屋久島縦走
 (鹿之沢小屋〜永田岳〜焼野〜縄文杉〜白谷雲水峡)
白谷雲水峡・もののけの森 

◆【屋久島滞在日】 2007年5月3〜6日
◆【山行ルート】 紀元杉〜淀川登山口〜淀川小屋(泊)

           〜花之江河(〜黒味岳)〜宮之浦岳〜永田岳〜鹿之沢小屋(泊)

           〜永田岳〜焼野〜新高塚小屋〜縄文杉〜楠川分れ〜白谷雲水峡
パタゴニア


◆【記録と画像】
5/5 くもりのち雨、時々土砂降り

前述のとおり今回の屋久島訪島の最大の目的地は永田岳周辺。昨日は好天に恵まれ、いかにも永田岳らしい風景はひと通り目にすることができた。
机上でも、その目的が達成できれば翌日は鹿之沢をあとにして、あとはのんびりと永田歩道を永田へ下山しようと考えていた。

ところが、山行日の近づいたある日、家内に
「今度の屋久島って、どこへ行くん?」
と尋ねられたのをきっかけによ〜く考えた挙げ句、今日のルートを変更することにした。

その時の会話のつづきはこんな感じ・・・。
「うん、九州で一番と二番目に高い山の宮之浦岳と永田岳。」
「えっ、それだけ?」
「縄文杉は?」
「行かへんでェ。」
「え〜っ、じゃ〜屋久島に何しに行くん?」
「???」

「よしっ、それなら縄文杉を見よう。そして、もののけ姫のモデルになったという白谷雲水峡も見てきてやるっ。」
大の大人がこんなことで・・・、と思えるようなつまらない動機であっさりとルートは変更された。

で、今日はかなりの長丁場のルートとなった。しかも、ただ単に長いだけではなく、下山後の白谷雲水峡16時10分発の最終バスに間に合うよう歩かなければならないオマケ付きだ。

夜中に何度か小屋の屋根の波板をたたく雨音がして「いよいよ雨か・・・」と夢うつつのなか思ったりしたが、さいわいにも朝になると雨は落ちていなかった。

朝のうちには、ちょっといやな出来事があった。

まだ夜の明けきらぬころ、早起きして小屋を抜け出しトイレに行った時のこと。
ここのトイレは小屋からは少しはなれたところに位置していることは昨日のうちに情報として耳に入っていたが、実際そこに足を運ぶのはこのときが初めてだった。少し遠く、そこまでにはロープなんかもあるらしい。

木道を歩き沢を渡り、ロープを伝って小さな岩場を上がる。雨に濡れた足元に気をつけながら、さらにもう少し歩を進め「あ〜、あそこか。」と思ったそのとき、
「ドボン。」

小さいながら少し深い水たまりに左足を突っ込んでしまった。

「わっちゃ〜っ。」
すぐに足を引き上げたものの、きちんと靴ひもを結んでなかったこともあり少し浸水してしまった。昨日の明るいうちに、ちゃんと確認しておくべきだった。

さいわいびしょ濡れにはならなかったので胸を撫で下ろしたが、朝から足元がおぼつかないようでは今日一日がどうなることかと心配になるような出来事だった。

ちなみに、トイレはブロック造りの、山中のものとしてはまずまずのものだった。△印。

出来るだけ早や発ちを、と思ってそれなりの時間に起きたのに出発は5時45分だった。

黒味岳で会っていた東京と千葉からの女性のあとを追うように小屋をあとにする。
先ずは昨日下って来た永田岳までを登り返し。しばらくは樹林帯の急登だ。尾根に出ると急に風が強くなりバランスを崩さないよう歩く。時々雨も降りだしたので、集中して。

展望台付近まで来ると下方に永田浜や障子岳を望むことはできたが、上方の永田岳方面はガスに覆われ望めない。もちろんローソクも灯らない。
「今日はずっとこんな感じかな〜。」

ササ原を縫って急登すると、やがて永田岳への分岐。(6時40分)

障子岳とかすかに永田浜 永田岳分岐
障子岳、永田川の谷とかすかに永田浜 永田岳分岐(左、焼野、右、鹿之沢)

残念ながら見えてきた東側もガスが垂れ込め、展望は全くといっていいくらいない。

宮之浦岳の姿も見えない。山頂は割愛して彼女たちと相前後して今度は一気に下る。(7時ちょうど)

