浴室での『懺悔』の後、サウザーは一日中、を働かせた。
昨日までは取り巻きの男共にやらせていた仕事を全てに任せ、水汲み、飯炊き、掃除と、
容赦なくこき使った。
そして、その夜。
に給仕をさせながら、サウザーは黙々と晩餐を進めていた。
その味は、男共の料理よりは幾らかマシだった。
いや、この味を『美味い』と表現する者も恐らく多々居るだろう。
この数日間、あの男達の料理とも呼べないような代物に随分我慢してきたからこそ、尚更そう思えた。
あの男達の作った物に比べれば、の料理は随分まともだった。
まともすぎる位に。
サウザーは、一通り食べたところでナイフとフォークを置き、口元を拭ってを横目で睨んだ。
「・・・・・・妙な物は入っていないようだな。」
サウザーは全ての皿に手をつけて確認していたが、そのどれからも異物の味は感じられなかった。
つまりは、ごく普通に料理を作ったという事だ。
己の身体を陵辱し、命をも奪おうとしている男に出す料理を、ごくごく普通に。
「お前は妙な薬を作るのが得意だろう?何故毒の一つも入れなかった?」
「そんな・・・・・・」
しかし、仮にそうしていたところで、無駄な足掻きには違いない。
毒を盛ろうが刃物を振り回そうが、そんな事で聖帝の命は奪えない。
はそれをよくよく理解しているのだろう、と受け取る事も出来る。
だが、黙ったまま視線を落とすの表情は、諦めきっているというよりは傷付いたような、物悲しげなもので、それが妙にサウザーの癇に障った。
「何を今更しおらしい顔を。化けの皮を剥いだのは、他ならぬお前自身だった筈だ。
お前は『奇跡』と称して、これまで多くの人間に一服盛ってきたのだろうが。
『秘薬』なる、得体の知れん薬をな。」
「・・・・・・・・」
「聞かせて貰おうか。あの秘薬とやら、あれは一体何だ?」
答えろ、と命じると、はおずおずと喋り出した。
「・・・・私の一族は、自然を愛し、自然と共に生きる民でした。自然の中には、生きとし生けるもの全てに対して神が与えてくれた、ありとあらゆる贈り物があります。私達はそれを生活に取り入れ、生きてきました。薬もその一つです。」
「・・・・・・・・」
「自然界に数多ある動植物、私達一族は遥か昔の祖先の代からそれらを研究し、数々の薬の調合法を編み出して伝え遺してきました。傷に効くもの、風邪に効くもの、痛みを鎮めるもの、他にも色々・・・・・。化学薬品などに頼らずとも、そうして代々伝わってきた様々な薬が、私達を救ってくれました。」
ですが、とは呟いた。
「薬はあくまで、身体に備わる自然治癒の力に働きかけ、回復を促す為のもの。死んだ者を生き返らせる薬など・・・・・」
「・・・・・・・つまりあの薬は、只の風邪薬か何かだったという訳か。」
サウザーの質問に、は一瞬、口を噤んだ。
そして、言い難そうに躊躇いながら答えた。
「・・・・・戦争で荒れ果て、花一輪見つける事も難しい今のこの世の中では、薬の材料など手に入りません。ですから・・・・・・」
「何だ?はっきり言え。」
「手に入る、あらゆる物で・・・・・。枯れ草でも、灰でも、砂でも・・・・・、その時々に手に入る物を使って、作っていました・・・・・。」
サウザーは、ピクリと片眉を吊り上げた。
この言い草では、枯れ草や砂ばかりではなさそうだ。
一体どんな物が入っていたのか、想像したくもない。
「・・・・薬ですらなかったという事か?その辺りのゴミを練っただけの、只の屑団子だったという訳か?」
は微かに肩を震わせながら、小さく頷いた。
「ならば訊こう。只のゴミが、何故あれ程まで評判になった?そんな物に病や怪我を治す力などある筈がない。それもお前達がでっち上げた嘘か?」
「いいえ・・・・・。只の水でも、薬だと信じて飲めば効く事があります。恐らく、それではないかと・・・・」
確かにそういう症例がある事を、サウザーも知っていた。
只の水でも、小麦粉でも、薬と信じて飲めば効く。
一種の暗示にかかるようなものだ。
「人の心と身体は繋がっていて、切っても切り離せません。精神的な苦痛が、身体の不調として現れる人も多々居ます。そんな人達の中には、あれが本当に効いた人も居たようです・・・・・。」
「・・・・・しかしそれは、万人に必ず起きる事ではない筈だ。」
は、『その通りです』と呟いた。
「信じて飲み続けても、一向に治らない人も勿論居ました。いえ、むしろ、治らない人達の方が・・・・・・。まして死者が蘇った事など、一度もありませんでした。・・・・・人々の前で演じてみせる『蘇生の儀式』の時以外は、誰一人として。」
の悲しげな眼差しと、サウザーの冷ややかな視線が交わった。
その瞬間、サウザーの中に、苛立ちなのか怒りなのか、自分でも良く分からない感情がふつふつと湧いてきた。
の物悲しげな顔を見ていると、妙に腹立たしくなる。
己の所業を心から悔いているような、赦されたがっているような、そんなの瞳を見ていると、
を滅茶苦茶に壊してやりたくなる。
確かに『聖帝』は血も涙もない残酷な男だが、その崇高な心は、何事にも決して動じない。
間違っても、こんなちっぽけな女一人に感情的になる事はないのだ。
なのに実際は、を前にすると、らしくもなく頭に血が上ってしまう。
