「あ・・・・ん・・・っ・・・」
「ほら、貴女の方が美しい・・・・・。俺のつけた口付けの痕が、まるで薔薇の花弁のようだ・・・・・」
の項を強く吸い上げてついた紅い痕を見て、ユダは満足そうに微笑んだ。
白い真珠のような肌が、次第に熱を帯びて薄らとピンク色に染まっていく様も、何とも美しく、そして艶かしい。
この世のどんな花や宝石でも、このような素晴らしい変化を見せてくれるものはない。
「ああ・・・・・・、愛している、・・・・・・・」
震えるの身体を抱き締め、ドレスのジッパーを下ろして中のビスチェをずらし、上半身を肌蹴てやりながら、ユダは飢えているかのようにの乳房に吸い付いた。
「ふっ・・・あっ・・・・・!」
固く屹立した先端を舌で転がし、同時にドレスの裾をたくし上げて柔らかな茂みを隠している絹のショーツへと手を這わせれば、の声がこれから始まるめくるめく一時を期待して甘くなるのを、ユダは知っていた。
は己に愛される事を求めているのだ。
ユダはを組み敷く度、いつもそう感じ、その度に自信をつけていった。
はこの愛に応え、同じ位の愛情でもって返してくれているのだと。
「あっ、あぁん・・・・・・!」
「フフッ・・・・・・、貴女は本当に素敵だ・・・・・・」
は、ユダの指を二本も泉に呑み込んで喘いでいる。
奥へと突き上げてやるように動かす度に小さく鳴る湿った音は、ユダの耳にとって何より心地の良い音楽であった。
「もっと乱れて・・・・・、俺の腕の中で・・・・・」
「あっ・・・・・!」
に口付けて、ユダは大きくその両脚を割り開いた。
「さあ・・・・・・」
「やっ・・・・・、あぁぁっっ・・・・・!!」
ゆっくりと、だが確実に、ユダの猛り狂った楔がの中へと埋め込まれてゆく。
奥へと進ませるにつれて絡みつき締め付けて来る内壁の心地良さに酔いしれ、ユダは恍惚と呟いた。
「・・・・・誰にも貴女を渡しはしない・・・・・・。貴女は俺のものだ・・・・・」
「あぁっ・・・・・、ユダ・・・ぁ・・・・・!」
「この甘い声も、美しく官能的な肉体も、全て・・・・・・、全て俺のものだ・・・・・!」
「ひっ・・・あぁぁッ・・!!」
の腰を掴み、ユダは律動を始めた。
深く、浅く、浅く、深く。
時折腰を回して、狭い内部を抉るように。
「ふっ・・・あぁぁ!やぁッ・・・・・、ユダぁ・・・・!」
「ああ・・・・・・・!もっと俺の名を呼んでくれ・・・・・・・!」
ユダが動く度に、まだが着けたままのアクセサリーがシャラシャラと軽やかな音を立てている。
乳房の間に垂れ下がった豪華なガーネットのネックレスを払い除け、ユダはそこに音を立てて口付けた。
「んぁッ・・・・・・!」
「さあ・・・・・、もっと貴女の声を聴かせてくれ・・・・・・・、貴女の甘い声を・・・・・」
の背中に腕を回してしっかりと抱きすくめ、ユダはごと身体を起こした。
「はんッ・・・・・!あああッ!」
ユダの膝の上に跨る形を取らされたせいで、楔がより一層の奥へと潜り込む。
は鋭い声を上げ、背筋を反らせて喘いだ。
「美しい・・・・・・」
上気したその顔を恍惚と見つめながら、ユダはより深い快楽を求め始めた。
の中で、ユダがドク、ドク、と脈打っている。
「・・・・・・・・」
「あん・・・・・、ぁっ・・・・・・・」
の中に全てを解き放ちながら、ユダは膝の上のを優しく抱きしめた。
「今夜は楽しかったかい?」
「・・・・え・・・ぇ・・・・・・」
「そう。それは何より。俺も楽しかった。演奏も素晴らしかった。そうは思わないか?」
「んっ・・・・・」
