細気管支炎A

 ゆーさくは細気管支炎を起こし、咳き込みが続き舌根沈下を起こし容態が悪化。
 徐々に弱っていくゆーさくを見ていたかあちゃんは、思わず主治医の顔を見た。
 主治医は、処置を考え込んでいた。
 しかし、「よし!」と何かを決め、立ち上がった。
 「挿管します」といい、NICUにある子供用の挿管セットを取りにいった。
 すぐ戻ってきて、主治医はゆーさくに挿管を始める。
 
 主治医がゆーさくを仰向けに寝かせ、ゆーさくの顎を上げて、口に道具をいれる。
 ゆーさくの口をあけさせたままの状態で、主治医は声帯の位置を確認し、気道確保のための気管チューブをゆーさくの気道に挿管する。
 当直の先生はゆーさくの体が動かないように支え、主治医のサポートをしていた。
 かあちゃんは、鳴り捲るサチュレーションのアラーム音を消音ボタンで定期的に消しながら、ゆーさくの足元で挿管の様子を見守っていた。
 咳によりゆーさくの体が揺れながらの挿管で、主治医はスムーズにできなかったようで、ゆーさくは少し口を切ってしまったが、無事に挿管が終わる、
 ゆーさくの口から出る少量の出血を吹きながら、主治医は「申し訳ない。どんな小さな未熟児でも挿管できる僕としたことが・・・」と少し苦笑いをする。
 かあちゃんは挿管が終わり、ほっとする。
 とりあえずは、一段落したのである。

 その後、持続ネブライザー(一日中持続的に霧状の吸入薬をゆーさくに吸わせさせ続ける)が準備され、酸素も加えつつ、ゆーさくの挿管した管に繋げられた。
 細気管支炎の治療開始である。
 前回、挿管したときもそうだったのだが、ゆーさくの挿管している管に酷く拒絶反応を起こす。
 よって、咳込む力は元に戻ったものの、咳そのものはずっと続いた。
 しかし、ゆーさくのサチュレーションや顔色は戻ってきた。
 ここで、ふとかあちゃんは窓の外を見た。
 12月の夜空はいつの間にか明るくなってきていた。

 とうちゃんが戻ってきた。
 「また、挿管したんかっ!」とうちゃんは、再び挿管した我が子の姿を見て、がっくりしていた。
 気管切開に反対をしていたとうちゃんが、ぽろっと「やっぱり気管切開をしないとだめなんだなあ」とため息をついた。
 しかし、とうちゃんはかあちゃんに「ところでお前、挿管しているときどうしてたんや?」と聞く。
 かあちゃんは「横でアラームの音を消しながら見てた。ER(救急医療系TVドラマ)と同じ光景やったわ。TV見てる感じやった。○○先生カッコよかったで」とあっけらかんと答える。
 とうちゃんはびっくりして「えっ?お前、冷静に現場を見てたんか!信じられん!強いなあ、本当に。俺にはできない」と言う。
 不謹慎な話なのだけど、とうちゃんとかあちゃんはここで緊張がゆるむ。
 お互い、少し笑ってしまった。

 さて、挿管して細気管支炎の治療を始めたゆーさくなのであったが、喉に管という異物があることに対する咳反射で、昼夜関係なく酷く咳き込み続け、痰も噴水のようにあふれでてきて、頻回の吸引が必要であった。
 当時、気管挿管内の痰の吸引は、家族は出来ず、看護師さんに頼まないといけない。
 担当看護師さんは、ゆーさくにつっききり状態で、ゆーさくの痰の吸引の合間に他の患者さんの世話や仕事をするような感じであった。
 かあちゃんは、ずっとゆーさくに付き添いしていたのだが、昼も夜も殆ど寝れない。
 しかし”2.3日の辛抱だ”と思い、ただ時間が過ぎると共にゆーさくが挿管の管になれるのを見守っていたのであった。

 ところが、その日の昼のことだった。。


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