PHANTOM OF LOVE 7




「ユダ!何をするの!?やめて・・・・・!」
「止めぬ!!姉様は俺のものだ!!」
「やめっ・・・・・、あぅっ・・・・・・!」

ネグリジェの胸元に強く吸い付かれ、はびくりと身体を震わせた。
嫌悪より何より、驚きの方が強かった。
何もかも自分より小さく弱い、可愛い弟のような存在だったユダが、男の猛々しさを見せるなんて。


「駄目よユダ・・・・!やめて・・・・・!」
「止めぬと言った筈だ!姉様はもう誰の手にも渡さない、貴女はこの俺の妻になるのだ!」
「ユダ!」

は渾身の力を振り絞ってユダをおしやると、震える声で叫んだ。

「あなたは私の弟も同然の人なのよ!急にこんな・・・・・・!」
「それは昔の事だ!それに、俺の気持ちは昔から貴女だけにあった!」
「だから言ったでしょう!?私は夫ある身、あなたのように若く未来のある人には相応しくないわ!あなたならきっと幾らでも・・・・」
「・・・・・・・若く、未来のある・・・・・?」

急に口調が静かになったユダに、は些かたじろぎつつも頷いた。

「そうよ・・・・・。あなたはまだ若くて、これから先幾らでも素晴らしい未来が・・・・」
「それは姉様も同じだ。ただ姉様ご自身が、それをお認めにならないだけに過ぎない。」
「な・・・・・・・」
「七十八十の老婆のようなお言葉だが・・・・・・、ならば何故、貴女の肌はそんなにも艶やかだ?」
「っ・・・・・・・」
「その髪も、そのお声も・・・・・・。貴女はまだ『女』なのだ。」

ユダのこの言葉に、ははっと胸を突かれた。

自分は女だ。
子供でもなく、老人でもない。
無垢な白さも悟りきった透明感もない代わりに、愛の悦びを求めて光りも曇りもする、不安定で輝かしい時代を生きる者。

どうしてそれを、今まで忘れていたのだろう。



「でも・・・・・、私は・・・・・・・」
「己の伴侶を幸福に出来ない男が『夫』か?妻が拳王に差し出されるのを許した男が『夫』か?」
「・・・・・・・・・・・」
「俺ならばそうはさせん。誰の手からも護り抜き、世界で一番大きな幸福を掴ませてやる。」
「ユ・・・・ダ・・・・・・」
「愛してるんだ、こんなにも・・・・・・」

若い身空でありながら、愛される事を忘れた女。
そんな哀しい女に、なりたくてなった訳ではない。
ユダの滾るような愛は、にとって逆らい難い激流のようだった。

ユダを男として愛しているのか、それは分からない。
だが己の中の『女』が、愛を求めて疼いていた。
ずっと目を背けてきたそれに、今気が付いた。


・・・・・・・!」

恥ずべき事だと己を嫌悪する心と、裏腹に愛される事を求める心に挟まれて動けない。
身動きの取れぬまま激流に呑まれるようにして、はユダの口付けを受け入れていった。








「はっ・・・・、う・・・・・・・・・」

が苦しそうに息をついている。
それを申し訳なく思いながらも、ユダは己の勢いを緩める事が出来なかった。
それだけ想いが強かったから?
勿論それもある。
だが、余裕がないのもまた事実だった。


「っ・・・・・・・・・、・・・・・・・・!」

毟り取るようにネグリジェを脱がせてしまうと、ショーツだけを身に着けたの裸体が現れた。
つんと上を向いた柔らかそうな膨らみに誘われ、ごくりと喉が鳴る。
裸の女を見たのはこれが初めてという訳ではないが、ある意味では初めてのようなものだった。
見たいと思って女の身体を見るのは、これが初めてだったのだから。


「美しい・・・・・・、やはり貴女は・・・・・・」
「いや・・・・・・・、ユダ・・・・・・・・」
「どうか拒まないでくれ、俺は貴女を抱きたいのだ。」

胸を隠そうとした白い腕をやんわりと退け、ユダはの身体をまじまじと見つめた。

「ユダ・・・・・、せめて灯りだけでも・・・・・」
「駄目だ。美しいものを闇で隠してしまうなど、勿体無い。」
「そんな・・・・・・・」
「見たいのだ、貴女の全てを・・・・・・・!」

