「着いたぞ。」
「こんな村があったなんて・・・・」
目立たない場所にバイクを停めた二人は、村の入口に向かって歩いていた。
「まずは聞き込みね。」
「そうだな。」
「何か手がかりはないの?妹さんの特徴は?」
「淡紅色の長い髪をした、大人しい女だ。」
「他には?」
「アイリを連れ去った男は、胸に七つの傷があるはずだ。」
「胸に七つの傷?」
は足を止めてレイの言葉を繰り返した。
「ああ。父が息絶える前にそれだけを言い残した。」
「そう・・・。でもそんな特徴があるなら、男の方は誰か知ってる人がいるかもしれないわね。」
「だといいがな。行くぞ。」
その村は、小さいながらも市や宿などがあり、なかなか活気づいていた。
二人は村の外れの一角を待ち合わせ場所に決めると、各々情報を集めるべく二手に別れた。
「おばあさん、アイリという女の人を知らない?淡紅色の長い髪の、大人しそうな人なんだけど。」
「アイリ?知らないねぇ。」
「じゃあ胸に七つの傷のある男は?」
「さぁ、見かけないねぇ。」
「そう・・・、ありがとう。」
露店で林檎を磨いていた老女に礼を言い、は溜息をついた。
聞き込みを始めてからしばらく経つが、一向に目ぼしい情報は手に入らない。
自分の調べ方が悪いのだろうか?
それとも、この村自体が見当外れだったのだろうか?
レイの方はどうなっているのだろう、何か手掛かりを得ることは出来たのだろうか・・・。
一方、レイの方もと同様、大した情報を得られないまま、待ち合わせ場所とは対極に位置する村の外れまで差し掛かっていた。
「やはりこの村ではないのか・・・、ん?あれは・・・」
レイは建物の陰に身を潜めた。
向こうから一台のトラックが走って来る。
トラックは村の手前に停まり、中から男が2人と女が2人出て来た。
「着いたぜ、今日からお前らはここで働くんだ。」
「いい所だぜ〜、キレイな服着て酒飲んで踊って、毎日楽しいぜ〜?」
「嫌ぁ!離して!!」
「お願いです!家へ帰して下さい!」
男達は野盗上がりのような風情をしており、愉しそうに嫌がる女達の腕を掴んで引き摺って行く。
もしかすると、この連中が何か知っているかも知れない。
レイは男達の前に立ちはだかった。
「お前達に聞きたいことがある。」
「何だぁ?テメェは?」
「アイリという女を知らんか?」
「何で俺達がそんな事答えなきゃならねぇんだ、どけコラ!」
男達は拳を振りかざしてレイに襲い掛かった。
しかしレイは男達の拳を難なくかわし、反対にその腕を捻り上げた。
「イテっ!イテテテっっ!!は、離せ、離してくれ〜!!」
「どうだ、答える気になったか?」
「し、知らねぇ!そんな女は知らねぇ!!」
「嘘をつくと為にならんぞ。」
「本当だ!本当に知らねぇんだ!!」
「そうか、なら胸に七つの傷を持つ男はどうだ?」
「知らねぇ!女も男も知らねぇよ!!だから離してくれ〜〜!!!」
この男達はどうやら本当に知らないらしい。
「おい女。お前達はどうだ?」
「し、知りません・・・・」
「・・・・フン、ならとっとと失せろ。逃げるなら今のうちだぞ。」
レイは村の出口の方へ顎をしゃくった。
青ざめて震えていた女達は、それをきっかけに一目散に外へ駆け出して行った。
女達が出て行ったのを見計らって、レイは男達を解放してやった。
「ちっくしょーー!覚えてやがれ!!!」
男達は悪態を吐きながら走り去っていった。
「大した収穫はなし、か。」
その頃、は一軒の酒場にいた。
まだ昼間のせいか、客はまばらでひっそりとしている。
カウンター席に腰掛けたに、店主らしき中年の男が話しかけてきた。
「あんた、見ねぇ顔だな。」
「ええ、ここは初めてなの。」
「そうかい。じゃあこいつは奢りだ。」
店主は酒のグラスを差し出してきた。
「ありがとう。随分サービスがいいのね。」
「あんたみてぇな器量良しには特別だ。」
「あら、お上手。」
「なあ、あんた、いい話があるんだけどよ、ちょっと聞かねぇか?」
「なぁに?」
いやに調子がいいと思ったら、何やらきな臭くなってきた。
は店主の話に耳を傾けてみた。
「ここの踊り子にならねぇか?」
「踊り子?」
「ああ。住む場所も食い物にも不自由させねえぜ。どうだい、いい話だろう?」
「そうねぇ・・・・」
は考える振りをして、探りを入れてみた。
「そういう娘、結構いるの?」
「ああ、大勢いるぜ。みんな楽しそうにやってくれてる。何も怖いこたねぇよ。安心しな。」
「その割には見かけないわね。」
「今は昼だからさ。昼は客も少ねぇし、踊り子達に出てきてもらうのは夜だ。夜になりゃ20人からの女達がいるぜ。」
「そんなに沢山・・・・」
「どうだい、やらねぇか?」
店主はの手を取り、ニヤリと笑いかけてくる。
どうやらこれ以上は危険そうだ。
「そうね、少し考えさせてもらうわ。」
は店主の手をほどき、席を立った。
そして引き止められる前に足早に立ち去る。
去り際に顔を顰めた男が二人、腕をさすりながら入って来たが、一刻も早くこの場から立ち去ることで頭が一杯だったは、大して気にも留めずに彼らの横を通り過ぎた。
「どうだった?」
待ち合わせ場所に到着するやいなや、は先に来ていたレイに早速状況を尋ねた。
「大した収穫はない。妙な輩を二人ほど締め上げてみたが、何も知らないようだった。そっちはどうだ?」
「こっちも同じよ。強いて言うなら、酒場の店主が少々胡散臭い感じだったけど。」
「酒場?」
「ええ。いやに気前がいいと思ったら、踊り子にならないかって話を持ち掛けられたわ。」
「踊り子?じゃああの女達はひょっとすると・・・酒場の話を詳しく聞かせろ。」
は、酒場での一部始終を話した。
「村の外れで男達に無理矢理連れて来られた女達を逃がした。もしあの女達の行き先がその酒場だったなら・・・」
「あの酒場の踊り子達は自主的に来てるんじゃなくて、どこかから攫われて来たってこと?」
「その可能性は十分にある。」
「私、酒場に潜り込んでみる。」
「何!?」
レイはの突拍子もない発言に驚いた。
何の心得もない只の女が、危険そうな場所に単身乗り込むというのだから。
しかしは何とも淡々とした調子で話を続ける。
「かなりの数の女がいるみたいだし、もしかしたらあなたの妹さんもそこに混じってるかもしれないじゃない。」
「ううむ・・・・」
「もしいなくても、何か手掛かりが見つかるかもしれないでしょ。行ってみる価値はあると思うわ。」
確かにの言う通りだ。
探りを入れる価値はあるだろう。
しかしきな臭い場所にはそれなりの危険が伴う。
「しかし・・・、お前一人でか?」
「あら、あなたも一緒に踊り子になりたい?」
「なっ!?バカなことを言うな!」
「でしょ?だからここは私に任せて。こういう役は男には務まらないわよ。」
不覚にも狼狽してしまった自分に流し目で笑いかけるに、レイは溜息をついた。
― 全く、女というのは・・・・。
「どこの酒場だ、俺も客の振りをして潜り込もう。」
「そうね。案内するわ。」