千葉(せんば)の滝と須留ヶ峰、大杉山

新緑の千葉(せんば)の滝
◆【山行日時】 2007年4月29日  快晴
◆【コース・タイム】 
養父市田渕・大左近橋登山口=20分=林道出合=10分=千葉の滝、下方の沢出合=55分=須留ヶ峰北西の稜線

=30分=須留ヶ峰山頂=15分=大杉山山頂=20分=須留ヶ峰山頂=60分=沢出合=25分=大左近橋・登山口
◆【正味歩行時間】 3時間55分

パタゴニア


◆【山行の詳細と画像】
二週前、糸原のみづめ桜を見るため御祓山に上がった際、南に立ちはだかる大杉山〜須留ヶ峰の大きさをあらためて実感した。

須留ヶ峰には、かつて北からのルートといえるカカナベ峠西・倉谷からのルートより長い林道歩きと大杉山を経て足を運んだことはあるが、西からのルートの明延からはまだ歩いたことがない。

一宮から富土野峠を越えれば意外と短時間(姫路からなら約1時間半)で登山口に着くことができるので、このルートで須留ヶ峰に登ることにした。

入山に先だち、久しぶりに明延の町なかを走ってみた。
町なかといっても過疎の小さな集落だけに、車で走ろうものならあっという間に通り過ぎてしまうが、そんなちっぽけな町でも自身にとっては以前よりこの町を通るたび、想い出すことがある。

それは、25年ほども前のことになるが、明延がまだまだ鉱山として隆盛だった頃の名残を残す頃。通りすがりに見た明延小学校で行われていた運動会のこと。
確か、この学校が間もなく廃校になるという記事を新聞か何かで直前に目にしていたのに、そこでは地域の人たちと子供達とが一体になって、とても賑やかに運動会が繰り広げれられていた。

そのとき見た、都会では決して見ることのできないほのぼのとした光景は今もこの地の想い出として鮮明に脳裏に残っていて、「少しは当時を想い起こさせてくれるか?」と足を運んでみたが、今はその面影はなく、賑わいは遠い昔話のようなものとなってしまっているようだった。

学校があったと思われる場所には明延自然学校と名を変えた校舎らしき建物は存在するものの、大型連休にもかかわらず利用する人はないのか閑散として人は見当たらない。
車同士がすれ違うにも困りそうなほどか細い川沿いの旧道は唯一、当時を偲ばせる遺跡のような存在だが、対向してくる車はなく通行が楽なのも妙に寂しく感じるだけ。
閉ざされた電器店のシャッターの屋号は色あせ、余計に虚しさを増すばかり。

北海道夕張に代表される、かつて隆盛を誇ったにもかかわらず次第に忘れ去られて行く日本中にたくさんあろう小さなヤマの町は、この先どうなって行くのだろう・・・。

以前の賑わいを取り戻すのは無理にしても、何か再興の起爆剤はないものか・・・。
地域の大運動会の開催を期待し楽しみにしているのは、いわば外野人である我々ではなく当の住人達だと思うのだが―。



あっという間に明延の町を過ぎ少し下ると、大左近橋のたもとが須留ヶ峰登山口。入山者はいないようで、駐車車両はなかった。

立派な案内板が設置してあるので、短く確認したら歩き出す。
歩き始めると足元の様子は、いかにもこのコースを歩く人の少なさをうかがわせ、スギの小枝が散乱している。あまり手入れされていないようだ。

すぐに右岸から左岸へ頼りない橋で渡り、沢を左に見ながらしばらくスギ林の道を歩く。沢を離れて歩くようになると林道へ上がる。


田渕方面を示す林道下山口の標識 須留ヶ峰方面を示す林道の標識
田渕方面を示す林道下山口の標識 須留ヶ峰方面を示す林道の標識

一瞬、先日の那岐山のときのように「どこが取り付き?」と、気持ちが焦ったが、そのまま林道をほんの少し直進すると右から落ちる小さな沢のたもとに小さな標識があったので、それに従い再度、山中へ。

帰りに備え下山口を確認のうえ、標識に従い山中へと入る。一度離れた先ほどの沢を見ながらの歩行となり、ここからは沢沿いの、やや危なっかしいか細い登路を行く。

渓流を左手下方に見ながら歩くと、小さな沢を渡る。この沢は本来、橋が架かっていたようだがそれも今は使い物にならない。さいわい水量は少なくその手を借りずに渡ることができたので難なく通過。

