黄瀬は荒い息を零しながら黒子の細い腰を穿つ。緩急など付けない、只管に細い体躯の内に在る内臓を押し潰そうとする激しさだった。黒子は咳き込みながら喘ぎ、時折掠れた悲鳴を上げながらそれに耐えた。
色素の薄い瞳は随分前に閉ざした。嵌入して二、三度突いた時から黄瀬が無言になり、此方のことなど考えもせずに穿ち始めた。そのときから黄瀬は言い表せぬような恐ろしい眼で黒子を捕らえている。その眼差しを間近で受け止めて発狂しないと言い切れる強い神経を黒子は持ち合わせていないのだ。

「ひっぅ……んん、あ、くっ……はっぁ……あ、ん、んんっ」

噛み締めた黒子の口唇から声が漏れ出る度、薄い胸に押し付けている脚を掴む黄瀬の手に力が入る。明日あたりと言わず、きっとすぐにでも鬱血痕が浮き上がるだろう。
肌に落ちてくる黄瀬の汗にすら身体をヒクリと震わせ、黒子は細く啼く。なんとか声を抑えようと反射的に口唇を噛み、枕とシーツを握り締めた。
閉じた瞼の上から影が落ち、黒子は無意識にそれから逃げる。仰け反った首に熱と痛みが走った。

「っひ、い、いたぃっ……っ」

ズキズキと走る痛みに首を噛まれたのだと知る。項まで湿った何かが伝い、黒子は血が出ているのだと気付く。恐怖に戦慄く口唇を噛み締めて嗚咽を繰り返していると、前髪を掴まれる様に頭を捕らえられ口付けられた。ただ蹂躙だけを目的としたそれに呼吸を奪われる。その合間も黄瀬の腰は穿ちを緩めず、置き去りにされて震えていた黒子の雄まで責め立て始める。
黒子は密封された口の中で空気を震わせて啼いた。苦しいと広い背に爪を立てて、解放を訴えた。
黄瀬は舌を抜き、口唇は合わせたままで喘ぐそれをねっとりと舐めて、ふっくらとしたその肉を食む。まるで黒子を慰撫するように、白藍色の頭を撫でつける。腰の動きも緩やかになり、それに合わせるように雄も愛撫した。

「は、ん……っあ、あ……ん、ん」

リップ音を立てて、口唇を吸う。相変わらず黄瀬は無言であったが、それでも先程に比べると格段に優しく甘い仕草だった。甘い声を上げていた黒子は誘われるように瞼を押し上げ、息を呑んだ。
視界一杯に映ったケモノが、待っていましたと言わんばかりに物騒に嗤い、舌なめずった。

「っひ、い……ん、んうううっ」

悲鳴を上げる前に、逃げる意思を持つ前に、黒子は口唇を荒々しく蹂躙される。捕らえられたままの腰も荒々しく責め立てられ、内と外の刺激に震える雄は激しく扱く手に涙を断続的に溢れさせた。
逃げようもなく、押し付けられる快楽や痛覚、苦しみを只管に黒子は甘受した。泣いて、啼いて、耐えた。朦朧とする自分の意識が解放の時を示していたから。それまでの辛抱だと。

「……っひいっ、くぅ……ん、んんっ……」

細い脚を抱えられた黒子は胎を突き刺されたまま、突如身体をうつ伏せられる。高く上げられた腰を侵している黄瀬の雄の深みと角度が変わり黒子は咽喉を引き攣らせた。途端、ぎゅう、と蕾を締め付けた所為で大きいそれを意識してしまい、自身の雄が震えた。背後から聞こえた息を呑む音に、腰を掴む手に篭もった力に、黒子は首を振る。やめて、やめてと声を震わせてシーツを掻いた。だが、そんな小さな意思表明を黄瀬は嘲笑い、激しい抽挿を再開する。

「いぁ、やめ、はっ、やぁ……くぅ、うあ、あっ、んあっ……はっ」

何度も腸壁を抉るように穿っていた硬い雄が黒子の胎で震え、背後からは呻き声が聞こえた。それが何の予兆であるかを身に刻み込まれた黒子は細い悲鳴を上げて必死に逃げようと手を伸ばす。だが、細い身体を拘束するように背後から抱き込まれては逃げようもない。荒い呼吸で耳を擽られ、腰を何度も打ち付けられ、啼いて泣いて嫌がる黒子を黄瀬が嘲笑った。

