「ふ、わああああぁ」
こう、湧き上がってくるなんとも言いがたい生理現象。噛み殺そうとしても上手くいかず男は大きな口を開けて欠伸をした。
床に座り込み書棚を壁にして凭れかかったまま、窓の外へと視線を流せば、闇に白く輝いていた欠け月はすでに薄く、朝特有の清々しさを感じさせる空が広がっている。
シャラシャラと音を立てる銀色の鎖を引いて胸のポケットから取り出す同色の懐中時計。時間を確認すれば、短針は数字の五を指していた。
「もう、こんな時間なのか」
欠け月といっても、最早満ち月に近かった昨夜の月。それの恩恵である、適度に明るい月光は、強い光を放つ蛍光灯よりも読書に適していたらしく、つい先程まで男の集中力が損なわれることはなかった。おかげで調べ物は随分と捗り、男の日課も今日で終わりを告げる。
こつこつとなる軍靴。男は背後から近付いてくる存在を感じるが、ここに篭もり始めて二日間この時間に来る人間だと知っているので警戒する気にはならない。
「お早うございます。マスタング中佐」
しわがれた声。ロイが振り向けば老年の下官がいた。肩に背負うのは一陣の上に星三つ。
「お早うございます。グースタック曹長」
「調べごとはどうです?」
「貴殿が協力してくださったお陰でなんとか終わりました」
ありがとうございますと、ロイは書庫の管理者であるグースタックに頭を下げた。
グースタックは細い目尻を和ませて首を振る。
思えばこの司令官がここで調べものがあるから貸しきってほしいと言い出したのはつい二日前。真剣な眼をした彼にどうも思い出す姿があり頷いてしまった。こうやって若い人間が真剣に事件に取り組んでいく姿は好ましく、本来ならば夜間は解放してはいけない特別書庫の鍵も渡してしまった。それを現最高司令官が知り自分をクビにしてもグースタックは決して後悔はしないだろう。といっても彼女はそんなことはしないだろうが。
「それは善うございました。さあ、どうぞ。春も終盤になりますが、この時間帯は冷え込みます。身体を温めてください」
皺くちゃの手が差し出すコーヒー。カップを受け取ればロイの掌をじんわりと暖めてくれる。
毎日この時間帯に差し入れてくれるそれに今日も礼を言い、口にする。広がる渋味と苦味。軍のコーヒーは安物の豆を使っており不味いが、彼が入れてくれるものは不思議とおいしく感じられた。ロイは黙ってそれを少しずつ口にする。
「この事件を調べておいででしたか」
どこか痛みを帯びた声にロイが顔を上げればグースタックは一枚の写真を手に取り見ていた。
「ご存知ですか」
「私は六十歳を過ぎたときから此処に留まって書庫の守をしております。今は七十と少しですから彼是十年も東方司令部にいることになりますな。ですから、この事件も知っております」
彼の眼は変わらずその写真に注がれたまま。
「軍人が、こんなことを言ってはいけませんが、あの事件だけはやるせなかった」
客観的視点を持ち、主観的視点に捕らわれない。それは何時如何なるときも公正な判断が出来るようにと軍人に科せられた信念のようなもの。どうしてもそれが守れなかったと言うグースタック。
そのまま聞いたほうがいいか、それとも口を挟んでよいものかとロイは迷う。けれど口を開いた。
「人体練成、でしたね」
「ええ。人を人とも思わぬ愚か者です。あの男、ショウ・タッカーは」
静かに返された一枚の写真。そこには淡い黄銅色の長い髪を三つ網にした少女と白い大型犬映っていた。少女は幸せそうに笑っている。この先の自分の運命も知らず。
「あれこそが、悪魔の所業と呼べるのでしょう」
グースタックはそれ以上なにも言わず、書庫を出て行った。
「……悪魔の、所業…か」
扉が閉まり、一人になった書庫でポツリと零せば、その音は厭に響いた。まるで軍の狗の自分を責められているようだと、ロイは鎮痛の思いで眼を伏せた。
「はあ」
