眩しい光が、瞼をすり抜けて瞳に飛び込んで来る。
耳に優しく響くのは、小鳥達の囀る声だろうか。
「う・・・・ん・・・・・・・」
は、ゆっくりと目を開けた。
「ここは・・・・・・・」
少し埃っぽくはあるが、窓からは太陽の光が差し込み、その向こうには瑞々しく生い茂る緑が見える。
思っていたような地獄の風景とはまるで違う事に一瞬戸惑ったが、すぐに頭が覚醒した。
ここは地獄などではない。
殆ど居る事はなかったが、サウザーに貸し与えられていた部屋だ。
しかし、何故こんな所に居るのだろう。
昨夜、オウコとゲンジョウまでもがサウザーの手に掛かり、遂に一人になった自分は、
その場でサウザーに・・・・・・
「っ・・・・・・・・!」
昨夜の事を思い出すと同時に、は身動きが取れない事に気付いた。
両腕を後ろ手に縛られて、床に転がったまま、身体を起こす事もままならない。
だが、ともかくどうにか起き上がろうともがいていると、鍵の開く音が聞こえ、ドアが開いた。
「目が覚めたようだな。」
入って来たサウザーを見て、は思わず身を固くした。
彼の顔を見た途端、昨夜受けた陵辱が鮮明に脳裏に蘇ったのだ。
その後の記憶はないが、今ここにこうしているという事は、昨夜彼は自分を殺さなかったという事になる。
理由は全く分からないが。
「・・・・・どうして・・・・・・・」
「昨夜、あの後気を失ったお前を、俺が連れ帰った。」
問いかけると、サウザーは事も無げに答えて、の手の縄までをも解いた。
「お前の命、ひとまずあと7日間、預けておいてやろう。」
「7日・・・・・・?」
縄の跡が残る手首を庇いながら、は小さく首を傾げた。
「7日後、俺は城に帰る。その時にお前も連行する。そして、聖帝の領地内で、聖帝の下僕である民衆を誑かした罪により、お前を公開処刑に処す。」
「処刑・・・・・・・」
サウザーの話は、わざわざ殺さずにおいた理由として十分に納得出来るものだった。
それに恐怖しなかった、と言えば嘘になる。
本音を言えば、昨夜あの場で一思いに殺しておいて欲しかった。
「お前は大きな罪を犯したのだ、当然だろう?我が領地内に住む人間は、年寄りから赤子に至るまで、全てこの聖帝の奴隷・所有物なのだ。それを騙し、本来この聖帝一人に向けるべき信奉心をお前達へと向けさせたのだ。この罪、万死に値する。しかし、ただお前達全員を闇から闇へ葬り去っては、殺す手間ばかりが掛かって何も得るものはない。」
「・・・・・・・」
「そこで、お前を『救いの女神』と信じて崇めた連中の眼前で処刑する事にした。神も奇跡もこの世には存在しない、聖帝に服従する以外に救われる道はない、聖帝をおいて他に信じ崇めるべきものは何もない、その事を愚民共に今一度はっきりと知らしめてやるのだ。」
しかし、そう。
それは身勝手というものだ。
迫り来る死の恐怖に長く怯え、罪人として処刑される、そんな非業の死こそが自分の辿る運命なのかも知れない。
因果応報、きっとこれが自分の受けるべき報いなのだ。
「・・・・・・分かりました。」
は、サウザーの下した死刑宣告を大人しく受け入れた。
それが自分の受け入れるべき運命ならば、抗うつもりはなかった。
「・・・・・・これから先、お前にはこれまでのような自由はない。お前の命はこの俺の物だ。逃げる事は勿論、最早自害さえも許さぬ。お前の身は、24時間この俺の監視下に置き、拘束する。お前はこれから7日間、俺の命じる通りに行動せねばならない。分かったな?」
「はい・・・・・・・」
「よし。まずは沐浴の支度をしろ。昨夜の汗と血の臭いを落とす。」
