昼休み、寒波に不評な屋上で一人黄瀬は最近よく聞く音楽を口ずさむ。
誰もいないこの空間に、錆びた扉の開閉音が響く。だが、例外を除き、誰が何をしていても構わない黄瀬は気に留めない。たった一人の例外が昼休み中は此処に来れないことはわかっていたから。
「一体何の歌なのだ、それは」
耳慣れた声に黄瀬が振り向けば、其処には眼鏡を押し上げる緑間がいた。
緑間は寒いのが嫌いだと言っていた。理由は至極簡単な彼らしいもので、大事な指の為。だから、緑間は暖房機器のある教室から必要に駆られない限り出ない。
出ない、筈なのだが、何故か彼はこの寒い屋上にいる。此処には黄瀬しか居ないのだから、自分に用があったと見ていいのだろう。だが、彼が自分を見下している節があるのは明白で、なのに一体なんの用だと黄瀬は首を傾げた。
「何の用っスか。この寒い屋上まで来て」
「黒子の様子が心配になったものでな。お前、何をしていたんだ、この土日に」
「なにって、緑間っちって気付いてたんじゃなかったんスか?」
「お前が黒子を無理矢理手篭めにしたことをか。首にあからさまな痕を付けられたら誰でも気付くと思うが?」
黄瀬はきょとんと反応を鈍らせ、一拍置いて、嗤った。
「じゃあ、答えは解ってるっスよね?態々聞かないで欲しいっス。黒子っちって口堅すぎて学校全然教えてくんないんスもん。あーあー、まだ苛々する」
凭れていたフェンスを黄瀬は蹴り付ける。細めた黄瀬の眼の内で激情の焔が揺らめく。
金曜、土曜、日曜、ずっと黒子を愛して苛めて愛した。夜も昼も朝も、気にしなかった。時間がある限り黒子と繋がった。その合間に、金曜の放課後に緑間が思い起こさせた黒子の反乱について問うた。けれど黒子は結局答えなかった。切々と許しを請い、悲鳴を上げるように啼いて、理性も意思も何もかもをドロドロにしても、黒子は進学先を言わなかった。
「遣り方が甘いのか……」
黄瀬の知る限りで一番辛いと思ったのが空イキだった。だから、黒子にはこの三日普通の射精を最後の一度しか許さなかったのに。
がしゃんがしゃん、とフェンスの鳴る音をBGMに、黄瀬は記憶を辿る。
黄瀬は性関係で知る限りのことを黒子に施した。だが、やっていないことはある。万が一黒子が怪我をしたら嫌だから、やらないでおこうと思ったことだ。
「お前は一体何をしているのだ。黒子が好きだったのではなかったのか」
「好きっスよ。愛してるっス。最初はまぁ恋人なんていつ切れるか解んないもんになる気はなかったんスけどね。でも、黒子っち夏休みから付き合い悪くなったし、進学先は全然教えてくれないし。このままじゃ、『友達』なのに切られそうだったし。じゃあ、もう仕方ないかって思ったんスよね。それに、利点は確かにあるんスよ。だって、所有権を主張できるのは、恋人だけでしょ。でも、幸か不幸か、黒子っちって恋愛に興味がなかったんスよね。だから、手練手管で身体を快楽に堕としてみようかなぁ、って。まず手始めに強姦してみたって訳っス。ああ、でも、オレ黒子っちを傷つけたくは無かったから、両手足を縛ったりしてないっスよ。つうか、黒子っちの抵抗なんてオレからしてみたら抵抗なんて言える様なものですらなかったし。ちょっとキスして呼吸奪ってやればもう目ぇ溶かして力入んねぇっスもん。後ろも無理には挿れたりしなかったんスよ。日頃からあの無表情をグチャグチャに泣かしてヤリテェとか思ってたのに、孔が蕩けるまで待ったオレの理性って凄いっスよね。まあ、そのあとは理性なんてぶっ飛んで気が付いたら黒子っち気ぃ失ってたんスけどね。今思い返しても惜しいことしたっスよ。