「………」
「はああ」
「…………」
「はあああああ」
重く、重く上官が吐く溜息に副官であるハボックはついに根を上げた。
「准将、いい加減にしてください」
「いいじゃん。ちゃんと手は進めているぞ」
「それは勿論結構ですが、というか別に現段階ではその手は止めても支障はないです。溜息は止めてください。マジで憂鬱っス」
タバコを加えて器用にも喋る男をエドワードは一瞥して、もう一度溜息をついた。
「だってさ、今まではハボック中尉が副官だったから楽できたのに、ロス中尉が着いたらそれが叶わなくなるんだぞ?」
これが憂鬱にならない訳がないとエドワードは手を止めて、机とその上に載る書類に懐いく。
一方ハボックはエドワードの物品を整理していた手を止めた。なにか、暴言をこの耳にした気がする。
「はは、どうせ俺は要領よくないですし?ロス中尉みたく貴女の暴走は止められませんよ。いつもいつもどっか出かけていきますし?行かないでくれって言う俺の言葉なんて聞いてくれやしない」
肩を落としてガラス張りの棚へ項垂れるハボック。
エドワードは慌てて身体を起こし、椅子から腰を浮かせ机を乗り越えるような体勢で弁解にでる。
「いや、別にそういう意味じゃ。ただ、ほら、ロス中尉は俺に厳しくて、ハボック中尉は俺に甘いってことをだな」
「やっぱ貴女の副官は務まらないってことですね?」
ハボックは突然座り込んで、項垂れたまま棚の下の辺りを整理し始めた。
弁解したはずなのに更に深く落ち込んでいく副官をどう慰めればいいのかとエドワードは片手で顔を覆う。もごもごとなにかないかと口を動かすも全くない。
これは難問だとエドワードが思ったとき扉を叩く音がした。
一瞬扉へと目線を向け、その後棚の前で暗い影を落としている部下に眼をやるがどうも不貞腐れを続けるようで扉を一瞥もしない。
エドワードは溜息をつき椅子に腰掛けてから、扉の向こうで待機している者に入室の許可を与える。
入ってきたのはロイだった。
部屋に掛かる時計を確認すれば今はまだ八時前。エドワードは早出でこの時間帯にいるのは当たりまえ。だが日勤のはずのロイがこの時間に軍部にいるのはおかしい。彼の始業時間は一時間後。
何の用件かとエドワードは首を傾げる。
「エルリック准将。お願いがあります」
執務机の前まで歩み寄り、ロイはその一言を放った。
彼をよく見てみてみれば漆黒の眼の下、隈が出来ている。
エドワードは内心迷った。彼がこれから言おうとしていることはわかっている。けれど、このまま許すべきか、否か。
ロイの眼は強い光を宿している。その光は焔にも似ていて、感嘆の念を抱いた出会いのそれよりも強い。
エドワードはなにも言わず、ただ続きを眼で促した。それを正しく理解したロイは緊張しているのか咽喉を鳴らし、口を開いた。
「貴女の管轄となった、未成年者誘拐事件についてですが。―――指揮権をもう一度私にいただけませんか」
心地好い低音を聞いたとき、ほら来た、そう思った。
エドワードは机に肘を付いて両の指を組み、その上に顔を乗せる。
彼が放つ言葉は、一度こうと定めた上官である自分を否定するもの。十分に無礼罪に当たる。けれどエドワードには責める思いはない。どちらかと言うならば、彼の言葉をもっと聞きたいと思う。
なにも言わないエドワードに、まだ可能性があるのだと思いロイは口を開く。
「引き取るのをお忘れになっている事件資料ですが、あれから何度も拝見させていただきました。貴女が言いたかったのは、リア・グラフィックとジールディス一族のことですね」
そこまで気付いたならば事件の解決までそう時間は掛からないだろう。エドワードは表情を変えることも、答えることもせず、ロイを見ている。
ホークアイが倒れたその夜からロイが事件を再捜査しているのは知っていた。だから近々こう言い出すのだろうと思っていた。