「はい・・・・・・・」
先に死んでいった彼等と同じように、或いはそれ以上に凄惨な死を遂げる事になろうとも、それこそが自分の受けるべき罰ならば。
ひとまず解放されたは、サウザーに言われた通り、黙々と風呂の支度を整えた。
一人で水を汲みに何往復もし、風呂釜を焚き付けるのは大変な作業だったが、『ジプシー・クイーン』としてもてはやされ、上げ膳据え膳の状態で居る時よりも、ただひたすら働いて身体を動かしている方が気分は余程楽だった。
「支度が出来ました。」
「うむ。」
支度が終わって私室に居るサウザーを呼びに行くと、サウザーはぞんざいな返事を返して部屋から出て来た。
は風呂場に向かうサウザーをそのまま何とはなしに見送っていたが、それに気付いたサウザーが足を止めて振り返った。
「何をしている。お前も来るのだ。」
「私も・・・・ですか?」
「当然だ。」
は思わず動揺した。
しかしサウザーは、そんなを不機嫌そうに睨み付けただけだった。
「何だその顔は?主の身を清めるのは、下女の当然の務めだ。」
「は、はい・・・・・・」
逆らう事など出来る筈もなく、は内心怯えながらも、大人しくサウザーの後をついて行った。
風呂場に着くと、サウザーは躊躇いもなく衣服を脱ぎ捨て、さっさと浴室の中に入っていった。
昨夜の事が思い起こされる。
嬲られ、犯され、堕落してしまった昨夜の事が。
そして今また、この密室の中で聖帝と二人きりになろうとしている。
「・・・・・・失礼致します・・・・・・」
は微かに声を震わせながら、靴下だけを脱ぎ服は着たままの状態で、おずおずと浴室に入った。
に背を向けて座り、湯を浴びていたサウザーは、顔だけを振り返らせて、黒いワンピース姿のままのを冷ややかに一瞥した。
「脱げ。全部だ。」
「っ・・・・・・」
一切の反論を許さないと言わんばかりの高圧的な眼差しに射抜かれ、は思わず硬直した。
そんなに、サウザーの視線が益々鋭く冷たく突き刺さる。
乱暴な口調で急かされたり脅されたりしている訳ではないのに、何故だろう。
彼の冷たく透き通った青い瞳に見据えられているだけで、逃げ場を塞がれ、追い詰められていくような気がする。
は覚束ない手付きでモタモタとワンピースを脱ぎ、下着を取り払った。
するとサウザーは、それ以上何を言うでもするでもなく、ただそれだけで納得したようにまた正面を向いた。
「失礼致します・・・・・・」
サウザーの背中に呟き掛けてから、は絞った手拭いで彼の隆々と逞しい肉体を恐る恐る擦り始めた。
その間、サウザーは身じろぎせず一言も発しなかったが、が後半身を洗い終えたところで、不意に口を開いた。
「お前を処刑するに当たって、お前は罪の告白をせねばならない。」
「罪の・・・・・・告白・・・・・・?」
「そうだ。これまでお前が起こしてきた『奇跡』のからくり、真相を全て白状しろ。」
ハッと気付いた時には、もう遅かった。
「・・・・・・・そして、聖人君子を騙った神をも恐れぬ大胆不敵な罪人として、愚民共の怒りと侮蔑の視線に、無惨な骸と成り果てたこの身を晒すのだ。」
「あっ・・・・・・!」
「・・・・・さあ、懺悔を始めろ。」
気付けばは、身体ごと振り返ったサウザーの腕の中に捕らえられていた。
「あぁ・・・・・・・・」
明るい陽光がさんさんと差し込む浴室の中で、は恥辱にうち震えていた。
まだ昼日中だというのに、脚を大きく開かれ、秘部をサウザーの指で弄られて。
身体を隠すものは何もなく、厭らしく湿った音も容赦なく耳に飛び込んで来る。
