「ほら、ちゃんと頑張って」

「ふ、んぅ」

黄瀬はそう言って咽喉で笑う。露になった黒子の白い大腿を掌で撫で、指先で擽る。黄瀬が遊ぶように与える小さな刺激にさえ耐え切れず、黒子は鼻を鳴らしては啼いた。
ベッドヘッドに凭れる黄瀬は惜しげもなく、細身ながらもスポーツマンらしい逞しい裸体を晒していた。そして、その腹に跨る黒子も全裸となり、点々と赤い華に彩られた白磁の肌を晒していた。

「黒子っち、ほーら、イキたいんでしょ?それとも、また空イキしてみる?」

「ひぁっ、ん、ん、っ、あ」

そう言って黄瀬はずっと握り締めていたモノに力を篭める。黒子はじくじくと鈍く広がる痛みにほろほろと泣き、頭を振る。だが、黄瀬の双眸は未だに白い布に光を奪われたままで、声に出さなくては何も伝わらない。だから、黒子が熱を吐き出さないようにと締め上げる手には力が篭められたままだ。

「しま、す、か、ら……、ゆるめ、て……さ、い」

「あはは、痛いっスか?」

どこか愉しげに訊ねてくる声に応えれば、ほんとうに、と更に質問を重ねられた。その間も雄はぎゅうぎゅうと締め付けられ、黒子は泣く。

「……い、たぃ」

「でも、黒子っちの声、すっごく気持ちよさげっスよ」

「っひい、いっあっああっ」

黄瀬は笑い、片方の手で黒子の雄を締め上げたまま、もう片方の手の爪先でその蜜口を抉じ開けるように弄くる。いたい、と黒子が泣いても黄瀬は笑ったままで、行為を止めようとしない。それどころか更に爪を強く立てる。
黒子は黄瀬の首筋に縋りつき、それに耐えた。こういうときは下手に機嫌を取るより従順にいたほうがいいということを黒子は学んでいた。だから、黒子は声を上げ、涙を零して、耐えた。
だが、次第に痛みと共に快楽が痩躯の内で暴れ始め、黒子は息を荒げて悶えた。

「は、う、ふ、っあん……きせく、つう、……っせ、くん」

「んー?どうしたんっスか?」

「いぁ、も、やめ……あ、ふうっん、も、イキ、た」

黒子の願いなど、その目が見えなくてもわかるだろうに平然とどうしたのかと訊ねた黄瀬は、その言葉を聞いて笑んだ。そして、じゃあほら、と言って黒子に腰を上げるように指示を出す。

「最初に言ったっスよね?今日はちゃんと黒子っちが一人で挿れなくちゃ、だぁめって」

ほら、頑張って。本日何度目かの声援をまた繰り返し、黄瀬は漸く雄を弄ぶ指先を制止させた。
ぞわぞわと背を這う快楽や、それを吐き出せないもどかしさと苦しさに黒子は悶える。それでも、腰をゆっくりと上げた。黄瀬の割れた腹筋に手を置き、少し前に解した自身の蕾を指で割り開いた。
恐れか、それとも期待にか、蕾が伸縮して指を締め付ける。真実がどちらかなどと聞くまでもないと、黒子は内に潜む浅ましさに眦を熱くさせた。

「っ、ふっ」

割り開いた蕾の入り口に熱い雄が触れる。途端、騒がしくなる内壁と蕾に黒子は本格的に温かい涙を零し、咽喉を震わせる。それでも、動きを止めることなく、息を荒げながらもゆっくりと黄瀬の雄を胎へと呑み込んでいく。

「っあう、ふうっ……は、い、あうっ」

わかっていたことだが、黄瀬のそれは随分と大きい。黄瀬の気侭に挿入されていた時よりもずっと強い異物感と圧迫感に、黒子は流石に腰を止めた。混乱する呼吸と心臓を黒子は宥めようとするが上手くいかず、次第に心が恐怖に捕らえられ始める。

