アイルランド旅行記その13 キラーニー滞在記


 

 リムリックが気に入らなかったのでそそくさとバスエーランでキラーニー
へ向かった私は、昼頃駅に着きました。第一印象「こんなに花がきれいな町
はアイルランドで初めてだ」。キラーニーはアイルランド南西部のほんとに
小さな町で、キラーニー国立公園や、ケリー周遊道路(リング・オブ・ケリー)、
ディングル半島コース一周の出発点にあたる観光地です。アイルラン
ド一風光明媚な地方といわれていますが、同時に山岳地帯であるためアイル
ランド一雨の多いところでもあるわけです。
 駅の前にはピンクから薄紫までの色のグラデーションを見せてくれる紫陽花
が咲き誇り、暑くなってきたため多少萎れかけとはいえ、見事な薔薇の花壇が
あります。思わず香りをかいでいたら、おばあさんが微笑んで通り過ぎていき
ます。メインストリートはほんとに小さく、町の中心部は15分で一周できる
くらい。半透明のような灰色の石の教会があって、おみやげ物を売るファッショ
ナブルな店と、レンタサイクル店が軒を連ね、「トラディショナル」を売り
にするパブ、「アイリッシュシチュー」を食わせるレストラン等が並んでいま
す。驚いたことにこの町のこうした店は夜の10時半ぐらいまで開いてるので
す。日曜日も。前代未聞だ。ぞろぞろ歩いているのはスペイン人とフランス人
とドイツ人。若者はここでレンタサイクルを借りて、何日かかけて周遊道路を
走る人も多いのです。そこまで若くはないので、私は一日借りて、国立公園の
入り口を走り回っただけですが、ここでようやくしょっきんぐぴんくとアイル
ランドグリーンのリュックを購入して、サイクリングも肩が凝らなくなりまし
た。(帰国してから、余りのどきつい色合いに、貰い手がつかんのです。)
 ツーリストオフィスでB&Bを取って貰いました。観光客が多いところなので、
外人慣れしています。(ただ、ここのB&Bでは、唯一有色人種蔑視されたような
気がして、あまりいい心持ちではありませんでした)このオフィスのお姉さん、
二日行ったら顔を覚えてくれて、とても親切だったが、ふと胸の名札を見ると
ディアドレさんという名前なのです。おお、アイルランドの伝説の美女ディアド
レだ。この人も透き通るような緑の瞳の美人でした。
 自転車を借りる手はずを整え、ディングル半島一周のバスツアーの予約を入れ
ました。リング・オブ・ケリーとどちらかにしか、日程的に行けないので迷った
のですが、あんまりみんながケリーのこと誉めるのでちょっと逆らったわけ。た
だしこれはあとから明らかになるように、まったくどっちでも同じでした。だっ
て雨が降ってなんにも見えなかったんだもの。バスの受け付けのおばあさんに、
「このツアーのあと6時半の汽車でコークに行くんだけど、間にあって帰ってこ
られるかしら?」と訊ねたら、ゆーーーっくりと英語を発音してくれる親切な人
で、「のおぉーーーーー・・・・・ぷろぶれむ!」という。あんまり"NO"のとこ
ろが長いもので、やっぱり駄目なのかと思ったら、ナンダ。
 それからキラーニーの町をぶらつきましたが、意外にも2時間ほどするとすっ
かり飽きてしまったのです。この気分、説明するのがむづかしいのだが、やっぱ
り作られた観光地という、張り付けたようなものが癇にさわるというのでしょう
か。で、町並みをはずれて、明日自転車で来るはずの国立公園の入り口を歩きま
した。湖があり、お屋敷があり、草地に林。ひな菊の咲いている緑の野原で疲れ
て寝ころんでいたら、薮の中を動くものあり。なんと灰色の野うさぎが、少なく
とも6匹はちょこちょこと走り回っているではありませんか。思わずカメラを向
けたら、可愛いお尻をこちらに向けて逃げていきましたが、手の届かぬところで
また遊び始めるという、人をおちょくった輩です。
 このあたりからブラックベリーの実が実って食べられるようになり、REFRESHMENT
ってことばをしみじみと(文字どおり)味わうのでした。川の畔に、確かに日本の
スギナと同じ草が生えてるんですが、これがお化けのように大きいのだ。あれは一
体何だったのだろう。あれにツクシが出るとしたら、巨大なツクシであろうことよ。
 サイクリングと雨降りバスツアーは「続く」ということで。
 
 

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