逃れたくても、サウザーに後ろからしっかりと抱きかかえられていて、身動き一つ満足に取れない。
「まずはそうだな・・・・・・、只の女がどうやって聖人君子になりすましたのか、その手口を聞かせて貰おうか。」
「い、言います・・・・、言いますから・・・・・・どうかおやめ下さ・・・」
処刑を己に課せられた罰として受け入れると決めたのだ。
その為に必要とあらば、こんな風に脅されずともこれまでの所業、『ジプシー・クイーン』の真実を包み隠さず明かすつもりである。
その事を分かって貰おうと、は必死でサウザーに懇願しようとした。
しかし。
「あぅっ!!」
不意に片脚を持ち上げられ、赤く充血した花芽を強く摘まれて、はビクンと身体を震わせた。
「これも罰だ。拒絶は許されんぞ。」
「あぁ・・・・・・・!」
サウザーは全く聞く耳を持ってはくれなかった。
に逆らう意思があろうがなかろうが、サウザーにとっては全く関係ないようだった。
「標的にする町を・・・・見つけると・・・・・っ・・・・、私達は・・・・、あっ・・・・・、バラバラに・・・・・そこに入り込みます・・・・・・・」
サウザーの手が、身体を縦横無尽に弄っている。
片方の手が胸の先を扱いたかと思うと、もう片方の手が花芽を捏ね繰り回す。
その刺激に翻弄され、言葉が切れ切れになりながらも、は告白を始めた。
「私は・・・・・・、占い師として・・・・・、そこで商売をする振りを・・・・・、そして、そこの住人を呼び止めて、偽の占いで・・・・、うっ・・・・、騙・・・・して・・・・」
「偽の占い?どんな占いだ?」
「不吉な暗示が・・・・出ていると・・・・・・、命に関わるような事故に遭うやも、と・・・・・あぁっ・・・・・!」
卑猥な音を立てて、サウザーの中指が蜜の泉に沈み込んだ。
「それから?」
「その人の後を・・・・・・、サモンがつけて・・・・・・・、頃合を見計らって・・・・・・、イドラに合図を送るのです・・・・・・。イドラは・・・・・、ぅっ・・・・・、その人の行く先に・・・・待機していて・・・・・・、『事故』を・・・・・、仕掛ける役目を・・・・・・ひっ・・・・・!」
「何故行く先が分かる?」
「初めに・・・・・、調べておくのです・・・・・・、その町の中での・・・・・、人の流れ方を・・・・・。それで・・・・・、人の歩いていく方向が・・・・・・決まっているような・・・・・予測し易い場所で占い・・・を・・・・・・・!」
「なるほど。そしてその予測した方向にあのウドの大木を潜ませ、『予期せぬ事故』を仕組むという訳か。」
「は・・・い・・・・・あっ・・・・・!」
根元まで入り込み、中を掻き回していたサウザーの指先が、より敏感な部分を探り当てた。
思わず力が抜けて、サウザーに寄りかかりそうになったのだが、サウザーは何も気付かなかったかのように緩慢な仕草で指を動かし続けている。
一瞬触れたポイントからも、すぐに離れてしまった。
「その後は?」
「イドラが・・・・・・仕掛けの合図を送ると・・・・・、サモンが・・・・・通行人を装って・・・・・助けに入ります・・・・・・。寸でのところで難を逃れたその人は・・・・・、私の占いを・・・・・・」
「すっかり信じ込む、か。最初から仕組まれていたとも知らずに。」
「あぅ・・・・・・・!」
身体の中を弄る指が、もう1本増やされた。
奥まで捻じ込まれた2本の指が、中を抉るように掻き回す。
「しかし、それだけでは『救いの女神』とまで大袈裟な触れ込みは出来まい?」