その事実が、また余計にサウザーを苛立たせるのだった。
「・・・・・・そうして多くの人間を誑かしたのは、見返りの物品目的か、特別な人間になりたいという自己顕示欲を満たしたいが為か?或いはその両方か?いすれにせよ、愚かな虫けららしい、薄汚れた欲望に駆られての事だったのだろう?」
「・・・・・・・・・」
「卑しい女狐め。得体の知れんゴミと下らぬ猿芝居で大勢の愚民共を誑かしたばかりか、偉大なる南斗鳳凰拳先代伝承者の神聖な亡骸を穢し、この聖帝をも愚弄したお前の罪の重さ、命ある内にその身でとくと量るが良い。」
サウザーは唸るような低い声で『来い』と言い放つと、青ざめて怯えているの手を強引に引いて、自室へと連れて行った。
自室に入るや否や、サウザーはをベッドに突き飛ばした。
「あっ・・・・・!」
サウザーは、がベッドに沈む様を冷たい目で見下ろしながら、自らの腰帯を解いた。
の恐怖を更に煽るように、わざと緩慢な仕草で。
「今度はお前が禊を与えられる番だ。」
「な、何を・・・・・・・」
「動くな。」
「あっ・・・・!」
身体を起こしかけたを再び突き飛ばして倒してから、サウザーは解いた腰帯での両手首を一纏めに縛め、ベッドの支柱に括り付けた。
「我が師オウガイの受けた屈辱と苦痛、とくと思い知れ。」
「ぐっ・・・・・・・!」
サウザーはの胸の上に跨ると、ズボンの前を寛げた。
そして、苦しそうに顔を顰めているの唇に、自身をグイグイと押し付けた。
「っう・・・・・・・!」
「口を開け。咥えるんだ。さっさとしないと、無用な苦しみが長引くだけだぞ。」
「うぅ・・・・・・!」
は辛そうに、しかし言われるがまま、僅かに唇を開いた。
サウザーはその隙間をこじ開けるようにして、更に腰を押し付けた。
「ふっ・・・・・、ん・・・・・・!」
の唇は次第に開いていき、やがてサウザーの侵入を許した。
先端が口内に入り込むと、サウザーは一息にの喉奥まで自身を突き込んだ。
「ぅぐっ・・・・・・・!」
「舐めろ。」
「っ・・・・・・!」
熱く滑った舌がおずおずとサウザーに絡みつき、恐る恐る舐め始めた。
「っ・・・・・・ふッ・・・・・・・」
時折苦しそうに息を詰まらせながらも、大人しく命令に従っているを、サウザーははじめ、冷めた目で見下ろしていた。
だが、サウザーの怒張した分身を咥え込んで大きく開かされているその唇や、苦しげに顰めた顔をじっと見ていると、サウザーの中にじわじわと快感が湧き始めてきた。
「フン。『救いの女神』がこんな大口を開けて男を咥え込んでいると知れば、お前の熱烈な信者共はどう思うだろうな?」
「っ・・・・・・・!」
「・・・・うむ。処刑にかける前に、公衆の面前で我が聖帝軍の兵士共に、お前を陵辱させてみるのも一興かも知れんな?」
「うぅっ・・・・・!」
は大きく目を見開いて、くぐもった声を上げた。
そんなの姿はサウザーの加虐心を益々煽り、強い快感となってサウザーの背筋を言い様もない程甘く痺れさせた。
こんな風に感じさせる女は、思えばが初めてだった。
サウザーはこれまで、より容姿の優れた女を何人も抱いてきた。
それこそ飽きる程に。
それでも何故か、こんな風に感じさせる女は誰一人として居なかった。
悦楽の波に乗りながら、サウザーはふとそんな事を考えていた。
しかし、そう。
居なくて当たり前だったのだ。
これまで、こんな風に感情的に女を抱いた事がなかったのだから。
とうに捨てた愛や情は勿論の事、怒りも憎しみも屈辱も、何も感じた事がなかったのだから。
感情が肉体の感覚を更に研ぎ澄ますという事を、サウザーは今、初めて味わっていた。
「気を散らすな。しっかり吸い付け。」
「うぐぅっ・・・・・・!」
サウザーは両手での頭を押さえ込むと、自ら腰を動かし始めた。
「うぐ・・・・、んっ・・・・・!んっ・・・・・!」
更に猛り立った楔が、卑猥な粘着音を立てての口内を激しく出入りする。
飲み込みきれない唾液が唇の端から零れ出て、顎を伝い落ちている。
の顔は益々苦しそうに歪み、そこには最早、あの忌々しい物悲しげな影はない。
「そら、今くれてやるぞ・・・・・・」
「うぅっ・・・・・!んむっ・・・・・!」
忌々しい、殺しても飽き足りない。
その思いが、そっくり同じ強さの快感に摩り替わるのを感じながら、サウザーは激しく腰を打ち付けた。
「一滴残らず飲み干せ・・・・・・・!」
「ぐぅ・・・・んんっっ・・・・・・・!!」
サウザーの腰が微かに震えると同時に、残酷なまでの征服の悦びが、の口内に熱く迸った。
「う・・・・・、うぅ・・・・・・・」
サウザーは、己の放った欲望を全て飲み下してぐったりとしているを、残忍な笑みを薄く浮かべて一瞥した。
これであっさり解放してやる気は、元よりない。
城に連れ帰って処刑するその日まで、を徹底的に甚振り、その身も心も犯し尽くすつもりなのだ。
「これしきで早々にくたばるな。まだまだこれからだぞ。クッククク・・・・」
「あ、あぁ・・・・・!」
「そら、もう一度だ。」
「あぐっ・・・・・・!」
サウザーは怯えて震えるの濡れた唇に、再び自身を突き込んだ。
そうして夜が更けるまで、何度も何度も、容赦なくを攻め立てたのだった。