コルまで下り水場を過ぎたササ原を歩く辺りでは、今日これまで見ることのなかった宮之浦岳が右手に大きな姿を見せてくれた。振り向けば強風とともにどんどんガスが流れ、永田岳も姿を見せたり隠れたり。

この天候でこれだけ見えれば上出来。もちろん会うのは彼女たち二人だけで、静寂の山歩きを堪能する。

焼野三叉路からは高塚小屋方面へ進む。(7時50分)

焼野分岐と永田岳方面
焼野分岐と永田岳方面

さすがはこちらは人気のルート。

永田岳方面へのルートとは登山路の幅や整備の状態がワンランクもツーランクも上のような道だ。それでも岩場はあるので気を許すことなく足元には充分注意しながら歩く。

雨は降り、ガスはあるものの、見晴らしはそう悪くはない。

振り向けば宮之浦岳が、また左手には奇岩の永田岳やネマチが歩いている者を見守るかのようにそびえる。この付近の稜線歩きも、なかなかいいものだ。

いつしか彼女たちを置き去りにすると、単独の人やツアーの団体に出くわすが他にすれ違う人はなく、ここでも静かな稜線歩きを満喫できた。

平石展望台と平石方面 宮之浦岳を振り返り見る
平石展望台と平石方面 宮之浦岳を振り返り見る

平石を過ぎ、樹林帯を歩くようになると坊主岩を見てグングン下る。

第一展望台下で翁岳を遠望したら展望はなくなり、さらに階段も利用して下ると大きなテラスの新高塚小屋。(9時15分)さすがに人影はない。

雨は落ちていなかったのでテラスに腰掛け、少しばかり腹ごしらえしたら先を急ぐ。(9時40分)

新高塚小屋前のテラス 旧高塚小屋
新高塚小屋前のテラス 旧高塚小屋

この辺りから登山路脇に大きなスギが見れるようになってくる。

こうなると、
「縄文杉とはどんなに大きなスギなのか」
と思うのが人情。

「行かへんで〜。」
なんて軽口をたたいたくせに、今となればそれを大きな楽しみとして歩いているのだから勝手にもほどがあるってもの。
「ま〜この際、許してもらおうっと。」

高塚小屋まで下ると朝早くから登って来たと思われる人が数人、立派な木のテラスで休んでいた。(10時25分)
「縄文杉はもうすぐだ。」

なんだかもう、わくわくする。

岩のゴロゴロした涸れた沢で休むたくさんの人を見ると次の瞬間、巨大なスギが目の前にあらわれた。(10時30分)
「これが縄文杉か〜。」

さすがに、その存在感はこれまでの屋久杉とは異質で、この森に存する他のものすべてを圧倒して存命していた。

縄文杉 縄文杉

到着時間が日帰りの人が上がってくる時刻とほぼ同じになってしまったことで、「独占状態」で対峙することはできないまでも、テラスに立てば人は高々小さなモノにしか見えず、自分だけが見られているような気分でしばらく見入る。

若い女性は感嘆の声をあちらこちらで挙げていた。

もっと長居したい気分だったが、バスのこともあるのでそこそこに切り上げ展望台の階段を下り、下山する。(10時50分)

これからは次々に上がってくる人とのすれ違いのわずらわしさと、バスの時間を気にしながら歩く。

木道や階段が設置されていて森への負担は極力小さく押さえられているが、何といっても入山者が中途半端でない。人の列は、ほぼ途切れることなく続いている。

夫婦杉 大王杉
夫婦杉 大王杉
照葉樹帯を下る ウィルソン株内部より
照葉樹帯を下る ウィルソン株内部より

ようやく入山者と出会わなくなったのは、ずいぶん下ったウィルソン株付近だったか。

株内で、狙っていたアングルのミーハー写真を撮ったら昼食。
と思って外へ出たら、ものすごい土砂降り。

ずぶ濡れになりながらも軽く食事。

もう少し下ったら大株歩道入口に下山。(12時25分)

これで歩きやすくなったと思ったものの、これからのトロッコ道にはうんざりさせられた。

はじめ快調だったが、歩くほどに足の裏が痛んできた。
致命的なものではないにしても、元来木道歩きはどうも苦手。木道上を避け、時折は水たまりのできた線路脇も好んで歩く。