「……あ、ぁ―――っ、ああああ」

胎を侵す雄が爆ぜた。更に数度小刻みに突かれ、熱を孕んだ種が奥へ奥へと流れていく。黄瀬の大きな手が腰を臍をと撫でる手付きが種を支援しているようで、黒子は肩を震わせた。芽吹くはずの無い種をこれで何度この胎に植え付けられたのだろうか。黒子は朦朧としながら考えるがやはり答えは出ず、息を荒げ、涙を零すだけに終わった。
項をねっとりと舐めるだけの黄瀬に、漸くの終幕かと内心安堵していた黒子は嫌な事実に気付く。未だ胎に治められたままの、熱を吐き出したばかりの雄が力を失くしていなかったのだ。
黄瀬は震える肩をやんわりと食み、熱を孕んだままの黒子の雄を扱き出す。それは二、三度で熱を吐き出して力を失ったが、大きな手は気にも留めず雄を扱くのを一瞬たりとも止めない。

「あ、あ、ああ、……たす、け、も、いや」

のっそりと背に覆い被さる黄瀬の嘲笑を聞き、黒子の意識は現実に耐え切れずブラックアウトした。





ふと、黒子は目が覚めた。強姦されて次の日から続いた疲労感や倦怠感や熱っぽさは連日に残り、三日ほど寝込んでいた記憶があったが今日はそれらがない。とても爽快な気分だった。
黒子はここ三日同様に自身に絡み付いていた男の腕をこの日も視認し、戦々恐々と顧みた。そこにはやはり寝息を立てる黄瀬がいた。黒子とは違い、穏やかそうな顔だった。
黒子は顔を元に戻して深く呼吸する。身体を震わせて背後のケモノを起こさぬように気を配りつつ、瞳を泳がせた。
大きなこのベッドとクローゼット以外は何もない室内の薄暗さが現在の時刻をおおよそと教えてくれる。現在を六時くらいと目測した黒子は少し迷い、それでも、たった二本で作り上げられた檻からの脱走を試みた。
まず、一本目を外し、次に二本目に触れる。そのとき、背後から呻き声が聞こえ、外した腕が再び檻を形成させた。黒子は身体と咽喉を引き攣らせ、いち、に、さん、よん、ご、とゆっくり数えつつ息と恐怖に跳ねる鼓動を整える。二十まで数え、怯えながら顧みれば背後のケモノはまだ安眠中だった。 黒子はもう一度慎重に一本、二本と腕を外し、今度こそ檻から抜け出した。
嗤う膝を叱咤して、床に立ち上がる。どうやら黄瀬が寝間着を着せていてくれたようで黒子はホッとした。普段ならこんな姿では出ようとは決して思わないが、今は別だ。何でもいい、着ているなら抵抗もなく外に出られる。後は携帯と財布だけ探し出せばいい。
黒子は音を立てぬようにリビングへと向かった。
寝室は静かだったが暖房が入っていたのだろう。リビングに入った途端、予想もしなかったひんやりとした空気に出迎えられ黒子は身を竦ませた。
それでも、黒子は脚を進ませ辺りを見渡す。黒い革張りのソファー、黒い毛並みの長い絨毯、ガラス張りのテーブル。探し物は何処にもなく、黒子は漸く自分の愚かしさに気が付いた。
黄瀬は黒子を帰さないと言っていた。そんな人間がいつまでも財布や携帯が入ったカバンをこんな目に付く場所に置いて置くわけがない。隠すだけの時間はこの三日の内、余るほどにあったのだから。
冷や汗が滲み出てきたこめかみを摩り、黒子は意を決して寝室へと踵を返そうとした。
だが、その直後、背後から声が掛かる。

「おはよ、なにしてんスか、くろこっち?」

「……ひっ」

黒子は悲鳴をあげ、振り返る。顧みた視線の先で、寝室の扉に凭れている黄瀬がうっそりと笑んだ。室内の薄暗さに慣れた黒子の眼は確かにそれを見納めた。恐れるように後退れば、黄瀬も此方へとゆったり歩み始める。

