急な登りをこなすとヤクザサの広がる縦走路を行く。左手、目の位置に見える小楊子山の尖峰が印象的だ。
時折ある、色つやのよい葉っぱのヤクシマシャクナゲは縦走路に花を添え、花期には少し早い今からでも「花が咲けばどれだけ絵になるだろう。」と思わせてくれる。
展望を得ながら歩けるので、何より気分がいい。
安房岳下の小楊子川源頭の水場で小休止したら、宮之浦岳へ最後の登り。
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水場より見る宮之浦岳、栗生岳 |
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栗生岳下より翁岳、安房岳 |
次第に登山路の傾斜は増し、栗生岳を左手に見ると宮之浦岳がようやく間近に。人の列に従うように歩くと、やがて人だらけの宮之浦岳山頂だ。(11時20分)
ぐるりと360度、遮るものはなく展望絶好。さすがは島の中央に位置する最高峰の山だけのことはある。永田岳やネマチがずいぶん近くに見えるようになり、ここでは思い通りの景観が広がった。
難点をいえば、次々に登山者が到着するものの、山頂部には花崗岩が点在していることであまり平らな場所がなく、その人たちが腰を下ろす場所があまりないこと。
そんなことも手伝って、これまでに見た山頂での光景で、ここはもっとも人でごった返していたのではなかろうか。
「のんびり昼食。」
と考えていたが、風も強いし長居は禁物。
足早に北の永田岳への分岐点、焼野(やけの)へ向け下る。グングン下ると木道上からは永田岳とネマチが圧倒的な存在でそびえる。
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永田岳、ネマチ |
実は今回の屋久島訪島での最大の目的はここから永田岳、鹿之沢小屋付近までを歩行し、辺りのの景観を目にすることだった。第一の高峰である宮之浦岳を置き去りにするする気はないにしても、あえて云うなら、もっとも訪れたかった場所は永田岳とその周辺だったのだ。
今、まさにその地点に差しかかり目の前に広がっている景観は、「こがれていたところにようやく来れた。」思いを決して裏切らないものだった。まさに洋上アルプスの只中に身を置いていた。
歩いている人もまばらで、これまでのように人のペースに合わせたり、すれ違う人に気を遣う必要もない。のんびり歩けるのが何をさておき嬉しいではないか。
焼野分岐を永田岳方面へ向かうと、さらに人は少なくなる。
永田岳までに出会った何人かの人たちも、淀川からの日帰りピストンか、新高塚小屋方面での宿泊で焼野からのピストンの人だ。
これまでに大きなザックを背負った、いかにも山中泊の何人かに声をかけてみても、鹿之沢小屋泊との返事が返ってきたのは黒味岳で出会った女性二人のみだから、当然の結果。
山は本来、こうであって欲しいものだ。
左に大きくなった宮之浦岳、正面に奇岩の永田岳を見て、しばらく稜線漫歩。
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永田岳 |
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宮之浦川源頭より見上げる永田岳 |
宮之浦川源頭の小さなせせらぎを渡り最低コルまで来ると永田岳への最後の急登が始まる。
ところで机上で何度も見た永田岳の写真や画像。見れば見るほど疑問が湧いていた。それも二つの。
ひとつは、山頂部には大きな花崗岩をもたげたピークが何箇所かあるが(見る方向によって変わる)、どこが最高地点なのか。そしてもうひとつは、その山頂直下への登山ルートはどこに付けられているのか。
最高地点については宮之浦岳から望んだ時点で容易に解ったものの(宮之浦岳から見た場合、右から二つ目のピーク)、ルートについてはいまだ判然としない。
急登し始めると、それも次第に明らかになってきた。大きくえぐれた箇所に付けられた手すりを過ぎると階段が現れ、益々傾斜は増す。最後は大きな岩のあるピークを回り込むように歩くと山頂への分岐に着く。
「ほっほ〜っ。ここに付いていたのか。」
稜線直下はコブを回り込むように付けられているので余計に解りにくかったようだ。
これでどちらの疑問も無事、解消したのだった。
永田岳直下の分岐には7人の人がのんびりとされてていた。どの人もすでに山頂から下りてきたようで、傍らに大きなザックがあるから、皆、鹿之沢泊まりらしい。
巨岩を縫って西側へ回り込むと山頂を示す標識があった。北方には障子岳へと続く北尾根や彼方には永田集落と白砂の浜が見える。彼方とは言ってもそこまでの距離、わずかに9キロメートル。
