About Chibi〜永遠の別れ〜 | ちび よくがんばりました・・・・・ |
10月17日木曜日。
私の心に深く刻み込まれた日。
いつかは必ずお別れの日がやってくることを、出逢った時から覚悟していた。充分に分かっていた。
けれどその日が「今日」であるとは気づかなかった。
もし、気づいていたら私はどうしただろう。
はっきりしていることは、仕事などには行かず、ずっと片時も離れずちびの傍にいた。
それからどうしただろう。
強制給餌や窮屈なプラケースから解き放ち、心ゆくまで他の子たちと放鳥させたり、肩に乗せたり、ちびのしたいようにさせていただろうか。
いや往生際の悪い私は、今日が最後の日だ、と知っていてもきっと、1分、1秒でも生きて私の傍にいてほしい、と切望し悪あがきをしただろう。
朝、やはりプラケースの中でちびは目を閉じ、じっとご飯入れのふちにとまり苦しそうにしていた。
私は心を家に残したまま母にちびを託して、いつもと同じ時間に仕事に出かけた。
夕方、携帯電話が鳴った。沈痛な母の声が聞こえる。
「ちび、ずいぶん悪いから・・・・・。早く帰ってきてあげてね。」
母は日頃、インコたちのことは可愛がってくれていたが、私ほどの密な世話はしていない。その母が“状態が悪い”ということは相当である。
再び頭の中が真っ白になる。
そんな中でも今日が最後の日だと思えない。
急いで家に戻る。
すると本当に辛そうにヨロヨロとちびがいた。自分から水を飲んだ。そして全身の力を振り絞り、ペットヒーターによじ登って「ここから出して・・・」と訴えた。
今考えるとこれが本当に最後の私へのお願い事だった。
なのにあろうことは私はそのちびの願いをきいてやるどころか、
まだまだちびは生きれる・・・
と信じ、いつものように蒸しサツマイモと食欲増進剤、ビタミンKをミックスさせたペーストを作り、注射器のポンプに入れ、ちびを抱えて食べさせようとする。
が、ちびは無言のまま悲しそうな目をして拒否をする。
ダメだよ・・・食べなくちゃ。ねぇ、食べてよ、食べなくちゃダメだよ・・・・・。
最後の頼みの綱である病院の先生のもとへ連絡を入れる。
助けて!!先生、ちびを助けて、私を助けて!!
できるだけ落ち着いて詳しい状況を先生に報告する。そして先生は静かにそして優しくおっしゃった。
「ちびちゃんは今夜がヤマだと思います。こちらに連れてきてはストレスを与えるだけ可哀想・・・。それよりもお家にそのままいさせてあげて。私のできることはちびちゃんが少しでも楽になるよう、酸素吸入器のボンベをお貸しするくらい。」
私はちびの傍を離れることができなかったので、両親にたのんで車で30分ほど離れた病院へボンベを拝借しに行ってもらった。
それでもまだ私はちびへの希望を捨てていなかった。
ちびのプラケースを掃除し、新しい水・ごはん・ボレー粉に換え、ペットシーツもキレイな物を敷いた。
そして他の子たちのケージの掃除も手早く済ませ、ボンベの到着を今か、今かと待った。
ボンベ到着。
大きな大きな、20kgくらいもある医療用のボンベ。
先生の指示通りチューブをプラケースの隅から中へ入れ、蓋の半分をラップでふさぎ、酸素が無駄に外へ出て行かないようにした。
するとちびは驚いたようで少し慌てて飛び跳ねた。が、すぐにまた大人しくなった。
これでもう安心・・・。今夜はこれで乗り切れる・・・。
そう思った矢先、ちびが立っていられなくなった。気が遠くなるのかコロン、コロンと右に左に倒れるようになった。
ちび・・・ちび・・・。
その時になって初めて私は「お別れしなければいけないのかもしれない・・・」と気づいた。
何度も何度も転んでは、ハッとして起き上がる。
自然に、ごく自然に私はそんなちびに話しかける。
「ちび・・・もういいよ。充分にがんばったね。もうネンネしなさい・・・。ゆっくりとネンネしなさい。」
しばらくしてちびはプラケースの角に体を安定させるためか、押し付けた。
私と母はそんなちびを見守りながら、ちびの小さかった頃の、お転婆娘だった頃の話をした。
ふと気づくとちびが呼吸をしていない。
夜9時20分。
まるで私が最後のお別れの言葉が言えるようになったのを確認しそして安心したかのように、静かにまるで眠るように天使となり、お星様になった。
ちびの亡骸をそっと大事に手の中で抱きしめ、そっとそっと姿を整えた。
「ちび、えらかったね。よく頑張ってくれたね。ありがとう。本当にありがとう・・・・・。」
何度も何度も褒め、そして優しく撫で、キスをした。
その夜は5年振りくらいでちびと一緒に私のベットで寝た。
中ヒナくらいの時期はときどきぴーすけとちびと私の3人で、少しの時間だけれどお昼寝をしたものだった。
うっすらと夜が明ける頃、またちびの姿を整えた。
この可愛い顔、この柔らかい感触、このちびの匂い、この綺麗な色合い、このかわいい足・・・全てみんな、細かいところまで目に焼き付けておきたかった。決して忘れたくなかった。
そして夜が明けた直後、母と庭の金木犀の木の元へちびを葬った。
ちびを手から離すとき、身を切られそうな思いで気が狂いそうになる。
いやだ!!やっぱりいやだ!!ちびを手放したくない!!
葬った箇所を掘り返し、またちびに逢いたいと何度も思った。
いまでもその衝動にかられる。
金木犀はちびの花。
いつもそこで私たちをずっと見守っていてくれる・・・。
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