落ち葉を敷き詰めたような沢べりの斜面を滑らないように歩くと、やがて、これまで見てきた本沢を渡る渡渉点。沢幅は少しあるものの、ここは橋がなくても石伝いに渡ることができる。

折角なのでここで家から持参した水を沢の水と入れ替える。流れは手を浸すととても冷たく、口に含んでもとても美味い。これで美味い昼飯が食べられそうだ。

ここで、歩き始めた際、登山口に駐車する車両を目にしていたが、その人(三田のK山さん:以降、Aさん)に追いつかれた。ここでは短く挨拶を交わし、先に歩き始める。

歩き始めたばかりなのに、すぐに対岸に立派な滝が見える。真新しそうな標識がスギの木に打ち付けてある。せんば(千葉)の滝というらしい。
「案内板に書いてあった滝はこれだな。」
この滝の存在は登山口の案内板で目にしたのが初めてのことで、それまで全く知らなかったが、現実に目の当たりするとなかなか立派な滝。
「これはちょっと見ていこう。」
まだ先が長いこともあり、とりあえず何枚か撮ったらAさんのあとを追い、歩く。
薄暗い植林の中を短く歩き、今にも朽ち落ちそうな丸太の橋をこわごわ渡ると沢の左岸を歩くようになる。

間もなく、スギに貼り付けられた手づくりの二枚の標識を見る。
この一枚によると、これから沢筋の登りとなるらしい。

これに関しては
「登山口の案内板にあった『これより沢登り』はここからか・・・。」
とすぐに納得できたが、もうひとつの標識にあった『ここは高度480Mです』は少なからずショックを受けた。
表記の高度を鵜呑みする気はないにしても、山頂までならまだ高度差にして600メートルも・・・。

まだまだこれからというところか。

沢筋の歩行は、このところ、そう大した雨は降っていないので水量は乏しく靴をぬらすことはないが、逆に雨が降っていないことで落ち葉が堆積して沢底が見えず、足元が不安定なので気を遣う。

斜面を歩く際は落ち葉でのスリップ、沢筋の歩行では浮石に注意しながら歩く。振り向いても展望は利かず、これといった楽しみもなく、芽吹き始めた辺りの新緑がせめてもの救い。

ほどなく先行のAさんに追いつき、以降は談笑も交えながら歩く。
三田からというAさんは今冬、このルートで須留ヶ峰に果敢にチャレンジしたものの、折からの雪に阻まれクサリ場上部までで途中敗退していたので、そのリベンジでの今日の山行とのこと。

しばらく歩くと、Aさんが話されていたとおりクサリのあるゴルジュに出くわす。水流は乏しく、特に問題はないので慎重に乗り越し上の段に出る。


登山路案内標識 沢筋を行く
登山路案内標識 沢筋を行く
クサリのあるゴルジュ 下山口の印
クサリのあるゴルジュ 下山口の印
Aさんの
「まだ(距離は)大分ありますよ。」
のとおり、かなり高度を稼いだつもりだが、それでも稜線はまだかなり上方にしか見えない。

次第に傾斜が急になるとともに、やがて水流はなくなり涸れ沢を歩く。すでにどこが登山路なのかは不明瞭だが木々に付けられた赤テープを目で追いながら急登する。

やがて沢を離れると、ようやく稜線が近くに仰げるようになる。ここに来てテープを見失ってしまったが、すでに稜線は手の届くほどの位置になったのをさいわいに適当に登る。

下りの心配をしなければならないほどの急な斜面を上がると稜線に出る。ここで再度、赤テープに出合えたのでひと安心した。

雑木の茂る尾根上からは大した展望は得られないが、右手上方にひときわ高い箇所があるのをわずかながら望めるので、それが須留ヶ峰方面のよう。

こちらは地形図でもこれから進むべき方向を確認、一方のAさんは傍らの大きな松の木の幹に大きめの枝を立てかけ下山の目印としたら(上、右画像)、赤テープに導かれ稜線上を南進しながら急登。