雷鳴が轟いたのにはひどく驚かされた。

ショートカット道で団体をパスしただけで、あとは誰にも会わない、静かといえば静かだけれど寂しいといえば寂しい歩行。

でも考えてみると、日帰り縄文杉ツアーの人たちは、これよりもさらに長いトロッコ道を往復するのだから、その気の長さは大したもの。

何箇所か鉄橋を渡る 楠川分れ
何箇所か鉄橋を渡る 楠川分れ

ようやく先行者の背中が見えてきたと思ったら、間もなく楠川分れ。(13時10分)

標識のコースタイムによるとバス停まで110分。この調子なら間に合いそうだ。

辻峠へ向けた最後の上りに備え一息入れていると、荒川方面から来る一人の人。
「こんな遅い時間から・・・。」
先ほど見えかけた背中の人が戻ってきて、辻峠へと上がって行った。

その人のうしろ姿を追うように歩き始めるも、息が上がってなかなか思うように足が上がらない。雨はひどくなるばかりだし峠の稜線は高いし・・・。

人の気配がしたので見上げると、そこは大きな岩屋。辻の岩屋と呼ばれる巨大な庇の岩屋だ。

好天ならまじまじと見回すのだが、今はそんな余裕は全くなく、いち早く雨宿りしたい一心。ザックを下ろし、ようやくひと息ついた。(13時55分)

辻峠はすぐだった。

ここからは太鼓岩と呼ばれる小杉谷や奥岳を望む絶好の展望台へと上がることができるが、こんな天気、もちろんパスし下山しようとすると太鼓岩から下って来た人が声をかけてくれた。

先ほど楠川分れで出会っていた人だ。

辻峠 もののけの森
辻峠 もののけの森

昨日、この白谷雲水峡に足を運び太鼓岩へはすでに上がったようなのに、この雨の中、今日は荒川から縄文杉へ行った帰り道、再度その岩に上がって来たという。

神戸からということで話が弾み、ここからは彼とともに歩かせてもらった。

もののけ姫の”も”の字も知らない自身にとっては、土砂降りの中ながら付近の見どころを案内してもらったり、先導して歩いてもらった格好でずいぶん楽に歩くことができた。

さつき橋 飛流落しの滝
さつき橋 飛流落としの滝

くぐり杉やその他、様々な屋久杉や、苔むした森を見ながら下り、飛流落としの滝を見るとやがて白谷橋のほとりのバス停に下山した。時刻は15時10分だった。

「ふ〜っ。」
バスの時間に間に合った。時間的には余裕だったが、精神的にはそれほどの余裕はなかった。

東屋で雨具を脱ぐと何もかもずぶ濡れだ。今ぞとばかりにザックに押し込んでいた下着やシャツを出す。どれも重い目をして山中を持ち歩いてきたものの、これまでは一切出番のなかったものばかりだった。

ここに来て最大の出番があるとは思いもせず、これこそ備えあれば憂いなし。
身体はずいぶん冷えていたので上半身だけながら乾いたものに着替えると、とても気持ちよくなった。

雨降りだったせいでここを訪れる人が少なかったのか、バスはよく空いていた。

バスは山道を駆け下り、やがて宮之浦の市街地を走るようになる。
「おっと、いけない。」

同乗の神戸のNくんと話し込んでしまいバス停を行き過ぎてしまった。
「ピンポーン。(下車の意思表示をするボタンを押す音)」
「降ります、降りますっ。」

停留所をひとつ行き過ぎてしまった。と思いきや、これがケガの功名。

バス停のまん前には観光センターがあるではないか。わざわざ探す手間が省けた。

早速、土産の調達だ。一昨日、安房で少しばかり品定めしていたことを活かし、速攻で屋久杉の茶碗を買う。
「一丁あがり〜。」

ユースが宿のNくんと別れ、ふと右を見ると今度はレンタカー屋さん。

山に入ってから、なぜ事前にレンタカーを予約していなかったかと終始後悔していたことが、ここで一気に解消。明日が連休最終日で、こちらが15時過ぎの便であることもあり、あっさり予約をとることができた。

山中で携帯のアンテナの立つ状況を逐一確認していた自分は一体何をしていたのかと、馬鹿ばかしく思えてきた。

それもこれも、ひとえにバス内でNくんとの話しに熱中したことが吉と出た格好となった。


※参考文献  屋久島の山岳/太田五雄 著

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