一瞬とも、永遠とも思えるような時間が過ぎて。
気が付けば、窓の外はもう闇に包まれていた。
嗚咽は既に止まっている。
だがそれでも、はシュウの腕から抜け出る事が出来なかった。
泣き明かしたのは、父が旅立った夜だけだった。
あとはこの二週間、父を弔い、成すべき事を黙々とこなしてきた。
冷たく暗い部屋で一人夜を明かす孤独も、すぐに慣れると自分に言い聞かせて。
だが、今はもう無理だった。
シュウの胸に抱かれた瞬間、張り詰めていた何かがぷつりと切れてしまった。
そして自覚したのだ。
父の死だけでなく、シュウとの事も、思っていた以上に自分を苛んでいたのだ、と。
本当はずっと、こうしてシュウに縋りたいと思っていたのだ、と。
それが分かった今はもう、胸が押し潰されるような、あの孤独な夜を耐える事など出来ない。
「・・・・シュウ」
「・・・・なんだ?」
「・・・・・お願い、側に居て・・・・」
今にも消え入りそうなの声が、シュウの胸を強く締め付けた。
「お願い・・・・、今夜だけで良いから・・・・・」
「・・・・」
腕の中で小さく震える肩を、突き飛ばす事など出来ようか。
孤独に苛まれている愛しき者を、どうして見捨てられようか。
そう思った瞬間、頭で考える前にまず身体が先に動いていた。
「側に居る。私がずっと、君の側に・・・・・」
頼りなげに揺れる瞳にそう誓い、冷えた身体を強く抱き締めて。
そして、唇を重ねていた。
寒々と冷えきった部屋の中で、しっかりと抱いてくれるシュウの腕だけが唯一の温もりだった。
身体にかかる重みが、言葉に尽くせぬ程の安心感を与えてくれる。
大きな身体に組み敷かれる息苦しさが、ふと遠い昔の事を思い出させた。
かつてまだ父が健在だった頃、一度だけこうして男の愛を受けた事があった。
その時はそれなりに真剣なつもりであったが、それは若さ故の好奇心、興味本位からの事だった。
何の自覚もなかったあの頃は、相手も自分も、『恋に恋する』という言葉通り、恋そのものに捉われていたのだ。
だが今は違う。
愛し愛されている事を実感出来る。
シュウはきっと、自分にとって特別な人間だ。
そしてそれは、亡き父も同じ思いだったのだろう。
だからこそ、彼に自分を託したのではないかと、そう思えてならない。
は、シュウの慈しむような口付けを、瞳を閉じて受け続けた。
「はっ・・・・ぁ・・・・」
甘い溜息が耳を擽る。
初めて聞くの甘い声、初めて触れるの柔らかな肌。
その全てが、男の本能を煽る。
だがそれ以上に、シュウはもどかしい程の愛しさに支配されていた。
「あ・・・ん・・・・・」
ほんの少し力を込めれば潰してしまいそうな程柔らかな膨らみを、出来得る限りの優しさでもって揉み、その先端を緩く吸い上げると、その行為に応えるように、が甘く鼻にかかるような声を上げた。
誰かを好きになれば、その者の声が聞きたくなる。笑顔が見たくなる。
そして、身体を重ねたいと思う。
それは理屈などでは説明出来ない、人としての自然な感情だ。
だが、こんな気持ちはかつて感じた事がない。
細い腕で頭をかき抱かれるだけで、胸が詰まりそうになる程の気持ちは。
「・・・・・・」
「シュウ・・・・・・」
睦言のように名を呼べば、うっとりとした声で応えてくれる。
その声に誘われるように、シュウは密着した身体の隙間から、の下腹部に手を伸ばした。
「あぁん・・・・」
柔らかい茂みの奥は、もう既に蜜で潤っていた。
組み敷いた身体はひんやりと冷たいのに、其処だけが熱いと感じられる程の熱を帯びている。
その花弁を割り開き、シュウは泉の中へ己の指を沈めた。
「あっ・・・・!」
シュウの長い指を受け入れた途端、の声が変わった。
先程までの夢見心地なものから、性的な興奮を含んだものへと。
