アイルランド旅行記その14


 

 やれやれ、ようやく書くのにくたびれて終わってくれたぞと胸をなで下ろ
していた方も多かったでしょうが、そうは問屋が降ろさない。忙しくなって、
間が空きましたが、ダンレアリからイギリスはウェールズ、ホーリーヘッド
へフェリーで着くまではなんとしてでも書きます。カクゴしろ。

 キラーニーサイクリングの巻です。
この日は、自転車に乗った日としては初めての好天で、雨に怯えなかった唯一
の一日でした。キラーニーの町外れに、セントメアリーカセドラルという美し
い教会があります。このはずれから、国立公園が始まります。公園は奥が深く
て、やがてはリング・オブ・ケリーにつながるのですが、そこまでいかずとも、
ダンローの渓谷とか古城、お館、滝など「アイルランド」ブランドの観光地は
いっぱいあります。自転車一日コースとして、妥当かなと思うところを選んで、
ロス城、マクロス・ハウス&ガーデン、トークの滝を回ることにしました。こ
の地帯には三つの湖があり、細い流れで連なっていて、UPPER LAKE, MIDDLE
LAKE, LOWER LAKE と呼ばれ、MIDDLE とLOWER の湖の間をつなぐ流れはMEETING
OF THE WATER といっています。(芸のない命名だともいえる)アイルランドの
湖はスコットランドと一緒でロッホというのですが、細長い形のものが多く、こ
ういう風に三つくらいが連なっているものが多い。湖の中に小島が浮かぶという
風景もよく見かけます。ここ、LOWER LAKEの真ん中に浮かぶのはイニシュフォー
ルン島。
 さて、ロス城へいく道を走り出しました。緩やかな上り下りはありますが、よ
く舗装された散歩道(自転車・観光馬車・歩行者のみ)で、真っ黒な牛が草をは
む牧場の中をうねうねと続きます。馬の落とし物が多いのが難点です。しかもこ
れにカラスのどう猛な大群がたかっているのは何を食べているのやら。道の両側
にはリンデンやオークの大木が並び、真っ青に晴れた(希少価値の)空に朝風が
心地よく、いい調子です。やがて道は林の中に入り、水量豊かな小川のほとりを
辿ることになります。水辺には羊歯の茂み、フウロソウのかすかなピンクの花が
点々と星のように咲いていて、道に木漏れ日の影を作るのはイチイ、松、はしば
み、ヒイラギ。イチイの木には赤い実がなっています。(毒なんですよね、あれ
は。クリスティーの推理小説で、これで人を殺すというのがある。)はしばみに
もまだ未熟な緑の実がついています。薄暗い林の合間にときどき見えるのは、
LOWER LAKEです。
 やがて人通りが多くなってきて13世紀の城、ロス城に到着です。外側はライム
ストーンで、白っぽい灰茶色、内側は漆喰で白塗り。イギリスやアイルランドの
キャッスルはフランスのシャトーと違って、居住空間というより、砦なので、ごく簡
素でディフェンスを考えた構造です。ガイドのお兄さんのいうことが情けなくも1/3
くらいしかわからないのですが、それでも雨水の排水を考えた窓の構造とか、漆喰の
白さは外光を最大限取り入れるためだとか、長弓を射る縦長の窓、ホールの真上にあ
って侵入した敵に煮え湯とか煮え鉛をぶっかけるというMURDER HOLE 、螺旋階段はな
ぜあの向きに曲がっているのか(のぼってゆく侵入者にとっては右手が使いにくく、
おりてくる守備側にとっては右手が大きく使える空間があるようになっているのだそ
うだ)等、けっこうおべんきょうになりました。城は湖に面していて見晴らしは抜群
です。ボートでイニシュフォールンへも行けるようです。
 それにしても、入り口、階段の狭いこと。当時の人は今よりずっと小柄だったらし
いですね。太ったスコットランド人のおじさんが苦労してました。
 城を出てから、岬の先端へ出てそれから街道を国道71に出ます。しばらく暑苦しく
埃っぽい国道を、車に追い抜かされつつ、我慢して走ります。がんがん日差しが照りつ
け始め、結構辛い6キロ。また林の中の道には行ってホッとするとそこはマクロスハウ
ス&ガーデンという19世紀の貴族の館と庭園で、裏に拡がるのはMIDDLE LAKE>というわ
けです。当主ヘンリー・ヒューバートどのがしとめた鹿の頭がるいるいと壁を飾るお屋
敷を見物。典型的な沈床花壇のある庭園をまわりました。(造庭技術はイギリスの方が
上ですね。)
 この先、右手にLOWER LAKE、左手にMIDDLE LAKEを見ながら、頼りにならないアバウト
な地図に危惧を感じつつ、MEETING OF THE WATERを目指してまた出発。あまりひとけが
ありませんが、別にこわいこともありません。森の中の道で、赤紫にヒースの花が咲い
ています。少し山道を二、三キロ行くと右手と左手の湖が連なる地点、緑の深い水の上
に木の橋が架かっています。ここに峠の茶店があって、草団子、じゃない、ホームメイ
ドケーキを食べさせてくれます。スコーンとお茶でひと休みすることにしました。しか
し、アイルランドのスコーンは堅くて、粉っぽくて、ぱさぱさで、バターとジャムを大
量につけて、なおかつ飲み込むのに二、三杯の紅茶が必要です。ヤレヤレ。
 このあたりから少し曇ってきて、蒸し暑さが感じられました。ウェイトレスにトーク
の滝へ行く道を確かめ、再び自転車に乗りました。UPPER LAKEまで行く気力がちょっと
なかったので、滝へは少し帰り道を辿るコースになります。森の中の小径を国道に出た
ところで、先ほどの茶店にいた女の子が、やはり自転車で、道を探している様子。聞く
とやはり滝へ行くというので、同行することにしました。彼女はオランダ人の学生で、
ホステルに泊まりながら自転車旅行をしてるという。マーニーと名乗り、サイクリング
車で砂利道を走りながら握手するという芸当をやってしまいました。
 トークの滝は小暗い森の中で、水量はあまりなく、これを滝っていうなら華厳の滝を
見てからにしてよ、といいたいところですが、ひんやりとした水の落ちる風景は妙に日
本的。涼しくていい気持ちでした。松にあこがれるシュロというやつか、スペイン人と
フランス人の多いこと。
 滝からマクロスハウスに戻るのはバカにすぐで、先ほど見落としていたマクロス修道
院の廃墟に立ち寄りました。壊れ落ちた天井をつき向けて大きな樹が葉を茂らせていた
りして、崩れかけの階段を上っていくと、ゴシック小説の世界です。ケルト十字架の並
ぶ墓地には著名人の墓もあったようです。
 そうこうして町まで帰り、今日もまた疲れはててオサリバン自転車やさんに自転車を
返し、ふらふらとしていると、雨粒が顔にかかりました。蒸し暑かったからなあ・・・
明日は雨かな、まあいいか、どうせ観光バスだし。その予想通り雨のディングル半島・
バスツアーは虚しくも「なんにも見えなかった」のでした。続く。
 
 

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