アイルランド旅行記その7 アラン島紀行
アラン島とは正確には三つの島(イニシュモア、イニシュア、イニシュマン)
からなる諸島です。アイルランド国は西の都、ゴールウェイのさらに西の海上
で、ゴールウェイ湾の防波堤の役目を果たしつつ、古今から辺境に憧れを寄せ
る人の心を引きつけてきました。最大のイニシュモアでも全長10キロ程度、
荒海に浮かぶ岩だらけの島で、わずかばかりの土に牧草を植えて羊、馬、ロバ
が飼われているけれど、主には獣皮をはってタールを塗った黒いボートで魚を
捕る漁師の島、土左右衛門を見分けるため、家紋に等しい家ごとに違う模様の
はいったアランセーター発祥の地。海に落ちたとき、無駄に苦しみを長引かせ
たくないからといって泳ぎを知らないという(シングがそういってるんでほん
とかどうかはしらん)島人の墓は、海を望む丘の上に西を向いて並ぶケルト十
字架です。
紀元前の巨大な砦が断崖の上を二重、三重に取り巻くドーン・エンガス、8
ー12世紀の修道院、教会跡もあちらこちらに点在する。岩場には珍しい蝶や
高山植物、島人は皆ゲール語のネイティブ・スピーカー。となるとこれはもは
や現代では観光客がほっとくはずもないわけでして、観光化の波はしっかりと
ここにも押し寄せてきて、アラン島行きのフェリーは3社あってお互いしのぎ
を削っているのでありました。フェリーはゴールウェイ湾から2時間かけてい
く奴と、ロサビール港までバスで30分行ってから、30分船に乗るというル
ートの二つ。(飛行機という手もありますが、フライトタイムは7分間、アラ
ン島側の飛行場ときたら、絶対羊と接触事故を起こすに違いないというような
ただの野っぱらなのです)
朝のフェリーで行けば、日帰りも十分可能なのですが、島で一晩泊まりたか
ったので夕方のロサビール港からのフェリーに乗りました。港に行くバスを待
っていたら、おじいさんが近づいてきて、「島に行くのか」と聞いた・・・
(なんか小説の出だしみたい)そうだと言ったら「ロサビールに行くバスは二
種類あるでえ、あんたのチケットちょっと見せてみなはれ、ほれ、これはあっ
ちのバス停や、ほな元気でな」ってな感じの英語で、しかも歯がないので聞き
取りにくいのだが、おかげで間違えずにすみ、助かりました。
お天気は曇って、ロサビールに近づくと灰緑色の海はいかにも冷たそうで、
どすぐろい沼地、露出した岩肌など陰鬱な風景です。フェリーに乗り込むとし
ばらくして猛烈な風が吹き始めました。甲板に立ってられないほどです。船は
揺れるし、その寒さといったら・・・。冬物のごついセーターに防水のごつい
ジャケット姿の人は正しかった。濡れた夏物のジャケットで震えながら、船酔
いしそうになってきたころ、フェリーはイニシュモアの波止場に着きましたが、
こともあろうにバケツをぶっちゃけたような土砂降りの雨が降っていて、見通
しも何も、まったくありません。あわてて手近のミニバスに乗り込み、予約し
ておいたB&Bの名前を告げます。
イニシュモアのたった一つしかないメインロードを、こうしたミニバス(1
0人乗りくらい)が常時往復しています。唯一の公共交通機関です。いつどこ
で呼び止めても、どこまで乗ってもOKです。一応観光ツアー用なので、ガイド
もしてくれます。土砂降りの雨、石積みの垣がうねうね続く荒涼とした風景(
もあんまり見えないのだが)の中を結構走って、島の真ん中ぐらいで降ろされ
ました。外海は普通の人家のような民宿です。しかし、日本の離島の民宿とは
中身が違う。入ってみると、めちゃくちゃ豪華なのだ。泊まりあわせたのはフ
ランス人母子3人連れだったのですが、他に客はなく、「あなたはここね」と
案内された部屋は実に広くて快適なトリプル(!)、これで20ポンド!思わ
ずどのベッドに寝ようか迷うという、・・・しかし晩御飯がないのだった。
次回は砂浜の湾を越えて1キロ、隣村にご飯を食べに行った話から始まり
ます。