ベッドの上で散々汗をかいた後、レイとは浴室で身を清めていた。
シャワーや水道などはついておらず、バスタブに湯が張られただけの浴室だったが、それでも贅沢な方である。
は嬉々としてバスタブに浸かった。
「あぁ・・・、生き返るわ。」
「随分気持ちが良さそうだな。俺も入れてもらおうか。」
備え付けの粗末な石鹸で身体を洗い終えたレイがバスタブへ入ってきた。
一人では少しゆとりのあるバスタブでも、二人になると途端に狭くなる。
「狭いわ。もう少し詰めてちょうだい。」
「ではこうすれば良かろう。」
レイは、端に寄せられて窮屈そうに身を縮めているを、自分の膝の上に抱え上げた。
背中に当たる逞しい胸板の感触が心地良くて、はそのままレイにもたれかかった。
「ふぅ、ますますもって極楽ね・・・。」
「そうか。では遠慮せずにもっと寄り掛かれ。」
何かを思いついたように薄く笑い、レイはの身体をやんわりと抱き締めて更に引き寄せた。
そして、洗い髪をまとめ上げているせいで露出しているうなじにキスを降らせる。
「あん・・・、ふふっ、くすぐったいわ。」
「気にするな。」
「やっ、ん・・・・、ちょっと、止めてってば・・・」
身を捩るを逃がさないように徐々に腕に力を込めて、レイは焦らすような愛撫を加える。
肩・首筋・耳元と舌を這わせ、前に回している手で緩く胸を弄る。
はしばらく擽ったそうに笑っていたが、徐々にその動作に快感を感じ始め、小さく喘ぎ声を漏らす。
「ん・・・、ハァ・・・」
「どうした、くすぐったいんじゃなかったのか?」
「・・・・あっ・・・ん、もう・・・」
振り向いて顔を顰めてみても、薄く色づいた頬がひどく扇情的で、益々レイの劣情を煽るだけである。
僅かにポイントをずらしていた手は段々と核心を突き始める。
「やんっ、ふっ・・・、あぁ、ん・・・」
水面の揺れる音との艶声が、狭い浴室に木霊する。
密着する肌が情欲を昂らせる。
腰に当たるレイがどんどん硬度を増すのが分かり、その猛々しさに臆してぞくりと鳥肌が立つ。
レイもまた自らの限界を悟り、の腰を抱え上げて性急に押し入った。
「ああぅっ・・・・!」
一度で隙間なく全てを埋め込まれ、が苦しげに眉を寄せる。
自身を締め付けられる快感で漏れたレイの溜息がの耳に吹き込まれる。
「あんっ!」
肩を竦ませて震えるをしっかりと抱き、レイは緩やかにその身体を上下させた。
動くこともままならない為、はレイの力のままに中を抉られる。
「やっ!うっく、んんっ、はっ、あっっ!!」
狭いバスタブに居るせいでの両脚はほとんど開いておらず、少し強すぎるぐらい自身を締め付けられ、レイは顔を顰める。
「、もう少し脚を開け・・・!」
「あっ!無理、よ・・・、んあぁっ!」
「ちっ、仕方ない・・・・」
レイはを抱えたまま立ち上がった。
その勢いでまだ届いていなかった奥まで貫かれ、は一際高く鋭い声を上げる。
レイはの上半身をバスタブの縁に預けると、柔らかな曲線を描く腰を掴んで激しく律動を始めた。
「あん!あん!あぁっん!!」
突き上げられるリズムに合わせてが甘い悲鳴を上げる。
腰のぶつかり合う音が大きく鳴り響き、行為の激しさを物語っている。
快楽の熱と湯の熱が二人を昂ぶらせる。
「あんっ、あっあっ!やぁっ・・・、おかしく・・・、なりそ・・・」
「ああ・・・、俺も、だ・・・!」
「はぁっ、ん、あっ、も、ダメ・・・、ああーー!!」
「くっ!」
火照った身体の奥に熱い飛沫を感じ、は最後の悲鳴を上げると同時に意識を手放した。
誰かが私を抱いている。
誰?
ああそうか、レイだ。
この力強くて優しい腕は、彼の腕だ。
何故だろう、この腕の中はひどく安心できる。
全てを預けたくなる。
「・・・・ぇーーん、うえーーーん」
「うわーーん・・・」
誰?
誰が泣いてるの?
「お姉ちゃーん、お姉ちゃーーん・・・」
「助けてよーー、お姉ちゃーーん!」
リク?カイ?