「貴女のピアノと俺のバイオリンは、息がぴったりだった。ぴったりと寄り添って重なり合うような・・・・・・・。ふふっ、まるで今の俺達のように。」
「あっ・・・・・」
フゥ、と耳元に吐息を吹きかけてやると、の内部がまた呼び覚まされたかのように蠢き、ユダを締め付ける。
その温もりと心地良さに浸りながら、ユダは果てて半分放心しているの耳元に囁き続けた。
「・・・・・・・そうだ、式は春にしよう。春になったら、貴女は純白のドレスを纏い、色とりどりの花で拵えたブーケを持ち、俺と永遠の愛を誓う。花の香りのする春風の中で・・・・・。どうだ、素晴らしいだろう?」
「ぁ・・・んっ・・・・・、え・・・・ぇ・・・・・・・」
トク・・・ン・・・・・・
情愛の証を最後の一滴までの中に注ぎ込み、ユダは恍惚とした声で『春が待ち遠しい』と呟いた。
間もなく季節は冬本番を迎えた。
城の庭の杏の木はもうすっかり葉を落とし、次の春にまた美しく花開かせ実を結ぶ為の眠りに就いている。
そんな今日この頃、の身辺はまた変化を見せ始めていた。
「失礼致します、奥方様。」
ノックの後、下女達が数人部屋に入って来た。
そう、あのパーティーの後から、彼女らは早くもの事を『奥方様』と呼ぶようになっていた。
正確に言えば下女達だけでなく、衛兵も門番も、ユダの側近も皆。
婚約の発表に加えて、その後すぐにユダが『春に挙式を行う』という、より具体的な予定を公表したのが、そうさせている原因のようだった。
最早には、否も応もない。
城の者達は皆、春になればユダとが婚儀を執り行う事を信じて疑ってはいないし、事実それに向けて既に準備も始まっている。
しかし、嫌がって拒む程、とてこの結婚を全く望んでいない訳ではない。
完璧すぎる位の順調さで準備が進んでいく事に若干戸惑いつつも、これが己の歩む道、選んだ道なのだと、この頃のはそう思っていた。
「あら、何か?」
「実は・・・・、私共、奥方様に僅かばかりの贈り物を差し上げたいと思いまして・・・・」
恐縮そうに微笑んだ下女は、エプロンのポケットから小さな包みを取り出した。
「ご結婚おめでとうございます、そして・・・・・・・、いつぞやは私共の命を救って下さり、有難うございました。」
「まぁ・・・・、貴女達・・・・」
彼女達は、いつだったかユダを怒らせてしまった時の事を言っている。
元はといえば、あの一件は己の勝手な振る舞いのせいであったというのに。
は、下女達よりも恐縮そうに口を開いた。
「そんな・・・・・、あの時の事は私がいけなかったのよ?それをこんな風にして頂いては・・・」
「いいえ、奥方様!あの時奥方様が庇って下さらなかったら、私達は今頃全員ここにこうしてはおられませんでした!」
「それに、悪いというなら、身の程を弁えず、気さくな奥方様のお優しさに甘えてしまった私達がやはり悪かったのです。」
「でも・・・・!」
「私達はこれからも、誠心誠意奥方様にお尽くしする所存です。この乱世の時代に、奥方様のようなお優しい方にお仕えする事が出来て、私達は幸せです。」
「これはほんのささやかな、気持ちばかりのものですが・・・・・・。皆で心を込めて作りました。どうぞお受け取り下さい。」
差し出された包みを受け取って、はそっとそれを開いてみた。
すると、中から出て来たのは、何ともいえない温もりの感じられる手作りのブローチであった。
艶出し剤の塗られた形の綺麗な木の実がべっ甲のように柔らかな艶を放ち、美しい色の細い絹糸で編まれた紐がリボンのようについている。
何とも可憐で素朴な温もりのあるそれを受け取って、は泣き出しそうな表情で微笑んだ。