「仰る・・・・通りです・・・・・・。私の・・・・占いの評判が・・・・ある程度広まってから・・・・・、今度は・・・・・、んっ・・・・・、リュウキとオウコ・・・が・・・・・・」
「フン、今度はあの二人の出番か。」
「往来で・・・・・・、一人が・・・・・・倒れて・・・・・・、死んだ振りを・・・・・。そこで私が・・・・・、あの丸薬を飲ませて・・・・・・・」
「・・・・・なるほど。それが『奇跡』のからくりか。」
「んっ・・・・・・」
サウザーは突如指を引き抜き、を解放した。
責め苦から逃れられたは、荒くなっていた呼吸を整えてから、再び口を開いた。
「その光景を見ていた人は皆・・・・・、一様に驚きます・・・・・・。そこへゲンジョウが出て来て・・・・・・、人々に向かって私の事を・・・・・神より特別な力を授かった『ジプシー・クイーン』だと大声で触れ回るのです・・・・・・。更に人々の気持ちを煽り立てるように、リュウキとオウコが私の足元に跪き、私を『命の恩人だ、神そのものだ』と仰いで・・・・・・」
こうやって、一体どれだけの人々を騙してきただろうか。
一体どれだけの人々の心を弄んできただろうか。
今のこの荒れ狂う乱世の時代では、暴力が蔓延り物が不足して、誰もが傷付き飢えている。
医療機関はおろか満足な医薬品もなく、それどころか食料や水の確保にさえ四苦八苦する始末だ。
そんな中、なす術もなく死んでいかねばならない人々の、何と多い事か。
只でさえ何の夢も希望も見出せないこの世の中で、肩を寄せ合って生きてきた唯一の心の支えとも言うべき最愛の誰かを失わねばならない人々の、何と多い事か。
そんな彼等の、一縷の希望を見出したと言わんばかりの、縋りつくようなあの狂信的な眼差しの、何と恐ろしかった事か。
己の罪の、何と深い事か。
「・・・・・・種を明かせば、どうという事のない下らぬ小細工だ。実につまらん。」
「あっ・・・・!」
罪の重みを噛み締めていると、突然背中を押され、は浴室の床に腹這いになった。
かと思うと腰が浮き、秘裂に熱い塊が押し当てられる感触を覚えた。
「あ・・・、あぁっ・・・・・・!」
メリメリと身を裂いて分け入って来るものがサウザーの分身だと気付いた時には、もう逃げようもなかった。
腰を掴むサウザーの手は力強く、その怒張した分身は、さっき指で一瞬触れられたポイントだけを的確に強く激しく突いてくる。
は苦しげに眉根を寄せながら、その強烈な刺激に翻弄された。
「しかし、実際にはそれで多くの人間を手玉に取り、惑わせてきた。そうだな?」
「あうっ・・・・・、は・・・・い・・・っ・・・・!」
「力を持たぬウジ虫共の弱い心につけ込んで、欺き誑かして喜んでいたのだろう?」
「あぁ・・・・・・・!お許し・・・・・下さい・・・・・・!」
揺さぶられながら、は涙を零した。
身体に受ける衝撃よりも、心を貫くサウザーの言葉の方が辛かった。
瞼に浮かぶ、善良な人々の期待と希望に満ちた熱い眼差しの方が、をより酷く苛んでいた。
「何が奇跡だ。何が神より授かった特別な力だ。」
「あぐぅっ・・・・・!」
「神より特別な力を授かったのは、この俺だ。誰もこの俺を滅ぼす事は出来ん。この聖帝こそが神そのものなのだ。」
「ああぁっ・・・・・・!!」
「お前を断罪するのは・・・・・・、この俺だ・・・・・・・!」
「ぅあぁぁっ・・・・・・・・!」
サウザーが、身体の中で大きく弾けた。
彼が熱い飛沫を胎内に撒き散らしながら脈打つのを感じながら、は熱狂的に自分を崇め、縋り付いてくる、罪もない人々の視線の渦の中に引きずり込まれていった。