アイルランド旅行記その11 コネマラにはロバがいた


 

 久々に、自分の脚力に頼らずに見て回れるのもいいものです。コネマラ地方を
一周するバスに乗ったのは、典型的なアイリッシュ・ウェザーといわれるお天気
の日でした。イギリスでも一日のうちに全天候・全季節が味わえるといいますが
ガイド役をも務める運転手の話では、アイルランドでは10分間にそれがすべて
体験できるという。なんにつけ、イギリスより安上がりなのです、ええ。おとな
しく座ってるんだからと久しぶりにスカートをはいたのは間違いでした。寒い!
(ちなみにわたしは普段ズボンをはくことはめったにない)真っ青な空が見える
かと思うと、次の瞬間どす黒い雲が空を覆い、雨が降る、かと思うとまた晴れ渡
る。バスはゴールウェイを出て、しばらく海沿いを走ります。どっかで見た風景
と思ったら、アラン島へいったとき船が出たロザビール港をまた通りました。
前に座っていた外国人が突然話しかけてきて、日本人かとききます。そうだとい
うと、その人は日本語でしゃべりだした。なんとその人はチェコ生まれのドイツ
人で、山口大学でドイツ語を教えているP教授だったのでありました。名古屋に
も知り合いがいるという・・・この世は狭いから悪いことはでけません、ツアー
の間、彼とは同行いたしましたが、なんと次の日、またゴールェイの街でぱった
り会っちゃったりして、そのあとまたコークで会ったりしたらちょっとこわいけ
どそれはありませんでした。バカなことを言っていないで、コネマラの話だ。
 実はこのバスツアー、やはり人に連れていってもらったせいか、印象が薄いん
です。自分で苦労して道に迷ってないですからね。
 ともあれ、毎日同じ話をしながらガイドしてるにしては、ずいぶん嬉しそうに
しゃべる運転手の、いまいち聞き取りにくい英語を一生懸命ききながら、海あり
湖あり、川あり、山ありのなかなか趣に富んだ道をバスは進んでいきました。ま
ばらにある人家に混じって300年前の石の小屋が立っている。家の庭には燃料
にするピート(泥炭)が四角く切って積み上げてある。ピートを切り取る草地
(一皮むけば真っ黒な泥炭)がある。ロバが草を食べている。ときどき、フォト・
ブレークと称してバスを止めて、写真を取らせてくれるのが、ちょっとわざとら
しいのだが、ツアーの大半を占めるアメリカ人は(たった一人の日本人も)やっ
ぱり写真を撮ってしまうのでした。
 このあたりはゲール語のみ通用する世界です、とか人口は何人で、とかやたら統
計学的数字を披露するガイドですが、この「ゲール語地帯」てのも観光名所なので
すね。買って帰ったアイルランドの子供の本の中で、アメリカ人がお金を出して、
ゲール語をしゃべらせ、見せ物のように見るというシーンがありましたが、この頃
になるとわたしも今一つ、ここらあたりは観光化することでしか、今の世の中成り
立たないのかと少し悲しくもあったのです。
 それにしても、山並みが続き、針葉樹が多くてシダの原っぱが続くこの風景はど
こか日本的でもあります。スクリーブからマームクロス、内陸に入ってゆき、昼過
ぎ頃バスはキルモア湖のほとりに着きました。深く濃い緑の水を湛えた静かな山間
の湖。対岸の山の麓に、19世紀のゴシックの僧院が建ち、湖にその影を映してい
る・・・あまりにも絵になるその風景に、一瞬「ディズニーランド」と思ってしま
ったくらい(倒錯した発想だ)でした。このキルモアアベイで昼食を含む長めのブ
レークがあり、あたりをうろうろしたのですが、僧院の側にはわざわざ岩窟を人工
的に作ってマリア像を配置して、「岩窟の聖母」のイコノロジーを再現していると
ころがありました。この配置は、岩窟が人口であろうと、自然のものであろうと、
アイルランドではあらゆるところで見かけたものです。
 また面白かったのは、山を見上げますと、岩肌が露出した山の中腹に、小さくぽ
つんと白い像が建っているのが見えるのです。両手を広げたそのポーズは明らかに
キリスト像です。これって、日本の岩倉神社と同じ発想ですね。キリスト教が偶像
崇拝を禁じたなんて誰が信じるもんか。
 そのあとバスはコネマラ国立公園をまわり、クリフデンの町を通って、ここはト
ム・クルーズの映画のロケ地だとか、ジョン・ウェインの「静かなる男」のロケ地
だとかいっては止まります。わたしはそのとき、「静かなる男」って知らなくて、
臨席のアメリカ人のおばちゃんにきいたら、彼女も知らないっていってました。帰っ
てから父親に言ったらよく知っていました。ジェネレーションギャップかな。
 最後のフォト・ブレークはアイルランド観光のポスターによく利用されるという
デリクレア湖の PINE ISLAND 。シダが茂る岸辺に打ち寄せる静かな波、緑の湖に浮
かぶ島には、松の木が並んでいます。要するに「松島や」ではありませんか。ああま
つしまやまつしまや、寒さに震えながら、ときどき降る小雨に濡れながら、コネマラ
ツアーはおしまい。ゴールウェイの町に戻っても、立ち止まっていられないくらい寒
くて、サタデーナイトのパブを楽しむ人々を後目に、そそくさと寝に帰ったのであり
ました。
 さてそのあとはアイルランドの名古屋(これはわたしが勝手に言ってるだけです)
リムリックから、モハーの断崖へ! しかしこの辺から多少疲労を覚えるようになっ
ておりました。  続く
 
 

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