「黒子っち、大丈夫っスよ。黒子っち、ほら、深呼吸して。吸って、そう、ゆうっくり、吐いて。そう、もう一回ね、吸って、吐いて」

見かねたのか黄瀬がもどかしい手付きながら黒子の濡れる頬を拭い、震える細い腰を摩って宥めてくれる。ゆっくりとリズムを取るように細い腰を弱く叩き、深呼吸を促す。黒子は黄瀬の手と声に従い、ゆっくりと呼吸した。
暫くして、荒れていたものが鎮静されたのを感じとり、黒子は未だに頬を擽る黄瀬を見た。

「ん、じゃあ、ゆっくり、腰を下ろして」

ここでやめよう、と彼が言ってくれないことはもう身に沁みて解っている黒子は、ゆっくりと腰を沈めていく。相変わらずの圧迫感と異物感ではあったが、それでもさっきのように狼狽を起こすことはなかった。
なんとか納めきったと細く安堵の息を吐き出していると黒子の細腰ごと痩躯を黄瀬が力任せに引き寄せた。その刺激に耐え切れず、黒子は熱を吐き出した。

「ひ、ああああっ」

「……っ、く、う」

内壁で黄瀬を締め上げてしまったが、彼は呻くだけで熱を吐き出さず、ヒクリヒクリと跳ねつく黒子を宥めるように腰を摩る。広い腕の中で黒子は震える咽喉で呼吸をゆっくりと整える。

「わかる?ここが、一番黒子っちの奥まで届くんスよ」

自分自身のことを嬉しげに教授され、黒子は口唇を噛んだ。確かに、腰の位置を二、三センチずらされただけなのに、黄瀬に胎をより深く侵されていることがわかる。けれど、そんなことは知りたくもなかったことで、知るはずもなかったことだった。
ゆさゆさと小さくと腰を揺すられ、黒子は細く啼く。小さな刺激にすら涙が出て、艶やかな声が上がり、雄が立ち上がっていくのがもう当然の事となっていた。こんなことは望んでなんていなかったのに。

「気持ちいい?」

「……は、あ、……ん、ふう」

初めて手篭めを受けてからずっと、黄瀬はそう聞き続けている。そして、黒子はずっとそれに応えない。その後は本能だけになったら素直になるのではと考える黄瀬がいつも理性を破砕するような所業に打って出る。
今日もまた手酷い扱いを受けるだろうと黒子は覚悟していたのだが、どうやらそうはならないようだ。黄瀬は黒子を腕の中に緩く囲ったまま、疲れたように溜息を吐いた。

「ほんと、馬鹿な黒子っち。いい加減自覚すればいいのに」

(じかくなら、もう、してます)
黒子は耳元で溜息雑じりに囁かれた言葉に心の内で答えた。
そう、黄瀬の手が与える刺激が『気持ちいい』という事はもう自覚している。身に沁みるほどに自覚しているからこそ、黒子には応えられないこともあるのだ。反対に黄瀬はそれが解っているからこそ、聞きたいのだろうけれど。だが、人として、男として、黄瀬を敬愛するスポーツ選手として、矜持を護るため、沈黙は護らなければならなかった。

「ね、黒子っち、それは置いといてあげるからさ。オレの包帯取ってよ。大丈夫、明日病院行くから。どうせなら、一番にこの眼に映るのは、黒子っちがいいっス。だから、ね、外して?」

黄瀬の突然の指示に黒子は迷った。
当然のことだが、自分には医療知識などない。一週間前の診察時医者は、問題はないが念のためだと言っていた。念のため、という事はなにかがあるかもしれないということではないのか。黒子はそう考えてしまい、本当に外していいのかと不安を抱いた。