黒子っちせっかくのお初なんだしビデオ撮っときゃ良かった。にしても、中学生って凄いんスよ、それからずーと冬休み中黒子っちとやってたんスもん。よく精力が続くっスよぇ。お陰で黒子っちを開発できるんスけど。そうそう、こないだも黒子っちを三日間空イキさせ続けてたんスけどね、七回達けたんスよ、黒子っち。ああ、でも途中で二回ほど気ぃ失っちゃったんスけど。でも、中思いっきり突いてやったら目ぇ覚めたし。一日で何度達けるか、ってカウントだし。うん、七回。もう一回達かそうかと思ってたら、黒子っちマジで目の焦点飛ばしてたし。アレが限度だろーなぁ。そういや、テストが始まるまでには尿道いじっても達けるように……」
「もういいっ!!!」
イラツキも忘れた黄瀬の足は既にフェンスを鳴かしてはいなかった。代わりに黄瀬が饒舌になっていたが、劈くような声音と頬への打撃に口を閉ざした。
フェンスに凭れて黄瀬は少々痛む頬を手の甲で撫で、怒りに肩で息をする緑間を見詰めた。
緑間は口を歪めこめかみを擦っている。先を越されたと、怒っているのだろう。緑間が黒子へ恋慕を抱いていることを黄瀬は知っていた。
(自分で言うのもなんだけど、オレ、セックス上手いし、もうあの身体はオレ以外じゃ満足しないって。思っても無駄無駄。早く諦めりゃいいのに)
「おい、勝手な勘違いをするな。俺が怒っているのは、自分の阿呆さにだっ。俺は黒子がお前の家庭教師を引き受けたのは、お前のどうしようもない低脳をなんとか及第点まで引き上げて欲しいと教諭たちが求めたからなのだと思っていた。だが、お前が仕組んだコトなのかっ」
「はは、何を今更。なんかおかしいなぁって思ってたんスけど、其処から?ね、緑間っち、オレIQ.150あるらしいんスよ。IQは所詮知能指数で頭の良さは関係ないって言うっスけど、オレは相当頭の良いっスよ。だから、マネッこなんて芸当出来るんスよ。マネッこなんて見ただけじゃ出来ないんスよ。頭脳もなきゃね。でも、馬鹿な振りも結構役に立つんスよ。黒子っちのコトでは、特にね」
二年の頃から赤点を取っては黄瀬に願われ、教師達に請われ、黒子が自分の教師役を務めた。そのお陰で黄瀬は部活内の誰よりも黒子と一緒にいれた。黒子は良い迷惑とでも思っていたようだったが、黄瀬にとっては楽しい時間だった。
そして、憐れとでも言うべきか、黒子はやるなら徹底的にと言うタイプで黄瀬に妥協を許さなかった。お陰で万年赤点劣等生を演じていた黄瀬でも追試で好成績を出さざるを得ず、教師はテストの度に家庭教師を務めるようにと黒子に口煩くなった。
「お前が、そういう、人間だとは、思ってもみなかったよ」
「そりゃ、得意っスからね『マネッコ』。すぐに仮面が崩れるぐらいなら一々こんなことしたりしないっスよ、面倒くさい」
苦虫を噛み潰したような顔の緑間は嘲笑う黄瀬を睨みつける。
黄瀬は尚も笑みを深くして、緑間を手招く。眼鏡の奥で怒りを孕む眼を僅かに細めて緑間は一歩二歩と歩み寄る。黄瀬と緑間の距離があと一歩半といった所で足が止まる。同時に黄瀬は腕を伸ばす。緩く締める自分とは違い、固く締められたタイを引く。慣性に従う身体を背からフェンスに叩き付け、黄瀬は左腕をその首に押し付ける。腕に一気に力を込めてやれば、自分よりも少し高い位置にある口から呻き声が漏れた。
流石に黒子とは違い、百九十五あったという高身長に体格も良い緑間の抵抗は確かに『抵抗』と呼べるものだ。黄瀬は掴まれた左の上腕から伝わる痛みに眼を細める。痛い、が、それよりも鬱陶しい。黄瀬はそれを外すために右の手に力を籠め、腹に叩き込んだ。
「……ぐっ、げほっ、ごほっ」