「まぁ・・・・・、可愛い・・・・・・」
「そんな物で大変失礼だとは存じましたが、私共にはユダ様のように、奥方様に高価なドレスや宝石を与えて差し上げる事は出来ませんので・・・・」
「そんな・・・・、そんな事・・・・!有難う、とても嬉しいわ・・・・!本当に頂いても良いの?」
「ええ、勿論です、奥方様・・・・!」
嬉しそうな下女達の前で、は貰ったばかりのそれを胸に留めた。
黒いビロードとレースで出来た豪奢なブラウスに、子供っぽい木の実のブローチは些か不釣合いであったが、には全く気にならなかった。
ダイヤモンドや黄金よりも貴重な、人の真心。
それに勝る宝があろうか。
「素敵・・・・・・。皆さん有難う、大切にしますね。」
「奥方様・・・・・・」
と下女達が微笑み合ったその瞬間。
「。」
「ユダ・・・・」
ユダが部屋に戻って来た。
その瞬間、下女達の微笑には僅かな緊張が走り、彼女達はユダに向かって次々に跪いた。
「ユダ様、ご機嫌麗しゅう存じます。」
「うむ。お前達、雁首を揃えてここで何をしていた?」
「いえ、あの・・・・」
「・・・・奥方様に、今夜のお夕食のご希望を伺っておりました。」
「そうか。」
また差し出がましい事をしたと知れれば、今度こそ命はないかもしれない。
下女達は差し障りのない嘘をつくと、ユダとに一礼をし、そそくさと部屋を出て行った。
「それで?貴女は何をリクエストした?」
「いえ、別に何も・・・。何でも結構ですと言っただけよ。だって、特にリクエストなど出さなくても、彼女達はいつも美味しいお料理を作って下さるから。」
「そう。」
幸いその嘘は、ユダにはばれなかったようだ。
或いは、深く考えるに値しない、取るに足りない事だとユダが思ったのかもしれない。
とにかくユダはそれ以上何も言わず、マントを外して椅子に投げ掛けると、本棚から適当な本を取り、に差し出した。
「少し休みたい。眠る前に軽く読んでくれないか?」
「ええ、良いわ。」
「こちらへ・・・・」
ユダはをベッドに誘うと、そこにを座らせ、自分はの膝を枕にしてゆったりと寝そべった。
「こうして木枯らしの吹く寒い日は、貴女がよく部屋で本を読んでくれた。覚えておいでか?」
「ええ。」
「俺には今でもあの時の光景が見える。温かい暖炉の前で貴女の膝に座り、貴女が読んでくれる物語に食い入るように夢中になっていた。」
穏やかに微笑んで、ユダは瞼を閉じた。
そこに浮かんで来るのは、ちろちろと温かな炎が燃える暖炉。
乳母が運んでくれた熱いココアのカップが二つ。
可憐なさくらんぼの唇が紡ぐ、胸の騒ぐような壮大な冒険の物語。
そして、暖炉の炎が発するオレンジ色の光を浴びた、美しいの横顔。
「さあ、読んで・・」
「・・・どうしたの、ユダ?」
瞳を開いたユダは、丁度見上げた場所にあるの胸に、やけに安っぽいブローチが留まっているのを目に留め、僅かに剣呑な表情を浮かべて起き上がった。
「それは?」
「え?」
「その胸の。」
「ああ、これ・・・・・?可愛いでしょう・・・・?」
微笑むの表情には、幾らか警戒の色が混じっている。
明らかに咎められるのを恐れている表情だ。
ユダは小さく溜息をつくと、それ以上声を荒げたり表情を険しくする事もなく、淡々との胸のそれに手を伸ばした。
「な、何を・・・・」
「まるで子供騙しの玩具だ。貴女には似合わない。わざわざこんな物を着けずとも、貴女には俺が与えてやったジュエリーが幾らでもあるだろうに。」
ユダは余裕さえ感じさせるような苦笑を浮かべると、実にスムーズな手付きで木の実のブローチをの胸元から取り去った。