「大丈夫っスよ。何かあったとしても、今わかるか、明日わかるか、ただそれだけの違いっスよ。だから、外して?」

自分の今後の光のことをそれだけ、と簡単に済ませる黄瀬はどうやら引く気はないらしい。黒子は気を重くしながら、手を伸ばした。
黄瀬から光を奪う白い布をゆっくりと取り去っていく。次第に瞳を覆う瞼が現れ、白い布がはらりと黒のシーツの上に落ちた。
どくりどくりと心臓が震え出す。黒子は細い指先で黄瀬の瞳を瞼の上からなぞった。この瞳がもし光を失ったらどうすればいいのだろうか、といつぞやの不安が蘇えってくる。だが、そんな心中を知らない黄瀬の口元には笑みが上る。

「黒子っち擽ったいっスよ?」

手が拘束され、ゆっくりと現れた鳶色の瞳が黒子を映した。一層に騒がしくなった心臓が痛くて口唇が戦慄いた。

「大丈夫だって、ちゃあんと見えてるっスよ。一週間振りっスよね、黒子っち見れるの。ふふ、そんなに不安そうな顔して、ほんと、かわいいなぁ」

穏やかな色合いの瞳が笑み、ゆっくりと黄瀬に口付けられる。ただ口唇を重ね合わせて啄ばむだけのそれは欲情からは程遠い穏やかなものだった。

「きせ、くん?」

幾つかのいつもとの相違点に疑問を持ち、不安がる黒子は口唇が離れたときに彼を呼んだ。黄瀬は応えることなく白い頬を撫で、そこを捕らえて何度も穏やかに口付ける。
口付けを甘受していると緩やかに小さな背と細い腰を抱きしめられた。黒子は胎を貫かれたままゆっくり黒色の海へと身体を沈められる。それでも、眉を顰めるような強い刺激は一切与えられず、大切に護られていた。一つ一つの黄瀬の甘い仕草に誘われるように黒子は口唇を薄く開く。温かな舌が静かに入り込んでくるが、それもやはりいつもの様な動きではない。只管に穏やかさと甘さ、そして優しさだけが感じられるものだった。

「き、せ…ん」

もう一度黄瀬を呼ぼうとした黒子の口唇は彼にやんわりと塞がれた。それ以降は黄瀬が動き出したことで、最早甘い声を上げて啼く以外、黒子は何も出来なかった。





すうすうと安らかに寝息を立てる黒子の髪を梳く。さらさらと落ちていく白藍色を指でまた梳く。赤く腫れた眦を撫で、頬を掌で包む。間近まで黄瀬が顔を寄せても、黒子は瞼を震わせることもないし、寝息を乱すこともない。穏やかな眠りに幸せそうに溺れている。
黒子の様子を見納め、黄瀬は微笑む。恐らくは誰も見たことがないような表情をしているのだろうという自覚があった。だが、仕方がない。今自分は幸せなのだから。黄瀬はクツクツと咽喉で笑って赤い眦に口唇を寄せた。舌先でそこを舐めても全く反応のない想い人に、流石に遣り過ぎたかという念が出てくる。
別にいつかのように無理矢理やって、精神的にも肉体的にも負荷を掛けた覚えはない。だが、慣れてきた黒子を長時間に亘って緩やかに執拗にと責め立てた覚えはある。最後のほうは流石に空イキしか許さなかったときのように目の焦点がいっていた。

「まあ、種が出尽くす位ヤってりゃ、そうなるか」

黒子の髪を後ろに撫で付け、白磁の肌を露にさせる。眼前一杯の黒子を見つめ、黄瀬は舌舐めずる。

「馬鹿な黒子。でも、だから、かわいい。心配しなくてもお前がオレを嫌うことなんてどうせ出来やしないんだ。気持ちいいなら、そう言っちまえばいいのに。ふふ、ほんと、馬鹿で、かわいいよなあ」