幼い頃から武道を嗜んでいた黄瀬の一撃は生半可なものではない。緑間は膝を折ろうとし、けれど首を締め上げる腕が邪魔をしてそれは叶わなかった。
盛大に咽る姿を見て、拘束から縋る意図に変わった手に、黄瀬は満足そうに口元を釣り上げた。
「へんな考え起こさないで欲しいっス。漸く黒子っちを手元に置けるんスから。さっき言ったスよね、『お初撮っときゃ良かった』って。お初じゃないっスけどね、撮ってあるんス。淫らで可愛いんスよ、黒子っち。勿体無いけど、緑間っちが手ぇ出してくるんなら、学校中にばら撒くっスよ。そうすりゃ、黒子っち学校来れなくなって誰も関わらない。誰に不審に思われることもなく、オレは黒子っちを檻に閉じ込められる―――これでも自重してるんスよ、黒子っちのこと自由にしてあげてるし。進学先だって、違うことは気に食わないっスけど、許してるんス。ああ、でも、言わないのは許せないっスけど。ね、ナケナシノ良心なんスよ。くだらない正義感や下心やらでそれを踏み躙らないで欲しいっス」
言葉の数々を信じられないと言わんばかりに瞠目する緑間から手を放し、黄瀬は踵を返す。
屋上を出るときに呼称が背を殴ったが気にも留めず黄瀬は其処を立ち去った。
「き、……っん、きせ、くっあ、あっ」
「は、ぁ、……」
肉壁を雄で割り、熱い内部へと侵入する。
旧校舎の教室は使用の頻度は少ない為金曜にしか清掃しない。だから、此処は埃の匂いがいつもする。ただ、今は黒子の蜜の匂いの方が強いけれど。
床に横たわって喘ぐ黒子を見下ろし、黄瀬は笑う。
ぎゅうぎゅうと締め付けてくる黒子を宥めるように細い腰を摩る。欲望に負けてすぐさま動いては黒子が辛い。それでもじっとしているだけでは黄瀬も辛いので、腰を緩やかに細々と振る。それに合わせて、ん、ん、と黒子が甘く喘ぐ。
「かわいい。顔隠さないで」
目元に頬に朱を刷いた顔を隠す手を黄瀬は舐める。ギュウッと雄への締め付けが増し、息を呑む。
黄瀬は黒子の腕を無理矢理奪って顔を隠せないようにし、細い腰を穿ち始めた。
腰を強く打ち続ければぐちゅぐちゅと水音が立ち、甘い婀娜声が黄瀬の脳を揺さ振った。その口を塞げば甘みを感じるのかと黄瀬は身体を屈めて小さな口に噛み付いた。
口唇に吸い付き、舌で中を蹂躙する。進入する角度を変えては、逃げる舌を吸っては噛んで、唾液を吸い取るように絡めた。
くぐもった悲鳴に黄瀬の興奮は増し、細腰を穿つスピ−ドが上がる。
頬が濡れて黒子が泣いていることを知っても、止められない。それどころかもっと泣けばいいと大きな手で黒子の立ち上がったモノを握った。
貪るような口付けをやめても、黄瀬は甘い音を紡ぐ口唇から離れることが出来ずそこをぴちゃぴちゃと舐め続ける。それから逃げるように黒子が顔を背けるので黄瀬は手の中のモノを扱いた。それに合わせて自身の雄をぎりぎりまで抜いては一気に穿つコトを繰り返す。
「や、あ、ああっ、はっ、ひああんっ」
何度も何度も、細い腰を壊すように黄瀬は穿つ。
蜜を零す蜜口を撫で、濡れる筋を強く擦りつける。そうすれば、黒子は甘く啼いて涙を零して黄瀬を呼ぶ。いつの間にか解放していた細い腕が持ち上がり、首に、背にと縋り付いてきた。
耳元でなされる荒い呼吸で黄瀬は一瞬我に帰る。だが、それも一瞬きのこと。理性はすぐさま劣情に塗り潰える。細い足を肩に抱え上げ、黄瀬は雄を突き落とす。
「ひぃ、あうっ、あん、……はっひ、ぃああっ」
テラリと光る黒子の首筋。黄瀬が嘗め回したからだ。その首だけではない、肌蹴られた胸、布に隠された背、晒された白い下肢、そこら中に黄瀬の所有印がある。白い肌に映える赤い華が。
