アイルランド旅行記その10 ゴールウェイの町はお祭りだった


 

 夏の期間、ゴールウェイではフェスティバルが開かれます。なんの祭りか
というと、なんでもいいのだ、楽しければ。音楽あり、踊りあり、演劇あ
り、街頭パーフォーマンスあり。
 アラン島から戻った日、出がけとは違っていい天気で、夏の海は青かっ
た。船の上ですねたパンクの兄ちゃんと、まじめそうな少年が何が原因だ
ったのか取っ組み合いの喧嘩をして、冷や冷やさせられましたが、落ちつ
いた感じのおじさんが中に割って入って事なきを得ました。パンクはふて
くされて座り込み、少年は空を見つめてくやしさをかみ殺している様子。
 さてフェスティバルの間は宿が取りにくいという話だったが、町外れ、
ゴールウェイ湾を渡ったところのB&Bに居所を決められました。ここの
おばさんは結構なしきりやで、けちであった。荷物があるのでタクシーで
来たというと、「もったいない!いくら取られた?」と問いつめ、町に出
る歩行者用の道(鉄道の橋の脇にあって湾を渡る細い通路)を教えてくれ
る。「15分で行けるわよ、眺めもいいし」というわけだ。朝御飯にはロー
ファットマーガリンがけちくさい量添えられていて、ある朝トーストを
一枚残すと、次の朝からトーストは減らされるのでありました。部屋は3
つあるが、風呂は一つなので、「今ならお湯は出るし、他の人が帰る前に
さっさとはいんなさい」とか、うるさい。アイルランド人らしくないでは
ないか!それはともかくおばさんに教えられた道をとって町に出かけた最
初の日、えらい失敗をしてしまったのでありました。
 最初の角を右に曲がってどーのこーの。小さいゲートがあるからそれを
抜けて・・・・・早口で教えられた道順をぶつぶつ繰り返しつつ、道を急
いでいた私はあんまり頭上を見なかったのです。「あ、門がある。これを
くぐって、・・・」
 突然「どこへいく?誰かに会いに来たのか?」突然私は行く手を阻まれ、
詰問してきたのはカーキー色の軍服姿のこわそうなおじさん。背が高く日
に焼けて、その姿はまさしくミリタリー関係です。
「あれ?」おかしいなと見回すと、他にも軍服の男が・・・。
「私はゴールウェイのタウンセンターに行きたいだけですが。」としどろ
もどろに答えると、顔がなごんだおじさん、道が違うよ、案内してしんぜ
よう、と少しはずれたところのまさに「小さなゲート」へ私の肩を抱くよ
うにして、というか、押し戻すようにして案内してくれました。そっか、
こっちか。振り返ってみると私が入ろうとしていた門の上には、へんぽん
とアイルランドの三色旗が翻り、鉄条網が張り巡らされていて、正確にな
んだったのかは定かでないのですが、明らかに軍隊の基地関係だったので
す。射殺されなくて幸いでありました。
 ゴールウェイは昔からスペインとの交流がさかんで、スパニッシュ・ア
ーチを始め、スペイン風の建物もあり、またシーフードがおいしいところ
です。町の真ん中を流れるコリブ川はコリブ湖から流れ出したばかりで、
こんな町中なのに、きらきらと輝くような清流で、鮭がのぼってくるそう
です。ここのスモークサーモンはまさに刺身を凌駕します。
 コロンブスが大航海の前に、無事を祈願したというセントニコラス教会
(なんでわざわざそんなとこに祈願にいったんや?と家族に訊かれて答え
られなかった私。)、ここでは雨の日曜日、にわかクリスチャンとなって
ホーリーコミニオンまでお受けしてしまいましたが、どこの町でも教会と
いうのは、一番安心できる休憩所で、疲れるといつもひと休みしていまし
た。座って天井の絵なんかを眺めていると、うたた寝してしまうこともあ
ったが、別に危ない目には遭わなかった。
 ゴールウェイでは街頭パーフォーマンスが盛んです。トラッドの演奏な
ど、いくらでも聞けますし、夜になればどこのパブでも演奏があるようで
す。一度は小さなホールで、ランチタイムトラッドコンサートを聴きに行
きました。少し年輩の女性が歌い、若い少女がデュエットをつけるナンバー
もあり、伴奏はピアノのみ。モダンのナンバーはヤマハのキーボードが
活躍しました。イエーツの詩に曲をつけた「サリーガーデンズ」というの
は名曲だった。
 またここは楽器屋、本屋も充実しています。『世界の古書店(丸善ブッ
クス)』で川成 洋氏が紹介しているケニーズという古書店は中でも最高
です。ある作家の本を何冊かまとめて買い込んだところ、レジのおばあさ
んが「ちょっと待って下さいよ、この人の本はまだあったと思うわ、探し
ておいて上げるから夕方またお寄りなさい。」言葉通り探しておいてくれ
る。探している本はないかと訊かれたので、超マイナーな作家の名を挙げ
たら、「あら、その人だったら、詳しく知ってる男の子が月曜に出勤して
来るんだけど、月曜にはもういないの、じゃあ日本まで連絡してあげまし
ょう」という具合で、コンピューターなど使わなくてもちゃんと頭にはい
っているというヒューマンな情報で、一人一人にきめ細かく対応してくれ
ます。日本の某K書店に爪の垢でも飲ませたい。
 ここを出て、教会裏のもっといい加減な古本屋にふらっとはいると、こ
ちらでは絶版もののJOY CHANTの原書が・・・・(『赤い月と黒い山』もあ
ったし、ちがうのも) 道は細く、狭い町ですが、歩いて飽きない活気が
あります。ダブリンよりものも安いし。
 しかし連日のサイクリングと歩行に疲れ、またせっかくここまで来たらコ
ネマラ地方にも行きたいと思ったので、バス会社のコネマラツアーに申し込
み、二日目は「一番アイルランドらしい田舎」をガイド付きツアーでまわる
ことにしたのでした。一日コースが10アイルランドポンドです(約148
0円)ロンドンで、庭園めぐりツアーが46ポンドだったことを思うとめち
ゃ安でありました。
 次回は コネマラにはロバがいた の巻です
 
 

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