男の癖に男に犯され、その行為に気持ちいいと思っている事実に対して黒子は自分を情けなく思いはしても、黄瀬を怨んではいない。理由は以前黒子自身にも言われたことだが、彼がスポーツ選手として、スポーツ選手の黄瀬を敬愛しているからだ。世間では犯罪の枠に入れられる筈の所業を『たかがそれ如き』と判別して、黄瀬の一挙一動を恐れはしても存在を憎悪することは出来ない程、黒子から寄せられるその敬愛度は高いらしい。
だが、それでも、気持ちがいいなんて浅ましさを前面に出してしまえば、黒子は自身の情けなさにいたたまれず黄瀬への怨みが出てくると思っている。黒子の様子を傍から見ていれば、そんなことにはならないと確信を持って言えるのに。

「ほんと、どうしようもないくらい、かわいいよ、ばかなおまえが」

黒のシーツを退け去り、痩躯全体に散らばる黄瀬の所有印を確かめて満足気に舌で舐める。深く眠りに溺れている黒子は何も反応を返してはくれないが、今は苛めたいわけでも愛したいわけでもないから構わない。 臍の辺りに散らばる朱印を舐めた時、黄瀬の携帯がメールの着信を知らせた。
仕事先でも友人でも元チームメイトでも、黄瀬にとって黒子以上に優先させる人間はいない。だが、最近設定したこの着信音の相手は、少し事情が違ってくる。勿論、黒子以上に優先させることなんてないと黄瀬は言い切れるが。
黄瀬はベッドに腰掛け、サイドに置いてあった携帯を手に取る。サブ画面に流れる文字を見て、眠る黒子を見た。そしてほくそ笑んだまま携帯を開き、新着メールを開く。光る画面上で連なる文字を瞳に映す。 其方を見もせずに伸ばした黄瀬の手は一直線に白藍色の頭を撫でる。視力を奪われたこの一週間で何処に何があるか大体だが読めるようになった。どうせなら黒子も見失うことがなくなるといいのだが、さて、それはどうなるか黄瀬自身にもまだわからない。
だが、今は、それよりもいいニュースが届いたと黄瀬は口唇を歪めた。
鼻歌雑じりに携帯をサイドに置いて黄瀬は身体をベッドに横倒えた。そして、腕を伸ばして想い人をその中に囲い込んで甘く囁く。

「よかったね、黒子っち?高校は此処から通うこと確定したっスよ?ふふ」

黒子は気付いているか、いないか。黄瀬が最近黒子の進学先を執拗には詰問しないことに。当然だ。黄瀬は既に黒子の進学先を知っている。それでも黒子に隠し事をされている事実が腹立たしくて幾度か詰問しているから、きっと彼は気付いてはいないだろう。
果てさて、黄瀬は一体誰から黒子の進学先を聞いたかと言うと、それは先程のメール相手からだ。だが、黒子は学校の教師の一部にしか自分の進学先を告げてはいない。そして、教師にも強く緘口を願い、誰もが口を開かない。では、黒子の進学先を知り、尚且つ黄瀬に教えた人物は誰か。黒子の両親だ。
冬休みに両親から掛かってきた電話に出ることを許してやれば黒子は両親に休み中そちらへ行きたいと言い出した。慌てて携帯を取り上げ、彼の両親を口八丁に相手していれば幸いなことに黄瀬は気に入られた。お陰で今では彼らとメールをし合う中となり、あちらの中に信頼も築けた。日本も最近は物騒だと嘯いてやれば、四月から黒子と同棲することを願いこまれる程に。

「何度も何度も言ってやったよ?だから、早く、逃げらんねぇんだって、自覚して」

(君の親を)唆して。
(君の逃げ道を)奪って。
(君に集る害虫を)排斥して。
(君が哀しむなら)優しくして。
(君が抵抗するなら)戒めて。
(君が窒息しないように時折)手綱を緩めて。

(そして、これからは、君がオレをちゃんと愛するように)一杯に、甘やかそう。

「だれよりも、なによりも。あいしてるっス、くろこっち」









理由はすべて、君

辛いコトの次にくる優しさは、まるで甘い蜜のよう。

それが毒であると気付かないまま、君は優しさに溺れて堕ちていけばいい。







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