「はい、どうぞ」
そう言って開かれた、可視の檻。
逆らう術など黒子にはなく、足取り重くその中へと踏み入れる。
見慣れたくもなかった、マンションの一室。モデルを始めるに当たって、家族に迷惑を掛けたくはないから買ったのだと黄瀬が言っていた。だから、彼の家族はいない。何をしても、止める人間などいない。此処は完全な黄瀬個人のテリトリーだった。
黒子がのろのろとした動作で靴を脱いだのを見納め、黄瀬は檻の鍵を閉めた。
小さな施錠音が厭に耳奥に残り、黒子の心を重くする。
未練がましく檻の扉を見つめる黒子は黄瀬に手を取られ、リビングの方へ歩き出す。ふと、黄瀬のもう一方の手が持つ物に、黒子の眼が吸い寄せられた。色素の薄い瞳に映るその袋には、黒子が愛飲している物が入っている。通常なら、黄瀬がそれを黒子の為にと買うのはおかしなことではない。けれど、余り機嫌の良くない今の黄瀬が買ってきたとなると、話はまた違ってくる。
嫌な予感がするのは、きっと黒子の考えすぎなどではない。
逃げたい。叶わないと知っていながら、黒子はそう願う。
リビングに入り、黄瀬はそのまま黒い革張りのソファへと黒子を誘導した。途中、自分のカバンと黒子のそれを奪い頓着する様子も見せず床に放り投げたが、袋だけは丁寧な仕草でガラステーブルに置いた。
黒子の手を解放し、黄瀬はソファに座る。そして、その開いた足の間を指差し、座れと言う。指された先はソファではなく、肌触りのいい真っ黒な毛並みの絨毯。此処まで来たら単純に座ればコトが済むという話ではないことを、黒子は知っている。顔からは血の気が下がった。黒子は首を頑是無い子どもがいやいやするように緩やかに振った。
「聞こえなかったスか、黒子っち?―――座れ、黒子」
宥めるような声にも首を振った黒子は、次いで落ちた凍てついたそれに身体を強張らせた。
「無理矢理その口に突っ込まれてぇのか?」
びくりと身体を震わせ、黒子は一度瞑目する。嫌だという意思はある。だが、此処で拒絶を示した後、自分が受ける所業を考えれば従うしかないことを黒子は知っていた。
閉ざしていた瞼を押し上げ、怯えに震える足を一歩進める。そんな黒子に黄瀬が手を差し出す。その手も、拒んではいけない。黒子は人形のようにその手を取り、ゆっくりと其処に座した。
長い指先に目尻を撫でられ、顎を取られる。黒子はそれに従う。視界に映ったのは、表情を落とした男。その男の顔がゆっくりと近付いてくる。びくりと黒子の身体が震えて瞳が揺れた。黒子の目の前で秀麗な顔が覆い被さってくる。大きな両手に頬を捕らえられ、身動きできぬまま恐れに喘ぐ黒子の口唇の形を確かめるように男の舌が這う。
「はっ、ぅぁ、は」
舌が這い、黄瀬の唾液で黒子の口唇が光る。それを吸い取るように濡れた下口唇がやんわりと吸われた。そんな児戯の合間も黒子の視線は目の前の男から離れるコトはない。黄瀬が、目を逸らすなと言ってる様で離せなかったのだ。
だが、その舌に口唇を割られ、背筋を駆けた感覚に耐えられず黒子は目を閉じた。
それを合図に、黄瀬は顔をずらして舌を薄く開いた歯列から割り入れ、黒子の肉壁を舐めまわす。性的なことは初心者な黒子が苦しそうに鳴けば、黄瀬は角度を変えて空気の通り穴を作る。だが、その度に舌を外に誘い出すように吸っては痛むほどにそれらを絡ませた。
「ふぅ、ん、んん……ぅん」
長い口付けは次第にイヤラシイ音を黒子に届けてくる。それを聞くのが嫌で黒子は口腔内に溜まるそれを飲み下す。その仕草を嗤い、黄瀬は黒子の舌を歯で食む。