しばらくすると草付きの見晴らしのいいところを歩くようになる。西側には植林があり、あまり展望は利かないが、背後に広がった北側の展望はことのほか素晴らしい。

見通しもよく、氷ノ山や鉢伏山はのんびり横たわり、その下方には天滝の白い筋もくっきり見える。

草付きをなおも急登すると、やがて西側の展望も開け、西播磨、奥播磨、但馬の山々が一望の下に見えるようになる。


大屋富士〜御祓山と妙見山、蘇武、三川山
大屋富士〜御祓山と妙見山、蘇武、三川山方面

立ち枯れの自然林帯を歩くようになると登路の傾斜も落ち着きのんびり歩ける。

稜線から見上げた際、見えていたと思われる山頂西のピークまで上がれば、山頂らしきところがすぐそこに見える。アセビが現れると須留ヶ峰に到着。

残念ながら以前の記憶どおり、ここからの展望はあまり優れないが、その中にあって、これから向かう大杉山は唯一、雄姿を見せている。


須留ヶ峰南西のピーク 須留ヶ峰山頂
須留ヶ峰南西のピーク 須留ヶ峰山頂
須留ヶ峰より大杉山を見る 吊尾根を歩くAさん
須留ヶ峰より大杉山を見る 吊尾根を歩くAさん 右奥が須留ヶ峰


時刻は11時半過ぎ。このまま大杉山まで向かえばちょうどお昼頃となりそうなので、展望の良いそこで昼食とするべく短い休憩をとったら歩き出す。

この尾根は展望こそあまりないが立ち枯れの木々を見ながらの歩行は気持ちいい。二箇所ほど南側の展望が開ける箇所があり、そこからは播州高原、千町ヶ峰がよく見える。

大杉山のシンボル、大杉が近くなると大杉山山頂に到着だ。
Aさん以外ではこの日の唯一の遭遇者、餅耕地からのルートで上がられたというご夫婦がくつろいでおられた。

風はほとんどなく絶好ののんびり日和。天を仰ぎ寝そべる姿は、この日の上天気を身を持って示されているように見えた。

大杉山からの展望は須留ヶ峰からのそれとは打って変わり、北面の180度以上の眺望を居ながらにして得ることが出来る。少しばかり付近をうろうろすれば、ほぼ360度見えるといっても過言でない。


大杉山からの眺望
大杉山からの眺望


東は丹後の大江山方面やアンテナの粟賀山から南へ千ヶ峰、笠形山までが梢越しに見え、眼下には次第に細くなる建屋川の谷が見える。
南にはフトウガ峰〜段ヶ峰がのんびり横たわり、千町ヶ峰が愛想よく寄り添う。

先ほど須留ヶ峰までに見た箇所ほど南側が見えないまでも、ここでは植林の邪魔がなくなった分、西の戸倉峠方面がよく見え、藤無山と重なり合うように三室山が位置し、落折山辺りの県境尾根や、その向こうに鳥取・東山。

緩やかに高度を上げた先の最も高いところが氷ノ山。雪のないのが少し寂しいところだが、これだけ見えれば文句はないだろう。

兵庫県下の山々をこれだけ見渡せる場所は、他にないかもしれない。


大杉山より千町ヶ峰、笠杉山 大杉山より藤無山と重なり合うように三室山
大杉山より笠杉山、千町ヶ峰 大杉山からは藤無山と三室山は重なり合うように見える
兵庫、鳥取県境尾根と東山 アセビの花と粟賀山
落折山付近の兵庫、鳥取県境尾根と奥に東山 アセビの花と粟鹿山


北向きに腰を下ろし見下ろせば、すぐそこに咲くタムシバの花の遥か下方に宮本小学校の学び舎。
「結婚間なしの頃、ドライブの途中にこの小学校でトイレを借りたことがあったな〜。」

ここからこんな風にあの小学校が見下ろせるということは、小学校からはいつもこの山を見上げることができるということ。
「こんなにいいロケーションの学校だったんだ。」
あの時、学んでいた子供たちは、きっとずいぶん成長したことだろう。


