巧みな口付けに翻弄され、脱がされていると気が付いても黒子は抵抗と呼べるようなものは何ひとつとして出来なかった。
上半身を曝け出させ、更にはベルトにまで手を掛け始めた男の手を黒子は押し留める。
「やめてくださ、なに、なにを、かんがえて、ふざけないで」
何の意図があって、こんな場所で、こんなことをしているのかが黒子にはわからない。この男なりの嫌がらせなのかと思ってもみるが、上機嫌の度合いからそういう類ではないことはわかる。
「やめて、くださ」
「いーや」
黄瀬は愉しそうに笑い、邪魔をする黒子の細い両腕を片手で一纏めにしてしまう。かちゃかちゃとバックルを鳴らしベルトを引き抜いた黄瀬はそのまま一気にズボンを引っ張り、黒子に裸体を晒させた。
うっすらと笑い、舌なめずりして凝視してくる黄瀬の視線に、黒子の歯がガチガチと鳴る。
(なに、なんで、なんで、わからないわからないなんでなんだこれは)
恐慌に陥りそうな自我を必死に縋りとめる方法がわからず、黒子はただ闇雲に頭を振る。それだけが頼りであるように。
「やめ、やめて、いや、なん、で、なに……いやいやいや」
「うっわあ、黒子っちの肌はやっぱり白いね、何の傷もないし、きれい。いいなぁ」
捕らえていた両腕を解放し、黄瀬はその指で耳朶から咽喉仏までなぞる。そのまま鎖骨の窪みへと下ろし、浮き上がる鎖骨の形を辿った。震える肩を、薄い胸板と小さな突起を撫で、脇腹を大きな掌で摩った。その度に黒子の身体は小さくひくついた。
「ほんといい」
黄瀬はそう呟くと細い首筋に顔を埋めてきた。黒子は驚いて押し退けようと手を突っ張るも、明らかな体格の差を前に何の効果もない。首筋は生温かいもので一舐めされ、吸われた。ちくりとした痛みに黒子は肩を竦ませる。
顔を上げた黄瀬は埋めていたそこを撫で、満足そうに頷いた。
「すっげぇ綺麗に映える。いいなぁ、黒子っちの体中に一杯キスマーク付けたい」
なにを言っているかなどもうどうでもいい。どうでもいいから、いますぐに此処から、この男から解放してほしい。黒子はそれだけを願って頭を振る。
だが、黄瀬は笑って口付けてくる。ねっとりと濃厚に。黒子の抵抗する力を奪うように呼吸の仕方も教えず、何度も何度も。次第に黒子の息が上がり、制止を願い黄瀬に縋っていた手から力が抜ける。
涙で濡れる黒子の眦を舐め、鼻頭を噛む。吐息を零すだけで抵抗の言動は無いことを確認し、ちょっと待ってね、と言って黄瀬はベッドを降りた。
酸素不足にがんがん痛む頭を巡らせ、自分から退いた男を追う。正直、黒子は助かったと思った。でも、それは間違いだった。黄瀬は服を脱いでいた。羞恥など元より無いらしく、鼻歌雑じりに潔い勢いで全裸になる。そうして、再びベッドに乗り上げてきた。黄瀬はまだこんなことを続ける心算なのだ。
黒子は兎に角逃げようと足掻くが、足はシーツを滑るだけで身体は上にも下にも進まない。その様を見て笑った黄瀬に細い足首を掴まれる。そのまま細い脚が開かれ、間に黄瀬の身体が納まる。
「大丈夫っスよ。怖いことなんて無い。気持ちいいこと、教えてあげるっスよ」
いつもの表情で黄瀬はそう言って黒子の腰を撫でてくるが、彼の眼がその言葉を否定している。肉食獣のような、飢えた獣の眼。そんなものを持っている人間の行うことが『大丈夫』なものか。黒子は涙を流して、いらない、やめて、と繰り返す。
「いらない、いら、も、いや……いや、やめて、くだ」
「黒子っち、まだなぁんにもしてないスよ。ね、セックスしよ?絶対、気持ちいいから。癖になるくらい、気持ちいい思いさせてあげるっスから。ね、やろ」
「……ぁ、あ、いや、い、や、いやいやいやいやいやいやいやい、ひっい、うっ……」
男は恐ろしいことを美しい莞爾で言い放った。一拍置いてそれを理解した黒子は、一層子どものように泣き出し、無い力を振り絞り暴れた。