「きれぇ……ふ、く、は、はははっ。サイッコー!」
「あ、あああっ、ひぃっ、ああっ」
今組み敷かれているメスは紛れもなく、自分のものだ、と思ったら、黄瀬は血が沸騰するほどの興奮を覚えた。
だから、笑った。笑って、思うが侭に他者の内部を我が物顔で酷薄に蹂躙した。遠慮なんて、要らなかった。
びくりと震えた黒子の雄をやんわりと握って扱いてやれば直ぐに熱を吐き出した。茫洋とした黒子を更に穿ち、数度目で限界を感じ、黄瀬は腰を引く。
「は、うあ、あ……は、ぅ?」
中で出されることに慣れていた黒子は懐疑の音を小さく上げる。黄瀬は涙で濡れる円やかな頬を撫でた。
「ちょっと待ってね、黒子っち」
暖かな場所に埋もれていた雄は外気に震える。それでも興奮が納まることはなく、どくりどくりと脈打つ雄に潤滑油を塗って、用意してあった物を被せる。ぴったりとくっつく筈のゴムが少し空隙を許していて気持ちが悪かったがこればかりはしょうがない。
黄瀬は雄をそのまま再度黒子の中へと埋めた。軽く抽挿をしてみるとやはり直ぐにずれる。黄瀬は不満げに溜息をつき、ゴムを押さえて抽挿を繰り返す。達く、と思った瞬間にゴムを黒子の中に残すようにして腰を半ばに引く。その際、強く扱いた黄瀬の雄がびくりと震え、爆ぜた。入り口近くで吐き出された熱はドクドクと黒子内臓へと逆流していく。
「ひ、やっあん」
いつもとは違うことに気が付いたのか、可愛らしい啼き声を上げた黒子が不安げに見上げてくる。黄瀬はにっこりと笑って、ちょっと待って、とだけ答えた。
自分の思い通りに成っているかを確認する為、細い足を片方だけ薄い胸へ押し付ける。雄を完全に引き抜くと、ぱくぱくと小さく開閉させる蕾の口がクリーム色のゴムを咥え込んでいた。黄瀬はその周りを愛しげに舌で舐める。
「あぅんっ」
またも可愛らしく啼いた黒子にご褒美、と蕾からそう離れていない際どい部分に黄瀬はまた一つ所有印を刻む。
ゴムの中に卵位の大きさの玩具を一つ押し込み、そのまま黒子の中へ入れる。
何を入れられているのかは解らないみたいだが、それでも黒子は頭を振って許してと言う。三日間のコトで漸く『いや』という言葉が招く事態を理解したらしい黒子は、今日は『いや』の代わりに『許して』と言う。それを聞くと、黄瀬は気分が良くなった。許して、ということは全主導権が黄瀬の手にある事を意味するからだ。
「大丈夫、変なもんじゃない。……ほら、入った」
全て飲み込んだのを確認して、黄瀬は余っているゴムの部分と玩具のコードを結ぶ。そのまま結び玉も共に奥へと押し込んだ。後はコードと小さなコントローラがいやらしく垂れているだけだった。
黄瀬は黒子の腹を摩り、破顔する。
「こん中にね、オレの種があるっス。ホントは生で出したかったんスけど、でも、お腹壊しちゃうからね。下手したら熱も出るらしいから。ゴムん中に種出してね、こん中入れといたんス。出ない様に玩具も入れといたっスよ。気を付けてね、うっすいゴムだから、直ぐに破けちゃうんス。……こうやってオレの種が胎にあるだけで、黒子っちにオレの匂いが染み付いていけばいいのにね」
そう言って黄瀬は黒子に手を差し出す。今日はもうこれだけで十分だった。
身体に力の入らない黒子に服を着せ、小さな手を取って歩き出す。部活もない今はカバンも軽い。二つのカバンを持ちながら黄瀬はあの歌を口ずさむ。サビの部分で引いていた手がぎくりと震えた。黄瀬はゆっくりと振り返り、嗤った。
「オレも同じっス。二人だけでいい、他には誰も要らない。黒子っちもそうっスよね?だから―――緑間には、オレがいないときには近付くな」