葡萄酒の香り読む葡萄酒 その7
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香りを探す
葡萄酒の命は「香り」です。香りが素晴らしい葡萄酒は偉大な葡萄酒です。葡萄酒は味より香りが優先します。以前、フランスのパリで「Le Nez du Vin (ル・ネ・デュ・ヴァン)」(フランス語で「葡萄酒の鼻」)というものを手に入れました。これは、香りのキットで、嗅覚を訓練するものです。写真のように、54種の香りのエッセンスが小さなボトルに入っています。そして、その香りの説明のカードが付いています。この香りを嗅いで嗅覚を鍛えます。このキットの中に「タール」という香りがあります。小学校の校舎の廊下にひいてあった、あの石油の香りです。あるいは、キューピー人形のセルロイドの香りです。これは、アルザスの「リースリング」の葡萄酒に見つかる香りです。

ヒトの第Ⅰ脳神経は「嗅神経」です。ヒトの祖先は嗅覚にたよって生きていました。現代人は視覚にあまりにも頼って生きています。嗅覚は退化しています。イヌの嗅粘膜はヒダが多くて、ヒトの10~50倍あります。それでイヌの嗅覚はヒトの100万倍~1億倍ともいわれています。
ところで、葡萄酒の香りは能動的でないと、なかなか見つかりません。飲み手がこの葡萄酒にはこの香りがあると思って、探しにいきます。そうすると第Ⅰ脳神経の「嗅神経」は過去の記憶をたどってその香りを見つけてくれます。探した香りが見つかったときの喜びは、宝探しで宝が見つかった時の喜びと同じです。これも葡萄酒の楽しみのひとつです。葡萄酒は嗅覚を鍛えるにはとてもよい飲み物です。第Ⅰ脳神経が活性化します。
さて、葡萄酒の用語に「アロマ」と「ブーケ」があります。「アロマ」とは、葡萄本来の香りや発酵段階で生じた香りです。例えば、花の香りや果実の香りがそれです。そして、「ブーケ」は花束のような香りです。それは、葡萄酒になった後に、木樽やボトルの中で熟成する段階で生じた、いろいろな香が混ざった香りです。腐葉土やトリュフのようなキノコの香りがこれにあたります。
代表的な香り
それでは、香りを表す代表的なものを列挙します。
- レモン
酸味が感じられる、若い葡萄酒に見られる香り。
- リンゴ
レモンほど酸味がきつくない爽やかな香り。
- 蒸しバナナ
「ボジョレ・ヌーヴォー」に感じられる香り。
- ライチ
アルザスの「ゲヴュルツトラミネール」の葡萄酒に感じられる。ゲヴュルツとはドイツ語で香辛料という意味。
- ハーブ
ロワールの「サンセール」の葡萄酒に感じる清々しい香り。
- 猫の小水
ボルドーの白葡萄酒に感じられる香り。
- トースト
美味しいシャンパンに感じられる。
- チョコレート
熟成したローヌの「コート・ロティ」に現れている。
- 濡れ犬
熟成した赤葡萄酒に感じる香り。
- 腐葉土
赤葡萄酒の熟成香。
- なめし革
動物香。ボルドーの「サンテミリオン」や「ポムロル」の赤葡萄酒に現れる香り。
- 火打ち石
ミネラルの香り。「シャブリ」やロワールの「ピュイィ・フュメ」に感じられる。この地は太古は海だった。
- バター
乳酸発酵の段階で出来たアロマの香り。
- 鉄
ローヌのシラー種主体の「エルミタージュ」の葡萄酒に現れている。
- タバコ
ポムロルの「シャートー・オーゾンヌ」を飲んだとき見つけた香り。
- ピーマン
青臭い赤葡萄酒から感じる香り。ロワールの「シノン」に現れる香り。
- ベリー
ストロベリー、ラズベリー、ブルーベリーの香りは熟成した赤葡萄酒の香り。かの「ロマネ・コンティ」に現れている。
- ナッツ
ヘーゼルナッツ、アーモンド、クルミの香り。ブルゴーニュの「ムルソー」に見られる。
- 柑橘類
ブンタンの香りを、ロワールの葡萄酒「シレックス」で見つけました。
- 蜂蜜
「ソーテルヌ」の甘口貴腐葡萄酒に感じられる。私の大好きな「シャトー・ディケム」でこの香りを感じました。
葡萄酒の香りの宝探しは、葡萄酒の楽しみのひとつです。これらの香りを意識しながら、葡萄酒を楽しんでください。