「今日のその服になら、金と真珠のブローチなどが合うんじゃないか?ほら、宝石箱にあっただろう?」
「え、ええ、あるけれど・・・・」
「どうせ着けるなら、貴女の美しさと気品に相応しいものを着けねば。」
幼子に言い聞かせるような優しい口調でそう言うと、ユダはから取り上げたブローチを持って窓辺に立った。
そして、腕を軽く振り被ってそれを窓の外へ放り投げようとした。
「待って!!!」
は間一髪でユダを止め、慌てて駆け寄ってそれを奪い返した。
「何をする?そんなガラクタがそれ程大切なのか?」
「だってこれは・・・!」
下女達に貰った大切なプレゼントだから、と言いかけて、は思い留まった。
それを言えば、またいつかの口論を繰り返すだけだ。
そして、また下女達に迷惑が掛かる。
は懸命に考えを巡らせ、咄嗟に思いついた口実を口にした。
「これは・・・・・、その・・・・・、私が作ったの・・・・・・」
「何だって?」
「庭で可愛い木の実を見つけたから、思わず何か作りたくなって・・・・・。」
俯きながら呟くを見て、ユダはまた苦笑を浮かべた。
「・・・・・全く、貴女という人は。いつまでも無邪気な少女の頃のままだ。」
「・・・・・・」
「貴女が拵えたものとあっては、無下に投げ捨てる訳にもいかぬな。酷い言い方をして悪かった。」
「いえ、そんな・・・・・」
ユダは詫びのつもりかのようにを優しく抱いて口付けた。
「・・・確かに、昔は二人でよくそこらの物を拾っては、何かを拵えて遊んだな。露草の花冠に、団栗の独楽、咲き終えた花で色水を作って、ハンカチを染めて遊んだ事もあっただろうか。」
「え、えぇ・・・・・」
「フフッ、本当に貴女は何も変わっていない。可愛い人だ。」
機嫌を直したユダは、を連れてまたベッドに戻り、元のようにの膝枕に頭を置いて横たわった。
「・・・・・昔の思い出、か・・・・・」
「・・・・・・」
「昔を懐かしんで無邪気な遊びに興じるのは結構だが、それは俺と貴女だけの宝物だ。そのブローチは、宝石箱に入れて大切にしまっておくと良い。」
ユダの声は機嫌の良さそうな穏やかさを湛えてこそいたが、その言葉はには、『安っぽいその木の実のブローチは二度と着けるな』という意味に聞こえた。
いや、このブローチの事だけではない。
のドレスも靴もアクセサリーも、ランジェリーでさえ、全てがユダの目に適ったものばかりだ。
が身に着けるものから室内の細々とした小物類に至るまで、少しでもユダの意に副わぬものはの身辺には何一つ存在しない。
何もかもがユダの思い通りに進んでいく、飾り立てられていく。
それを思い、はふと、ユダと同じように遠い昔の日の事を思い出した。
「・・・・ねえ、ユダ。」
「ん?」
「昔・・・・・、私が持っていた着せ替え人形の事、覚えている?」
「・・・・・ああ。長い金髪の人形だろう?」
「ええ。小さい頃から大切にしていて、確か名前も付けていたわ。・・・・メアリーちゃん、だったかしら?」
「フフッ、そうだったな。確かにそういう人形があった。」
ドレスも靴もアクセサリーも、髪型もメイクもネイルも。
全てが遊ぶ者の意のままに出来る着せ替え人形。
幼き日に、無邪気に何度も着せ替えては遊んだ、そして今では何処に行ったかも分からず、流れゆく時の外側に置いて来てしまった、金髪巻毛の青い瞳の抱き人形。
「さあ、読んでくれ。」
「ええ・・・・・・・」
瞳を閉じて物語に聴き入る姿勢を取るユダを遠くに見つめながら、はまるで、自分がその人形になったような気分を感じていた。