About Chibi〜発病その3〜 ちび がんばれ!!
 




春になり、気候はだんだんと良くなってくる。
けれどちびの状態はそれに反して少しずつ、少しずつ悪くなっていく。

先生からちびの腎臓病にはお薬がない、と言われ、ペレット(腎臓病食)でちびの自己治癒力を助けてやることしか手段はない、と告げられた。けれどちびはペレットは食べてくれない。ひょっとしたら・・・と僅かな望みをかけてペレットをすり鉢で擂り、細かくしたものをプラケースに撒いておく。
その頃にはちびもプラケースでの窮屈な生活にも慣れ、そのせいか以前にも増して随分と寂しがり屋さんになっていた。
暖かい部屋で少し自由な気分を味あわせてやりたい、とケースからだす。するとすぐに私の肩に乗る。私がちょっと用事をしに行こうと「ちびちゃん、ちょっと待っててね、すぐに戻って来るから、ここで待っててね。」と他の場所にとまらせる。そして部屋を出て行こうと立ち上がると、慌てて肩の上に飛んでくる。
「大丈夫。すぐに戻って来るから・・・。」と何度言い聞かせてもダメ。ちびは少しでも私から離れまいと必死で私の傍にいたがる。
どうしてちびはこんな目に合わなければいけなかったんだろう・・・。

その頃からちびの体重を毎日計るようになった。
5月14日 31g。
決して悪い数字ではないが、この状況を考えると安心できる数字でもない。

それから毎日 体重測定、朝晩の混合サツマイモの強制給餌。
そして事態は好転せぬまま夏を迎えた。
ちびの住まいもプラケースからハムスター用の小さめのケージに変わった。

ちびの調子の良さそうな日は短い時間(10分から15分くらい)ではあるけれども他の子たちと放鳥もした。
やはり他の子たちに比べると明らかに動きは鈍い。けれど、あの狭いケージにいる時とは大違い。生き生きとしてぴーすけに話しかけたりしている。よかった、ちびはまだ生きられる・・・。
ある日、ちびのお尻を見るとカサカサに荒れていた。ちびは多尿便のためお尻の羽毛が汚れ、それを嫌いその辺りの羽毛を自分で抜いてしまっていたので総排泄腔の周りには何も生えていなかった。その週の定期健診で先生に告げると、
「多尿便でお尻が荒れてきたのかもしれない・・・。ベビーオイルを少しお湯で薄めて、そっと荒れている部分を拭いてあげてみてください。ただし、ベビーオイルといっても肌に合う、合わないがあるので気をつけて・・・。」
とのことだった。
早速、無香性のベビーオイルを買ってきて先生が言われた通りお湯で薄めて、恐る恐るちびのお尻をコットンでそっと拭った。カサカサしていたところに油分がしみ込み、見た目にはキレイになった。しばらくはベビーオイルがちびの肌に合うか合わないかのチェックを続けた。どうやら大丈夫そう・・・。
私の朝の作業に<ベビーオイルお尻拭き>も加わった。
そして夏の終わり頃。
ちびの体重が少しずつ増え始めた。
私は単純に「ちびは食欲が出てきたんだ・・・」と喜んでいた。
でもただ1つ気になっていたのはちびが春に比べると飛べなくなっていたこと・・・・・。

9月17日 35g。
その週の検診で先生にこんなにも体重が増えました!と報告するつもりで診察していただくと、
「あれ?ちびちゃん、こんなにお腹が膨らんでたっけ?ちょと待って・・・・・。」
と深刻な顔をされ、ペンライトみたいなものでちびのすっかりハゲてしまったお腹からお尻を明かりで透かして見られた。
「これは・・・・・腹水がたまってるみたい・・・・・。おそらく体重の増加は腹水の量のせいじゃないかな・・・」
えっ・・・?腹水?それじゃ悪くなってるってこと?ちびはこんなにがんばってるのにどうして・・・・・どうして・・・・・?
「これ以上、腹水がたまってくると息がしづらくなります。全身で息をするようになってきます。腹水を注射器で抜く方法もあります。そうすると多少息はしやすくなります。が私はそれはあまりお勧めできません。腹水を抜いたところでそれは一時的なものだし、すぐにまた元に戻ってしまいます。そして腹水にも栄養分は含まれています。その栄養分を今、ちびちゃんから抜いてしまうのはどうか・・・。それに急に腹水を抜くと血圧が下がってかえってリスクが大きくなってしまいます。」

私は結局、先生のおっしゃるように“腹水を抜く”というその場しのぎの処置はちびを痛い目に合わせるだけと判断し、しなかった。現状が少しでもよくなりますように・・・、と神様にお願いすることしかなかった。
それからもちびは闘病のため小さなケージの中、無理矢理の強制給餌等でストレスだらけの日々を送った。今もそれを思うといたたまれない・・・。
そして頻繁に下血が見られた。病院での尿検査で目では確認できなくても出血している反応がでていることはわかっていたが、実際にペットシーツに点々と赤い斑点を見つけると心配で心配でならない。この小さな病床の体で1滴の血がどれほどのダメージにつながるか・・・・・、考えれば考えるほど私は冷静な判断を失い、何度も病院へ電話をして先生に連絡をとっていた。先生の方も私の気持ち、精神状態を汲んでくださり丁寧に応対してくださった。

10月14日 夕方。
ちびをみるとまったく元気がない。いつもの定位置であるごはん入れのふちにとまって苦しそうに目を閉じて息をしている。
ちび、どうしたの?
翌朝も出血が確認できた。急いで病院へちびを連れて駆け込む。前日、先生には連絡をとっていたので先生も状況はよくわかっておられた。
「明日まで入院して酸素室に入ってもらって、少しでも楽に呼吸ができるようにしましょうか・・・。」
私はちびを<少しでも楽にしてやりたい>一身で病院へ預けて帰った。どうかまた少しでも元気になって家に戻ってこれますように・・・。
翌日、迎えにいった。また前のようにプラケースのなかでごそごそと動き回るちびに逢える、と願い診察室へ入った。
すると・・・・・
ちびは昨日とあまり変わりなかった。先生もいつもと違ってうかない顔・・・・・。そのときの先生にはすべてわかっていらしたのだろう。ちびがもうあまり永くないことを・・・・・。
「昨日から酸素室に入ってもらって、少しご飯も食べているようですよ・・・。」
私はちびを家に連れて帰った。
けれど今度の退院は違う。
ちびは相変わらず辛そう・・・。
私の強制給餌も以前なら文句を言いながらも少しは食べてくれたのに、もう文句も言わない。口も開けようとしない。
ただただ、じっと辛そうにしてるだけ。
私はあまりにも可哀想になり、いつもなら3mlの強制給餌もその3分の1の量の1mlもちびにがんばって食べさせることはできなかった。
私はなんだかんだ言ってもちびはずーっと一緒にいてくれると思っていた。病鳥になってもこうして私のそばにいてくれると何の根拠もなくただ子供がそう信じるように思っていた。
でもちびとのお別れがそう遠くはないことを頭の中では感づき始めていた。

そして最期の日・・・・・。
                                                                                                    

 
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