まさか、そんなことを言われるとは黒子も思わなかった。リビングで口付けられ寝室に連れて来られたときに少しはその可能性も察知したが、それでも有り得ないとその可能性を打消した。自分も彼も男だ。同性同士で何故そんなことをしなければいけない。する必要なんてないはずだ。黒子はそう思っていたから。
黒子の様子に黄瀬は溜息を付き、徐に小さな雄を握り締めた。ありったけの力を込めて。途端黒子は悲痛に呻き、動きを止める。そうして戦々恐々と揺れる瞳で黄瀬を見上げた。
黒子を影で包み込む黄瀬は、うっそりとした笑みを口元に貼り付け、瞳に昏い闇を孕ませていた。見たこともないその表情に、黒子は息を呑み身体を震わせた。
そんな黒子を黄瀬は嗤い、くろこ、と呼んだ。いつものような、彼特有の呼称ではない、それで。
「黒子?くーろーこ?」
黄瀬は雄を握り締める手から力を抜き、怯える黒子を宥めるようにそれを緩く扱き出す。けれど、落ちて来る声音と瞳の昏さに気遣いは殺される。かちかちとなる歯さえ黄瀬の癇に障るのではないかと黒子が噛み締めれば、彼は一層に笑みを深くした。
敏感なそこから感じ取れる他人の体温が、今の黒子には気持ち悪くて恐ろしくて仕方ない。込み上げてくる吐き気を黒子は両手で押さえ込む。
「そうそう。大人しくしとけよ、な?いや、なんて二度と言えないくらい気持ちよくさせてやるから。セックスが気持ちいいって、自分で言えるまで、いっぱいやってやるから、大丈夫だって。すぐに理性なんて、飛ばしてやる。お前は気持ちいいってアンアン啼いてりゃ、それでいい」
黒子の雄をやんわりと扱きながら、黄瀬は白い胸の上の突起を舌で転がし始めた。執拗に舐めて噛んで吸って。次第にぴんと起ってきたそれに黄瀬は上機嫌になる。
「いたっ、いた、い」
「ほんと?黒子っちの起ってきたっスよ?ほら、擦ってやったらもっとおっきくなった」
機嫌が悪くなると口調が変わるのか、機嫌が良いと口調が変わるのか。どちらにしろ黄瀬の機嫌は回復したらしく、小さな胸の突起を口に含んで遊んでは黒子の雄を刺激する。完全にそれが反り返ったところで突起を解放し、黄瀬の口唇が腹を下っていく。
嬲られてひりひり痛む胸元はてらてらと光っており、それを視認した黒子は無性に羞恥心を覚えた。黄瀬のしていることを気持ちがいいとは思わないけれど、身体に熱が溜まって来ていることは黒子もわかっていた。こんなことは嫌だという意思があるのに、身体がそれを裏切る。恥ずかしかったし、悔しかった。
黄瀬は扱いていた雄の裏筋を舐めた。指の輪で雄を扱き、蜜嚢を揉みこむ。黒子が声を上げて身体を跳ねさせると扱く手は速まり蜜口を強く吸い上げられた。
「ひ、や、だ、だめ……だめはなし、ああああっ」
細い身体で暴れ始めた熱を感知し、黒子は雄に吸い付く黄瀬の頭をなんとか押し退けようと手を伸ばす。だが、間に合わず熱は黄瀬の口腔へと吐き出された。
黒子は嗚咽して泣いた。ごめんなさい、ごめんなさい、そう繰り返して。
「ごめ、なさい。ごめん、さ、ふっうぅ、ひっく、ごめ」
「黒子っち、黒子っち?ああ、ごめんね。刺激強すぎちゃったっスか?ああもうかわいいなぁ。謝んなくていいんスよ。オレが飲みたくてやったんだから、ほら、黒子っち泣かないで。こんなことで泣いてたら、大変っスよ?」
そう言って黄瀬は淡い色の髪を撫で付けてくる。瞳を隠す手を口付けて、頬を舐めて、大腿を摩った。黒子はそれを受けながら、信じられない言葉を反芻していた。
「の……ん、だ?」
「ん?うん、黒子っちの一回飲んでみたかったっスから。ほら、黒子っち、そんなこと気にしなくていいから、キスしよ?」
視界に映るものを拒絶する手を奪った黄瀬は笑って口付けてくる。黒子は顔を背けて逃げを打つが、大きな手で頭をシーツに押し付けられては逃げられず、口唇を貪られ、苦い舌で蹂躙された。
「無駄な抵抗、しないの」
音を立てて離れていく口唇がそう釘を刺す。弛緩した黒子は緩く口唇を噛み締め顔を背けた。ほろほろと落ちていく涙がシーツを濡らした。
黄瀬はかわいいなあ、と零して黒子の片方の細い脚を薄い胸へと押し付ける。