ユダは堪えきれないといったように低く呟くと、のショーツに手を掛けた。
乱暴にするつもりはなかったのだが、期待と悦びと緊張の余り、つい手に余計な力が篭り、巧く脱がせる事が出来ない。
己の手際の悪さに苛立ったユダは、薄い花びらのような白いショーツの脇を一思いに引きちぎってしまった。
が小さく驚いた声を上げたが、ユダはそれに構わず己も着ている全てのものを脱ぎ去った。


「俺を見てくれ。俺はもう子供などではない。貴女を抱き、女の悦びを与えて差し上げる事の出来る男になった。」
「あ・・・・・・・」

一糸纏わぬユダの裸体は、神話に出てくる若き軍神の如く、隆々と逞しかった。
厚く硬い筋肉で覆われた胸板や背中、長い手足、そして否が応にも目に入る、天を向いて猛り狂った楔。
それにはっと息を呑むを満足そうに見つめて、ユダはそっとに覆い被さった。








身体の重ね方は、いつ何処でどうやって覚えるのだろう。
いつか何処かで性行為や生殖についての生物学的な基礎知識を与えられた気はするが、はっきりとは思い出せない。
だから多分、本能で身体が動くのだと思う。


「あっ・・・・・・・」

夢中での胸に吸い付きながら、ユダはそんな事を考えた。
こんな風に甘い声が聞こえると、身体の芯が熱くなる。もっともっと聞きたくなる。
そんな欲求に突き動かされて、また身体が勝手に動くのだ。

「あっ・・・・ふ・・・・んっ・・・・・!」
・・・・・、素敵だ・・・・・・・」
「あんっ・・・・・!」

胸の先端を執拗に舐め、太腿を弄る合間に、自然とそんな睦言すら飛び出して来る。
初めて見た、女としての
もうは姉などではない。もう『姉様』とは呼ばない。
最愛の女として、この破裂しそうな想いを注ぐ対象になったのだ。


「もっとだ・・・・、もっと声を聞かせてくれ・・・・・」
「あっ、や・・・・、あぁッ・・・・・!」

強引に太腿の間に差し込んだ手に、何処よりも一際柔らかな感触を覚える。
薄い薄いこの皮膚が、こんなにも触り心地の良かったものだったとは。


ダガールやコマクの連れて来た女は、度々裸でこのベッドに侍って来た。
何を吹き込まれていたのか詳しくは知らないが、どの女も媚びた微笑で抱いてくれとせがんだ。
多分、どの女もそれなりに経験を積んでいた女だったのだろう。
中には積極的を通り越して淫乱と思えるような仕草で、誘いをかけてきた。
『ユダ様、もう我慢出来ないのです、早く・・・・・』
そんな言葉を吐き、この手を取って乳房や秘部へと強引に運んだ女も居た程である。

そこで触れたものは、今己が触れているのものと同じ筈なのに、その時はどうにも汚らわしく思えてならなかった。
交合はおろか、指や舌で弄る事も口付けすらも、激しい嫌悪感を催した。

そんな無礼を働いた女を、一体何人血の海に沈めてきただろうか。
そう、ユダはまだ女を知らなかった。
間に合わせの女などで知りたいとも思わなかったのだ。


美しく、優しく、気高く、賢く、初夏の木洩れ日のように温かく心安らげる、

のような女。


そんな女でなければ、と。




「・・・・・いや、やはり紛い物では駄目だ。」
「え・・・・・?」
「俺はやはり貴女が欲しかったのだ、ずっと・・・・・・。」
「何の事なの、ユダ・・・・・?」
「・・・・・・いや別に。独り言だ。」

ユダは恍惚とに微笑みかけると、再び愛欲の海に溺れていった。




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後書き

ユダ様童○設定です(笑)。
潔癖で、プライドと理想は天よりも高い人、というのが私のユダに対するイメージでして。
あと、とてつもなく一途、というところでしょうか。
だからこの作品では、ヒロインを強く思い続けた余り、まだ女性経験が無かった事に
してしまいました(笑)。