時刻は11時半過ぎ。このまま大杉山まで向かえばちょうどお昼頃となりそうなので、展望の良いそこで昼食とするべく短い休憩をとったら歩き出す。
この尾根は展望こそあまりないが立ち枯れの木々を見ながらの歩行は気持ちいい。二箇所ほど南側の展望が開ける箇所があり、そこからは播州高原、千町ヶ峰がよく見える。
大杉山のシンボル、大杉が近くなると大杉山山頂に到着だ。
Aさん以外ではこの日の唯一の遭遇者、餅耕地からのルートで上がられたというご夫婦がくつろいでおられた。
風はほとんどなく絶好ののんびり日和。天を仰ぎ寝そべる姿は、この日の上天気を身を持って示されているように見えた。
大杉山からの展望は須留ヶ峰からのそれとは打って変わり、北面の180度以上の眺望を居ながらにして得ることが出来る。少しばかり付近をうろうろすれば、ほぼ360度見えるといっても過言でない。
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大杉山からの眺望 |
東は丹後の大江山方面やアンテナの粟賀山から南へ千ヶ峰、笠形山までが梢越しに見え、眼下には次第に細くなる建屋川の谷が見える。
南にはフトウガ峰〜段ヶ峰がのんびり横たわり、千町ヶ峰が愛想よく寄り添う。
先ほど須留ヶ峰までに見た箇所ほど南側が見えないまでも、ここでは植林の邪魔がなくなった分、西の戸倉峠方面がよく見え、藤無山と重なり合うように三室山が位置し、落折山辺りの県境尾根や、その向こうに鳥取・東山。
緩やかに高度を上げた先の最も高いところが氷ノ山。雪のないのが少し寂しいところだが、これだけ見えれば文句はないだろう。
兵庫県下の山々をこれだけ見渡せる場所は、他にないかもしれない。
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大杉山より笠杉山、千町ヶ峰 |
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大杉山からは藤無山と三室山は重なり合うように見える |
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落折山付近の兵庫、鳥取県境尾根と奥に東山 |
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アセビの花と粟鹿山 |
北向きに腰を下ろし見下ろせば、すぐそこに咲くタムシバの花の遥か下方に宮本小学校の学び舎。
「結婚間なしの頃、ドライブの途中にこの小学校でトイレを借りたことがあったな〜。」
ここからこんな風にあの小学校が見下ろせるということは、小学校からはいつもこの山を見上げることができるということ。
「こんなにいいロケーションの学校だったんだ。」
あの時、学んでいた子供たちは、きっとずいぶん成長したことだろう。
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タムシバの花と宮本小学校 |
あまりの天気の良さに、
「こんな日にここで夕陽、朝陽を見たらどんなに素晴らしいだろう。」
少なからず興味が湧いたが、現実はちょっと無理な話しか。
昼食をのんびりとり過ぎたせいか、須留ヶ峰往復に発たれたご夫婦に続き、これまで同行してきたAさんも須留ヶ峰に向かい出発して行かれた。
一人っきりで、もうしばらく山頂からの景色をひとり占めしたら、下山する。
尾根上はルートに何の心配も要らないが(中間付近でご夫婦とすれ違う)、須留ヶ峰からは赤テープを見失わないよう少し緊張感を持って歩く。
山頂西の小ピークからは進路を北西に変え下る。
草付きに出たので、ここでしばらく展望を楽しむ。
この付近は左に植林があるのでルート取りは容易で、これに沿って歩けばよい。雑木林を下るようになると展望はなくなり、Aさんが目印を付けた例の松の木を行き過ぎないように慎重に歩く。
急坂を下り終えたところに、それはしっかりとあった。
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例の目印 |
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沢筋は明るいのがせめてもの救い |
もう少し先へと歩を進め、稜線が台状になったような箇所から左の谷筋へと下って行く。
すると、登る際には見かけなかった赤テープが稜線直下に目にできた。
涸れた沢を離れて稜線へと上がる際、もう少しそのまま左へトラバース気味に歩いていればここへと上がってこれたようだ。
しかし、テープはあるものの足元は踏みあと程度のもので急な下りに違いはない。しばらく木の幹や枝も頼りに急降下すると、登る際、テープを見失ったと思われる見覚えのある地点。
沢に下りれば、あとは沢伝いに下るのみ。落ち葉を踏み抜かないよう足の置き場に充分注意を払いながら下る。
ゴルジュはクサリの手を借り慎重に。次第に流れが現われ、小さな滝のような流れも見ながら下る。
落ち葉に足元をふらつかせながらも下って行くと流れは立派な沢となり、植林帯に入る。
ずいぶん下って、ようやくここまで戻ってきたことに、標識の『高度480M』に納得する。
朽ちた橋を渡り、スギ林を抜けるとせんばの滝を対岸に見る。
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いつ落ちてもおかしくないほど頼りない橋 |
すぐ下の沢で大休止。
朝は急ぎ足だったので、ゆっくり写真を撮ることができなかった。
これからあとはルート的にも時間的にも問題はないので、石伝いに滝の下まで足を運び、しばらく写真を撮る。
落差は20メートルほどの、言ってみれば決して大きな滝ではないが、時間が午後だったことで滝口付近の新緑と流れ落ちる水しぶきが太陽に照らされ、滝の大きさ以上に見栄えがして見える滝だった。(表題画像)
対岸から見るのと下から見上げるのとでもずいぶん違うので、滝下から見ることをお勧めする。
土産の水を汲んだら、沢に沿って歩く。
林道に出たら、朝、確認しておいた箇所より植林帯へ入る。
沢の左岸を歩き、ふたつの砂防ダムを見ると橋を渡る。この橋も決して立派で安全な橋とはいえないが、上流の危なっかしい橋とは比べものにならないほど大きく丈夫。
右岸を短く歩くと登山口に戻った。
Aさんの名前を聴いておけばよかったと思ったが、あとの祭り。駐車車両はなく、すでに家路につかれたあとだった。
ルートが判然としない箇所もあり一抹の不安を抱いたままでの山行となったが、あまり人の歩かないルートだったにもかかわらず歩行経験のあるAさんとほぼ同行だったことで精神的に心強く、またそれぞれの山頂部付近からの素晴らしい眺望も得られ、いつになく充実した山行となった。