院長の談話室 読む葡萄酒

ソーテルヌ読む葡萄酒 その5

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貴腐葡萄

晩秋に霧が立ちこめると、ボツリヌス菌の一種である「ボツリヌス・シネレア菌」が葡萄の果皮に付着し、皮に穴を穿ちます。そうすると、果実の水分が蒸発し糖度が増した葡萄ができます。これが貴腐葡萄です。これを絞って発酵させると、甘口の貴腐葡萄酒ができます。

世界三大甘口葡萄酒は、フランスのボルドー地区の「ソーテルヌ」、ドイツの「トロッケン・ベーレン・アウスレーゼ」、そしてハンガリーの「トカイ」の貴腐葡萄酒です。

貴腐葡萄

至福のシャトー・ディケム

私の私見ですが、多々ある「ソーテルヌ」の中で、一人横綱が「シャトー・ディケム」です。その他、大関なく、関脇もなく、小結が「シャトー・スデュイロー」、「シャトー・リューセツク」と続きます。「シャトー・ディケム」はダントツの貴腐葡萄酒です。葡萄酒を超えた、神の雫です。高貴な香り、輝きのある琥拍色、ビロードのような舌ざわり。お寺の名鐘のような、いつまでも響く余韻。この葡萄酒の形容は、筆舌に尽くせません。

シャトー・ディケム

さて、この「シャトー・ディケム」は、葡萄が不作の年には、葡萄酒を生産しません。よって、ヴインテージに欠年が存在します。たとえば1992年。もしこの年の「シャトー・ディケム」があれば、それは贋作です。

シャトー・ディケム2001

世界最高のデザートワインを造る〝シャトー・ディケム〟が極少量生産する辛口白ワインが「イグレック・ド・シャトー・ディケム」です。貴腐菌のつきが十分でない年のみ生産される為、非常に稀少な葡萄酒となっています。強めの樽香、アルコール度数もやや高めで、フォアグラやブルーチーズの「ロックフォール」などと非常に相性の良い葡萄酒です。辛口ながらたっぷりとした果実味を持ち、甘い貴腐ワインの香りをほのかに纏った味わいは、セミヨンとソーヴィニヨン・ブランから造られます。芳しい樽香と力強いアルコール感が非常に印象的です。

イグレック・ド・シャトー・ディケム2006

さて、「ソーテルヌ」とよくマリアージュするのが、宮崎の「アップルマンゴ」です。マンゴの香りとソーテルヌの香りが通じるところがあります。フルコースの料理の後で、このデザートとともに楽しむと、至福の時を感じます。