ジンジンと痛む舌先に、眼を開けろと言われている様で黒子はうっすらと開眼した。目尻に涙が溜まっているのか、水膜に覆われたような世界で、真っ先に見たのは劣情を孕む男の目だった。ずっと、こんな目で自分を見ていたのかと思えば羞恥と恐怖が込み上げてくる。それを逃がそうと黒子は再度瞼を下ろす。
それからも暫く貪るような口付けは続いた。黒子が二回目の嚥下をした所で漸く蹂躙に満足したのか、口唇を一舐めしてそれが解放された。
「これ以上、オレを怒らせないで欲しいっス。出来る限りは、優しくしたいんスから、ね?」
鼻が擦り付けられるような近距離から黄瀬が念を押す。逆らうな、と。
そうして、茫洋と意識を漂わせる黒子の口を指で割り、黄瀬は嗤った。
「ご奉仕、上手くできたら、酷いコトはナシにしてあげるっス。進学先も、今回は見逃してあげるっスよ」
白藍色の髪が梳かれるのをどこかで認識しながら黒子は必死に目の前のものに舌を這わせていた。冬休み中、強要されていた行為であったが、黒子は慣れもしなければ上達もしなかった。それでも、ズボンの前だけをはだかせて覗くソレを芯が通ったように起たせるコトは何とか出来るようになった。
「ん、ぅんん……ふぅ、んん」
ちまちまとそんなことをしていたら、黄瀬の第一指に口を割られた。それは、つまり、口の中に入れろという命令と同義。黒子は躊躇うことなく、大きくそそり立つ黄瀬の雄を含もうと口を開く。そうしなければ、後でなにをされるか、わからない。今日は金曜。明日も明後日も、家には帰してもらえないことはわかっているからには、黄瀬の機嫌を取る以外黒子に出来ることはない。
だが、芯が通った黄瀬の雄は黒子のそれよりも随分大きい。黒子の小さな口を一杯に広げてみても、納まるものではなかった。勿論、黄瀬がそんなことで許すはずもない。
黄瀬は第一指で黒子の口を割り開き、無理矢理其処へ雄を突きたてた。
「ん、んんんぅ、ん、んっ」
口端が裂けるような痛みを訴え、耐えられず黒子はくぐもった悲鳴が上げた。それを聞き、流石に黄瀬も頭を引くことを許してくれる。
泣きながら酸素を大きく吸い込む黒子を宥めるように髪を梳かれる。漸く息が整い、黒子が行為を再開しようとすれば、黄瀬から声が掛かった。
視線を上げれば、彼の手には袋に入っていたはずのモノがあった。黄瀬はそれの蓋を外し、中身を自身の雄へとかけた。制服も革張りのソファも汚れたが黄瀬は気にした様子も見せない。寧ろ白く塗り潰されたそれらを見て満悦な様子すら見せた。
「黒子っち、これ好きでしょ?ちゃんと、残さないように全部、舐めて?」
純粋にも見える笑顔を向けられ、黒子は口唇を戦慄かせる。込み上げてくる悲しみや屈辱、恐れ、それら全てを懸命に腹へと飲み下す。
そうして、黒子は覚悟を決めて舌で甘い蜜を舐め始めた。上から舐めると黄瀬がNGを出すため、付け根辺りからドロリと流れ落ちるそれを拭う。
確かに黒子が愛飲しているものであるのに、こんな状況下では旨味は感じられなかった。
「舌をチロチロさせて猫みたいっスよ。いや、まぁ、黒子っちは正真正銘ネコだよね」
黒子が懸命に舌を動かしていると頭上からそんな声が降ってきた。
けれど、今の黒子にはそれにかかずらっていられる余裕はない。冷えていたそれは黄瀬の昂りの熱を吸収し、次第に溶け出すのが早くなっていた。
顔が汚れるのも気にせず、吸って、舐めて、しゃぶって。黒子の知っているだけのことをしても、黄瀬の余裕は変わらないまま。それでも、苦労の甲斐あって白い蜜はなんとか拭い去れた。
「ね、黒子っち。ニャアって鳴いてみて」
項に掛かる髪を掬い、黒子の口唇が雄から離れないように固定される。
促されるまま、舌の全面を使って熱い雄の筋の全体を舐め上げる。そうして、微かに苦味が湧き出す鈴口を軽く吸う。舌と口唇を動かし続ける黒子は一拍の後、鳴いた。
「にゃ、ぁ」
