをそっと開けた。

「KING様、失礼いたします・・・・」

部屋の中は暗く、ひっそりとしていた。
シンの姿を探すべく、はそのまま部屋の中へ入った。
デスクにもテラスにも見当たらない。
浴室も無人のようである。何の音も聞こえない。

もう眠っているのかもしれない。

かと言って寝室を覗いてみる勇気も今一つなく、明日出直そうかと引き返しかけた時、部屋の奥の窓際に立つシンの姿を見つけた。



か。」
シンはに背を向けたまま静かに口を開いた。

「KING様、勝手に入って申し訳ございません。お呼びしてもお返事がなかったものですから・・・・」
「何しに来た。」
「あの、来るようにとの仰せでしたので・・・・」
「フン、そうだったな。失念していた。」

シンはようやくの方に振り返った。
その手にはブランデーの瓶が握られている。
いつもは上等のグラスで飲むシンが、瓶から直に飲むとは一体どうしたことか。
それに心持ち酔っているようだ。

「グラスをお持ちいたしましょうか?」
「要らぬ。」

シンは刺々しい口調での申し出を断り、ブランデーの瓶を呷った。
琥珀色の液体が音を立ててシンの喉へ流れていく。
透明の瓶になみなみと入っていたはずのそれは、もう半分以上も減っている。

「KING様、あまり飲まれてはお体に障ります。」
「黙れ。差し出がましいぞ。」
「・・・・申し訳ございません。」
「どうした、さっさと言わぬか。約束通り何でもくれてやる。」

シンの吐き捨てるような言い方に、は哀しくなった。
冷たくあしらわれることには慣れている。
しかし、昼間のシンの口調が未だかつてない程優しかった故に、今の言葉がやけに哀しく感じる。


「どうした、望みはないのか。」
「いえ、ございます。」
「なら早く言え。」
「私を・・・・・」

― ここから去らせて下さい。

何度も何度も練習したはずなのに、シンに見つめられているせいで上手く言葉が出てこない。


― そんな風に見ないで下さい、諦めきれなくなる・・・・!


「どうした。お前を、何だ?」
「私を・・・・・」
「・・・・何故泣く」

昂った感情が涙となって零れ落ちる。
醜い気持ちも、叶わない想いへの絶望も、身を切られるような思いでした決心さえ、シンの瞳に吸い込まれてしまいそうで。
あれ程悩んで出した結論がいとも簡単に打ち砕かれ、自分でもどうすることも出来ない激情に翻弄される。
そしてとうとう、必死で閉じ込めたはずの想いが言葉となってシンに向けられた。

「私を、抱いて下さい・・・・!」


やはり出来ない。
後でどれ程苦しむことになるか分かっていても、どれ程泣くことになるか分かっていても、どうしても諦めきれない。

― 忘れることなんて出来ない・・・・!





涙を浮かべてまっすぐに自分を見据えてくるを、シンは複雑な気持ちで見ていた。

確かにを抱いたこともあった。だがそれは愛があったからではない。
ただ苛立っていた時に、偶然近くに居合わせただけだったからだ。
いや、だけではない、他の女達も同じだ。
満たされない心を身体の快楽で紛らわせる為だけに抱く。ただの排泄行為のようなものだ。
その相手にいちいち愛など持ち合わせてはいない。
女達もそんな事は百も承知のはずだ。

なのに何故この女はこれ程までに哀しそうな顔をする?
何故涙を流す?
求めてくる時にこのように哀しげな顔をする女は初めてだ。
この女、一体俺に何を求めている?


「それがお前の望みか?」
「はい。」
「・・・・良かろう。望み通り抱いてやる。ついて来い。」




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後書き

あ〜あ、言っちゃったよ(笑)。
ヒロイン、まさに『恋の奴隷』状態ですな。
しかも、前回とは打って変わってシンが物凄く嫌な野郎になってしまいました(笑)。
自分で言うといて「忘れてた」はないだろう、KING様よ〜〜(笑)。