そして、エドワードはそれを待っていたのかもしれない。
けれどそう簡単に何度も指揮権の移動など出来ない。
エドワードは東方司令部の最高指揮官だ。最高位に立つ人間は如何なるときも最善である英断を求められ、下さなければならない。でなければ下にいる者は信頼など出来ない。付いてなどいけない。軍は信頼のほかに、命まで預けるのだから。
一つ一つの言葉に、惑わされるわけにはいかない。揺らぐわけにもいかない。
「ふうん。それで?」
そんな反応を予期してはいなかったのだろう。ロイは言葉を失う。
「その件はお前の元から離れたはず。なのに何をしている。それを調べている時間、無駄に労力を割いていたのか?余程暇を持て余しているようだが、他の仕事は終わったんだろうな」
「ちゃんと、片付けています」
エドワードの厳しい切り替えしに、男に微かな同様が走る。端整な表情は変わらないが、返す声にそれが現れて、まだまだ甘いとエドワードは思う。
「部下に残業をつき合わせてか?」
気付かれてはいないと思っていたのだろう。深い闇を思わせる眼が小さく見開いた。こんなことで一々反応を示している様子では、彼の願いが叶うのは遠く思えてしまう。
ロイが、書庫に篭もり始めたのは二日前。そんな短時間でリア・グラフィックとジールディス一族のことに気付いたというならば、他の仕事など出来ているはずがない。
「俺は、他の仕事に尽力しろと言ったはずだが」
部屋に落ちる威厳に満ちた声。
ロイは唇を噛み締める。ここまで言われたならば、出すぎた真似を謝罪するのが得策だ。けれど、心はそれに反して金色の上官を突き崩す何かを探している。
「ならば、一つお聞きします。貴女は何故、二日経っても事件の全資料を取りに来なかったのですか」
他の事件に尽力しろ、資料はそのうち取りに行くからと言いながら、結局その資料はロイの執務室に積み置かれたまま。
「尽力しろと仰るならば、さっさと持っていって下されればよかったじゃないですか」
エドワードはなにも返せない。
「気になりました。だから、調べたんです。そうして、貴女が言っていたヒントに気付いたんです。ですから、どうか、もう一度チャンスを下さい」
勢いよく下げられた頭。ロイはエドワードに頭を下げたのだ。たった一つの案件のために。
流石にこの行動にはポーカフェイスを固めていたエドワードも軽く口を開いて呆然とする。
ゆっくりと上げられていく、ロイの顔。彼はもう一度口を開く。
「補い合うのが、双司令官である貴女と私のはずです」
紡がれたその言葉にエドワードは観念した。
嬉しかった。ロイがそれを認めたことが。彼は決してこの場限りでその言葉を言ったわけではない。彼から向けられる刺々しい敵意のようなものも今日はない。向けられるのは真摯さだけ。ならば、横たわるホークアイを目の前にして語ったエドワードの声は届いたのだろうか。
エドワードは組んでいた指を外し、椅子に凭れかかる。
ロイの言葉を聞いたからには答えてやらねばならない。もしもグダグダ言う人間がいるならば自分が黙らせればいい。エドワードはそれだけの実力を持っている。
「一度決めたことは貫かなければならない。その責任が司令官である俺とお前にはある」
「はい」
「だから、お前も。俺と一緒に罰を受けろ」
呆然とする、ロイの眼。自分の願いに否を唱えられると思っていたのだろう。
エドワードは、にやりと笑い。
「未成年誘拐事件の指揮権をロイ・マスタング中佐に移行する。これが、最終決定だ。わかっていると思うが、恐らく今回はあちらにとっては当たりだ。時間はない。仕損じるなよ、マスタング中佐」
「―――はっ」
ロイは顔を引き締め、エドワードへの応えとして敬礼をした。
新しく与えられた資料を両手に抱え、ロイが自室の扉を押し開けばそこには副官の姿があった。
「お早うございます。マスタング中佐」