タムシバの花と宮本小学校
タムシバの花と宮本小学校


あまりの天気の良さに、
「こんな日にここで夕陽、朝陽を見たらどんなに素晴らしいだろう。」
少なからず興味が湧いたが、現実はちょっと無理な話しか。


大杉山のシンボルの大スギ 吊尾根から南望すれば段ヶ峰方面が見える
大杉山のシンボルの大スギと須留ヶ峰
吊尾根から南望すれば段ヶ峰方面が見える


昼食をのんびりとり過ぎたせいか、須留ヶ峰往復に発たれたご夫婦に続き、これまで同行してきたAさんも須留ヶ峰に向かい出発して行かれた。

一人っきりで、もうしばらく山頂からの景色をひとり占めしたら、下山する。

尾根上はルートに何の心配も要らないが(中間付近でご夫婦とすれ違う)、須留ヶ峰からは赤テープを見失わないよう少し緊張感を持って歩く。

山頂西の小ピークからは進路を北西に変え下る。
草付きに出たので、ここでしばらく展望を楽しむ。

この付近は左に植林があるのでルート取りは容易で、これに沿って歩けばよい。雑木林を下るようになると展望はなくなり、Aさんが目印を付けた例の松の木を行き過ぎないように慎重に歩く。

急坂を下り終えたところに、それはしっかりとあった。


例の目印 沢筋は明るいのがせめてもの救い
例の目印 沢筋は明るいのがせめてもの救い


もう少し先へと歩を進め、稜線が台状になったような箇所から左の谷筋へと下って行く。
すると、登る際には見かけなかった赤テープが稜線直下に目にできた。

涸れた沢を離れて稜線へと上がる際、もう少しそのまま左へトラバース気味に歩いていればここへと上がってこれたようだ。

しかし、テープはあるものの足元は踏みあと程度のもので急な下りに違いはない。しばらく木の幹や枝も頼りに急降下すると、登る際、テープを見失ったと思われる見覚えのある地点。

沢に下りれば、あとは沢伝いに下るのみ。落ち葉を踏み抜かないよう足の置き場に充分注意を払いながら下る。

ゴルジュはクサリの手を借り慎重に。次第に流れが現われ、小さな滝のような流れも見ながら下る。

落ち葉に足元をふらつかせながらも下って行くと流れは立派な沢となり、植林帯に入る。

ずいぶん下って、ようやくここまで戻ってきたことに、標識の『高度480M』に納得する。

朽ちた橋を渡り、スギ林を抜けるとせんばの滝を対岸に見る。


いつ落ちてもおかしくないほど頼りない橋
いつ落ちてもおかしくないほど頼りない橋


すぐ下の沢で大休止。
朝は急ぎ足だったので、ゆっくり写真を撮ることができなかった。
これからあとはルート的にも時間的にも問題はないので、石伝いに滝の下まで足を運び、しばらく写真を撮る。

落差は20メートルほどの、言ってみれば決して大きな滝ではないが、時間が午後だったことで滝口付近の新緑と流れ落ちる水しぶきが太陽に照らされ、滝の大きさ以上に見栄えがして見える滝だった。(表題画像)

対岸から見るのと下から見上げるのとでもずいぶん違うので、滝下から見ることをお勧めする。

土産の水を汲んだら、沢に沿って歩く。
林道に出たら、朝、確認しておいた箇所より植林帯へ入る。

沢の左岸を歩き、ふたつの砂防ダムを見ると橋を渡る。この橋も決して立派で安全な橋とはいえないが、上流の危なっかしい橋とは比べものにならないほど大きく丈夫。

右岸を短く歩くと登山口に戻った。

Aさんの名前を聴いておけばよかったと思ったが、あとの祭り。駐車車両はなく、すでに家路につかれたあとだった。

ルートが判然としない箇所もあり一抹の不安を抱いたままでの山行となったが、あまり人の歩かないルートだったにもかかわらず歩行経験のあるAさんとほぼ同行だったことで精神的に心強く、またそれぞれの山頂部付近からの素晴らしい眺望も得られ、いつになく充実した山行となった。




◆【ワン・ポイント・アドバイス】
このルートは人があまり入らないからか、手入れがなされていない。(特に千葉の滝より上部)

登山口の標識や案内板はあれほど立派なのに、いざこのルートを歩いてみると実際のコースの荒れようとのギャップに驚かされる。

その最たるものが、千葉の滝を見たあとの沢に架かる4〜5メートルの丸太を渡しただけの橋。いつ落ちてもおかしくないほど朽ちており、これまでに渡った橋で最も肝を冷やした。


倉谷コースでの大杉山〜須留ヶ峰を見る



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