その間に1,886メートルの高度を駆け下るのだから、この川がいかに急流であるかがわかる。
永田は奥岳から見える唯一の集落で、その浜が、たとえぼんやりとでも見えれば文句はない。
最高地点に向かうには大きな露岩を飛び越えなければならず、風もビュービュー吹いているのでかなり危険が伴った。
「せーのー、ジャ〜ンプ。」
冷や冷やモノでようやく最高地点に到達することができた。
山頂の露岩上からの展望は宮之浦岳のそれに勝るとも劣らず素晴らしい。
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永田岳より大きな宮之浦岳を見る |
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永田岳より永田浜を見る |
宮之浦岳は大きな羽根を広げたような姿で大きな谷の向こうに横たわり、右に投石岳や黒味岳、さらに奥にジンネム高盤岳や七五岳。
宮之浦岳の左肩には石塚山や、高塚山へと続く尾根の遥か彼方に霞んで見えるのは愛子岳だろうか。
もしそうだとすれば、今その山を空港からとは正反対の山の頂から遥かに見ているのかと思うと、この島の山深さをここでもつくづく実感することができた。
北から北西にかけては永田岳・北尾根(障子尾根)と呼ばれる岩の尾根が障子岳まで延び、左側は急な険谷となって永田川へと落ち込む。
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永田岳より神様のクボを隔てU峰、ネマチ(右奥)、北尾根と障子岳、坪切岳方面(左端に永田浜) |
しばらく展望を楽しんだらアクロバチックに岩を下り、分岐へと戻る。
先の7人のうち福岡からの6人は、まだここでのんびりされていた。
あとは鹿之沢への下りだけだが、「ここからがハイライト」ともいえる、このコース最大の見どころローソク岩が残っている。
ローソク岩は永田岳西に位置する、その名のとおりローソクのような形をした巨大な岩塔だ。永田岳を語る際、必ず登場するこの巨大な岩峰は是非見ておきたかった。
鹿之沢を宿泊地に選んだのも、これを見たいがためといっても過言ではない。
宮之浦川源頭で出会った、昨年、鹿之沢小屋に泊まったという人から得た情報によると、永田岳〜鹿之沢の登山路は大きく陥没した地点があり、かなり歩きづらいとのことだったが、それらしき何箇所かの地点では脚立や木製階段で整備され、難なく通過することができ大いに助かった。
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障子岳〜北尾根、小障子岳とローソク岩 |
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(上画像からつづき)ローソク岩〜永田岳山頂方面(中央) |
しばらく下ると右下にローソクの灯りの部分が見えてくる。
やがて登山路脇にたくさんのシャクナゲを見るようになり、ローソク岩展望ルートの木道に出くわすので、ここから巨大ローソクを見る。
時間的にもバッチリで、晴れ上がった空の下、少し西に傾いた太陽に照らされた巨大なローソクがシャクナゲを前景に配し、天に向かって大きな灯りをともしている姿がそこにあった。
一足飛びに季節が過ぎ、このシャクナゲの花が咲き乱れればどんなに素晴らしいかと思ったが、つぼみは固く、今はまだ到底、叶わぬ話しだった。
国割岳を正面に見てしばらく下ると尾根をはずれ、樹林帯を下るようになり展望はなくなる。
ロープや階段の登山路をグングン下ると沢音が聞こえるようになる。
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鹿之沢小屋前にて |
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鹿之沢小屋付近の清流 |
沢音は次第に大きくなり前方に照葉樹の尾根が見えてくると間もなく鹿之沢小屋の屋根が見えてきた。
無事、小屋に到着だ。(15時10分)
石造りの小屋はお世辞にも綺麗な小屋とはいえないが、風雨には充分耐えれそうな頑丈な造りで、中をのぞいてみると少し暗い感じはするものの、「いかにも年季が入った小屋」って感じがした。
左右とも二階層で20人くらいは泊まれそうだから大きさも、まずまず。
近くに沢がいくつもあるので水は豊富だし、何より宿泊者が少なそうなのが一番のご褒美。
(実数は13。福岡のパーティーはテント泊)
テント泊は取りやめ小屋泊とする。
明日は花山歩道を下るという大阪・泉佐野からの単独行の方と歓談しながら夕食を摂った後、8時過ぎには床に就いた。
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