「ふふ、可愛いっス。オイシイ?好きっスもんねぇ?シェイク」
「にゃ、あっ」
「じゃ、口開けて。今度はオレの飲も?はい、あーんスよ」
そう言って黄瀬は指で黒子の口を大きく開かせる。苦しい、と黒子が呻きながらその腕に縋りつくが、黄瀬は甘い笑顔を見せて言う。
「だーめ」
そのまま項から強い力を加えられ、開かされた口の中へ熱が侵略してきた。黒子は眼を閉じ、息苦しさと痛みと嫌悪感、そして、雄の舌を焼く熱に耐える。黒子の狭い口腔全体が雄の生々しい脈動を感じ、エグミのある苦味を拾う。
「ん、よしっ、頑張ったスね、黒子っち。口ん中にオレの全部入ったよ」
「ん、ん、ぅ」
「もう抜かないっスよ。オレだって限界ってもんがあるんス、いつまでもいつまでも優しくなんてしてあげらんない」
「んぐっ」
黄瀬は軽く腰を突き出して黒子の咽喉奥を圧迫したかと思うと、そのまま激しく抽挿を始める。口腔内を抉るような衝撃に耐えようと黒子は黄瀬の制服に縋る。腰を振り、黒子の頭を好い様に操る男は既に欲に塗れた支配者の眼をしている。あとはもう、嵐が過ぎるのを待つしかないのだ。
口を窄めろ、吸え、舌を這わせろ、荒い息の中での命令を従順に遂行していた黒子は息苦しさに涙を零す。それでも大人しく、恐怖しながらそのときを待った。
「……っ出すぞ、くっ」
何度も体験してその度に嫌悪感を増長させる衝撃が咽喉の奥を襲う。口腔内に充満する、苦味とエグミ。鼻を突く青い臭気。それら全てに黒子は咽び泣きたくなった。口の中のものを吐き出したい。嘔吐してさっきこの雄から舐め取ったシェイクも無かったコトにしたい。胃洗浄なんて存在を知ったときには一生したくないと思ったが、今ならしたいと思える。
口腔からゆっくりと出て行く雄。黒子は安堵したように喘ぐが、その中に溜まる白濁が邪魔だ。そんなことを思っていると顎骨を下から持ち上げられ、上を向かせられる。眼で黒子を捉えた黄瀬は、長い指を二本口の中に入れて白濁を掻き回す。
「うぁああ、くふ」
「黒子、何度言わせりゃ、覚えんの?残さず飲めっつってんだろ。出来ないんなら下の口に飲ませるぞ。そのあと栓でもしようか。栓して、黒子の身体にオレのが吸収されて、オレの匂いが染み付くまで、何度でも繰り返そうか。なぁ、どっちがいい?胃からオレに支配されんのと、腸から俺に支配されんの。ん?―――胃からがいいんなら、一滴残さず、今、飲め」
黒子が悲鳴を上げても抜かなかった指を漸く抜く。そして、その汚れた手で黒子の口を覆い、吐き出させないようにする。
黒子の目はまだ支配者に捉えられたまま。支配者は黒子が嚥下するのをじっと待っていた。
何度もむせそうになりながら、それでも腹へと下せば男は満足そうに微笑む。そうして汚れた指も舐めさせる。それが綺麗になれば白藍色の頭を撫でられ、脇から手を差し込まれて体躯を持ち上げられた。黄瀬は自身の大腿に黒子を乗せて落ち着かせた。
そして、黒子の耳朶裏に付いた真新しい鬱血痕を撫で、咽喉の筋を撫で下ろす。
指は流れ、最後に胃の辺りを暖めるように撫でた。それは、さも自分の種を追うように。
「オレって優しいっスよねぇ、ご奉仕しやすいように黒子っちが好きなシェイク買ってきて被ってあげるし、選択権は与えてあげるし、譲歩もしてあげてるっスもん―――ね、そう思うでしょ、黒子っち」
はやく はやく クロコテツヤという そのすベてを オレに しはいさせろ。
そんな声が聞こえた気がして、黒子は瞼を閉ざした。頬を伝い落ちる涙を舌で掬い取られるのを感じ、その中に自分の願いのすべてが籠められていたらいいのにと夢見た。その願いに毒されてしまえばいいのにと。
(それをやさしさというのなら。きみのやさしさは、)