どこにいるの?
返事をして!
「、助けておくれ・・・!」
「助けて、・・・!」
お父さん、お母さん!?
どこにいるの!?
待って、すぐ行くから!
すぐ助けに行くから!!
レイ、レイどいて!
お父さんとお母さんを助けなきゃ!
リクとカイも助けなきゃ!
お願い早くどいて・・・!!
「、全くお前はいつ見てもいい女だ・・・。」
ゲイン!?
なんで・・・
レイは、レイは何処!?
やめて、離して!
助けてレイ、助けて・・・・!!
「おい、起きろ!おい!!」
「はっ!!」
目を開けると、レイが顔を覗き込んでいた。
確か浴室に居たはずなのに景色が違う。
一瞬自分が何処にいるか分からなくなり、はぼんやりと部屋を見回した。
どうやらここはベッドらしい。
浴室で気を失った後、レイが運んでくれたのだろう。
「大丈夫か。随分うなされていたぞ。」
「そう・・・・」
「怖い夢でも見たのか?」
レイはベッドから出てグラスに水を注ぎ、に差し出した。
は力なく上半身を起こしてそれを受け取り、一気に飲み干す。
「ふぅ・・・・、おいしい。」
「落ち着いたか。悪かったな。まさか失神するとは思わなかった。」
「あぁ、別にいいわよ。上せただけだから・・・」
「どうした、そんなに恐ろしい夢だったのか?」
額を押さえて溜息をつくに、レイは浴室にあった乾布を差し出した。
「ありがと。」
「うわ言を言っていたぞ。」
「そう。」
受け取った布で額に浮かんだ汗を拭うを見つめて、レイはかねてからの疑問をぶつけた。
「、お前は何の目的があって俺について来るんだ?」
「何のって・・・、別に目的なんて何もないわ。」
「お前、涙ぐみながら家族を呼んでいたぞ。本当は家族が待っているんじゃないのか?」
が俺の事には色々と首を突っ込むくせに自分の事を殆ど何も語らないのは、以前から疑問には感じていた。
だが単に気の強い女なのだろうと思っていた。
男慣れしていて面倒な事もないから、特に詮索するつもりもなかった。
だが、うなされて家族の名を悲痛に呟くの姿を見て、何か事情があるように思えた。
もし一人でも家族がいるのなら、そこへ帰るべきだ。
それがにとっても、待つ者にとっても一番の幸せのはずなのだから。
今まで特に何も詮索してこなかったレイが、真摯な眼差しで問い質してくる。
言ったところでどうになるものでもないから口にするつもりはなかったが、自分を見るレイの目が余りにも情深く、はその眼差しに誘われるように口を開いた。
「・・・いないわ。いるならとっくに帰ってる。言ったでしょ、私には行く所なんてないって。」
「ではお前の家族は・・・」
「殺されたわ。私以外全員。私の目の前で。」
「そうか・・・。悪い事を聞いたな。」
「いいのよ。もう済んだ事だもの。」
「よもやお前はその相手を探す為に・・・・」
「その必要はないわ。仇ならもういないもの。」
「どういう事だ?」
「あなたが私の仇を討ってくれたのよ。」
「何?まさかゲインの事か!?」
「そうよ。」
「なるほど、そういう事か。では恩返しのつもりか?」
「そうね。そうかも知れない。」
「かも知れない、か。」
「ええ。さあ、もう寝ましょ。明日もやる事があるんだから。」
普段通りの快活な口調に戻ったに、レイは薄く微笑みを浮かべて『そうだな』と相槌を打った。
はレイを待たずにベッドに潜り込んで瞳を閉じる。
レイはあっさりとしたその態度に苦笑しながら部屋の明かりを消し、の隣に横たわった。
そしてを胸に抱き寄せて目を閉じた。
驚いたが目を開く。
「・・・どうしたの?」
「別に理由などない。たまにはいいだろう。」
「ふふっ、そうね・・・」
目を閉じたまま普段と同じ口調で返答するレイ。
その仕草が何となく可笑しくて、でも嬉しくて、は小さく笑って再び瞳を閉じた。
恐る恐るそっとその胸に頬を寄せてみると、レイがより強く抱き締め返してきた。
こんな風に誰かの温もりを感じて眠るのは初めてで、くすぐったくそれでいて切ない気分になる。
はその温かさに包まれてふわふわと眠りに落ちて行った。