「くろこっちのさがしもの、ってこれっスか?」

寝起きの所為か少しだけ舌足らずな韻の言葉と共に差し出されたのは、黒の装飾のシンプルな携帯。ストラップなど一つも付けいないそれ。紛れもなく自分のものだった。けれど、差し出された手から逃げるように黒子はまた足を引く。そして、黄瀬も獲物を追うようにゆったりとした歩みを止めない。

「どうしたんスか?これ、探してたんっスよね?オレが寝てる間に、探したかったモノっスよね?」

「……っ……っは」

「くろこっち?いらないんスか?」

黒子は壁に追い詰められた。黄瀬は腕を伸ばせば呆気なく捕らえられる場所で変わらず携帯を差し出している。自分を映す瞳が仄昏い闇を孕んでいて、咽喉を震わせつつ黒子は眼差しに命じられるまま手を伸ばした。無機質な冷たさに指先が触れたと思ったら、携帯はソファーの上に投げ捨てられ、黒子は床に沈んだ。
頭上から突き刺さる視線に動けずに身を竦ませていると、黒子は足首に重みを感じた。段々と増していく重みは鈍い痛みを呼んだ。

「ひっ……っ」

「ふゆやすみじゅう、ずっとここにいればいい、ってオレ言ったっスよね?携帯なんていらないでしょ?」

「っ……ふっ……ぃっ」

零下の声音に黒子は小さくした身体を震わせた。足首を爪先で強く踏み躙られ、痛みが鋭くなる。口唇を噛み締めて黒子が耐えていると、足から圧迫感が消えた。次はなにをされるのだろうと怯えていたが、黄瀬は足音も立てず離れていく。広い背を視線だけで追いかけると、彼は何かを片手に戻ってきた。

「だめっスよ。黒子っちはここにいなくちゃ。でも、足あったら出て行きたくなるっスよね?切り落とすのは流石に無理だし、かわいそうだしね。だから、健、切ってしまおう?」

莞爾を浮かべる黄瀬の手の中には、薄闇のなかでも僅かな光を集めるように薄く光る、安全装備の施されていない刃だけの剃刀。それを視認し、黄瀬の言葉を反芻して、黒子は壁に張りついた。そして、ふるふると勢いよく首を振った。

「いやなの?でも、残念、オレも、お前を逃がす気がないんだ」

「にげ、な……っひ、なっぃ」

「何言ってんだかわかんねぇよ!」

怒号と共に黄瀬は剃刀を振り翳し、黒子の顔の真横の壁に突き刺した。
黄瀬の狂気を目の当たりにし、がちがちとなる歯を噛み締めて黒子は頭を振る。現状の恐ろしさに嗚咽と涙が湧き出て止まらない。此処にいると言いたいのに、それが許されない。黄瀬はそんな黒子に気が付いているだろうに構うことなく細い足首を取り、どのあたりを切ろうかと思案している。決して脅迫ではないとわかる、真摯な仕草で眼差しだった。
黒子は嗚咽を繰り返しながら、黄瀬の首筋に縋りつく。

「いま、っす……っひっく、ここ……いるか、っら、やめ、いや、やめ……って、にげな、いっ、きっせく……ひっく」

「くろこっち、離れて?邪魔っスよ?」

「やっ、ぃや、っひく、っいや」

「オレだってね、傷だけは付けないように、って決めてたんスよ?実際、そういう風に注意も払ってきたし。でも、もう、仕方ないでしょ?黒子っち、言うこと聞かないんスもん。オレはどうしても黒子っちが欲しいんスよ。こうやって、腕の中に閉じ込めていられるんなら、どんな手段でも厭う気はないっス。その所為で黒子っちが壊れてもね」

宥めるように色素の薄い頭を撫でられ、同じペースで足首も撫でられた。
耳から流し込まれる狂気に黒子は更に歯を盛大にがちがち鳴らした。そして、自らの震える口唇を黄瀬のそれに押し付けた。
黄瀬はそれを嬉しそうに受け入れ、両手で黒子の身体を抱きしめた。