朝日の逆光に当てられるその姿。声音はしっかりとしていて、少しは回復できたのだろう。
「ああ、お早う。もういいのかい」
副官の傍により、顔色を覗き込むように軽く首を傾げる。彼女は避けるように、一歩退いていく。
「ホークアイ中尉?」
離れてしまった顔色に倒れたときの青白さはなく健康そうだ。ゆっくり養生できたのだとロイは安堵する。
内心では明確に言い当てることは出来ないけれど、彼女の様子をおかしく思いながら。
「大丈夫です。それは?」
それ、とホークアイが指さしたのはロイの手にある資料。
一度は離れた件の事件を返してもらったのだと、事の成り行きを説明すればホークアイは眉間に小さな皺を寄せる。
「エルリック准将へのあてつけですか?」
「ち、違う。私は―――」
「なんですか」
詰問にも似た鋭さで副官は迫ってくる。
そうしてロイは漸く気付いた。彼女の赤い眼の冷たさに。眼だけではない。声だって冷たい。
真実はどうあるか知っていても、普段から冷静で冷たく感じられるこの副官。今ロイへと向けられるものはいつも以上。
当たり前だ。自分はそれだけのことを彼女に言ってそれで終わらせていた。
改心した心はある。けれど謝罪はしていない。ホークアイの心にはあの時ロイが言い放った言葉の棘が突き刺さっているのだろう。
あの時自分はなにを言った。ロイが思い出せば、自身の勝手さに吐き気がした。
だから、まずは謝罪をすべきだ。
ロイは手に持っているものを机に置いて鋭利な光を宿す瞳と向き合う。
「まずは、君に謝りたい。酷いことを言ってすまなかった」
ホークアイはなにも言わず、ただ聞いてくれている。その眼は痛いほど真っ直ぐで受け止めることに苦しみを覚えて逸らしたくなる。
それでも、自分のくだらない自意識過剰な被害妄想で失いたくはないのだと、ロイは彼女の赤い眼から眼を逸らさない。
「あの戦場で、君も、ヒューズも、他の誰だって同じものを見ていたのに。私だけの戦場ではなかったのに。私だけが苦しみや痛みを負ったのだと、思っていた。何を思って、上に行くなどという誓いを立てたのか、忘れていた。自分たちがしていることが間違いだと知ったからこそ、他の誰かに同じ過ちは繰り返さないようにと、誓ったことだったのに」
「そうですね」
相槌は小さなものだった。聞こえたのが、奇跡に思うほど。
「エルリック准将に言われたよ。私の地獄は私のなかだけの地獄で、他の誰かに押し付けられるものではないと。私の地獄があるように、君には君だけの絶対の地獄があった。君は痛みを感じないのだと、冗談でも言っていいことではなかった」
すまないと。言いたいことを言ってしまえば、訪れるのは静寂。外では鳥の鳴き声もするがその微かな囀りもロイを責めているように感じる。
彼女の凛とした声はない。やはり駄目なのかとロイの心が冷える感覚に襲われる。
もっと謝罪を音にしたいが、これ以上は謝罪と言うよりも弁解と言う形になってしまう。
ロイは沈黙を破るための言葉を口中で霧散させる。
「もういいんです」
不意に訪れたその音。聞きなれている温かみのある音。
ホークアイは穏やかな表情を浮かべ、もう一度、もういいのだと言った。
突然出た赦し。何故とロイは眼を丸くする。
「今朝、エルリック准将にお会いしてアドバイスを頂いたんです。今日にでも、恐らく貴方が謝罪してくるだろうから、最初は突き放してやれと。冷たく接して、息苦しさを味あわせて、せめてもの意趣返しをと」
少しは痛い目に合いましたか。そう笑って問うてくる副官。ロイは顔半分を片手で隠し、漸く安堵の息を零せた。
「少しじゃない。―――大いに、味あわせてもらった」
「ならば、感謝してくださいね。エルリック准将に。これがなければ、私は貴方から、逃げていたはずですから」
貴方のために、彼女はこんなことを私に言ったのですよ。ホークアイはそう言った。