黒子は不安に瞳を揺らすが黄瀬のほうは見なかった。やることを早くやって解放して欲しかった。体格の違いから逃げられないことはわかっている。それでも嫌だという真情を必死に押さえつけ、黒子は人形になることを決めた。黄瀬を見ないのはせめてもの抵抗だった。
黄瀬の指が力を失った雄を撫で、蜜嚢の間を割り、そのまま下っていく。窄まった未開の蕾に辿り着いた指がそこを揉む。襞に爪先を引っ掛け、黄瀬は愉しそうに言った。
「ここ、使うんスよ?―――ちゃんと解すから大丈夫、黒子っちに怪我させんのは好きじゃないんス」
やおら黄瀬は顔を埋め蕾の襞を一枚一枚解すように唾液を練りこみ始めた。黒子は黄瀬を足で蹴り付けたい衝動を抑えて声を上げないように口唇を噛み締める。黄瀬はその様を見て尚嘲笑ったようだが、何も言わなかった。
濡れたそこが外気によってひんやりとしてくる頃、黄瀬は指を一本黒子の中へと挿入した。息苦しさは不思議と感じなかった。苦しくないかと問うてきた黄瀬に無言を通せば、ならもう一本と指を増やされた。流石に強く存在を主張する異物に苦しさを感じ、黒子は喘ぐ。
「流石に、苦しいっスか?内も強張ってるし、ぎゅうぎゅう締めてくるっスよ」
緩慢に指を上下に動かしては内壁を摩り、黄瀬はなんとか肉を解す。時折湿り気の無いそこに唾液を差し込んでは指で撫で付けた。ばらばらと蕾を広げよう動く指がとある一点を擦り上げ、黒子は息を呑んだ。口唇に手を押し当て、つい先ほど駆け抜けた刺激を否定するように瞳を硬く閉ざした。だが、時折そこを擦り上げられ雄が反応を示しだす。瞳からは生理的な涙が出て、口からは吐き気がするほどの甘い声が漏れ出した。この時になって黒子は黄瀬が意図的にそこを擦り上げているのだと気付いた。
睨みつけた先で、黄瀬は笑って気持ちいいかと訊ねてくる。再び口唇を噛み締め顔を背ければ、内で暴れる圧迫感と蹂躙性が増した。上からは今四本目ね、と愉しげな声。
黒子は息苦しさに咽喉を仰け反らせ、涙を零した。その雫はシーツに沁み込む前に黄瀬に吸い取られ、そのままねっとりと口付けられた。
指はその間も激しく黒子を攻め立てる。だが、黒子が反応を著しく示すようなポイントは何れも外して達くに達けない。痩躯の中で暴れ狂う熱に翻弄され黒子は我慢ならず黄瀬に縋りついた。
「も、やです……いや、い、やぁ、たすけ、ぁ、あ、たすけ、て……」
「助けて欲しい?じゃあ、気持ちいいって認めなよ。認めたらもっと気持ちよくしたげるからさ」
黒子はひらひらと髪を振り乱す。横に。
「よくな、よくないっ、こんなのいや、いや、こわい、ですっ……も、や、いや、たすけ、て―――ひぃあ、ああああっ」
たすけて、黒子がそう言った瞬間黄瀬の指が抜け、換わりに腸壁が焼け付くような硬い熱が一気に差し込まれた。同時に、黒子は二度目の熱を吐き出した。
ただでさえ、熱を吐き出した疲労感に喘いでいるというのに、圧倒的な大きさのそれが更に胃を圧迫し、咽喉が引き攣って上手く呼吸が出来ない。黒子は咽こみながら、息を整えようとする。だが、無常にも黄瀬が口付けてきて呼吸は更に荒らされる。
「はは、気持ちよくないとか言ったくせに挿れた瞬間に達ったな。素質あんじゃねぇか。よかったな?今は『気持ちよくない』ことがそのうち気持ちよくなるってことだぜ」
「ちが、ちが、ぃやいやっ」
「ぎゅうぎゅうオレのを締め付けて放さねぇくせに何がいやだ、あ?」
弱々しく頭を振って何もかもを否定しようとする黒子を黄瀬は嘲弄する。黒子はその言葉を聞き咎め、静止して瞳を彷徨わせた。黄瀬はそれを更に嘲笑う。
「オレが、お前ん中に、他に何を挿れるって?言ったじゃん、セックス、しよって」
そう言って黄瀬は小刻みに腰を押し付けてくる。
細腰を穿ち、肉壁にどくどくと速いリズムを響かせてくる大きなそれが黄瀬の雄であると知り、黒子は呆然とした。
「さっきの『お人形』、やってたきゃやってりゃいいよ。オレのだって言った瞬間に締め付けを強くした黒子には無理だと思うけどな」