それをもっと聞きたくて、シュウは付け根まで沈み込ませた指をゆっくりと動かし始めた。
「あんっ、あぁん・・・!シュ・・・ウ・・・・・」
体内で蠢くシュウの指が、を快楽の淵へと押し流していく。
次第に強まる快感に耐えきれず、はシュウの肩に縋りついた。
「あんっ!やっ・・・あ、はぁんッッ・・・・!」
抜き差しを繰り返す毎に、泉からは音を立てて蜜が零れ落ちる。
それが指のみならずシュウの手までを濡らす程になった頃、は身体を震わせて高みへと到達していた。
潤んだ瞳が、自分を欲して見上げてくる。
「、いいか・・・・?」
「ん・・・・、来て、シュウ・・・・」
誘われるまま、そして心の赴くまま、シュウは滑らかなの太腿を持ち上げた。
そして、開いた花弁の中心に昂りきった己を押し当て、そのままゆっくりと侵入を果たした。
「ああぅッ・・・!」
「っ・・・・・!」
は、背を仰け反らせてシュウを迎え入れた。
中は熱く蠢き、シュウを奥へ奥へと誘う。
その肉体的な快感と、己を受け入れるへの愛が、シュウの背筋を甘く痺れさせた。
「・・・・、愛している・・・・・」
「私も・・・・、愛してる・・・・・」
深く繋がり、身体全体で抱き合って、二人は睦言を交し合った。
それは官能に呑まれたせいではない、心からの言葉だった。
二人はもはや、互いを心から必要としている事を自覚していた。
「はァッ!あっ、あぁッ!」
「はっ・・・、はっ・・・・」
切なげなの嬌声が、シュウを奮い立たせる。
どうにも止まらない想いを、シュウは無我夢中でに刻み付けた。
激しくなる一方の律動が、シュウ自身の呼吸をも乱していく。
「あぁん、シュウ・・・・!」
涙を滲ませて喘ぐ。
シュウはその姿を、熱に浮かされたような瞳で見つめた。
掴んだ腰の、何と細い事か。
己を受け入れるこの身体は、自分に比べて何と頼りなげで華奢な事か。
守らなければならない。
この先に待ち受ける、どんな事からも。
「泣くな、・・・・。私が側に居る・・・・」
「本・・・当・・・・?」
「本当だ・・・・」
目尻に溜まった涙を拭ってくれる指が、堪らなく愛しい。
激しく、でも優しく、自分を抱くこの逞しい身体が、凍えて固まっていた心を温かく溶かしてくれる。
そう、本当はずっと分かっていた。
シュウは都合の良い嘘をつけるような人間ではないと。
いつだってシュウは、健やかな心で温かい手を差し伸べてくれていたのだから。
ただ、あの時はそれを信じられず、拒んでしまった。
だが今は違う。
心から、素直に信じられる。
「嬉・・・・し・・・・・、ぁ・・・、側に・・・居て・・・・、離さな・・・」
「離さない・・・・!」
「シュ・・・ウ・・・・!あ、あぁーーッ!」
喜びに震えたシュウの低い声が聞こえた瞬間、体内に穿たれた楔がより激しい律動を始めた。
そしてそのまま二人して絶頂の波に攫われるまで、飽く事なく互いを求め合った。
窓からは、薄らと霞のかかった月が放つ柔らかな光が入り込んでいる。
ふと横を見れば、は既に小さな寝息を立てていた。
「ふっ・・・・・」
安心しきったような、あどけない寝顔を晒すを、シュウは目を細めて見つめた。
心も身体も、こんなにも満たされていると感じたのは恐らく初めてだ。
「静かな夜だ・・・」
を起こさぬようにそっと身体を起こし、シュウはカーテンの隙間から窓の外を見つめた。
との新たな関係が始まった記念すべき夜の風景を、この目に焼き付けておきたかった。
ただ、それには絶対に片付けなければならない問題がある。
それも早急に。
今日は言えなかったが、明日にでも話さねばならないだろう。
きっと今のなら、信じてくれる筈だ。
― 明日、必ず・・・
の身体を胸に抱き入れ、その額に唇を押し当ててから、シュウは瞼を閉じた。