どくんどくんと、脈打つ心の臓。こんなイタイ思いは彼女の所為で。失わずにすんだのも、彼女のおかげ。
感謝の思いなのか、疎む感情なのか。言葉に出来ない、金色への感情。
それでも、今は。よかったと、痛切な思いをこめて、ロイは、もう一度、言葉にした。
「ほんとうに、すまなかった」
「ハボック。…ハーボック」
「………」
エドワードは一度止めていた溜息を再開して、落とす。
自分の副官は未だ床に座り込んで棚の下の段に物品を整理している。肩を落としたその姿は実に暗い。窓の外は朝の光が心地いいというのに。
エドワードは溜息を零しながら、目線を副官の背中から少しだけ上のほうへと移す。映るのは棚の上の部分。四段状に作られているそこは三段目まではびっしりと本が敷き詰められているが、二段目はごっそりと穴が空いている。
それを見てエドワードはもう一度溜息をついた。
「………確信犯」
ぼそりとした漸く返された反応。
エドワードはそんなハボックを笑って見る。
「うん。俺は確信犯だから」
「事件取り上げたくせに、あの人んとこに資料取りに行こうとした俺押し留めて、自分で行くって言ったくせに結局言ってないじゃないですか」
「うん」
「資料集めだけは街ん中からも、軍の中からも抜かりなくやって。俺も使って埃だらけにして」
「うん」
「『俺のためだよ』っていいながら、こうなること分かってたんじゃないですか。あの人が、書庫に篭もって、事件調べ直すって知ってて。全部、集めさせたんすか」
エドワードは反論できない。その言葉はすべて、真実だ。
「……うん。そうだな」
「他の誰かのためじゃないッス。埃だらけになったのは」
「うん」
胸に感じる、重み、痛み。それは、エドワードのために頑張ってくれたハボックへの罪悪感だ。
指揮権をロイに返すと同時に譲り渡した資料は、ハボックやエドワードが集めたものだ。特にハボックは、本当にエドワードのためだと徹夜までしてくれた。内心では、こんなことになると分かっていたのだろうけれど。
「うん。俺は、確信犯だから」
「開き直らないで下さいよ」
「大丈夫。俺のためになるよ?ロイ・マスタングが、この事件を解決するならば」
二人が紡ぐ音は余りに静かで、余韻も残さずに消えていく。
ハボックは、拳を固める。口唇を何度も開閉させて、それでもどうしても言いたい言葉は出なかった。
「……かくしんはん」
だから、せめて。ハボックは、自分の思いが伝わればいいのにと、震える声を零した。
「そういえば、彼女に漸くマスタング中佐と呼んでもらったんだ」
「エルリック准将に、ですか。そうですか。それは、よかったですね」
「ああ。君が倒れたときに初めて会話を交わした気がしたよ。何と言うか、本当に私は彼女を敵視していたんだな」
「何を今更」
「仕方がないだろう。彼女の『姿』がまだ見えないんだ。見えないうちから信用などできるか。私はそれだけの野望を抱いているからな。ここで墜ちれば君たちまで道連れだ。そんなことは出来ん」
「中佐…」
「だが、不思議なものでね。危険だと理性が告げるのに、ついさっき得られた信頼が、今は酷く心地好いんだ」
「わかります。私も、そうでしたから。砂ばかりの戦場で、あの人が向けてくださる信頼だけが命の糧だった」
「…、あ、いや。なんだ。兎に角だな…」
「いずれ、お話します。聞いてくださいますか?」
「…ああ。是非、聞かせてくれ。君の地獄も。そこを光で照らしてくれたという、金色の光についても」
「はい…」
「できれば、彼女に見える悲しみの一面についても、教えて欲しい。彼女がどういう人間で、私たちにとってどういう存在であるのか、今は見極めたいと思うから」
「味方にしたいと?」
「―――ああ、そうだな。……叶うならば、味方に引き入れたいものだ」
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