「どうしたんスか、黒子っち?オレのご機嫌取り?ふふ、かわいい。うん、……うん、まあ、そうだね。この身体に体力が残ってなかったら、どうせ逃げらんないか―――うん、いいよ、止めてあげるっス。その代わり、ご奉仕、覚えてね?俺のご機嫌取りの方法、知っといたほうがいいっスよ。でも、黒子っちが一番しなくちゃいけないのは忍耐だね。嫌って言わないように、ね」





「黒子っちー?」

寝室のほうから自分の呼称が響き、黒子ははっとする。回想していた思考を現実に呼び戻すために、頭を緩く振る。随分嫌なことを思い出したと華奢な身体が震えた。
断続的に辺りに響く音を辿り、黒子は寝室へと向かう。余り時間を掛けると見えないくせに彼は自分を探し回るのだ。その所為で、怪我をされたら自分が身を呈してまで此処に残った意味がなくなる。
(それに……)

「黒子っちー」

こんな状況では、犬と呼べるのは彼ではなく自分だな、と黒子は自嘲する。元々彼は犬なんて可愛い性質などではない。もっと、ずっと、獰猛な肉食獣のほうがお似合いだ。

「くーろーこーっちぃ」

冬休み中、黄瀬があれ程の危険な激情を表にすることは一度もなかった。黒子は時折彼が見せる穏やかさにその危険性を忘れ、冬休み中、その明けに、逃げを数度打った。その度にお仕置きと称した行為に泣かされて逃げるという行為を諦めた。それに気が付いた黄瀬は手懐けたとでも思ったのか、一層機嫌がよくなり、黒子を甘やかした。
だが、その一方、黒子が拒絶を示唆するような言動を少しでも取ると、『仕置き』がすぐに施された。健を切ろう、だなんてことは、二度は言われなかった。それでも、『仕置き』は黒子にとっては恐怖でしかなかった。
小さな玩具を幾つも胎に押し込められ、それから更にグロテスクな玩具を二本、もう入らないと訴えても時には三本入れられた。裂けることはなかったが、呼吸するのも苦しいほどの圧迫感だった。勿論、挿れただけでは終わらず、全ての玩具が胎の中で容赦なく暴れ回った。黄瀬の機嫌が悪ければ、下は暴れる玩具で、上は怒膨する雄で荒々しく蹂躙された。
廊下に響く、黒子を呼ぶ声が少しずつ苛立ちを孕んできている。これ以上待たせては、またその『仕置き』になるかもしれない。身に覚えがあるゆえ、黒子は急いだ。当たり前だが、出来るなら、あんなことは二度とされたくはない。

「きせくん」

リビングの扉を開き、寝室前で声を出している男を呼ぶ。黄瀬は音のする方を向いて、また黒子っち、と口にした。暗黙にこっちに来いと言っているのだ。黒子は逆らわずに、脚を進める。
黄瀬の目の前に立ち、彼の腕に触れる。その腕が持ち上げられ、黒子は手を取って自分の頬に当てた。

「何処行ってたんスか?」

「お風呂です」

やわやわと頬を撫でながら少し低い音の問いに答える。黒子の答えに黄瀬は頷き、それならいいんス、と指で口唇を撫でた。

「でも今度からはちゃんと言ってね?気が付いたら黒子っちいなくなってたから、焦っちゃったっス」

「すみません。態々起こす様なことでもないかと思ったので……」

「いいんスよ、黒子っち。次からで。目ぇ覚めちゃったし、オレも一緒に入りたいっス」

いいっスよね。確かに韻は疑問のそれで間違いはないのに、黄瀬は此方に決定権を与えていない。あの冬休みから、ずっと。
包帯の下に 隠された瞳のお陰でいつもよりか穏やかに感じた。それは間違いない。その代償として、声に含まれる強みや、彼自体が発する威圧感は増し、黒子は更に彼に逆らえなくなったけれど。

「ね、連れて行って、くろこっち?」









ちぎる

抵抗願望、逃亡願望、離別願望、そのすべてを修復不可能にしてあげる。散り散りに、細切れにして、ね







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